「告白」X 


困ったことになったと思った。誰にも相談しなかった。
なんと聞いて良いのか、それすらもわからなかったから仕様が無い。
まず疑ったのは病気。でも乗ってみた体重計に変わりは無かったし、
鏡に映る顔がやつれたわけでも、風邪を引いたときとも似ていない。
お母さんは気付いてくれたみたいで、ちょっとだけ聞いてみた。

「おかあさん、ほのか別にその・・おかしくないよね?」
「なぁに、この間から・・大丈夫よ、見たところ病気じゃないわ。」
「だよね!?うん。お母さんのご飯は相変わらず美味しいしね!」
「ふふ・・お母さんは病気の逆だと思うんだけど。」
「逆!?逆ってどういうこと?」
「何か好い事があったみたいって思ってるのよ。」
「いいこと・・・そうかな?!・・うん、そうかも。」
「悩むのもたまにはいいのよ。どうしてもわからなかったら聞きなさい。」
「・・・ありがとう、お母さん。お母さんってスゴイね。」
「そりゃあ、大先輩ですもの。」
「お母さんもよくわかんなくて困ったことあるんだ?」
「懐かしいわ・・もちろんよ、ほのか。」
「そうかあ。じゃあほのか大丈夫だね。」

お母さんは笑っていて、それで随分心が軽くなった。ありがたいなと思った。
おかしいなと思うことで悩んでいたのだけれど、それは一つだけじゃなかった。
胸が勝手にどきどきいう。それも何故だかなっつんといるときにだ。
目が合ったりしたら、顔が熱くなる。落ち着かなくてなんだかそわそわするし。
一緒にいないときでもぼんやりしてしまったりする。気付くとなっつんのこと考えてる。
思い出し笑いするようになったらしくて、友達に気持ち悪いとか変に思われてる。
おまけに、おかしいのは私だけじゃないんだ。なっつんもおかしくなった気がする。
前は頭をぐりぐりしたり、髪の毛をくしゃくしゃにしてくれたり結構触ってたのに、
ぱたっとしなくなった。実は私も触らなくなったので、助かったと思ったりもする。
会話が途切れると、二人して黙り込んでしまったり。なんの話してたか忘れたり。
アパチャイや他の誰かがいるときはわりと普通でいられるけど、二人だけだとダメ。
昨日なんかちょびっと手が触れたくらいで、二人して固まってしまったりした。
ぱっと手をどけたのも二人同時。「ごめん」と謝ったのも。お互いに目を反らしもした。
そんな二人が少し可笑しかったのだけれど、なんとなく笑えなかった。
まだある、二人とも溜息が増えた。それと一番困るなぁと思うことは・・・
つい、なっつんを見てしまうのだ。目が合うと困るくせにいつの間にか見ている。
もしかしてよく目が合うのは、なっつんも私を見るからなのかもしれないと思う。
二人ともどうしちゃったんだろう?・・・変だよね、うん、すごく変。
でもどうしていいかわからず、なんだか足元がぐらぐらするみたいな不安定な気分なのだ。
だけど一つだけ、聞いていいのかどうか迷いながらなっつんに聞いてしまったことがある。

「・・・あのね、この前の・・あれって・・・何したの?」
「あれって・・・まさか・・・」
「ほのか最初噛み付かれたのかと思ったけど、違ったよね?」
「・・・そのまさかか?!」
「どきどきして・・初め怖かった。思い出してもどきどきする。」
「・・・・嘘だろ、おい・・;」
「なんだか誰にも聞けなくて。なっつんに聞いてみようかと・・」
「き、聞かんでいい。っていうか、オマエいくつだよ・・?!」
「キス・・・みたいなものなの?やっぱり。」
「みたい、じゃねぇだろ・・・」
「そっそうなんだ!?ふわあ・・」
「いくらなんでも・・・ホントかよ・・?」
「なんだろうってずっと思ってた。そうかあ・・びっくりした。」
「オレもびっくりだぜ。」
「でもさ、いくら怒ったからってダメだよ、あんなことしちゃ。」
「そっそれは謝っただろ!?もうしないって言ったし・・」
「ほのか初めてだった。ねえ、普通は恋人同士とかがするんでしょ?」
「まっまぁ・・普通そう・・だろうが。」
「なっつんまた誰かとあんなことするの?」
「は?しねぇよ。」
「ホント!?よかった。」
「・・・よかった・・?」
「なっつんがあんなこと他の人としたら嫌だなって思ったから・・」
「・・・・なんで・・だ?」
「よく・・わかんないんだけど。」
「しないから。心配すんな。」
「うん。ありがと、なっつん。」

私がお礼を言うと、なっつんはふうと溜息を吐いたけれど、何も言わなかった。
ただ、困ったときみたいに少し頭を抱えていた。尋ねた私に気にするなと言った。
聞いちゃいけなかったのかな、と思ったけどもう聞いてしまった。聞けてよかった。
心配だったことが一つだけど減ったからだ。たくさんある中でも上位の心配だった。
いつか、もし私となっつんが恋人同士になったら、またあんなキス?するのかな・・
そんなことを想像すると、顔どころか身体中が熱くなって心臓が跳ね出してしまった。
ものすごく恥ずかしくて、想像したことを知られたらどうしようかときょろきょろした。
幸い最初にそんな想像してしまったときは、誰にも見られなかったからほっとした。
だから一人のときにこっそり想像した。自分がとても恥ずかしい子だと思えたけれど。
そういえば、なっつんも何かを聞きたいのか、言いたいのかわからないけど迷ってる。
なんとなくそう感じた。「なぁに?」と私から尋ねてみたけど、言ってはくれなかった。

「あっあのなっ・・その・・いややっぱいい。」

たまに勇気を出して言おうとするときもあるみたいだけど、大抵未遂に終わってしまう。
なんだかその後の落ち込んだ様子がかわいそうで、いつも慰めたくなった。
ちょっと前の私なら、すぐに背中をさすってあげたりしたんだけど・・・
そんなときは心の中で”ごめんね”と言った。だって触るとどきどきしてしまうの。
本当はどきどきしても、触りたいって思うときもある。でもできなくてがっかりする。
なっつんと私ってもしかしてすごく似てるのかもしれない。同じみたいなんだもの。
”おんなじ”その言葉は私をとても励ましてくれる。元気になれたりもする。
今度元気がたまったら、言ってみたいことが実は私にもあるのだ。
たまったかな、と思うと逃げていくから、なかなか実行には至らない。

”いつかほのかを恋人にしてくれる?”

心の中でその言葉を何度も再生した。CDなら壊れてしまってるくらい繰り返した。
なんでこんなことが聞けないんだろうと腹が立つほどだ。自分らしくないと嫌になる。
だけどきっといつか、言おう。そう心には決めた。後は勇気と元気ときっかけだと思う。

「なっつん?あのね・・・」
「?・・・なんだよ・・?」
「もうちょっと、待っててね?」
「何を?」
「えっと・・内緒だから言えないの。」
「・・・オレも頼んでいいか?」
「なっつんもなの?!」
「もう少し・・待ってろよ。」
「いいよ、ゆっくりで。」
「いや、オレはゆっくりだと困るんだよ。」
「え!?どうして?」
「その・・待ってるのって辛くないか?」
「だいじょうぶだよ、ほのかは。」
「そうか。・・オレはあんまり大丈夫じゃねぇな。」
「待ってるよ。なっつん焦らないで。」
「・・・・逆効果だ、オマエが言うと。」
「ん?・・・なんで?」
「なんでも。」

なっつんはほのかの顔を珍しく少し長い間見た。胸がやっぱりどきどき・・
私もそのときはすぐに反らさなかったから、二人は久しぶりに目と目を合わせた。
どうしてかな、まるで磁石みたいに身体がひとりでになっつんの方に引き寄せられた。
やっぱり長いこと見つめない方がよかったんじゃないかな、そう思うほど胸が痛い。
気付いたらなっつんの手が私の頬にそうっと触れてた。驚いたけどなんだか嬉しかった。

「ほのか」
「え・?」

なっつんが私の名前を呼ぶことはあんまりない。だからびっくりしてしまった。
身体が火を噴いたみたいになって慌てて私は身体を引いた。まるで逃げるみたいに。
それを見てなっつんも手を引っ込めてしまった。そのときなっつんは悲しそうに見えた。

「あっごめんなさいっ!なっつん、何か言いかけてたのに。ほのかびっくりして・・」
「謝るな、オマエは何も悪くないから。」
「だって・・・」
「焦るなってオマエがさっき言ったばっかりなのにな。悪い・・」
「ううん、違う。違うよ、なんだかよくわかんないけど、違うの。」
「何泣きそうになってんだ、こら。」
「ごめんなさい〜!」
「アホ、謝るなって。」

悲しそうな顔をさせたのが自分だと思うと、どうしようもなくて涙が出た。
なっつんが困っておろおろしてるのに、止まらなくてますます悲しかった。
とても優しく、頭を撫でてくれた。そうしてもらうのも久しぶりで嬉しくてまた泣けた。