「告白」[ 


もしかして、世間で言うところの”彼氏彼女”ってことになったのかもしれない。
そのことに気付いたのは学校でいつもの友達とおしゃべりしていたとき唐突に。
なんとなく皆には言えなかった。「なんかイイことあった!?」と問われても。
幸い誰も深く突っ込んでこなかった。聞かれたらなんて答えればいいんだろ?
あれから特に変わったことなんかない。ちょっとぎこちなかった雰囲気が和らいだくらい。
ただ以前と違うのは離れていても、胸がどきどきとやかましくなったりするくらい。
ふと気付くと思い浮かべていたりして。でもなるだけ学校では言わないようにした。
正直者のこの私がそんな秘密みたいなものを持ってるのって実はとっても珍しい。
別に悪いことしてるわけでも、隠して得することとかがあるからじゃなくって。
あんまり嬉しいことがどーっと流れ出てしまうのがもったいないというか・・・
なっつんとのことは大事にそうっと宝箱に仕舞っておきたい、そんな風な気持ち。
そわそわする会える直前。会えた満足と幸福。別れる辛さも全部ひっくるめて。

「なんか最近うまくいってるって感じよね?ほのか。」
「えっ?!いやいやほのかいつでも絶好調だよっ!?」
「怪しい〜!元々顔に出るからあんたってばわかりやすいよ。」
「そお?!そうかなぁ・・?」
「まぁいいわ。困ったことでも起きたらなんでも言いなさいよ?」
「ウン!なんでほのかの周りってこう優しい子たちばっかりだろうね!?」
「なーに言ってんのよ。」

私って幸せ者だなってよく思うんだ。だって話に聞く家族のこととかでも
ウチはよく羨ましがられる、仲がいいねって。友達も皆いい子ばっかりだし。
ちょっと恵まれ過ぎなんじゃないかなって不安になるくらい、皆いい人達。

「色々あるんだけど・・まぁあんたは気付かないでいて欲しいわ。」
「どうして?」
「なんとなく。あんたが笑ってるとそれだけで救われるんだー・・・」

友達は家でも部活でも彼とでも、どの子も色んな悩み事を抱えている。
本当は何にもない人なんて、友達だけじゃなくってどこにもないんだよね。
私はとても幸せだけど、それはきっと周囲の皆のおかげなんだと思う。
だから、自分にできることならなんだってしようって思う。中々できてないけど。
なっつんだって初めのうちは”何かしてあげなきゃ”って思ってたのよね。
・・・・あれ?・・・私ってものすごく・・わがままになってる気がする。
よく考えてみると、この頃なっつんに甘えるばっかりで私ってば何もしてないんじゃ・・?
なんだかいきなり自分がとんでもなく贅沢者で、こんなんじゃいけないかと思った。


「おいっどうしたんだよ!?また掃除なんか始めて!うわっそこ危ない、やめっ・・」
「ああーっ!!・・ごめんよ、なっつん・・・久しぶりにやっちゃったよう〜!」
「最近はオレが掃除してるからオマエはいいって言ってるだろ!?」
「や、だって・・ほのか何か役に立ちたいっていうか、この頃何もしてなかったから。」
「オマエがうろちょろすると余計に散らかるって言ってるだろ。・・・ったく・・」
「・・・うう・・もしかしてほのかって結構役立たずなのかな・・?」
「へ?・・・オマエ熱でもあるのか?ちょっと来い。・・いや無いな?」
「失礼だな、相変わらず。ほのかもっとその・・なっつんに何かしてあげたいんだよ!」
「なんだそれ!?いっいい!オマエのことだ、ろくなことにならんに決まってる。」
「・・・・なっつんって・・・ほのかのことものすごく・・・馬鹿にしてるー!!」
「!?・・いきなりなんなんだ・・?」

なっつんが困った顔でお茶を淹れてくれた。そういえばいつもなっつんがしてくれる。
これがまた、美味しいのだ。初めのうちはそうでもなかったけど、上達したよ、なっつん。
そういえば、掃除もなんだかこの頃家はいつも片付いてるし・・埃っぽくなくなってる。
なっつんに勉強教えてもらって、遊んでもらって、ほのか・・あれれ?やっぱその・・

「なっつんてさ、結構器用になんでもできるよね?」
「はあ?!・・比較的そうかもな。大抵やってできないことはないぞ。」
「スゴイな、言い切ってるよ、この人・・でもさ、ほのかだってさ、できるよ!」
「ああ、できるとも。出来やその結果はともかくな。」
「何その投げやりな評価。なっつん、ほのかってもしかして迷惑掛けてたり・・する?」
「今更何を言ってる。別にオマエが好きなようにすりゃいい。もう慣れたしな。」
「なっつんはほのかに甘い!わかったぞ、それでどんどん甘えっこになったのだよ。」
「・・・おい・・?」
「ちょっと厳しくしてみて。ほのかがんばるからさ!」
「何を頑張るんだよ!?いいからオマエは妙なことを考えるな!」
「む〜・・・やだ、なんか・・そうだ、なっつん肩揉んだげようか?!」
「いいって。こら止せっ・・」

ほのかが寄っていくと、なっつんは腕を取り上げてしまって触れることもできなかった。
そのうえ、ぽいと腕を放り投げられた。・・ので、私はちょびっとむっかりとした。

「なんか・・今のってほのかが触ると嫌みたいだったよ?」
「別にそんなこと思ってない。」
「・・・・なっつん・・」
「もうこれ以上変なこと言うとオヤツ抜くぞ!」
「どうしてそういう・・子供扱いはやめてよ!」
「どうしろってんだ!?」
「もっと・・あれ?やっぱりほのかわがまま言ってる?どうしてなっつんだとダメなんだろ?」
「?・・ダメって・・一体何を思ったかしらんが、やめとけ。」
「ムズカシイ・・どうすればなっつんが喜んでくれるのかわかんない。」
「いつもどおりでいい!なにかしようとか思うな、心臓に悪い!」
「・・・ヒドイや・・なっつんてほのかのどこがいいの?」
「い!?・・・またそういう・・どこでもいいだろ、ほっとけ。」
「ほっとけないよ、自分のことだもん。ねぇねぇ、ほのかムチぷリでもないしさ?」
「そっそんな細かいこと一々言えるか。」
「細かいこと?」
「あ、いやその・・そういうこと聞くな!オレもわからん。」
「ええっ!?どこが好きなのかわかんないの!?」
「ああもう・・・やめてくれよ、こういうの。」
「なっつん、困ってる?」
「ああ!」
「そうか、ごめんね?だって、ちょっと疑問を感じちゃってさ。」
「ふーーーっ・・・そうそう、オマエのそういう単純なとこはいいぞ、かなり。」
「・・・あんまり嬉しくない・・それ。」

なっつんはほのかの髪をいつものように撫でてくれた。それはそれで嬉しい。けど・・
この頃なんだか物足りない。どうしてだろう?やっぱり私はわがままで贅沢になってるんだ。
どうすればいいのかわからない。なんだかもどかしくなってなっつんの腕にしがみついた。

「・・何かあったのか?」
「・・ウウン。なんか・・色々とごめん。」
「何もしてないだろうが。アホ・・」
「もっと・・優しくなりたいな・・」
「・・・」

呟いたのはどうこうして欲しかったわけじゃないんだけど、なっつんがふわっと抱き寄せてくれた。
そう、いつだって優しいのはなっつんだ。私はそのお返しがしたい、けどどうすればいいのかな?
そっと顔を上げてなっつんを見てみると、やっぱりそこには柔らかい微笑みがあって、嬉しかった。
思わず私も微笑んだ。けれどなっつんの顔から微笑みがすっと消えたのでちょっと驚いた。
じっと私を見てる目になんだか吸い込まれそうで・・・無意識に目蓋を下ろした。

胸にじわっと熱いものが滲んだ。触れたのはそこじゃないのに。もちろん触れた場所も熱かったけど。
初めてのときと全然違った。優しくてちゃんと息もできる。だけどあのときに負けずにどきどきしてる。

「・・あ・・・」

零れたのは唇が離れて、寂しくなったからだと思う。その声に顔が赤らんだ。甘ったるくて・・
今の声がなんだか恥ずかしいってことがなっつんにわかってしまったかもと思うと余計恥ずかしい。
顔が見れない、と思って俯けた顔をなっつんの手が持ち上げた。しっ心臓が・・止まるかもと思った。
”わかってしまったんだ!”と思った。”もっと”と心でねだったことが。恥ずかしくてたまらない。
重なっただけだったさっきとは違う熱さ。あのときみたいに乱暴じゃないけど、でも・・・
気が遠くなって体が浮いたみたいに思えた頃、ようやく離れた。頭がくらくらして変だ。
今度は吐息がやけに熱くて、どうしようもない私はただなっつんにしがみついていた手に力を込めた。

「・・嫌じゃない、よな?」
「・・ウン・・でも、は・ハズカシイ・・」
「真っ赤だもんな、みごとに。」
「なっつんは平気なの?」
「・・まさか。」

小さな声でぼそっと言ったかと思うと、なっつんはふいっと顔を背けた。
少し頬が赤かったかもしれない。だからきっとなっつんも恥ずかしいんだ。
なんだか身体がむずむずする。嬉しくって、恥ずかしいのに、幸せで・・

「・・・ほのか・・優しくなくてもわがままでも・・いいんだ?」

あんまり嬉しかったのでそう呟いた。おまけみたいにおでこに触れてまた髪を撫でてくれた。
ほのかもお返しに頬に触れてみた。ちょっと驚いた顔がとても可愛くて、笑った。

「なんだよ、その・・にやけたツラは!」
「へ?!・・なっつん口が悪いよ?ほのかにやけてなんかないもん。」
「そんならもっとするぞ、こら。」
「え?ちょっと・・なっつん!?」

軽くちょんと触れるだけのキスだったけれど、あちこちされて慌てふためいてしまった。
それでもしかして、と思い当たったのだけど、聞いてよかったんだか、どうなのかな?

「あの・・もしかしてなっつん、ほのかを困らせたい・・とか?」
「オレばっか困るのは不公平だろ?」
「そうか・・意地悪してるのかと思っちゃった。」
「してないと思うあたりがオマエだな。」
「どういう意味?」
「アホだなと・・」
「失礼だねっ!?」
「ぷっ・・」

なっつんがおかしそうに笑うので、馬鹿にされた気がしたのに、どうでもよくなった。
そうか、困らせてもいいんだ。お返しは覚悟しないといけないんだけどね。なるほどなるほど。
何かしてあげようと思うことは悪くないかもだけど、そんなに気負わなくていいんだ。
ちゃんと気持ちは伝わってる。なっつんのことが大好きだって。ならそれで充分かも。

「ねぇ、なっつん。ほのかしたいことしていいんでしょ?」
「あ?あぁ、それはいいが、何を思いついたんだ?」
「ウン、まだだけど、どんどん思いついたことするよ。」
「・・・・お手柔らかに頼む・・・」
「そんなにほのかのすることって怖い?」
「・・ああ、笑っちまうほどな。」

おかしがるなっつんをくすぐってみたりした。かなり嫌だったみたい。よーし!
なんだか何しても喜んでくれてる気がして、私って・・・甘やかされてる・・・
だけど、今度は悲しい気分じゃなかった。私もなっつんにお返しすればいいんだとわかった。
だって、なっつん楽しそうに笑ってくれるもの。困っても、お返ししてくれるしね。

二人の笑い顔が重なると、世界中が輝いているように思えた。