Marking 


ほのかが図々しく俺の腕に掴るのはいつものことだ。
それどころか締めわざと称して首元にも纏わり付く。
その度にふわりと香るのはほのか独特のものだと思う。
子供のくせに。初めて嗅ぎ取ったときの印象がそれだ。

雌が雄を誘う匂いとはどこから発しているんだろう。

日頃は意識的に遮断している。人の居る場は基本そうだ。
鬱陶しいから。理由は他にない。おそらくはこれからも。
俺がどんなに警戒網を敷いても無駄な女、それがほのか。
生意気に無意識に擦り付けてくる。当然意図はない。

それでも許していた。言ってしまえば捉えたのは俺の方。
どうしてそうしたかはわからない。多分成り行きでもない。
体が反応を示した、というのが最も妥当な答えであろう。
それ以来、ほのかの愚かな行動を口では戒めてはみるものの
強制的に排除できていない。できないというのが正しいが。

もういっそ俺のものだと主張していいんじゃないのか。

幾度もそう考えた。実際にはされるがままの哀れな雄の性。
他の男に奪われたら、と想像するだけで身震いするほどだ。
呑気な顔を抓ったり、デコを叩いたりで紛らわす日々。
そんな俺の本性も知らずにほのかは今日もイイ匂いを漂わす。

「なっちー!きすまーくってどうやって付けるの?」
「次からは言った奴の足を思い切り踏みつけとけ。」
「えーと友達がきすまーくみたいって言ったの。虫刺され。」
「はぁ・・見えなくもないが鬱血痕だから別物だ。」
「うっ?なにそれ。ねね、ほのかに付けてみてよ。」

べしりと少々痛いであろう程度の手刀を前頭部に振り下ろす。
痛いと悲鳴をあげて頭を摩りながらもほのかは引き下がらない。
見えないとこならいいじゃないかなどとバカなことを呟きながら。
家族に見られたら出入り差し止めだと告げてもまだ諦めきれず

「絆創膏貼っておいて、内緒にしとけば?ねぇねぇ、なっちぃ!」

悪知恵を働かせて好奇心に抗わないまま『誘い』続ける。
わかってないというならば、これはほのかの本能だろうか。
こんな未成熟でも俺を求めているのか。悪い気は勿論しない。
しかしそれは他の男に目を移されなければという大前提の元。

「・・・どこに付けて欲しいんだ。」
「わお!やった。えっとねぇ・・どこがいいかな・・」
「服の下。上半身。胸以外だ。」
「え?あ、そう。ならなっちにお任せ。」
「ふ〜ん・・」

俺がどこにするかと探る視線にほのかはようやく気付いたようだ。
自分の要求したことや俺が成そうとしている行動に伴う危険性に。

「あ、あのさ。なっちがヘンな顔になってるけど・・」
「お前がしろって言ったんだ。今頃怖気づいたのか。」
「だって・・そんなによくないことなの?これって。」
「まぁな。俺以外には絶対要求しないと誓え。そうでないなら止めだ。」
「う・うん・・なっちもほのかだけにしてくれるんなら、誓う。」
「・・・いいぜ。誓う。」
「なんだかどきどきする。結婚式みたい。ほのかも誓います!」
「・・・」

やはり理屈じゃなく本能の仕業なのだ。真意を捉えている。
お互いがお互いを求めている。繋がりを。将来に繋ぐ賭けとして。
善悪も結果も関係ない。俺とほのかに流れる血が欲しているんだ。

着ていた制服の下へ片手を滑らせるとほのかはぎょっとした。
なだらかに女らしく膨らんできた胸部を掠めるとびくりと跳ねた。

「おっぱい触るのはいいって言ってない・・」
「触ってねぇ。掠ったみたいだな、すまん。」
「むぅ・・ちっちゃいと言いたいのかね!?」
「むくれるなよ。育ってきてるじゃねぇか。」
「うわ、ヤラシイ。チェックしてるのかい!」
「毎日見てれば嫌でもわかる。ここ、でいいか。」
「え、うん。人差し指くすぐったい。」

服の下で指差した箇所は鎖骨より下、胸の谷間上部。
一突きにすれば心の臓。命を奪える場所に他ならない。
命を奪うつもりはないが、似たような意味合いを持つ。
もう片方の手で服を捲り上げると当然だが丸見えとなる。

「しまった!もっと可愛いブラにしとけばよかった。」

詰まらないことを言っているが恥ずかしさを誤魔化すためだろう。
ほのかは緊張して体を硬くしているし、顔は茹でたような有様だ。
目で確かめた双丘は出逢った頃より随分主張を烈しくしている。
噛み付きたい、握りつぶしたい衝動に駆られるが耐えて目を閉じる。
唇を寄せた時、ほのかも目を閉じたのだろう。息を吸う音がした。
ゆるく押し当てた後に吸い上げる。唇だけでも肌の柔らかさがわかる。
痛いと呟く声が耳に届いた。それでも許してやらずに痕を付けた。
離すときもゆっくりと。申し分のない痕に満足感を得、悦に入る。

「ついた?ほのか服で見えない。」

解放してやると服は元の位置に戻り、ほのかは胸元を覗き込んだ。
痕を見つけると「わぁ!」と小さいが感嘆の声を発して喜ぶ。

「ありがと、なっち。今度はほのかが付けたい。」
「・・・できるのか?」
「やってみるー!」

ほのかは楽しい遊びを見つけた子供の顔で俺に倣って首元に吸い付いた。
慌てて捕まえて引き剥がす。そんなあからさまな場所では困るからだ。
が、それは杞憂に終わった。ほのかのやり方では痕など残らなかった。

「・・上手にできない!もっと練習しないと。」
「せんでいい。俺は浮気しないから安心しろ。」
「ほんと!?それも誓う!?」
「ああ。だからもうこのことは誰にも話すな。」
「秘密だね!?らじゃっ!」
「ついでだ・・ほら。」

つん、と唇を当てると震えた。同時に目が丸くなる。

「ちゅうはイタくないんだね。よかったぁ!」
「痛くしたけりゃするぞ。」
「痛いのもあるの?」
「どうとでもできる。それよりお前こそ浮気すんなよ。」
「うん、なっちだけ。そこは信じてよ。大丈夫だから。」
「まぁ信じておく。」
「ちゅうもしたし、満足満足。」
「俺は疲れた。」
「まーく付けるのって疲れるの?」
「いや、そうじゃなくてそこで留まるってのがな・・」
「?・・嫌じゃないよね?嬉しくない?」
「お前が嬉しそうなんで・・嫌じゃない。」
「え〜・・なっちってばほのかにメロメロじゃのう!」
「・・・ったくこんなガキになぁ・・」
「あっあれ!?否定しないの!?いいのかい?」
「もう手遅れってヤツだ。」
「手早かったよ。服の下にするっと、ヤラシイね。」
「お前だってイヤらしい声出してたぞ、付けた時。」
「えっ・・そ・そっかな?・・覚えてない。」
「怖かったろ。もうあんまりこういうことせがむなよ。」
「怖くないもん。好きだから。なっちだからさぁ・・!」
「だからあまり煽るなって・・わからんか・・・はぁ・・」

ほのかが再びしがみつき、首ではなく頬に唇を押し付けた。
小さな頭を撫で、体を抱きかかえてやるとほのかは泣き出した。
何故だか涙が出る、理由がわからないと訴えるほのかを宥める。
今は雄ではなく、兄か父のように幼いほのかを包むようにした。
差し出そうとしてくれた勇気に心から敬意を注ぐ。感謝を込めて。

「よしよし・・悪かった。もう怖いことしないからな。」
「こっこわくないって言ってるでしょおっ!なっちのばか。」
「俺は怖かった。お前に嫌われたくないし、今も怖い。」
「ならほのかもよしよししてあげる・・怖くないよ、ね?!」
「お前さぁ・・」
「ん?なぁに。」

”かわいすぎるだろう”と耳元に囁く。するとほのかは笑った。
”素直すぎて気持ちワルイ”と言って。ああ、けど真実だから。

このまま腕の中に閉じ込めておきたいと思う。正直なところ常に。
だがそれは現実には叶わない。だが時折確かめるのを許して欲しい。
そうそう首尾よく為せないことだろう。寧ろうまくいかないのが普通で。
しかし今日のように、奇跡的にお互いを手中に出来るときもあるのだ。

いつか二人がもう少し大人になったら、毎日でも深く繋がれる未来がある。
それまで奪われないようにしなければ。痕くらいでどれだけ持つのだろうか。
けれど抱き締めるほのかの体は柔らかくて、夢心地は不安を忘れさせた。







やばいですかね!?ちょいエロか?そうでもないか!?(わからん)