「恋する男」 


そいつは疫病神のようだ。
いや、悪魔だと思うときもある。
大目に見て魔女・・見習いか?
とにかく普通の女じゃない。
どこが違うかと観察してみたが、
一々違うのでバカらしくてやめた。

困るのはまだ子供だってことだ。

かといって同じくらいの女ならいいかといえば
それは断じて違う。想像できん、そんなアイツを。
もしかするとこのまま歳を取らないのではないか
そう思うことすらある。憎らしい少女のままずっと。
まったくもってしようのない話だ。

顔が見たいとよくそう思う。理由などない。
いるとやかましい。煩い。むかついたりもする。
なのに、だ。一体全体どういうことだこれは。
顔を見ると高揚するのだ。どういうわけだか。

”また来た”

そう、大抵向こうからやってくるので。定番だ。
逢えたときのその妙な高揚感をうまく説明できない。
他にそういった経験がないのだ。珍しい現象だ。
あれこれと文句を言いたくなって準備していたことも
顔を見た途端に忘れる。どうでもいいと思える。

元気がないと落胆する。どうにかして笑わせたい。
滑稽なほど動揺する。何があったのかなどと心配までして。
オレは相当アイツのことで頭を悩ませている。

困ったものだ。妹ならば仕方ないが・・
妹でないことが更なる困惑を呼ぶ。

”ともだちだよ”

”違うだろ!?”

どうしてもそう返したくなる。友達ってそういうものか?
たまにそうかと納得させられそうにもなるが・・違うはず。
今までに友達なんていうもんがほぼいなかったせいもあって
刷り込まれそうになったりもするが、確信することがある。
友達では説明のつかないことを体験しているから。

たまにだ、ほんとうにしょっちゅうそんなことは思ってない。
けどごく稀に、まったくよくわからんがしかし!・・・・

可愛くて堪らんことがある。死ぬかと思う程胸が痛くなる。
抱きしめてそこらじゅうに・・徴を付けてしまっておきたい
・・・・・に近いことを想像してしまう。たったまにだが。
バカバカしい。あんなガキを。勿論そんなことはしない。

できるわけがない。それじゃあオレは変態だ。ロリ・・いや!
そんな趣味はない。絶対にない。女だが、まだ不完全なんだ。
だから待つ。待って・・・どうするのかって?・・それは
想像したくない。まずすぎる。だから思考停止する。
強制終了だ。リセットする。削除できないからリセットなのだ。
何故かというと無駄なのだ。試みたがどうしてもできなかった。

消せないのだ。笑顔も泣き顔も驚いた顔も照れた顔も・・・
気がつくと自分のものにしている。仕舞いこまれている。
それも大切に。誰にも触れさせないよう厳重に注意しながら。
どうしちまったんだろうなと・・・時々虚しくなる。

そんなときは憎らしくなる。いつもに増して。
理不尽に怒らせてしまう。態と嫌がることを言ってみたり
驚かせてみたり、怖がらせるような真似も少しだけなら。

なぁ・・教えてくれよ。オマエはなんでオマエなんだ?
声が聞きたい。触れていてほしい。オレのことを見ていて欲しい。
忘れないでいてほしい。大人になって離れ離れになっても。
ほんとうは離したくない。ずっとこの腕に掴んでいられたらと
苦しいほどそう思うときがある。何度も・・・数え切れない。

何もかもどうでもいいと思えるのは顔を見たときだけじゃない。
一緒にいてくすぐられるように心地良くて、堪らないときもだ。
どんな嘘を吐いてでも今を留めたいと思えることもある。

ほのか、オマエは何者だ?

どんなに体を鍛えても強くなっても強くなれた気がしない。
オマエの前では無力感に苛まれる。更に惨めな敗北感すらも。
力など投げ出して縋りたくなる。抱きしめて抱き返されたい。
オレはオマエに勝てない。勝たなければならないオレが
両手を挙げて、白旗を振って、許されることではないのに。

跪いてしまいたい。首を差し出して切り落としてしまえと。
何もいらないから、オマエに全部・・・やっちまいたくなるんだ。
どうすれば伝えられる?この辛さを。心地良く縛り付けられて
手も足もでないオレを・・・どうか・・・・欲しがってくれと
泣きそうになる。願っている。無事でいて笑っていてほしいと。
なのにオレのために泣いて、傷ついてとも願う。混沌、混沌の海。



「・・なっち?なっち。痛いよ!コラ、離せっ!」
「・・・いやだ。オマエの頬伸びて気持ちイイ。」
「人の顔をおもちゃにするでないよ!この子は!」
「いいじゃないかよ、これくらい。」
「わがままじゃのう。甘えてからに。」
「うっせぇ!オマエが悪いんだ。」
「人のせいにしないの!しょうがないねぇ・・!」
「しかしうまそうなくらい伸びるな。」
「痛いってば。食べたらダメだよ!?」
「ちっ・・味見は?」
「はい?齧るつもりかい?それはほのかのマネっこかね?!」
「オマエばっかり齧ったら不公平だろ。」
「ほのかはいいんだい。なっち怒ったことないじゃんか。」
「ならオマエも怒るな。齧らせろ。」
「むやああっこらああ!!!」
「うめぇ。ってかオマエ顔真っ赤。」
「あったりまえでしょお!?何考えてるのかね!けしからん。」
「けしからんかな・・・まぁそうだな。」
「開き直るなあっ!?」
「じゃあオレのことも齧れば?気の済むまで齧っていいぞ?」
「・・・齧んないよ。じゃあちょびっとだけ報復するじょ!」
「!?・・・それが報復?」
「ねぇ、嬉しい?」
「頬でも結構。」
「は?どこにちゅーして欲しいの?」
「・・・・」
「内緒なの?教えてよ。」
「いい。遠慮する。」
「どこでもいいから言いなさい!」
「あと・・2年くらい経ったら言う。」
「なんで!?今言えばいいじゃないか。」
「もったいないだろ!ちょっとずつがいいんだ。」
「・・何を言っておるのかよくわかんない・・?」
「わからなくていい。」
「変なの。じゃあ他にしてほしいことない?」
「・・・いつもの。」
「ヨシヨシ。素直だねぇ・・いい傾向だじょ。」

ほのかの膝を借りて目を閉じると、ほのかがとんとんとオレを叩く。
昔オレが妹を寝かせるときにしてやったみたいに。優しいリズムで。
たまに子守唄付だ。それも別に悪くない。眠れたもんじゃないが。

「イイ子だね、なっち。なんか大きなわんこみたいだ。」
「なら齧っても当然だろ・・」
「あ、そうか!なるほど。」

愛しいなんて・・そんな台詞おかしいから言わない。
おかしいし、何か・・それじゃオレがほのかに参ってるみたいだ。
かなり近いかもしれないが・・違うさ。まだオレのものじゃない。
いつか・・いつかするんだ。オレだけの・・・ほのかに。
なってくれるならほんとうに何もいらない。命すら。
まるで愛してるみたいだ・・そう思いながらまどろむ。
たまにその小さな手を握ってみる。困ってわめくのが楽しい。
もっと困るといい。オレに比べたら大したことじゃないさ。








おばかな夏さんを書いてみた。
けどかなり真実だと思ってマスv