Lovers


新白のメンバーは定期的な集まりで交流を深めていた。
そんな彼らのうちにとある関心事があり、話題となることがある。
ハーミットこと谷本夏の傍にいつも引っ付いてきている少女がいる。
自称谷本の親友でありメンバーの一人、白浜兼一の妹のほのかだ。
関心事というのは、そのほのかと谷本との関係についてであった。

「谷本はまたあの嬢ちゃんと来とるんじゃな。」
「あの子大きくなったな、雰囲気は変わらないけどさ。」
「この頃は兄妹って感じじゃないよね?」
「そうかい?以前から兄妹には見えてなかったんじゃない?」
「でも本物の兄貴はのん気に谷本は妹さんみたいに思ってるって・・」
「う〜ん・・で、実際はどうなんじゃ?」
「・・・見たまんまじゃないの?」
「えーと、つまり・・」

そんな彼らの話題は会長の新島の耳にも届いていた。(彼は地獄耳である)
そこで一計を案じた彼は、一人の女性メンバーに相談を持ちかけた。
そして当人たちは勿論、他の誰も知らない小さな計画は静かに幕を開けたのである。

「ほのかは相変わらず谷本と仲がいいな。」
「ウン、いいよっ!友達だよー!」
「谷本はそうは言ってなかったがな・・」
「!?・・要ちゃん・・そんなこといつ聞いたの!?」
「ついさっきだ。」
「なっちはなんて言ってたのさ?!」
「それは言えないな。」
「どうしてっ!?」
「谷本と約束したんでね。」
「要ちゃん、いつの間になっちとそんなに仲良くなったの?!」

谷本が少し席を外した隙をついて、その計画は実行された。
女性メンバーの一人である、久賀館要は大学生になってから益々美しい。
以前からスラリと背が高く、男子に引けをとらない野生味を含んでいる。
それでいてしっかりと女性的な魅力をも兼ね備え、おまけに知的でもある。
つまり、どこをとってもほのかの劣等感を刺激する女性であった。
しかし接する機会が少ないせいか、ほのかはそれらを特に意識していなかった。
ほのかは驚きと猜疑心を一気に沸き起こらせ、混乱したような様子だった。

「谷本は”友達”なのだろう?ならば・・応援してもらいたいな。」
「応援って・・要ちゃん、なっちのこと好きなの!?」
「・・どうした?・・気分が悪そうだな。」

実はこの二人の会話を他のメンバーたちは固唾を呑んで見守っていた。
キサラなどは姉とも慕う要の意外な行動に、ほのかと違う意味で混乱している。
その緊張した空気を纏った中へ、のんびりとした人物が二人登場してきた。
ほのかの兄、兼一と兼一の想い人である風林寺美羽だった。

「遅れちゃってごめんよ。あれ、ほのか。オマエまた来たのかー!」
「ほのかちゃんv久しぶりですわ!あら、谷本さんは?」
「なんかもう夏くんの方がオマエの兄みたいだよなぁ!?」
「・・なんで・・」
「!?どうしたんだほのか!?」

「ほのかはなっちの“いもうと”じゃないもんっ!」

ほのかが兄に大声で叫んだとき、谷本夏がタイミングよく戻ってきたところだった。

「や、やあ!夏くん。えっと・・ほのかってばどうしたんだよいきなり。」
「すまない。私のせいだ。私が谷本のことで誤解を与えてしまってな。」
「フレイヤさんが?・・いったいどういった誤解ですの!?」
「ちょっと待て。なんの話をしてんだよ、オレのいない間に。」

戻るなり訳のわからない状況に置かれた谷本は当然の抗議を申し立てようとした。
しかしその場の説明をする者の見当が付かず、ほのか以外は互いの顔を見比べた。

「谷本、説明の前に話がしたい。実は・・」
「ヤッ!ちょっと待って、要ちゃん!言っちゃヤダ!!」
「前から言いたいと思ってたんだが・・」
「ダメ!だめ・・だめえ〜!!」

堪えきれなくなったほのかが両目に涙を浮かべながら、谷本めがけて飛びついた。
長身の谷本に身軽に飛びついたかと思うとがしっと谷本の首をホールドして向き直る。
彼らは一様に感心した。”なんと見事な攻撃、締め技の達人!?”・・ではないかと。
・・それはさておき、ほのかは必死の形相であったため、皆が次の展開に注目している。
谷本も呆然としていたが、すぐに冷静さを取り戻すとほのかが落ちないよう体を支えた。

「落ち着けよ、何焦ってんだ?」

溜息交じりに谷本がほのかに囁くが、ほのかは黙って俯いていた。
唇を噛んで俯いていた顔を徐に上げると、ほのかは要に向かって言った。

「要ちゃん、ごめん!応援できない。ほのか・・なっちはほのかのだもん!」

譲らないという決意をひしひしと感じる宣言に、一同は気恥ずかしさで黙ってしまった。
谷本も例外でなく、言葉を失っている顔にはうっすらと赤みが射していた。

「・・だそうだから、谷本。そろそろはっきりさせてもいいんじゃないか?」

苦笑交じりにそう言ったのは要である。「皆も気になっているようだしな。」
そう付け加えられ、見守っていた者たちはそれぞれ誤魔化すようなリアクションをした。
兄である兼一だけが周囲とは違った反応を見せた。彼だけは意外だったようだ。

「え!?ちょっと待って。ほのか、オマエ夏くんのことがすきなのか!?」
「・・ちょっ・・兼一さん!そこですの!?」
「だって美羽さん!谷本くんは妹みたいにっ!?って、違うの!?」
「兼一さん、落ち着いて。」

「・・悪いが帰らせてもらう。いいな、新島!居るんだろ、その辺に。」
「・・バレたか。鋭くなったな、谷本。」

ひょいと顔を出した新島は悪びれずにいつもの不敵な笑い顔を浮かべていた。

「死にたくなかったらこの後をフォローしとけ。オレは帰るからな。」
「ほほう、いいのか。説明を俺様がしても!?大人になったな、谷本!」
「フン・・んなことはどうでもいいぜ。・・泣かせたことだけは覚えとけよ?!」
「なっち!?どうして!?なんで何にも言わないのっ!?」
「面倒だ。オマエには帰ってから説明してやる。」
「どういうこと!?わかんないよう!」
「うるせぇ。泣くな、アホらしい・・」

抱きかかえられた格好のままほのかは文句を言ったが、谷本は気にせず一同に背を向けた。
そしてさっさとその場から退場してしまった。すると残された皆は新島に非難の目を向けた。

「新島!説明!!」

兼一の怒鳴る声に怯まず、新島はやれやれと一息吐くと、

「皆が気にしているみたいだったから明らかにしてやったんじゃねーか。」
「何をだよ!?谷本くんは何も言わずに行っちゃったじゃないか。」
「ちゃんと明らかにしていったじゃないか、わかんなかったのか?」
「・・?・・え、何をどう・・」
「兼一、オマエ以外は皆わかってんだけど・・説明するのかよ?」

新島の説明を聞きながら、兼一は青くなったり赤くなったり忙しかった。
横で美羽に宥められつつ、二人の関係について認識を改めたようである。
そしてメンバーたちもそんな兼一を気の毒に思いつつ、納得もしていた。

「フレイヤ姉ってば、驚いちゃったよ〜!?」
「結構楽しかった。谷本は一枚上だったな。」
「だってあの芝居はちょっとくさかったんじゃな〜い!?」
「嬢ちゃん可哀想に泣いちゃってなぁ・・」
「谷本が慰めるだろ、それは。いいなぁ、アイツ・・」
「っていうか、兼一が気の毒っていうか・・」
「いんじゃない?あっちも風林寺がいるじゃねぇか。」
「どこもかしこも・・春だねぇ〜・・!?」


一方帰途に着いた谷本とほのかはというと・・・

「いつまでもぐずってんじゃねぇよ。あれは芝居だと言ったろ。」
「なんでわかるの?!そんなこと・・ほのか悔しい・・!」
「ひっかかるのオマエくらい・・いやオマエと兼一くらいだぜ。」
「むー!お兄ちゃんをバカにするなぁ!」
「ブラコンめ。アイツとオレの接点なんてどこにもねぇだろうが。」
「要ちゃんは美人で素敵じゃないか。美羽は違うって前に聞いたけど・・」
「”友達”だってんなら一々文句言うことかよ。」
「ぐぅ・・だって・・なっちはダメなんだもん・・なっちはほのかの!」
「そんなに心配なのかよ?!」
「イヤなんだもん・・なんでだかわかんないけど・・」
「はぁ・・もう心配すんな。”オマエの”でいいから・・」
「・・いいの?」
「好きにしろ。」
「なっちが優しい・・変なの。ずっと抱っこしてくれてるし・・」
「ぴーぴー泣くからだ。」
「ごめん・・なんでこんなに泣き虫になっちゃったんだろ?」
「さぁなぁ・・」
「なっちぃ・・」
「・・んだよ・・?」
「ほのかが誰より一番好きなんだからね!」
「・・自信満々だな。」
「そうなんだもん。」
「そりゃどーも。」
「悔しい。なっちもほのかをもっと好きになればいいのに!」
「・・言ってろ・・」

ほのかの髪を弄びながら、谷本はほのかに苦笑を漏らした。
どこまでも鈍い相手に、彼はどうしたものかといつも悩む。
嫉妬して泣いて、オレを自分のものだとまで宣言しておいて。
周囲がどう思っていても構わなかった。谷本の関心はそこにないからだ。
わかる者にはわかるだろう。腹立たしいが新島なんかもそうだ。
そんなことより彼の小さな恋人が、気付いてくれなければお話にならない。

「ほのか、オレはオマエの”ともだち”なんだろ?」
「え、そうだけど・・”特別なともだち”なの!」
「へーぇ・・特別ね・・?」
「こんなに悔しいのも胸が痛いのもなっちだけだもの。」
「・・重症じゃねぇかよ。」
「ウン、だからなっちはほのかのじゃないとダメなの。」
「・・なるほど・・」

谷本が幸せそうに見つめる眼差しも”特別”なのは確かだった。