「なんとかして!」 


焦るな、そう何度言い聞かせたことか・・!

このところオレはかなり不機嫌だと思う。
当然ほのかは不審がってオレに訊いてくる。
睨んでいると思われている。・・哀しくなる。
確かに見てるさ、そうとも!見るくらいいいだろ!?

しかしなんてことだ。このオレとしたことが・・
実にみっともない。ほのかを責めるに責められない。
体調を心配されたが、全く問題ない。無さすぎだ。
単なる欲求不満・・だとは思いたくない。切実に。
理由は・・・ほのかだ。どうにかならんのか!?
音を上げたくなる。あまりの鈍感さに腹も立ってくる。

「ねぇ、ヒントちょうだい。」
「・・質問もクイズもしてないが?」
「ほのかを睨む理由だよ。」
「睨んでなんかない。気のせいだ。」
「睨んでるじゃないか!今だって。」
「・・睨んでない。」
「じーっと見てるっていうか・・」
「見たらマズイのか。」
「まずいって・・わかんないから気になるんだし。」
「気にはしてるんだな。」
「そりゃそうでしょ!?」

堂々巡りだ。誰も悪くない。オレに余裕が無いだけ。
可愛くてどうしようもなくて。溜息も出るってもんだ。
おかげで料理や家事の能率は上がった。気が紛れるので。
しかしふと虚しくなる。肝心の想いは空廻るばかりだ。
言ってしまえば?と思うが、言ってちゃんと伝わるのか!?
いやそれは言わない言い訳にもなるな。それは痛い・・
そうではなく、例え打ち明けたところでほのか自身は
あっさり受け入れるだろう。これは自惚れではないのだ。
それなら玉砕すれば目も覚めるだろう。断じてそうではない。
ほのかだってオレのことを見る。負けずに日々訴えてくる。
好きだと簡単に告げてもくる。無邪気に、何の期待もせずに。
そうなんだ、ほのかはオレにどうこうして欲しいわけじゃない。
ワガママは言ってくれるが、オレが望むようなことは・・
望んでいない。例えば・・今より一歩進んだ関係などは微塵も。

・・待つしかない。もう少しと自分に言い聞かせながら。
早く大人になれとは思っていない。こうして一緒にいるだけで
オレだって不満どころか、毎日幸せだと自覚しているのだから。
ただ誘惑されて(それが無意識だとしても)平静ではいられない。
心臓が跳ねるほどの想いを味わってる。間近に向けられる笑顔や
締め技だと言ってゆるくオレの首を絞めるときも・・どんだけ・・
締まってんのは首じゃない。柔らかく圧し付けられる全身に震える。
悲鳴を上げてる。いつでも抱きしめてしまいたいっていうのに。
耐え切れずに少し近付くと、痛い、苦しい、離せと・・抵抗される。

「この頃キツイよ!苦しいってば、なっち!」
「そうかよ、スマンな。」
「怒ってるのはこっちなのに睨まないでよ。」
「目つき悪いんだよ。睨んでなんかない。」
「前はそんな風に見なかったじゃないか!?」
「・・・そうかもな。」
「あ、やっと認めた。見すぎでしょ、ほのかのこと。」
「うるせぇ・・見るくらいいいじゃねぇか・・なにも・・」
「なにも?」
「それ以上のことはしてないんだから怒るなよ。」
「それ以上って・・やっぱり何かほのかに言いたいんでしょ!?」
「・・・別に。」
「嘘吐いてもダメだよ。なっちの嘘この頃わかっちゃうんだから。」
「そんなことはわかるくせして・・・このオオボケ!」
「おっ・・ボケ!?」
「オマエが悪い。オレは絶対言わんからな!」
「なんだとー!?開きなおるんじゃありませんよ。」
「オレだってキツイし苦しいんだ。あいこじゃねぇか・・」
「!?・・悩みがあるなら言わないと。」
「・・・・」
「言ったら楽になるよ。」
「い・わ・ん!」
「この頑固ものー!」

ほのかはオレの態度が腑に落ちなくて腹を立てていた。仕方ない。
確かにほのかにしてみたらオレの方が余程おかしいと思うんだろう。
かわいそうになってゴメンと心では呟くが、素直に行動に表せない。
なんとかしてくれと誰にでも縋りたいような気分になってしまうのだ。
何度目かわからないほど溜息を吐いていたが、ほのかが戻ってこない。
・・・いつもならとっくに戻ってるはずだが・・・まさかなぁ・・?

しかしほのかのことなので念のためだと思い、廊下へ出た。
いつも使ってる手洗いに居なかったので当たりかもしれないと思った。
めったに使わない方へと足を向けてしばらくすると、見つけた。
案の定情けない顔をしてウロウロしてやがるので決まりだった。

「こんなとこで何してんだ!」
「あっなっち!迎えにきてくれたの!?」
「迷っちゃって帰れなくなったよう!」
「バカだろ」

嬉しそうにオレに抱きついてくる。ほんとに困ったヤツだ。
「お姫様抱っこだv」とはしゃぐほのかの顔はなるべく見なかった。
思わず抱き上げたのは・・あんまりバカで可愛かったからだ。

「・・ねぇ仲直りしよ?」
「いつケンカしたんだ。」
「え、さっき。違った?」
「オマエが怒ってただけだ。」
「なっちは怒ってなかった?」
「ああ。」
「えーっ・・寂しいなんて思ったのに。」
「少し・・拗ねてたことは・・認める。」
「すねてたの!?なんでまた。」
「オマエがあんまり・・・だからだよ。」
「あんまり・・なに?言ってよ、意地悪しないで。」
「意地悪じゃねぇ・・」
「・・ちょっとなっち顔近い!!」
「近づけてんだ。当たり前だろ!」
「近付きすぎだよ。」
「イヤなのかよ、そんなに。」
「イヤとかじゃなくて。くっついちゃいそうだから・・」

「ひゃっ!?」

驚くだろうと見越していた。近付くといつものように身構えた。
怖いかな、そうなんだろうな・・仕方なく唇を頬へとずらした。
ほっとしたような顔をあからさまにされて少しばかり傷ついた。

「ちゅーしたかったの?!なぁんだ!」
「なんだとはなんだ。」
「遠慮してたの?バカだねぇ。」
「バカで悪かったな。」

ほのかの反応はまぁ・・そんなもんだろう。がっくりと肩が落ちる。
仕方ないと思うし、オレ一人がその気でも迷惑だとわかってる。
それでも胸が痛んだ。こんなに参ってんのに・・助けてくれよなんて・・
また自己嫌悪が襲ってきた。乱暴にソファに下ろすとオレは逃げた。
頭を冷やしたかったのだ。無理矢理なことをしてしまわないように。
怖がらせたくない。逃がしたくない。けど・・抱きしめるだけでもまだ
あんなに身を硬くしてるのに、ダメだろ!オレはまた唇を噛み締めていた。

なんて未熟者だろう。勝手に腕がアイツを引き寄せてしまうんだ。
気がつくと近寄っている。甘い香りのするほのかの体温を感じるほど近くへ。
ほのかがオレに気付いて息を止める。それで現実に引き戻される。
オレは何してんだ。これじゃあほのかが怖がったって当たり前じゃないか。
オレがほのかの立場なら、とっくに逃げ出してるんじゃないかと思う。
台所の片付けをしながら一人猛反省して居間に戻るとほのかは眠っていた。
毛布を取りに行って掛けてやった。寝顔もいっそ凶悪と思えるほど可愛い。
見ていられなくなってほのかを残し、何も考えなくて済む仕事を探した。

「なっちー!どこーっ!?ひとりにしないでようっ!!」

叫び声が聞えたのはオレが居間に戻ってきたときだ。驚いてドアを開けた。

「・・何子供みたいなこと言ってんだ!恥ずかしいヤツだな。」
「だってなっちが悪い!ほのかのことほっといてどこ行ってたの!?」
「どこって・・台所片付けて戻ったらオマエが寝てたから・・」
「なんで黙って出てくの!ダメだよっ」
「黙ってって、そんなに長くなかったぞ。寝てる間は仕事してたんだが。」
「とにかくほのかを寂しがらせちゃダメなの!わかった!?」
「わかったよ・・何歳児だオマエは・・ったく・・」
「罰として抱っこしてちゅーするの!早くきてっ!」
「なんだとぅ・・!?」
「すーるーのっ!」
「オマエ・・一歳児くらいに退行してないか・・?」
「いいの。なっちのばか。キライ。」
「ほら、泣くな。」

本当に置いていかれた子供のようにほのかが泣いていた。堪らず抱き上げる。
オレにしがみついてすすり泣く。夢でも見たのか頼りない肩が震えていた。
背中を摩ってやると「なっちがじろじろ見るから悪いの。」と言い出した。
「ええ?」
「睨むみたいにじーって・・ドキドキして落ち着かないよ。」
「・・・そんくらいはしろってんだよ。」
「イヤだ!ドキドキして苦しいもん。居ないともっとダメ、寂しい。」
「そうかよ・・しょうがねぇなぁ・・傍にいるから。」
「ウン、傍に居てね。」
「・・キスは?どこにすればいいんだ。」
「どこでもいいよ、なっちの好きなとこで。」
「ふぅん・・どこでも・・・ここでも?」
「っ!」

ほのかなりの必死の告白に掴ってしまい、また我慢できなくなった。
そっと触れたかどうかの軽い口付けだった。しかしほのかは固まった。

「おっおい!ちょっと触っただけだ。そんな固まるなよ!?」
「あ!あぁ・・びっくりしたあ・・!」
「驚いたのはこっちだ・・ふーっ・・」
「ねぇ、なっち。今のは子供にはしない場所じゃない?」
「・・オマエだと子供と一緒だから・・やっぱまずかったか;」
「子供と一緒ってどういうこと!?ほのか子供じゃないよ!?」
「だったらもうちょっとわかれよ、色々。」
「色々って?」
「オレのこと好きか?ともだちじゃなくて。」
「好きだよ。なっちは?」
「好きだ。子供じゃないなら意味わかるな?」
「・・・・ウン。」
「えらく間が空いたぞ。」
「ゴメン・・よくわかんない。」
「はぁ〜〜〜〜〜っ・・わかった。ゆっくりいこう、な。」
「なにを!?どうして?なんでほのかバカにされてるのっ!?」
「ごねるな!オレが悪かった。もうちょっと待つから。」
「イヤ!待たなくていい。ほのか子供じゃなーいっ!!」
「泣くなよ!してることは限りなく子供じゃねーかっ!」
「なっちがバカにしたあ〜!うえええっ・・・」
「泣くな!大人なら。」
「むぐ・・泣いてない。泣いてないよ、ほら。」
「・・・ぷっ・・」
「笑うなあああっ!!!」

一生懸命涙を堪える様はどう見ても子供で・・なのに何故だか・・
背伸びするようなほのかの想いも見えて嬉しかった。恥ずかしいほど。
笑ったのはおかしかったんじゃない。言えないが照れくさかったんだ。
しかしバカにされたと憤慨したほのかがオレに大人のキスをしろと迫った。
いきなりそれはハードルが高いだろうと思ったがほのかはきかなかった。

「オレはいいけどオマエ泣くなよ?」
「泣かないよ!なっちのカノジョになるんだから。」
「・・そこは了解してるんだな?・・ややこしいヤツ。」

ズルイかもしれないがオレはほのかの望むまま・・口付けた。
なるだけ優しく・・できたのかどうかわからない。涙が滲んでいたから。
なのに意地を張って「泣いてないよ?」って澄まして言うほのかが愛し過ぎて
「ウン、大人だな。」と言って髪を撫でるしかできなかった。舞い上がりそうだ。
オレはもう一度慎重にほのかの華奢な体を引き寄せ、幸せな眩暈に身を任した。







「なんかしたかな?」の夏くんサイドをオマケで書いてみましたv
ちゃんと報われてるじゃん!ってことで夏さん許してね!?^^