「困ってほしい」


「しめわざ」
「動脈からそれてる。よっ!」
「真似すんなよ。」
「なっちこそっ!」

ほのかは困ってるんだ。なのに平気な顔して!
たまに意地悪なんだからね。男の子ってもう・・
以前はよくほのかが仕掛けていた『しめわざ』
なっちがほのかに仕掛けるようになってしまったの。
ぎゅってされると胸がズキン!ってイタイのにさ。
悔しくてユルイ縛めから上を見上げて睨んじゃう。
けどちっとも表情を変えないし、なっちは困らない。
もっと悔しくなって、べーってする。

「大体本気で締めたらおまえなんか死ぬぞ?」
「こっコワイこと言わないで。やめてよ・・」
「ちょっと痛いくらいなら締めてもいいか?」
「よくないよ!何考えてんの!?冗談じゃない。」
「ちっ・・やっぱダメか。」

呆れるよ。なんなの、このいじめっこスタイル。
大人っぽい雰囲気がステキだとか言われてるけど
ほのかは鼻で笑ってやるんだ。どの女の子もわかってない。
なっちなんてねぇ、ほのかの前では子供みたいなんだぞ!
でもたまにこうして至近距離で顔が近付くと慌てる。
だって、顔の造りは綺麗だしね?真面目な顔すると余計に。
ちょびっとそれが羨ましい気持ちも手伝って、抓るんだ。
痛がってくれないんだけどさ・・・指の方が痛くなるよ。
お返しだとかで抓り返されたりするし。イタイの。半端なく;

中々離してくれないから、ぐ〜〜って押してみる。
そしたら今度は面白そうに「ホラ、どうした。もっとガンバレ。」とか。
一番悔しいって思うのはね・・・ほのかドキドキしてくるんだ・・
なっちの腕や胸の厚さを感じるし・・顎をほのかの頭に乗せるの。
力なんか入れてないみたいなのに、ほのかの体は動けなくなる。
ユルイ締め付けのはずなのに、息をするのも困難になってくる。
だから仕方なくギブアップを告げるんだ。

「・・・いいかげん離してよう・・」

情けない。小さな声だけどなっちには聞えてる。
そしたら離してくれるんだ。けれど何故だか寂しくなる。
ほっと息を落としてしまうときもある。なっちはどんな顔してるのかな。
見えないからわからない。それで寂しいのかな?なら正面は!?って・・
想像しかけてやめるの。恥ずかしくて顔がかっと熱くなる。
それじゃあ抱き合うみたいでしょう?そんなの・・おかしいよね。
なのにダメだと思うと同時に感じるのは悲しさだったりする。

なっちの顔をちらっと窺ってみても大抵無表情でむすっとしてる。
どうしてそんな不機嫌な顔なんだって思うとほのかまでむっとしちゃう。

「なに不満そうな顔してんだよ。」
「だって・・なっちぶすだもん。」
「ぶすだとお・・!?」
「ぶすーっとしてるってことだよ!」
「ならおまえもだ。何だこの面は。」
「イターイ!」

ほのかの頬がまた引っ張られた。痛いってば!もうっ・・
涙目で睨んだら、フンと鼻を鳴らされてもっと不愉快だ。
悲しいとまた感じる。こんな子どもみたいななっちでも
やっぱりスキだって思うから。そうだよ、ずるいんだ。
ほのかばかりがスキになってる気がするんだもん。違う?
確かめてみたい。けどなんでかコワくてできない。情けない。
ほのか自分のことをもっと強い子だと思ってた。なのに
スキだなぁって思うたび泣けてきて。弱いとこもあると知った。

”ねぇなっちは?なっちだってほのかのこと・・キライじゃないでしょ?”

前みたいにほのかもぎゅっとなっちのことを抱きしめて、
そう、『しめわざ』って言って体を押し付けてやりたい。
どうしてだろう、この頃はできなくなって、そしたら今度はなっち。
びっくりしたんだ、最初は。なっちが甘えてくれたみたいで嬉しかったけど。
でもずっと後ろから腕を廻されていると、ドキドキが始まった。
ふざけるみたいな触れ合いなのに、胸がキリキリと痛みをも感じる。
ずっとそうしていてほしいような、それでいて解放されたいようで。
顔が見えないのが不安なのかなってこの頃は思うよ。どうだろう?

「・・どこ見てるんだ?」
「・・えっ・・!?」

ぼうっとしていたらしい。はっと気付いたらなっちと目が合った。
少し心配そうな瞳がじっとほのかを見ていたんだ。また動悸がっ・・

「ぼうっとしてた。なっちが意地悪するから困るよ・・」
「へ〜・・困ってんのか。」
「なっちも困ればいいのに。」
「フン」
「べー」

ほのかもなっちもバカみたい。子供なんだよ、結局二人共。
素直だったほのかはどこへいったんだろう。なっちは元から素直じゃないけど。
なんだかお互いに何か大事なことを忘れてしまったみたいな・・気がする。
それはなんだったんだろう?思い出せたら変われるかな、もっと。
しばらく顔を背けあってたせいかな、寂しくて物足りなくなった。

「なっちぃ・・『しめわざ』ほのかもしていい?」
「・・予告するなんておまえらしくないな。」
「普通は不意打ちするもの?・・それもそうか。」
「予告なぁ・・・ほのか、キスするぞ、いいか。」
「・・・へっ・・?!」

「予告した方がいいのかと・・違うのか?」
「ちょっと待って!なんでいきなり!?なんでキス!?」
「物足りなさそうな顔してたから・・・嫌ならいい。」
「っ・・イヤじゃっ・・ないけど・・でもっ!」



体から力が抜けていく。なんなの、この人ったら!?
唐突でしょ!?突然すぎでしょう!?なんでなんでなんで!
恥ずかしくてヘンになりそう。体が熱い。抱きしめられてるから?
ねぇ、おかしいよ。こんなの・・まるで・・スキ同士・・みたい・・

力が抜けてフラフラになった。支えられていたからよろけなかった。
恥ずかしさは消えなくて、厚い胸に擦り付けて誤魔化してみた。
誤魔化せたかどうかは・・・わかんないけど。

「ねぇ・・なんで・・?」
「したかったから。」
「なんでしたかったの?」
「わからないのか?」
「・・・今わかった・・」

思い出した。なっちはね・・・ほのかのこと待ってたんだ。
いつだったかな・・・しめわざを仕掛けたとき怒られて・・

『無闇にこういうことをするな。男にはもっと警戒心を持て。』
『男って・・・ははっなっちじゃん!』
『おまえだって女だ。違うってのか。』
『なっち・・なにに怒ってるの・・?』
『・・ガキ。もうちょっと成長するまで待ってやる。』
『?・・・今じゃダメなの!?なんなのさあ!?』

そうだった。ちっともなっちの言いたいことがわからなかった。
こういうことはしちゃいけないんだ、ということは辛うじてわかる。
『しめわざ』を教わろうと思ったと言ったら律儀に教えてくれた。
無闇にしてはいけないのなら、なっちの方からはいいってことないよね。
それなのにこの頃なっちはほのかに『しめわざ』を仕掛けてくるの。
ずっとほのかに聞きたかったのかな?わかってほしかったのかなあ?!


「なっちぃ・・ほのかのことスキ?」
「ああ。おまえ遅いんだよ、気付けよ。」
「ええ〜っ・・言えばいいじゃないか。」
「覚えてないのか・・?」
「えっ?」
「いつだったかあんまりおまえがひっつくから・・言ったぞ。」
「な、なんて・・?」
「『そういうことをすると相手に気があると思われるんだぞ!』って。」
「・・あ〜・・言われたかも?」
「そしたらおまえは・・」
「『なっちのことスキだよっ!当たりだあっ!』って言った。」
「覚えてるじゃねえか!」
「イヤイヤ待って。そのあとは?覚えてないんだけど・・」
「なにい〜!?『ならそのうち倍にして返すから覚えてろよ!』っつったんだよ。」
「それで返してたの?!そう・・かあ!忘れてた。」
「・・・はぁ・・なんか噛み合わねぇと思ったぜ。」
「あはは・・そっか。でもいいじゃない、どっちもスキ同士。」
「おまえが気付いてなかったんなら、バカみたいじゃねぇかよ、オレ・・;」
「うん、なにすんのこの人!?って思ってた。ごめんねぇ!?」
「そうだったのか・・って、ごめんじゃねぇよ!!」

笑っちゃった。堪えきれなくって。悔しがってなっちがまた羽交い絞め。
やっぱり少し痛い方がいいよな?だなんてオソロシイことを言い出した。
モチロン抵抗したよ。イタイのなんかカンベンしてほしいよね!?

「なっちごめん!ダイスキ!ダイダイダイスキだよーう!!」
「!?許すかっこのっ・・」

大人気ない子どもみたいななっちはほのかを抱きしめてまたキスをした。
苦しくて胸も痛かったけどいいんだ。幸せも感じて眩暈まで。盛りだくさんだ。
目蓋を開けたら、なっちの瞳はとても綺麗に耀いて見えて・・うっとり。
ほのかの瞳も負けずに潤んでいたらしい。なっちが溜息を吐きながら言ったから。

「・・・なんだよ、その目・・射殺す気か?キラキラさせやがって・・!」

「悔しかったら『しめわざ』使っていいよ。」
「そうだな。正面からでいいか?いいな!?」
「それは予告じゃないよ、なっち。」
「るせぇ、確認だ。予告なんぞ一々してられるか。」
「なっち子供みたいだ、やっぱり。」
「よっぽど塞いでほしいんだな、その口。」
「ちがうよ。困ってほしいんだよ、なっちもほのかに負けないくらい。」

微笑んだなっちは綺麗すぎた。だからまた悔しくなる。きゅっと胸が締まる。
でもこの悔しさは・・甘くて切なくてステキ。初めて体験する”しめわざ”だ。
ほのかもお返しができるかな?ほのかもまた教わりたい。これをマスターしたら
なっちに試すよ。どんどん困っていいから。苦しくてもスキだって感じてね。
そしてなっちをぎゅっと抱きしめて離さないんだ。恥ずかしくてもやめないよ。
ほのかとなっちと二人で困ろうね。スキでスキで、だから苦しいんでしょう・・?







いちゃいちゃがエスカレートしそうですねv