「魔法のチカラ」 


魔が差すって言うだろう?
そういうことにしてくれよ。
すんでのとこで我に返って、
それで良かったって思うのに
どうしてこんなにやるせないんだ?


眼が合ったらどうするんだっけ?
掴まれた腕が熱くて気をとられたのかな。
眼を閉じるのも忘れちゃったよ!
ごめん、なっつん もう一回!・・ダメ?


ほのかが傍に居るときは気を付けないといけないんだ。
油断するとあの大きな瞳がオレを覗き込むから。
たまにオレは自分に自信をなくしちまう。
あいつ以外にこんな不安になったりしないのに。
気軽に腕を絡ませたり、すぐにこいつはくっついてくるし、
せめて眼だけは合わせないように気を配らないと。
最近特にヤバイんだよ、どういうわけだか知らないが。
とにかくあいつの瞳には要注意だ。

友達が色々と教えてくれたんだけど、
いざとなったら実行に移すのって難しいよね。
どきどきしちゃうし、焦ってしまうし。
なっつんの瞳ってパワーあるんだもん。
すごく綺麗だし、引き込まれちゃいそうになる。
一旦どきどきしちゃったらもう何がなんだか・・
これじゃあいざってとき困っちゃうよ。
とにかく眼が合ったときが肝心だよね。



ほんとうにそういうのって全く予想外の突然で、
とっさにわけわかんなくなって困る・・・
どうして腕を掴んだりしたんだろう?
なんでこんなに引き寄せられるのかな?
「なっつん、あの・・腕・・イタイ・・」
「・・あ、ああ。」
あんなに近かった二人の距離がどんどん開いてく。
さっきまで息を詰めなければ掛かりそうだったのに。
とても残念なような、妙に安心したような変な感じ。
「あ、あのさ。あ、あれ?・・なんだっけ?」
「あー・・・その、なんだったかな・・」
お互いに気まずくてふっと顔を反らして誤魔化した。
やけに動悸がして顔が火照ってしまう。
二人ともなんだか魔法にでもかかったみたいだった。
吸い寄せられたみたいに近づいていって・・
思い出すと顔がまたかーっと熱くなってしまう。
「あ、あの・・ごめん・ね?」
「あ?何謝ってんだよ。」
「えっと、その眼が・・閉じれなくってさ・・」
「!?と、閉じなくていんだよ!そんなもん・・」
「・・そうなの?よくわかんないけど。」
「知るかよ?!何言ってんだ。」
「だって・・・さっき・・」
「オ、オレは何も・・その・・」
「あ、そう?あはは・・やだなぁ・・なんか馬鹿みたい。」
「・・・良かったんだよ、閉じなくて。わかったか?」
「わかんない!じゃあすごく残念な気がするのはなんで?!」
「う、うるせー!気の迷いだ、そんなの。」
「でもなっつんすごく寂しそうな顔してたよ?さっき離れてったとき。」
「そ、そんな顔してねぇ!!」
「だからほのかが悪かったのかなぁって・・」
「おまえは別に悪かねぇ、気にすんなよ?」
「あのさ、もう一回・・ダメ?」
「何をだよ!?」
「えっと、そのさっきの・・」
「ダメだ!」
「うー・・やっぱり失敗した〜!」
「失敗とかゆーな!違う!!」
「だってぇ・・くすん;」
「な、何泣いてんだよ?!おい・・」
大きな瞳にどんどんと水が溜まっていくのが見えた。
俯いたらきっと零れて落ちてしまうだろう。
何故かそれが許せなくて顔を持ち上げてしまった。
「わ・・!」溢れた水はやはり眼からすべり落ちた。
「泣いてんじゃねぇ・・」
「・・うん・・」
ほのかがぎこちなく頷いて、目蓋をゆっくりと落とした。
落ちてしまったとき水は溢れて幾つかの雫が伝わった。
確かにほのかの瞳にはチカラがある。
覗き込まなくても、そっと閉じてしまうときですら。
このチカラには足掻いても逆らえないのかもしれない。
オレは覚悟を決めて自身の目蓋も下ろした。


私は魔法にかかったみたいに身体が宙に浮いたみたい。
なんにも考えなくてよかったのかもしれない。
とっくに魔法にかかってたんだよ、きっと。
瞳を覗きこんでしまったあのとき あの瞬間に。