「恋をしていた」 


唐突にキスがしたいと思う瞬間がある。
あまりにも唐突に。勿論実際にはしない。
理由はわからない。・・分析もしてない。
それはいきなりで、なんの前触れもなくて、
かくんと力の抜けるような、氷が音立てて崩れるみたいな感覚。
しかしその衝動は結構強力だから、気を紛らわすのに苦労する。
大抵は・・そうだな、頬を抓ってみたり・・(悲鳴があがる)
ピンとデコを突付いてやったり・・(かなり怒る)とまぁ色々だ。
まあ、そんなときはいつもソイツが目の前にいるんだから、
気を紛らわせるというか、埋め合わせをさせてるみたいなものか。

「いったぁ〜い!・・・なにすんの!?痛いじゃないか!」
「悪い。ちょっと前髪が跳ねてて、イラッとした。」
「それ謝ってないじゃん!八つ当たりしないでよ。」
「怒るのか?」
「いきなりそんなことされたら怒るでしょ!?なっつんだって。」
「オレはそんなことされねぇし、されてもよける。」
「じゃあお返しにつねっちゃう!じっとしてっ!」
「いい。要らねぇ。」
「ほのかだけ痛い思いするのヤダ!ガマンしなさい。」
「オレだけガマンするのも不公平だろ?だから耐えてろ。」
「なんでなっつんだけ!?ほのかだけの間違いだよ。」
「間違ってない。オマエにも責任ある。・・多分。」
「ちっともわかんないし!どういうこと!?」
「・・まぁ、そう・・怒るなよ、あれくらいで。」
「何か面白くないことがあったとか?」
「いいや。」
「んーと、じゃあ・・なんだろ?あっ!よっきゅう不満とか!」
「・・・」
「え?!当たったの?」
「正解でもないけどな。」
「よくわかんない・・」
「もういいだろ。やけに絡むじゃねーか、今日は・・」
「正直に言ってみればいいじゃないか!たまにはさ。」
「そうだな・・・」

オレは考えた。正直にぶっちゃけた場合、どんな反応がくるか。
一番は怒る。二番は慌てる。三番は驚く。・・どうでもよくないか?
オレが悩んでいる様子を傍で見ながら、ほのかは不思議そうにしていた。
眉間に皺を寄せたり、ぽかんとしてみたり、首を傾げてみたり・・
忙しいヤツ。そういやキスしたいなんて思うのはコイツだけだ。
ただキスがしたいだけ。他にはなんもない。つまりやましさは感じてない。
ほんの、挨拶みたいに。ちょっとした会話に似た、そんな感じだ。
けど、それはやっぱりあまりに唐突でイカンだろうと思うからしない。
あれだな、単にその・・かわいいなと思っただけのことかもしれない。
うーん・・そう納得がいくと妙に恥ずかしい。なんだろうな、これって。

「ねぇ・・なにか悩んでるの?・・教えてよ。」
「悩んでなんかない。スルーしてくれ。」
「だって・・なんとなく・・」
「そう、そんな感じだ。なんとなくそうしたかったんだよ。」
「ほのかをなんとなくつねってみたくなったの?・・変なの。」
「・・だな。」
「でもいいよ。なんとなく・・ならほのかもたまにあるよ!」
「へぇ?」
「たまにね、りゆうもなくアイスが食べたくなったりする。」
「・・・・はぁ・・・」
「なに?なんなのそのがっかりしたような顔・・それとかね、」
「食い物ばっかなんだろ、どうせ。もういいぞ。」
「じゃないよ、えっとなっつんに急に会いたくなったりする。」
「ふーん・・どんなときに?」
「え?どんな?・・色々・・それとかなっつんに抱きつきたくなる。」
「あー・・でもオマエそういうとき遠慮しないだろ?」
「・・・・なっつんは何か遠慮してんの?だからつねったりするの?」
「・・・オマエってときどき・・鋭いっつうか・・なんなんだろな。」
「やだねぇ、遠慮しいなんだから。つねるよりもっといいことしてよ!」
「いいことって?」
「ナデナデは好き。たまにしてくれるよね!?」
「うー・・まぁな。」
「それからそれから・・えっとそうだなぁ・・あっ!」
「?」

ほのかが急に妙な表情をして黙ってしまった。ちょっと顔・・赤いか?
珍しく言いよどんでいるらしく、もじもじと手を奇妙に動かしている。

「珍しいな、オマエが遠慮するなんて。」
「いやそりゃ・・ほのかだってするよ、たまには。」
「宿題か?またテスト悪くて怒られたんだろ?!」
「ちっがうよ!もうっ!えっとね・・なんか言いにくいなぁ;」
「言ってみろよ、怒らないから。」
「んん・・やっぱりいい!言わないっ!!」
「なんだよ、言えよ。」
「もういいってば!」
「言わないとオヤツ抜くぞ!」
「んなっ!?なっつんすぐそれだ。意地悪いよねっ!」
「フン。」
「そうだ、なっつんも教えてくれる?そしたらほのかも言うよ。」
「・・・オマエから言え。」
「・・・じゃあ勝負!負けた方から言うの!」
「・・・・」

オレたちは・・どうも意地っ張りなところが似ているかもしれない。
成り行きでオセロ勝負することになって、勝負は・・・負けた。あっさりと。
正直に言うかどうか、オレは悩んだ。したいかしたくないか、なら簡単なのに。

「へっへん!さすがはほのかなのだ!」
「オマエ・・普段まだ手抜いてんのか?」
「最近はなっつんだとかなり真剣だよ。」
「かなりってことはまだ余裕があるってことかよ・・」
「あ〜よかった。ヒヤッとしたんだ、実は。」
「あそこだな。くっそ〜・・・オレもあそこはしまったと思ったんだよな。」
「ふふーん。まだまだ甘いのだよ、ちみは。」
「こういう場合はマジで抓ってやりてぇな。」
「イヤ!痛いもん。」
「痛くなけりゃいいのか?」
「そりゃそうだよ。・・・で、なんなのさ、正解は!?」
「正解・・・っていうかオマエがたまに・・」
「ほのかが?」
「たまにカワイイなって思うだけのことだ。」
「・・・・えっと・・えーっと・・・」
「何むずかしい顔してんだ。変な顔。」
「ちょっと!真剣に悩んでるのに失礼な。」
「正直に言ったぞ。次はオマエだ。」
「えっ・・あ、そうか。やっぱ言わないとダメ?」
「当然。」
「・・だよね。こ、困ったじょ・・!」
「そんなに言いにくいことなのか?」
「う・・ううう・・なっつん、怒ったり笑ったり、バカにしないと約束する?」
「わかった。約束する。」
「よっよしっ!ほのかも女だ。度胸だ!」
「なんなんだよ、一体・・?」
「たまに・・その・・なっつんにだね・・ちゅうっとしたいなー?なんて・・思う。」
「・・・・そういうとき、どうするんだ?いつもは・・」
「え?えっとね、そだなあ?腕に引っ付いたり・・してるかな・・」
「あぁ・・そうなのか。」
「?・・なに!?その晴れ晴れしたような顔。」
「なんか思い出して、ちょっとな。」
「やらしいなぁ。思い出し笑い!?」
「それと、今度からは遠慮しないことにしたからヨロシクな。」
「え?何を?」
「いいよな、オマエだけなんだから。」
「そっそんなにカワイイと思ってくれてるの?なんかすごく照れるじょ・・」
「だよなぁ、オマエみたいなのがそんなカワイイとかって。オレって・・・」
「・・失礼な!?わかったよ、たまになんだね、たまに!」
「たまにじゃねぇんだ、それで・・わりと困ってんだよ。」
「?・・ほのかのことカワイイと思うと困るの?どして?」
「オマエがたまにしたいと思うようなこと、したくなるから。」
「ふーん・・ん?」
「だから今度から遠慮しないことにする。」
「・・・・よくわかんな・・」

「カワイイからいつもしたいと思ってたんだよ、キス。」


ほのかがびっくりしてデカイ目をぱちくりさせた。・・転げて落ちそうだ。
納得したようなしてないような表情。初めて聞いた吐息。やっぱカワイイな。
二回目にした後、ようやくわかったのか、大きな声で「えーーーー!?」と叫んだ。

「なんだよう!?なっつんもそうだったってこと!?ちゃんと言ってよ!!」

ぷんぷん怒り出した。予想の第一で大当たり。どれでもいいんだけどな、答えなんて。
どんな反応だって、結局は”カワイイ”から、考えても無駄だ。そうか、オレもわかった。
オレだけが、そう思っていたから遠慮すんだよ。さっさと確かめてればよかった。
オレもほのかも・・・相当ニブイのかもしれない。妙なとこが似てるなと思った。








相変わらずバ○ップルだ・・と思いましたv^^