「二人のメリークリスマス」 


「雪降んないかなぁ!?ねぇねぇ、降って欲しいよね!?」
「寒いじゃねーかよ。別に降らなくたっていい、オレは。」
「寒かったらほのかがあっためてあげるじゃない。」
「あー、そうだな。猫の子よりはでかいし・・」
「ちみね、贅沢言っちゃイカンよ。何様のつもりだね?」
「もう帰るぞ。いつまで空見上げてんだ。」
「もう〜!?もっとのんびりと夜を満喫しようよ!」
「オレは早く帰ってあったまりたいんだよ。」
「年寄りくさい。なんだいなんだい、いい若いもんが。」
「オマエのがよっぽど年寄りくせぇ。」


聖夜なんてオレたちになんの関わりがあるっていうんだ。
付き合いであれこれとしてやった。楽しそうでそれはそれでいい。
けどな、最後が悪かった。オレと朝まで一緒にいるそうだ・・・
なんと親の許可付き。警戒されてないからって?普通はそうだ。
しかしおそろしいことに、ほのかの母親はこう言ったのだ。
聞き逃さなかった。というよりわざとだ、あれはわざとに違いない。

「何かあってもちゃんと責任取ってくれるでしょ?」

ほのかの母親は苦手だ。なんだろうあのしたたかなオーラは。
女性全般を信用してなかったから、当然オレは始めっから警戒してた。
だが関わってみると、ほのかの母親だ。かなり天然だとわかった。
ほのかと違って大人だというのは間違いない。父親よりも侮れない。
父親は兼一によく似ている。顔じゃなくて中身の方がより一層似てる。
つまりオレと正反対。まともすぎて顔を合わすのが気まずいくらいだ。
オレのことは、ほのかの面倒をみてくれる兼一の親友というポジション。
母親のそれは違う。オレを”未来の息子”・・と予想を付けているのだ。
まさかと思いつつ、予感はあった。結局は・・当たりというか・・

「ほのかのことよろしくね。」

なんと初対面でオレににっこりとそう言った。今でも鮮明に覚えてる。
そして会う度に、意味深な台詞を去り際にオレに押し付けていった。

「あのこったら、子供で手がかかるでしょうけど、焦らずにね。」
「遠慮なく思ったことは伝えた方がいいわよ。あのこ鈍いから。」
「いつでもいらっしゃい、息子みたいに思ってるから。」

嫌味でなく心から言ってるらしかった。その辺は親子だなと思う。
兼一にしろ、ほのかにしろ、馴れ馴れしくもあるのだが憎めない。
妙な安心感を覚える。オレが変わってきたせいでもあるだろうが。

「なっちー!?何考えてんのー?」
「いやぁ・・朝まで何して遊ぶんだかなぁ?とか・・色々。」
「えー!?違うでしょ、ほのかといちゃいちゃするんだよ!」
「ハイハイ、そう見えるんじゃねーか?誰か来たとすりゃ。」
「え!?誰か来るの!?今夜はパーティじゃないはずだよ?」
「お嬢さんの言う通りにしたぜ。今夜は二人きりだ。」
「まさかお兄ちゃんとか来ないよねえ?ヤダよ!?」
「オマエの貞操の危機だとか言えば来るかもな。」
「なにー!?じゃあ絶対来ないでってメールしとこう。」
「アホか。そんなことしたら逆効果だ。」
「それもそうか。なっちって知能犯だね。」
「あのね、そんな危機ないから。心配無用ですよお嬢さん。」
「さっきから何!?なんでそんな妙な感じなの?変というか・・」
「別に。」
「あっお母さんにまた何か言われたんでしょ?!気にしないでいいよ。」
「今日は特に何も・・オマエまたなんか相談したのか!?」
「あんまりなっちが狼になってくれないから、知恵貸してって頼んだの。」
「・・ああ・・そう。」
「そしたらね、攻め方を変えたらって言われてさぁ・・」
「それで、どうするつもりなんだ?」
「へへへ・・内緒。おうちに着いてから実践するから。」
「親子で何考えてんだ、全く。オレはその手には乗らないからな。」
「なんで!?お嫁にもらってくれるんならいいじゃないか〜!」
「それよりオマエ、もしそんなことになった場合・・」
「ウン?どきどきわくわくするよ。」
「・・じゃなくて!そういうことも母親に報告する気だろ!」
「恥ずかしいの?!じゃあ内緒にする。」
「や、だからその・・はぁ・・・なんだかなぁ、このノリ・・」
「だってぇ、なっちってばちっともせまってくれないから・・」
「・・言われてできるか。」
「ほのかのことすきなくせにー!」
「うっせぇよ、このバカ。」
「わっ!?」

不意に抱き上げたからほのかはびっくりした顔でオレを見た。
でかい目が真ん丸くなるのを間近で見るのは好きだ。可愛い。
頬が赤くなった。寒さのせいではないだろう。珍しく照れてやがる。

「なっ・・いきなりなんだね!?」とほのかは唇を尖らせた。
「どうしてそう襲われたがるんだい?このおじょうちゃんは。」
「それはね、こんな子供扱いばっかりに飽きたのさ。」
「これも子ども扱いだと思うのか?」
「荷物をすくい上げるみたいだもん。いっつもそう。」
「女の扱いなんて知らないからしょうがねぇだろ?!」
「それはそうだけどさぁ・・もうちょっとこう・・ろまんちっくに・」
「そんなもん余計にわかんねーよ。」
「うーん・・そうだねぇ、気持ち悪くなるのもヤダし。」
「オレの”王子様”仕様はキライだもんな、オマエは。」
「あれをいいという人がさっぱりわからないよ、どうしても!」
「なら、このままのオレでカンベンしろよ。」
「そうだねぇ、そりゃ今のままでいいんだけど・・」
「よしよし、素直だな。」
「ほのかはいつだって素直だもん。なっちに言われたくないよね。」
「悪かったな。」
「それよりさ、なんで抱っこしたの?」
「なんでかな。」
「抱っこしたかったわけじゃないの?」
「どうしたもんかと悩んだ。」
「ふーん・・?」
「おりるか?」
「いいけど・・キスしてくれる?」
「お嬢さんのリクエストならしょうがない。」
「やっぱりいい。パス!!」
「そっか。」
「どうせ軽ーいお子ちゃま用に違いない。」
「ぷぷ・・」
「なのでこのまま抱っこしておきたまえ。」
「えっらそうに。」
「べーっだ。」
「帰ってからせまってくれるんだろ?」
「あ、そうだった。でもなんだか・・」
「一応期待しておく。」
「一応ってなに!?期待してんの!?ホントに!?」
「ああ、お手柔らかに。」
「ようっし。そんならやるよ!覚悟するがいいのだ。」
「あー、どうやらこれはかなり期待できそうだな・・」
「バカにするのも今のうちさ。驚くよう?!」
「この調子でな・・オマエなんか間違ってねぇ?」
「ふふー・・今日のほのかは一味違うのだよ〜!」
「えらく自信あるみたいだな。」
「ウン、がんばるっ!」
「気合は十分だな。」

軽く当てるだけのキスをして、ほのかをおろすとむっとした顔になった。

「抱っこしててって言ったのに。」
「・・・上見てみろ。」
「え?あっ!!雪っ!」
「オマエついてるな。」
「やったあ!ホワイトクリスマスだーっ!!」

すっかりご機嫌になって単純なヤツだ。お手軽っつうか・・・
両手を広げてくるくると回って、はしゃいでるとこは昔のまま。
どんな誘惑をしてくれるんだか・・・期待はしてるぜ、うん。
どうせろくでもないんだろうなあ、今までの経験からすると。
わかってねぇんだから。そういう意気込んだ作戦は裏目に出るんだ。
そんなことしなくても何気ないところに誘惑はいくらでも転がってる。
バカだよな、何もしないのが一番だってことにいつ気付くのやら。
それにしても・・・あの母親はわざと仕込んでるんじゃないか?
そうすれば、却って手が出し辛いと予想して吹き込んでる気がする。
だからうっかり乗せられたくない。試されてるんだ、おそらく。
しかし負けるつもりはない。予想通りになるのは結末だけでいい。

「おーい、なっちーーっ!メリークリスマース!!」
「メリークリスマス!ほのか。」
「んーっ!?なぁにーーい!?」

呼ばれたと思って駆け寄ってくるほのかをもう一度抱き上げる。
今度はさっきより優しくな。また頬を赤く染めるだろうか?
ほんの少し怯えた顔をすることにアイツ自身は気付いてない。
とっておきと言えるほどの誘惑だと、いつか教えてやろうか。

「わあっ!?」
「クリスマスだから大サービスだ。」
「えーっそうなの?!なになにー?」

「これからもずっとクリスマスはオレと一緒にいろよ。」
「!?そんなの、あたりまえさぁっ!!」
「朝までずっとだぞ。」
「!!・・ウ、ウン・・」

ああ、なんて顔すんだよ可愛いな!・・ヤバイだろ。
きつく抱きしめて、今度こそご期待に添えるキスをしよう。