恋する小鳥


 


お出かけの日、朝早く目が覚めた。お弁当も上手くできて幸せ。
待ち合わせまでまだ随分あったけれど、家を飛び出すと気持ち良い空気。
かけ出してたどり着くとアナタはまだ朝の修行中だったから待ってる。
ワタシのこと気付いてるけど、中断しないでいるのはいつものこと。
邪魔しないようにそっと見つめる。そうだ、タオルと飲み物用意して。
リズムが見える修行中の動きが好き。ひゅっと聞こえる呼吸音にわくわくする。
回転すると飛び散る汗も、柔らかくしなる髪も朝の光に照らされて綺麗。
きらきらするあなたの上で鳥が二羽楽しそうに鳴いているのを見つけた。
可愛らしい声で、今日のお出かけの相談みたい。ほのかたちもなんだよ?
鳥たちの歌をBGMに黙々とアナタの修行は続いていくの。なんて素敵。

早くあいたくて、早く一緒にお出かけしたくて駆けて来て、あえて嬉しい。
緑の葉っぱがきらめくのが嬉しい。鳥たちが仲良くしてるのもとっても。
何もかもが輝いてみえるの。もしかして、もしかしなくてもそうなんでしょ?
アナタがいるから。ワタシがここに居るのを許してくれてるから。
わくわくして待ちきれなくて、顔を見たらほっとして、歌いだしたくなる。
見つめていると、もうすぐ終わりだとわかって胸が騒ぎ始める。
だってワタシの方へやってくる。ワタシを見てくれる。声を聞かせて?
最後に息を静かに整えるのを待って、ワタシも息を深く吸い込み声を吐き出す。

「お疲れさまー!」

駆けていって、タオルで汗を拭いてあげる、うんと背伸びして。
じっとして屈んでくれる近くで見える顔にちょっとどきどきしながら。
終わったらすぐに飲み物を持ってこなくちゃ、忙しいけど幸せ。
おいしそうに飲み込まれるボトルまでがきらきらってしてるよ。
嬉しくてつい鼻歌。けど「シャワー浴びてくる」って、ちょっとがっかり。
それでも待たせてることを謝ってくれるから、いいよと言って笑ってあげる。
シャワーを浴びてる間、歌ってた。水音で聞こえなくていいかなと思って。
間違えても気にしない。好きな歌。元気になれる歌、アナタみたい。

「あがるからそこを退け、タオルを忘れた。」
「出したよー!どーぞあがって〜!?」
「そこへ置いとけ。見たいのか!?」
「・・わかったよ!」

ちぇっと言ってみた。呆れる顔が目に浮かぶ。見たいわけじゃないんだよ。
そろそろお着替えできたかな、と思う頃に勢いよくドアを開けるの。
ちっとも驚いてくれないけど、いいの。お着替え早いの知ってるもん。
一応がっかりしたみたいに言って、にっこり笑うとフンと鼻で笑われる。
すっかり見抜かれてる感じ、それがとても気持ち好いんだよ。

「早く支度して出かけようよ?」
「まだ時間あるだろ、オマエが来るのが早すぎるんだよ。」
「待ちきれなかったんだもん。」
「いっつもじゃねぇか・・」
「へへへ〜♪」
「あっそうだオマエ!勝手にウチのボディソープ入れ替えただろ!?」
「ウン、良い匂いでしょ?!」
「イタズラすんなって言っただろ。寝るときこの匂いがすると落ち着かねぇんだよ。」
「なんで?好い匂じゃん!おそろいだし。」
「いいわけあるか。・・たく・・」
「でも身体に付くと匂いって変わるよね、ちょっと嗅いでみて?」
「いらん。あっこら、嗅ぐな!犬かオマエは!?」
「やっぱりなっつんの匂いだ〜!?」
「やーめーろ!」
「ありゃ・・!」

ひょいと猫みたく持ち上げられて楽しいの。なんでそんなに軽そうなの!?
脚をぶらつかせたって全然平気。自然に顔がほころんでしまって閉まり無い。
ふぅなんてため息吐かれても、ちっとも怒ってないと確かめて安心。
優しいの、とっても。ワタシには特別甘い?そう思いたいけど、ダメ?!
そわそわしてウキウキして、もっと構って欲しくて。どんどん甘えたい。

そんなに長い間じゃないのに身支度の間まだあ?って何度も聞いて。
いつも不機嫌そうに部屋から出てくるけど、どうしてなのかな?
腕を引っ張って、外へ出ると鳥たちの鳴き声がお出迎えしてくれた。

「あっ、さっきの鳥たちだ!退屈だからずっと見てたんだ。」
「なんだ、気付いてたのか。」
「邪魔しないようにじっとしてたら、上で楽しそうに飛んでるんだもん。」
「やかましいほど鳴いてたしな、どっかの誰かみたいに。」
「見てたら早くほのかたちも出かけたくなってさぁ、困ったよ。」
「あれは雌を口説いてるんだろ?」
「そうなの!?だったら逆だね。ほのかがなっつんを誘いたかったから。」
「・・・そんなに慌てることないじゃねーか、まだ朝早いし。」
「一日なんてあっという間だよ!?急がなきゃ!」
「やれやれ、弁当持ったのか?」
「モチロンさあっ!!」
「じゃ行くか。」
「しゅっぱーっつ!!」

歩き出すとさっきまでの不機嫌な顔は少しずつ弛んでくるのがわかる。
鳥が愛の告白してるのなら、ほのかも負けて入られない。・・けど・・
一所懸命アナタに話しかけても、時々上の空だってわかってるよ。
だから腕にしがみついてみたり、離れたら急ぎ足で駆け寄ったり、タイヘン。
ちょっと眉を顰めたり、ふいっと顔を背けたりされてもめげたりしない。
だって、許してくれてるでしょう?ワタシが横でこうしていることを。
だから嬉しいよ、と伝わるように笑顔を向ける。どこか嬉しそうに見える。
そんな顔を見つけると幸せで、どうしようかと思うくらい胸がいっぱい。
恋を歌う鳥の歌。ワタシの好きなラブソング。アナタを想いながら歌う。
嬉しいときも、寂しいときも、アナタを想えば心が溢れるんだよって。
これはワタシのためにある歌じゃないの?皆そんな気持ち知ってるんだね。
鳥になれたらいいのに。そしたら毎朝アナタの窓辺へあいにいけるでしょう?
早くあいたいの、あいに来たの、起きてって。ワタシはここだよ!

歩きながら歌っていたら、横でくすりと笑い声が聞こえた。
振り向くと優しい瞳でワタシを見つめるからなんだかくらくら。


「オマエその歌好きだな、最近そればっか。」
「え、なっつん知ってた?ウン、お気に入りなんだよ。」
「だろうな、覚えちまった。」
「ホント!?なっつんも歌う?」
「歌うかよ!オマエの音程怪しいしな。」
「そう?時々間違うからかな?!」
「笑いそうになるぜ、さっきシャワー浴びてたときとか。」
「あのとき聞こえてたんだ。えへへ・・うるさかった?」
「もう慣れた。」
「あのね、この歌鳥の歌なんだよ?」
「鳥の?」
「そうなの、可愛いでしょ?」
「へぇ・・」
「なっつんにあいたい!とか思うと歌ってしまうんだー。」
「オマエそのうち鳥みたいに朝早く起こしに来そうだな。」
「うあっ!それいい!ナイスアイディアだね!?」
「冗談だ!やめてくれ、これ以上早く来られたら困る。」
「遠慮しないで!ほのかが起こしに来たげるよ、ねっ!?」
「ダメだって。うっかりしょうもないこと言っちまったな・・」
「ホントは来て欲しかったんでしょう、素直に言いたまえ!」
「ちょっやめてくれよ?!本気で言ってんだ、わかるか?」
「・・・どうしてぇ?ほのかが来たら嫌なのぉ・・?」
「とっとにかく今はダメだ。いつか・・頼むかもしれないからそれまで待て。」
「いつか?いつ頃?ほのかいつでもいいよ、頼んでね!?」
「・・あぁ、そのうちな。」
「わかった。まっかせといて!」

嬉しいことが待ってる。いつの朝だろう、明日、それとももっと先?
アナタが寝ている横で歌を歌おうかな、ちょっと音が外れてもいい?
それとももっと優しく耳元で囁く方がいいかな、「朝ですよ」って。
ほのかって名前の鳥が起こしにきましたよ、起きてくださいって鳴くの。
起きてくれるかな、起きなかったら大声で歌ってしまうかもだよ。
大好きだよって、ほのかですよ、ここにいますよ!捕まえてくださいって。
捕まえてくれたら最高なのに。ダメかな、贅沢かな、そしたらね・・

ずっと居るのに。アナタの傍にずうっとね、離れないでいつまでも。
嬉しくなってまた歌うかもしれない、ねぇ、好きだよ、あいたかったの。
時々見つめるアナタの優しい眼差しは、ワタシだけのものだと言って?


どうかここにいると 気付いてね
そばにいたいの いつまでもずっと 

飛び立てなくてもいい 歌えなくても
二人でいられれば それだけでしあわせ