「このままでいいの」 


居眠りするなっつんにこっそり唇をのせてみた。
あんまり可愛い寝顔だったから、これって不可抗力だよ。
ふっと目を覚ました後、ぼんやりとしてるのがまた可愛い。
ほのかはなっつん病に掛かってしまったの、重症だと思う。

「オマエ・・今・・?」
「お目覚めかい!?よく眠れた?」

にっこりと笑ってそう言うと、なっつんは眉を思い切り顰めた。
そんな顔もなかなかイケルと思いつつ、顔色は努めて変えない。
どうしたの?という顔をして視線を合わせると途惑ったようで。
ふるっと首を振って、わんこみたい。何しても可愛いな、なんて。

「オヤツにしようよ!見て見て、用意しといたの。」
「・・・なんか・・いつもと逆だな。」
「そうなの、気分イイね〜、なんだか♪」
「これ、オマエが作ったのか?」
「そうだよ!えへん、スゴイ?」

ぱくりと一口、すくったスプーンの上のものは飲み込まれた。
すると”あれ!?”という表情が浮かんだ。予想通りだ。
ますます嬉しくなって自分のお皿のもすくい上げて目の前へ。

「・・なんだよ、これ。まさか食えってのか?」
「モチロン。はい、あーんして?」
「ヤメろ、自分のだろそれ。オレは自分のを食う。」
「一口だけでもあーんってして食べてよ。」
「イヤだと言ってるだろ。」

これまた予測したままの台詞が返ってくるのでほのかも計画を実行へ移す。
しゅんと悲しい顔を作って、ちょっと大げさにがっかりと肩を落としてみる。
チラ、と上目遣いに様子を窺うと悩んでる、悩んでる。なんて可愛いの!?

「・・一口だけだぞ?」
「ハイっ!あ〜〜ん!」

待ってましたと開けられた口にほのかお手製のプリンを放り込む。
上手にできたのが嬉しくて、食べてくれるのが幸せでたまらない。

「ねぇ、上手にできたでしょ?!」
「あぁ・・まぁな。」
「えへへ・・やったね!」

今すごくしまりのない顔になってると思う、だって嬉しいんだもん。
ワタシも食べてくれたスプーンでもう一口すくって食べたら美味しかった。
何度も焦がしたカラメルソース、つぶれたり穴だらけのプリンたち。
卵だっていっぱい犠牲にしたから、お母さんも呆れた。だけどなっつんは・・
どんな不恰好な出来でも食べてくれた。美味しいとは言わなくても。
そのたびに”よーし、次こそは!”と思うのだ、なっつんのために。
そしてほのか自身のために。そして決意を重ねるごとに好きになる。
どうして食べてくれるの?ほのかの作ったものを、全部、ぜーんぶだよ。
この世のどこにいるの、こんな人。ほのかだけのために傍にいてほしい。
そんなことムリだってわかってても願わずにはいられない、それくらい重要。

”ごちそうさま”とお行儀の良い挨拶も好き。きちんと手まで合わせて。
何からなにまで好きになってしまった。なっつん病は進行の一途をたどってる。
言葉は魔法みたいだし、視線はシャワーみたい。大きな手はほのかの憧れ。
小さなほのかの手をなっつんのに併せてみると、その違いに驚く。
何してんだ、と嫌がるくせに、手を離さずにいてくれる優しさ。
飛びついて頬にキスしても、腕に頬を摺り寄せても足りない想い。
もっともっとほのかを甘やかして、病気がこのまま悪化していっていい。
なっつんナシには生きていけないくらいになりたい。もうなってるかも?!
くしゃりと髪を撫でられると、このまま猫にでもなって住み着きたいと思う。

「何甘えてんだ。ちょっと離れろよ。」
「なっつん、ほのかここに住みたいなぁ。」
「アホか、猫の子じゃあるまいし。」
「だってもっと甘えたい。なっつんにナデナデされてたいんだよ。」
「オレが飼い主ってわけか。」
「そうだよ!」
「ふぅ・・オマエさぁ・・」
「ん?なーに!?」
「・・いや、やっぱいい、なんでもない。」
「言いかけてやめたら気になるよ、なぁに!?」
「なんでもないって言っただろ。」
「教えてくれるまで帰らないぞ?!」
「・・帰りたくないならいれば?って・・言ってみようかと・・思っただけだ。」
「ホントに!?いいの?やったぁ!」
「冗談に決まってるだろ、本気で言ってねぇだろうな?」
「本気にした。だからここに住む!」

なっつんはとても困った顔になる。それはそうだろうね。
でもワタシはかなり本気だ。病気なんだから仕方ないよ。

「なっつんもほのかのことダイスキになってくれないかなぁ?」

そう呟くと、なっつんはちょっと顔を赤らめた・・ような気がした。
調子にのってなっつんの上にのっかっていたほのかの腰になっつんの手。
猫の子みたいにひょいと持ち上げられて、ソファの隣に下ろされた。
そして顔を覆うようにして、「・・冗談じゃねぇ・・」と言った。

「ダメ?・・まぁ今のままでもいいんだけどさ。」

覆っていた手をどかして、「オレはよかねぇよ!」ってなぁに?

「なにがよくないの?好きになってほしいって思うのはいい?」

「・・いけなかねぇけど・・」さっきと違って頼りない返事だ。

「それならよかった。ほのかなっつん病だからそう思うなって方がムリだからね。」
「病気だって?」
「不治の病なんだ。」
「ぷっ・・」

なっつんは笑った。なんてことするんだ、目の前でそんな顔するなんて!
殺傷能力の高い微笑みだった。不意に見ると心臓にこたえる。お薬が欲しい。

「どうした、どっか痛いのか?」
「・・ウン・・ちょっとほのか・・ダメかも。」
「オレは・・なんもしてねぇけど・・」
「なっつんが悪い。責任取ってくれないと。」
「はあ!?オレ?オレにどうしろって?」
「ほのかをどうにかしてよ、なっつん。」
「どうにかって・・どうすりゃいいんだよ?」
「じゃないと・・もう・・」
「おいっ!コラ、しっかりしろ。なに・・」

なっつんの膝にへたりと頭を落として、身体の力を抜いて目を閉じた。
脱力症状が出ちゃったみたい。へろへろになってしまったよ。
なっつんが困ってるみたいだけど、力が入らないんだもん、ごめんね?

「なにしてんだ?!起きろよ!」
「・・ふざけてるんじゃないよう・・・力が抜けたの〜!」
「起きないとイタズラするぞ?」
「・・いいよー・・今動けないからチャンスだよ〜!」
「おいおい・・」

ウソじゃなく、ホントにもうどうでもいいような感じで目を閉じてたら、
なっつんにちょっと乱暴に抱き起こされてしまって残念・・・
正直なほのかは顔に出たと思う。かなり不満顔だったはず。
おまけになっつんのことちょびっとにらんだしね、恨みがましく。
けど意外にも抱き起こされたと思ったらすぐにソファの上に仰向け。
あれっ?って思ってるとなっつんに両腕を掴まれてしまって動けない。

「チャンスだな、確かに。少しくらい抵抗したらどうなんだよ?」

ぽかんとしているとなっつんはそう言った。声がちょっと低くてどきっとした。
それになんだろう、陰になっているなっつんの顔がいつもと違う・・ような?

「・・イタズラするの?どんなの?!」
「それで病気が治るのかどうかが問題だな?」
「もう治らないんだもん。イタズラより・・キスして?」
「言われなくてももうカンベンしてやらねぇ。」
「怒ってるの?なのにキスしてくれるんだ?」
「怒ってねぇよ。オマエの病気、うつしたのオレだしな。」
「えっ!なっつん、病気してたの?!」
「オマエより前から。」
「・・・え?ええっ!?いつのまに!?」
「いつだっていいだろ。」

”よくないよ”と言おうとしたんだけど言えなくなっちゃった。
力はそのまま長いこと抜けたままで、風船になったみたいだった。
飛んでいってしまいそうだったから、捕まえていて欲しいとお願いした。
返事のかわりに強く握ってくれたのはいつも憧れてたその大きな手。
身体も抱いて繋ぎとめて?とおねだり。心はとっくに握り締めてくれたから。

「もう治さなくていいよね?」
「病気をか?」
「そう、治らないからね、絶対。」
「不治の病なんだろ、ならしょうがねぇな。」
「ウン、このままでいたいの。」
「かなり重症だな・・オレと一緒で。」

二人が目と目を合わせて笑ったら、幸せが風船みたいに舞い上がる。
ずっと二人でこうしていたいの。だからお医者さんはいらないね。













久しぶりのあっまあま!(^^;