「 むかつく!」  


まーた・・だ。そのきょとんとした目でひとを見るなっての。
やかましくしゃべってたかと思うといきなり黙りやがるし・・
寄ったり離れたりもそうだ、とにかく落ち着かないヤツだぜ。
オレのマイペースってどうだったかな、なんて考えるほど
乱されてるなんてもんじゃない。いい加減にしてくれってほどだ。
たまに・・ホントにたまにだが、ものすごく心引かれる顔をする。
ほんの一瞬だ。あっと思うと消える、それくらいの間なんだが・・
もう一度見たいな、なんて莫迦なことを思うくらいの貴重な顔だ。
うっかり一度あごを捉まえて、左右に振ってみたことがある。
当然オレの暴挙に文句たらたら・・オレもなんであんなことしたのか。
不思議だったんだ、可愛いとか・・そんなんじゃなくてだな・・・
妙に引っかかって、胸に痞えるっつうか気になってしょうがなかった。

「なっつん?」
「・・あー?」
「なんだい、その返事。失礼だなあ!」
「なんなんだよ、うるせーな。」
「そんな疲れたオヤジみたいなのはイカンよ、若者でしょ!?」
「誰が疲れたオヤジだ、オマエこそ口悪いぞ。」
「むすっとしちゃってさ・・不景気じゃのう。」
「オマエこそオヤジくさいじゃねーかよ・・・」
「よし、ほのちゃんが一つ気合を入れてあげよう!」
「余計な真似すんな。どうせしょうもねぇことだ。」
「ふっふっふっふ・・ほのかをみくびるでないぞよ?」
「・・なんか見たんだろ、テレビか何か・・」
「あっちょおおおおおおっ!!」
「ほい。空手か?兼一にでも習ったのか?」
「なんでそんなにあっさり受けちゃうのさ〜!?サービス精神が足りんよ、ちみは。」
「一応形にはなってたぞ。スピードがまるでねぇけど。」
「そお?結構気合入れたのに・・きずぽんのうそつき。」
「きずぽん?・・・まさか・・」
「梁山泊の空手のおじ・・いやお兄さんvだよ。」
「やっぱし・・ってオマエなんだよ”お兄さん”って!気持ち悪いな。」
「だっておじちゃんって言ったら怒るの。まだ若いんだって。」
「あ、そ・・確かに若いな、気持ちは。」
「でも優しいよ、きずぽん。でもって”ロリ”だから気をつけろっておいちゃんが・・」
「・・誰がそんなことを?」
「スカートめくりのおいちゃん、中国の。」
「オマエそんなことされてんのか!?もう行くな、あの道場!」
「違うよ、ほのかはされてないよ・・だってほのか・・まだまだだもんね・・」
「な、なんの話だよ、それ・・」
「おいちゃん。可愛いし、将来見込み充分だけどまだまだだって。」
「あのな、マジで行くな!オマエだって最近・・」
「えっ!?ほのか最近ちょっと色気出てきた!?」
「そっそんなこと言ってねぇ!じゃなくて・・その・・とにかく気をつけろって。」
「ん?最近・・の後はなんだったの?」
「いや、間違えた。オマエもそろそろ落ち着けっていうか、自覚、じゃねぇな、えっと・・」
「なっつんが落ち着きなよ、どうしたの?おろおろしちゃって。」
「うるせぇっ!もうあんまりうろちょろすんなって言ってんだ。」
「うろちょろって・・そんなあっちこっち行ってないけど。」
「オレんち以外は男の居る場所に出入りすんな。」
「はぁ・・なんでまた急に?」
「あっあそこは・・まぁそっちの面では危険ないと思ってたんだが・・」
「あそこって梁山泊のこと?危険って何さ、そっちの面って?」
「う・だから・・とにかくどこにでもフラフラ行くなよ、女なんだから。」
「イマイチわかんないんだけど・・心配してくれてるんだね?」
「悪いか!・・ったくなんでオレがこんな心労を!」
「変なの。なんでそんな心労?感じてるのさ。」
「知るか!とにかくオマエはときどきむかつくんだよ。」
「いったいほのかが何したっていうの!?」
「してんだよ、色々!!一々説明できるか、このアホ!」
「言いがかりだと思う・・怒られるようなことしてないもん。」
「自覚しろ、いい加減・・」
「何を?ここ以外ダメとか・・あっなんだなっつん、ヤキモチ!?」
「だっ誰が!?違うだろ、オマエの行動を言ってんだ。」
「むー・・偉そうだなぁ、命令すること?そういうのって。」
「・・・・」
「でもまぁほのかは寛大だからね、よしよし、ちみの言う通りにするよ。」
「・・・本当か?」
「梁山泊へは行くけどね。」
「言う通りじゃねーだろ!?それ。」
「空手習ってるんだもん。それとしぐれは女の子だから遊んでいいでしょ。」
「何で空手なんか・・」
「なっつんに内緒で強くなりたかったのにあっさりばらしちゃった。がっかり・・」
「強くなるって・・オレに勝とうなんて思ってねぇだろうな?」
「やってみないとわかんないじゃないか。」
「冗談じゃねぇ、怒るぞ。」
「いや勝つのは無理でもさ、強くなって驚かせるならできるかもでしょ?」
「もうバレたんだから、それはなし。強くなりたいならオレが教えてやる。」
「ええ〜〜〜!?」
「なんでオレじゃいけないんだよ!?」
「前に教えてってお願いしたとき、『オレはそんな暇ない』って断ったじゃんか!」
「あ・あぁ・・そういや・・」
「おかしいよ、なっつんてばこの頃特に。どうしちゃったの!?」
「・・・確かにな。けど・・オマエに言われるとめちゃめちゃ腹立つ・・!」
「修行が足りないんじゃない?器を大きくしたまえよ、ちみ。」
「・・・”マジでむかついてきた・・!”」
「あれ、怖い顔。・・なんだよう・・?」
「フン・・もうオマエなんか知るか。あっち行け!」
「子どもかい!?すねないでよ!」
「人の気も知らねぇで・・あーむかつく!!」
「・・・なっつんたら・・もう;」

もう知らん。なんでオレがこんなにほのかのことでムキになってんだ。
バカみてぇだって思うさ、オレだって。けど、むかつくんだからしょうがねぇ。
不貞腐れたオレの傍に寄ってくるのが見えた。けど顔を背けてやったんだ。
しかしほのかは特に困った様子もなく、オレの顔を両手で挟んで向きを変えた。
オレは逆らうこともできたのに、ほのかの目の前に顔を持っていかせてしまった。
大きな瞳がオレを映す。いつも吸い込まれそうだと思うオレの苦手な目だ。
ほのかは無表情でオレを見つめていた。何がしたいのかわからない。
頬に添えられた手がなんだか熱く感じられて、オレの頬まで熱い気がしてきた。
ほのかの顔はゆっくりと近付いて、このままだと・・・おい、こら!まさか・・
まさかと思いながらも、オレは固まって動けないまま、要するにされるがままで
目蓋が下りるのを見届けた後、釣られてオレまでもが目を閉じてしまった。
するとごつんと額同士がぶつかった。痛いほどではないがやたらでかい音がした。

「あいたた・・」目を開けるとほのかはおでこを押さえて顔を顰めていた。
「なにやってんだ、オマエ。」
「あ、待って。やり直すから!」
「何を?頭突きしたかったわけじゃないのか?」
「当たり前だよ、そんなの痛いじゃないか!?」
「じゃあいったい・・・」
「いいからもいっかい目つむって!」
「なに!?」

目は閉じ損ねたがほのかの唇がオレに押し付けられた感触でどっちみち目は開いただろう。
頬だったんだが・・・って何をがっかりしてんだ、オレは!!

「怒らないで、ねっなっつん。」
「なんだそりゃ・・慰めたのか?」
「んー、そうなるのかな?そうかも。」
「それとも・・キスしたかったのか?」
「えっと・・そう。好きだよ、なっつん。」
「ご機嫌を取ったつもりかよ?」
「ひねくれてるなぁ・・ホントだよ。」
「ならオレからさせろ。」
「ほええ!?」

慌てて顔を赤くさせといて悪いんだが、さっきぶつけたとこにした。
なんでだかそうしたかった。痛がってたからかわいそうだと思ったのかもしれない。
ほのかの両肩に手を置いていたら、震えが伝わってきて少し焦った。

「お返しだ。悪かったな、ひねくれてて。」
「負けず嫌いだねぇ・・まぁいいや。へへ・・」
「・・嬉しそうだな?」
「そりゃ嬉しいよ。」
「ふぅん・・おでこでも?機嫌を取ったんでもか?」
「ウン。どんどんご機嫌取って。嬉しいから。」
「オマエって・・・バカだろ?」
「失敬だね、ホントになっつんて。」
「むかつくんだよ、その・・嬉しそうな顔・・」
「どうして?」
「それ見てオレが嬉しがってる・・からだよ。」
「ぷぷ・・おかしい。」
「おかしいか?おかしいよな。」
「おかしくてもいいよ、ほのかそんななっつんも好き。」
「そうか・・そんなら・・まぁいいか。」
「ウン、いいじゃん!」

ほのかは満面に笑みを湛えて、オレの好きな顔を見せた。眩しいほどの。
少し目を細めてしまった。するとまたきょとんとした顔でオレを見る。
オレのむかつきは、あることに起因するんだな、それはオマエにある。
そしてその原因はオレにある。オレのなかにいつもあったんだ。
わかったところで、やっぱりむかつくんだけどな。悔しいから!
オレがどんなにオマエのこと・・・悔しいから言ってはやらない。








”大人気ない”なっつん、を目指してみました。(^^)