「見てらんない!」 


自覚がないってのは時に暴力だよね?・・僕はそう思う。
なんのことかって、僕の妹と親友の夏くんの二人だよ。
いつの間にか知り合って、なんだかんだで仲良くなって、
どんどん妹は兄離れしてしまって・・いやそれはともかく
本人たちは付き合ってなんかいないとか言ってるんだよ。
どうもごまかしるって感じでもないし、悪友の新島によると
「天然同士ってヤツだな。」だとか言ってる。
それを否定しきれないのは僕だけでなく、新白の皆もそうみたいだ。
皆見てみぬふりとか、温かい目で見守ってくれてるって感じ。
美羽さんなんか、とても二人のことを応援してるんだよね。
「だって微笑ましいですわv」とかなんとか・・そうかなぁ?
兄という立場のせいか、僕はそこまで穏やかな心境じゃない。
一番困るのは二人とも無意識にスキンシップが多いってことだ。
しょっちゅう引っ付いてるように見える。いや気のせいじゃなく。
度を越すと見ていられなくなって当たり前だよね?ふぅ・・・
もう少し人目ってものを気にして欲しいよ、目の毒だからさ。
気を利かせて武田先輩や宇喜田先輩もそーっと部室から出たりとか
結構気を遣ってくれてるんだよね。本人たちは気付いてもいない。
だからたまに皆と二人のことを愚痴ってしまったりするんだ。

「前に頭にかじりついてるとこも結構驚いたけどな。」
「そうか〜い?俺はそれより膝の上に乗せてたときだね〜!」
「頭撫でてるのも恥ずかしくない?僕はちょっと・・」
「気になるとこって人それぞれ違うんだな。」
「キサラはどこが気になるんだ?!」
「どこでも傍にちょんと居てさ、猫みてーで可愛いじゃん。」
「おまえらそんなことを一々気にするな、まだまだだ、あれでも。」
「新島おまえひょっとして探ってんのか・・?」
「そんな役に立たない情報に手間掛けたりはしないぜ。」
「そのわりに把握してるみたいな言い方じゃな〜い?」
「まぁな。ほっとけ。今のところ無害だし犬も食わない。」
「羨ましそうだな、キサラ・・?」
「おっいやそんな。まぁ、ちょびっとくらいはな・・?」
「そうなのか?!」
「うっせーよ、おまえは引っ込んでろ。」
「まぁまぁ・・二人ともけんかはよしなよ〜!」

とかなんとか結構皆見てるんだよね、二人のこと。
帰り道、美羽さんともその話の続きみたいになってしまった。

「そういえば、この間何か高いところが見えないとかで抱きかかえてらして・・」
「あぁ、なんか鳥の巣の話をほのかしてましたから、そのときのことかな?!」
「そうかもですわ。短いスカート姿でしたが上手に支えて見せて差し上げてて。」
「はー・・ほのかって気にしませんからね、そういうの注意してるんですけど。」
「谷本さんの方が気にしてらしたかも。ふふ、ホントに仲が良ろしいですわね。」
「兄としては複雑なんですよ・・なんかもう僕はお役御免なのかなぁって・・」
「これからじゃありません?妹さんはモチロン谷本さんからのご相談とか?」
「はぁ、そうでしょうか。」
「兼一さん、そんな拗ねないでお二人を見守ってあげてくださいまし。」
「・・そうですね、美羽さんにそう言ってもらえたらなんか元気出ました。」
「良かったですわ。」
「ありがとう、美羽さん。」




「なんかこの頃仲いいんだじょ、あの二人・・怪しい。」
「コラ、なに覗いてんだ。急にどうしたかと思ったら・・」
「お兄ちゃんたらデレデレしちゃってみっともない!」
「話してるだけじゃねーか、同じ道帰るのも当たり前だし。」
「なっつんたらお兄ちゃんを庇う気!?」
「庇ってなんかねぇよ。オマエが気にしすぎてんだ。」
「だって・・心配なんだもん・・」
「兄離れできねぇな、オマエ。」
「・・ウン・・そうかもだじょ・・」
「ったく・・」
「あ、なっつんがいてくれて助かってるんだよ?!」
「とって付けたように言うな。」
「ほのかの兄離れに貢献してよ。」
「・・どうやって?オレに兄の代わりしろってのか?」
「違うよ、なっつんはほのかのお兄ちゃんじゃやだ。」
「・・いやなのかよ・・?」
「それともお兄ちゃん代わりでもいいの?」
「なんでオレがオマエの・・兄役なんて・・」
「しなくていいよ、そんなの。なっつんはなっつんだから。」
「なんだそれは?」
「ほのかのカレ候補なの。えへん!」
「なんで威張ってるんだよ?」
「妹役じゃなくてカノジョにしてね、なっつん。」
「勝手に決めるな。なんでそうなる・・」
「えーっ・・まさかイヤなの!?」
「ガキのくせして・・なにがカノジョだよ。」
「まだだから候補だって言ったじゃん!」
「・・・フン・・・」
「ほのかいい女になるからお得だじょ!予約しといた方がいいよ。」
「予約・・ねぇ?」
「ウン。お嫁さんになるという特典付きー!」
「・・・オマエがねぇ?」
「疑うの?ホントなんだからね!?」
「予約って、どうすりゃいんだ?」
「えっしてくれるの!?えーっと、どうしようか!?」
「なんも考えてなかったな・・・」
「何がいいかな?なっつん、いい考えないかい!?」
「予約っつうか、約束だろ?・・いい考えっていってもなぁ?」
「約束か、なら指きりしよう!なっつん手出して。」
「えっおい・・」
「指きりげんまん、ウソ付いたらダメだよー!」
「無理矢理じゃねーか。」
「もう受けつけませーん!予約したもん。」
「ハイハイ・・ところでオマエの気が変わったときはどうしてくれんだ?」
「ほのか?ほのかがなっつんにイヤになったとき?」
「ぐ・・なんか腹立つが、そうだ。」
「そうだなぁ?そんなのあるわけないけど・・」
「どこからその自信が湧くんだ!?」
「こういうことはぴぴっとくるものなんだよ。だから大丈夫さ。」
「ほー・・・」
「そんなに心配なの?困ったなあ。じゃあね、ウソ吐いたらなっつんの好きにしていい。」
「好きにって・・どんな・・」
「それはもう煮るなり焼くなり、好き放題。それでどう!?」
「へぇ、強気に出たな。」
「ほのか自信あるもん。」
「じゃあ、忘れるなよ。」
「合点だ。なっつん、ちょっとちょっと、」
「まだなんかあるのかよ?人を犬みてぇに・・」



「・・おい、コラ・・」
「ホラ、ハンコみたいなものだよ、ね?」
「印鑑代わりって・・聞いたことねぇし。」
「もしかして初めてだったの?!」
「なっそっそれはその・・・オマエは違うってのか!?」
「初めてだよ、得した?」
「・・・そ、そうか。」


「ちょっとちょっとちょっと!君たち道端で何してんの!?」
「あっお兄ちゃん!」
「おっおま・・いつの間に!?」
「黙ってればどんどんエスカレートして・・道端でキスとかしないでくれ!!」
「いやっこれには訳が!落ち着け、兼一!」
「お兄ちゃんなんでそんな怒ってるの?」
「あああの、ほのかちゃん・・そういうことはですね・・人前とかでは・・」
「お兄ちゃんたちが見てるって知らなかったの。ごめんね?」
「夏くん、きみね、こうなったら言わせてもらうけど・・・」
「ちょ、待てよ!見てたんならわかるだろ、今のはほのかが・・」
「へぇ・・?僕の妹のせいにするのかい?きみってそんなヤツだったのか・・」
「そうじゃなくて!おい、落ち着けよ!」

「お兄ちゃんとなっつん、どうしちゃったの?」
「ほのかちゃん、あなた・・なかなかのツワモノですわね。」
「何かイケナイことした?変なの。」
「んー・・まぁとにかくお茶でも飲んで彼らが落ち着くのを待ちますか?」
「なかなかの名案だね、よし、付き合うじょ!」
「じゃ、兼一さーん、谷本さーん、お待ちしてますですわーっ!」
「聞いてなさそうだよ、二人とも。」
「仕方ありませんわね。」
「ウン、ほっとこうよ。」


僕は日頃抱いていた不満をこのときとばかりにぶちまけた。
夏くんは困惑していたけれど、概ね認めてくれたようだ。
そしてほのかのことは責任を取るということを確認した。
まったく天然だかなんだか知らないけど、見てられないよ!
いつもなら僕に対して強気な夏くんもこのときばかりは降参してくれた。

「それじゃあこれからは人目も気にしてよね!?」
「わあったよ、しつこいな。・・厄日か、今日って。」
「そんな訳ないでしょ、妹の唇を奪っておいて。」
「あれはどっちかってーとオレが・・・」
「へーえ、きみほどの人がほのかごときに唇をやすやすと?」
「・・・くっそー・・・オマエら兄妹そろって・・・」
「なんか文句あるの、未来の弟くん?!」
「いつか落とし前つけてやるからな。」
「なんか言った!?ほのかのこと頼んだよ!」
「わかったよ!取られて泣くなよ、バカ兄!」

一抹の寂しさは夏くんの照れた顔で勘弁してやることにした。
彼もわかってくれたみたいだ。僕たち親友だもんね、夏くん。

「言っておくけど、ほのかは本気なんだからね。」
「上等じゃねーか。」
「・・望むところ?」
「わかってんなら聞くな!」
「ふ・・そうだね。」

夏くんは腕を組んでそっぽ向いたけれど、僕は見逃さなかった。
それはもう嬉しそうだったんだ。だからもう・・僕は満足さ。









久しぶりに兼一視点でしたv