「告白」\ 


「美羽さんっ!聞いてくださいっ!!」

兼一さんの勢いに少しばかり期待してしまったのですけれど
それはいつものように”私”のことではなかったのですわ・・
溜息が零れそうになったことを気付かれないように微笑むと

「ひっヒドイんですっ!夏君ってヤツはー!!」
「はいはい、うかがいますから落ち着いてくださいまし?」

「この間まで”好きだ”の一言も言えないでまごまごしていたと思ったら・・」
「どうなさったんですの?というか、ここで話してしまってよろしいのですか?」
「この僕の知らないうちに『婚約』なんてしてしまったんですようー!!」
「・・・えーと、その言い方ですと・・皆様、あの・・誤解なさらず。おほほほ・・・」

今回は新島さんに助けられてばかりです。学食で泣き叫んだ兼一さんを見つけて殴りつけると、
兼一さんの口を塞いでその場を逃げてくださいましたの。兼一さんたらもう〜;ですわ。

「あれじゃ『男』を盗られたみたいに聞こえるぞっ!?このどアホウ!!」
「盗られたのは僕の妹だよ!いつの間にか家族に紹介して、その上・・うううっ」
「えーい、落ち着け!そういう話を所構わず叫ぶなよ。」

新島さんに連れられて兼一さんと私は学校の空き教室で話の続きをすることにしました。

「・・・・はぁ、アホらしい。それでおまえは一体何が気に食わないんだ?」
「どうして親友の僕に黙って・・というか早すぎない!?ついこないだまで・・」
「別に家族公認になっただけだろうが。それとも・・ガキがデキちまったのか?」
「なっなんてこと言うんだあっ!!ほのかがほのかがそんなこと・・ゆるせるかああっ!!」
「兼一さん、気を確かに。事実をちゃんと把握なさって!」
「やれやれ・・どうでもいいことなんだが・・後任せていい?美羽ちゃん。」
「いえ、もう少し新島さんからも”あどばいす”をお願いしますわ。」
「しょうがねぇなあ・・美羽ちゃんがそう言うなら・・おいっ泣き止めよ、兼一っ!」

なんとか兼一さんからのお話を聞きだしてまとめたところ、それは昨夜のことでした。
兼一さんがお母様から夕飯を一緒にと言われ、その食後にご両親から報告をされたとのこと。
お父様もお母様も谷本さんを気に入られて、お話はとんとん拍子にまとまったらしいですわ。
正式には学業を終えられた後ということですが、兼一さんは展開についていけずに今に至るようで・・

「しっ信じられませんよ。夏くんは”なんか文句あるのか”って開き直ってるし!」
「なんだ、勢いでガキが出来ちまったというのならまだ面白かったのに・・・ツマラン。」
「にっ新島っ!キサマというヤツは・・・」
「兼一さんたらこんなとこでそんな殺気を〜;抑えてくださいまし。」
「もうこうなったら・・美羽さんっ駆け落ちしましょう!!」
「は・はあっ!?」
「錯乱するな!・・ようするに悔しいんだな、谷本に出し抜かれてよ。」
「そっそんな・・」
「長老に堂々とお許しをもらえるまでなんて待っていられない!」
「ちょっと待ってください。こんな・・」
「・・・眼を覚ませ、この大バカ野郎!!!」
「新島さん!?」

驚きました。武道などなされていない新島さんからそんなオーラを感じるとは・・
たいして威力のない拳は兼一さんを傷付けるには到りませんでした。しかし、
真剣な眼差しは兼一さんの気持ちに一瞬で届いたのです。友情とはやはり掛け替えのないもの。

「・・新島・・」
「おまえがいつまでもそんなんじゃあ・・腹の立つ男はおそらくたくさんいると思うぜ。」
「・・・・それは・・」

さっきまでの真剣な表情からころりと一変したいつもの顔で、新島さんは私に言われました。

「美羽ちゃん、この男をいつまでも待ってたってツマランでしょ?他にもいい男はたくさんいるよ〜!?」
「・・・ええ、でも兼一さんは・・世界に一人だけですもの。」
「美羽さん!」

そのとき、兼一さんは座っていた椅子をころがし、その場で土下座なさいました。

「ごめんなさい!僕は自分のことばかり・・申し訳ない!」
「そっそんな。やめてください、兼一さん。」
「まったくだ。そんなことしたって女は喜ばねーよ、ボケが。」
「その通りだ。けどっ・・さっきのはふざけて言ったんじゃないんです。」
「・・・駆け落ち、のことですか?」
「でもそんなことして何から逃げるって言うんだ・・本当に僕は大馬鹿者だ。」
「・・私は嬉しかったですわよ?」
「えっ!?」
「誰にも優しい兼一さんが私だけを優先してくださったんですもの。」
「美羽さん・・」
「でも・・やはりそんな勢いというか、投げやりなのは・・」
「ごっごめんなさいっ!!!」

「後はどうぞお二人で。んじゃあな、兼一。おまえも人のことよりまず自分だぞ。」
「新島さんっ!・・ありがとうございました。」
「俺はなんもしてませんよ〜!美羽ちゃんは気にしないでねー!?」

新島さんが教室を出て行かれても、兼一さんは床に頭を擦り付けたままで困りました。
何を言ってもそのままなのでどうしたものかと離れると、その姿勢のまま兼一さんは

「・・美羽さんを想う人はきっとたくさん、たくさん居ます。」そう話し始めました。

「貴女を護りたいと想うのは僕だけじゃない。だけど・・僕は譲れません、それだけは。」
「貴女が好きです。他の誰にも・・負けない。」

兼一さんは”負けない”の言葉だけは顔を上げ、眼を見つめて言ってくださいました。
ああ、やっと聞けた・・私の胸は一杯でした。昔は駄目な弟みたいに想っていたけれど・・
いつからでしょう・・・もしかして私もずっと・・・好きだったのかもしれません。

「私も好きです。兼一さん、あなたが。」

うまく微笑むことができませんでした。涙が込み上げていたからですわ。
兼一さんが替わりに笑ってくださいました。こんな男らしい所、普段は見られません。
私はまるでうんと小さな子供に帰ったように泣きました。兼一さんの腕に抱かれて・・・


後日、お友達の皆さんからからかわれている兼一さんを見かけました。
困っているというよりは嬉しそうで・・私の方が顔を熱くしてしまいましたわ。
私たちも二人で将来の約束をしました。どんな障害があっても負けません。二人ならば。
たゆまずに歩いて行って、家族や仲間たちみんなと、幸せに生きていきましょうね。

そういえば、谷本さんとほのかちゃんは相変わらず仲良くしておられるのを見ました。
以前より落ち着いた感じの谷本さんのほのかちゃんを見つめる眼差しは以前にも増して温かくて。
良かったですわ。他の皆さんもそれぞれに好きな方との関係は変わって行っているようです。
私たちが選んでいけば、辛い想いを味わう方もある。そのことは忘れないでいたいものです。
それでも怖がらずに選んでいかなければ。私たちは傷ついても立ち上がるチカラを持っている。
生きるには誰でも傷つかねばならないのですから。そして繰り返し、強くなってゆくのです。
身体も心も鍛えてまいりましょう。これからも生きている限り。前を見て真直ぐに・・・




「ちょっ・・ほのか。ウソだろう!?どーいうことっ!?夏くん?!!」

あら、また何か起こったようですわ。兼一さんがまた泣きついてきそうですわ。
兼一さんったら、ちっとも変わりませんわね。おいおい、ですわ。それでも・・
知っています。皆の幸せを我が事のように喜んでおられることも。ですから・・



これからもステキなところは変わらない兼一さんでいてくださいね。



「美羽さん〜!ちょっと聞いてくださいよー!!」
「はいはい、今度はどうなさったんですの・・?」









今回は兼美でしたv(^^)v
次回で最終回の予定ですー!