「待ってるよ!」 


谷本邸は今日も留守でガランと広く感じられる。
鍵を預かっているから掃除にやって来る。
いつ帰るとは聞いていない。もう随分になる気がした。
家主が放り投げたままのものが幾つか残されていた。
まるでひょいと出て行ったまま、すぐにでも帰って来そうなのに・・

掃除の途中に気付いた読みかけの本をふと手にとってみた。
持ち主の匂いが微かにしたような気がした。
栞が丁度真ん中辺りに挟まれているなぁとぼんやり眺めた。

『おまえオレが居なくてもちゃんと宿題しろよ?!』
『邪魔ばっかしやがってあっち行ってろ!オレがするから。』
『こら、それに触るな。危ないって言ってんだろ!?』

「やかましいことばっか言うんだもんね。なっつんてばさぁ・・」
思い浮かんだ持ち主の言葉はどれもお小言や文句ばかりで
ほのかはつい苦笑いしながらそう呟いた。
「・・・・元気かなぁ・・?」
口に出さなければよかったとほのかは思った。
後悔が襲ってきて、笑って誤魔化そうとしてみる。
しかしうまくいかずに笑顔はくしゃりとゆがんだ。
「・・・早く帰って来てよぅ・・・!」

言ってはいけない言葉をまた言ってしまった。
それが悔しくてしまった!と思うと同時に涙が溢れた。
次から次へと零れ落ちてくるのを止められない。
しばらく泣いていた。じっと一人で声を押し殺して。
少し経ってようやく涙が底をつき掛けたのを機に本をそっと戻す。

「帰って来るのが楽しみだじょ!ふふ・・一杯困らせるのだ!」
残りの涙を拭ってほのかは掃除の続きに取り掛かった。
「まるで奥さんみたいだじょ!?ほのかってば。」
そう思いついて言ってみるとなんだか少し元気が出る気がした。
「そうだ、帰ってきたらご飯作ってあげようっと。」
「楽しみ楽しみv」

『ほのかは元気だよ。でないとなっつんも心配するもんね?!』
それは心の中で言って、いつもの自分に立ち戻る。
「そうだ、明日お天気だったら、虫干しするじょ!」
「ほのかってばいい奥さんだねぇ〜!?」
きっとそんなことを聞いたら怒り出すんだろうなと思うと愉快だった。
目に浮かぶようだ、怒ってるくせにどこか嬉しそうなその人の姿が。
早く帰ってくるといいなとまたほのかは心の中で呟いた。







夏君が師匠と旅立ってしまったのがショックで書いたブログ書きなぐりSSです。
彼にとっては願っていたことだし、おめでたいんですけど、夏ほの的にはね・・;
もっと強くなって帰って来てくれるよね!でも寂しい!!ってな感じです。(++)
ほのかは鍵を預かってお留守番という勝手な設定で書いております。(ごめんなさい!)