「内緒だよ・・?」 


ほのかは最近気付いたことがある。
嬉しくて言いたくてむずむずするけど、
どうしようかな、言わないでいようかな?
なんて思うだけで顔がゆるんでしまって大変。
「なんか知らんが機嫌いいな・・」
「あ、なっつん。わかる?!」
「来たときからずっと笑ってるから頭どうかしたのかと思ったぜ・・」
「ええっ!?そんなに笑ってた?!うーむ、ほのかとしたことが・・」
「何か良いことでもあったのか?」
「うん、まぁね!なっつんに言おうかどうか迷っちゃってさ。」
「ふん、別に言わなくていいぞ。」
「へ、なんで!?知りたくない?」
「別に・・」
「そんなぁ・・!気にならない?」
「どうせくだらないことだろうし。」
「そんなのわかんないでしょ!?やんなっちゃうなぁ!」
「へっ」
へそ曲がりななっつんは鼻で笑ったの、失礼しちゃうな。
でも良く考えたらどんなことかわかんないんだから仕方ないかな?
私は気を取り直して、なっつんの服をつまんで引っ張った。
「ねぇねぇ、そんなこと言わないできいて?なっつん。」
「いやだね。別にききたかねぇし。」
「ええ〜!!どうしてそうキミは素直じゃないかな〜?」
「なんでそうなるんだよ、ホントにどうでもいいってんだ。」
なんだかがっかりして肩を落としてしまった。
さっきまであんなに嬉しくてそわそわしてたのになぁ・・
そんな私を見て反省したのかなっつんがちょっと困った顔で言った。
「なんだよ、そんなことで・・・わかったよ、聞いてやる。」
なっつんがかわいそうだから許してあげたかったけど元気が出ない。
「ううん、もういいよ・・なっつん、ごめんね。」
ああなんてことだろ・・私ってなっつんに弱いよね・・
「おい、オレのせいでそんなに落ち込むなよ!教えろよ。」
「やだよ、もう。すっかりほのかは傷ついたんだもんね。」
「悪かったよ、拗ねるな!」
「拗ねてるんじゃないよ、なっつん。」
「拗ねてるじゃねーか!」
「・・んじゃあ・・・なっつん、耳貸して?」
「耳って・・・なんでだよ、誰もいないのに耳打ちする必要あるか?」
「貸してってば。恥ずかしいんだもん!」
「恥ずかしい・・?なんなんだ、いったい・・」
なっつんが不可解な顔しながらほのかの顔に顔を近づけてくれた。
つい嬉しくて口元が緩んでしまうな、やっぱりなっつんて優しい。
だけどなっつんの顔がこんなに間近でうっかり見惚れてしまった。
私が何も言わないからなっつんはほのかの顔を見た。
びっくりするくらい二人の顔が近い。どうしてか口が開かない。
もしかしたらほのかの全部が固まってしまったみたい。
困ったと思った。だってなっつんがずっと私のこと見てるから。
なんでそんなにじっと見てるのさ、なっつんてば。
何か言おうと思うんだけど、どうしてだか動けないんだよ。
あ、あれ?なんか・・・顔近づいて・・る?
「あ、あの!なっつん!!」
もう少しでなんだかくっつきそうなくらいのとこで声が出た!
「・・なんだよ?」
「あの・・あれ?言うこと忘れた・・・」
「なんだ、それ。」
なっつんが呆れたような顔をした。いつものなっつんだ。
さっき一瞬全然違うみたいに思えたのは・・・気のせいかな?
「ふーっ!なっつんのせいだじょ!!」
「あ?なんでだよ?!」
「だって、その・・・びっくりしてさ・・・チューされるかと思っちゃった。」
「っ!!・・・なわけ・・ねーだろ!」
なっつんが思い切り顔を反らした。なんか顔赤かったような・・?
「そ、そーだよね?やだなぁ・・ほのかとしたことが・・」
本日二度目の失態を嘆く科白だ。なんだか調子狂ってるなぁ。
「そんで、思い出したのか?」
「あ、あのね、内緒だからね?!」
「内緒だぁ・・?!面倒だな・・」
「ダメなら言わないよ。内緒なんだから。」
「だったら言うな。そんなのめんどくせー。」
「・・うん・・そーする。」
「・・いいのか?泣くなよ?」
「泣かないよ。うん、やっぱり止めとく。」
「ふーん・・」
天邪鬼ななっつんは少し残念そうな感じでそう呟いた。
だけどなんだかどきどきして言うのをためらってしまった。
私やっぱりなんか調子悪いのかな・・?
「どうした?気分でも悪いのか?」
「え、ううん!大丈夫だよ。なっつん」
「そうか?」
「あのさ・・・なんでかなぁ・・どきどきするんだ・・」
「・・・」
「変なの、どうしたんだろ?」
「おい、ホントに平気か?」
なっつんが心配して私の顔をまた覗き込んだ。
そしたらまた胸がどきんって鳴って顔が熱い。
あれ?あれれ〜?!治まらないどころかどんどんどきどきが・・酷くなる。
なっつんがほのかの肩に手を置いて顔を上げさせたりするから余計に!
「顔、赤いな・・熱でもあんのか?」
なっつんの大きな手はひんやりしてて気持ち良かった。
なのにどんどん私は具合が悪くなっていくみたいだった。
どうしよう?病気?!なっつんの触れたとこが熱いし。
どきどきがひどいし、熱くて身体が浮いてしまいそうなの・・
「しっかりしろ。熱は・・ないみたいなんだが・・」
「うん、だいじょぶだから!なっつん、離して!」
「離せって・・おまえふらふらしてねぇか?」
「ううん、だいじょぶだよ!ホントに。」
「・・・」
眉を顰めてなっつんは手を離してくれた。ほっとしたのに寂しい・・なんで!?
「おまえ、送ってくから帰って寝ろ。」
「え!?なんともないよ、大丈夫だってば!」
「けどなんだかいつもと違うだろ?用心しとけ。」
「なっつんが心配してくれるのは嬉しいけど、なんともないよ!?」
「そんなこと言うけど顔赤いぞ?」
「そ、それは・・・その」
なっつんのせいだって言えなかった。気を悪くするかもと思って・・
「少し横になるか?ほら・・」
なっつんに腕を捕まれてしまってまた胸がどきんてなる。
「あ、あのね!ごめん、なっつん。」
「なんだ?」
「横になんなくていい!ほのか平気だから。」
「だったらなんで・・」
私もうまく説明できそうになくて焦った。
なっつんに触れられるとどきどきするとか顔が熱くなるとか
言ってしまってなっつんが私を触らなくなったら嫌だと思った。
おかしい、私やっぱりおかしいよね?!涙が出そうだ・・
「無理すんな。また治ったらウチ来ていいから。」
「なんともないもん、なっつん一緒に居てくんないと嫌。」
私はなんだかうまく言えないのが悔しくて私からなっつんに触れてみた。
広い胸に飛び込んで頭を擦り付けてみた。どきどきは止まらない。
「おい、大丈夫か?!」
なっつんがまだ心配して私を気遣ってくれてる。
どうしたら、この優しい人にわかってもらえるのかな?
「なっつん・・あのね・・・内緒でなくていいから・・きいて?」
「?・・ああ、さっきの話か?」
「うん・・あのね・・ほのかね・・」
「すきなの・・・なっつんがすき・・」
「・・・」
私はさっき言おうとして言わなかったことを口にしてた。
もう胸が痛いほど鳴っていて、怖いくらいに緊張してる。
素適なことだと思ってたのに。嬉しくてわくわくしてたのに・・何故?
どうしてこんなに伝えるだけで死にそうなくらいどきどきするんだろう。
私を支えていたなっつんも緊張していたのかもしれない。
ふっと息を吐いたのがわかったから。気になってそうっと顔を上げてみた。
「なんだよ、それ。・・心配させやがって・・」
なっつんが怒ったような、呆れたような言い方をしたので不安になった。
「だって・・言いたかったんだけど・・言えなくなって・・」
「なっつんが近くてどきどきして・・・なんか私、変で・・」
「私どうかしちゃった・・?苦しくて・・辛いよ・・なっつん」
「そんなの・・・一緒だ。心配すんな。」
「一緒って?・・なっつんと?!」
「おまえが顔近づけたりすっからオレもおかしくなった。」
「え、そうなの?ほのかだけじゃなくて?!」
「わりぃかよ・・オレもおまえのこと好きで。」
「う、ううん!嬉しい!嬉しいよ!!」
なっつんは気のせいじゃなく顔が赤かった。私もきっと赤いんだと思う。
「なあんだ・・・でもどきどき治まらないね?」
なっつんに抱きしめられてるのに気付くとやっぱりどきどきする。
「ああ。・・どうしてくれんだよ・・」
なっつんが困ったように呟くのが可笑しかった。なっつんも困ってるんだ。
「うん、でも二人一緒だと、もっと嬉しいね?!」
「・・・まぁな・・」
諦めたように素直な言葉が耳を打って、私はまた泣きそうになった。
「泣いてんなよ・・」
「うん、ごめん・・なんか嬉しいのに変だね?」
「涙、止めてもいいか?」
「え?どうやって・・」
眼元になっつんの唇が降りてきてまた固まっちゃった。
涙は確かに止まったみたい、私ごと全部止まったから。
ちょんと唇同士が触れたのは次の瞬間で、魔法が解けたみたいに瞬きした。
「・・あ・・あの・・いま・・」
「んだよ・・止まっただろ!?」
「う・うん・・すごいね、なっつん」
「さっきのな、やっぱり内緒にしとけ。」
「・・・何で?」
「好きだとか言われると心臓に悪い。」
すごく困ったみたいに言うなっつんが可愛くて私はふっと笑った。
「笑ってんなよ、おまえ・・」
「ふ・・だってだって・・なっつん・・おかしい!」
「笑うなってんだよ、止めるぞ!」
可笑しくて止められないと思ったけどやっぱりなっつんてすごい。
すぐにぴたっと止まったの!ホントに魔法みたい・・・
さっきと違って長いこと唇は触れ合ってた。
不思議だね、どきどきはまだしてるのに・・・幸せで・・
内緒にしとくね。なっつんに言われた通りに。
好きって想いは止め処なくて・・伝えきれないと思うから。
目を閉じてこのまま幸せでいたいって耳元で告げてみる。
だけどね・・・・・内緒だよ?