Kitty Love 


 噛んだり、頭突きしたり、擦り寄ってキスしてみたり、
それらは愛情表現。許された証なのだ。一度許されたと
喜んでいたら、機嫌を損ねて威嚇モードに逆戻りもある。

 猫の話と思うのはよく知っているか飼育経験者だろう。
夏はというと経験者ではない。上記の内容に心当たりはあるが
彼の知っている対象は猫のようであって猫ではなかった。


 「こらっ、よじ登るな。」
 「爪は立ててないじょ。」
 「ちょっと待てといってるだろう、仕事なんだ。」
 「そんなの時間までに終わらせないのが悪いの!」
 「誰に邪魔されたと思ってんだよ。」
 「ぷんだ!ほのかじゃないもんね!」
 「あっやめっ・・待て!」
 
 夏の目の前から持ち去られたマウスを咥え、ほのかは一目散に
部屋のベッドへダイブすると、シーツの中に潜り込んでしまった。

 「それ返せよ、このバカ!」
 「イーーーーっ!」
 「ほのかっ!!」

 シーツから顔をのぞかせ、思い切り顔を顰めながら歯を剥く。
遊んでくれない飼い主が悪いとばかりの行動。ここで腹が立つか否か、
猫好きかどうか分かれる場面かもしれない。夏は猫好きではなかった。
しかしほのかはこういった行動を常に許されている立場である以上は
夏にも自覚はないものの猫好きの素養はあるのだ。本人が認めずとも。

 「わかった、お前はそこで好きなだけ拗ねてろ。」

 飼い主、もとい夏はマウスを放棄して踵を返そうとした。
それを見て驚き益々憤慨の表情になったほのかがシーツを跳ね除けた。

 「・・なっちのイジワル!ほのかつまんないっ!」

 夏が振り向いた時、ほのかは泣き出す一歩手前の顔をしていた。
ベッドから再び飛ぼうとするのを察した夏は向き直って正面で受けた。
夏に抱きとめられたほのかは首にしがみつくようにして耳元で泣いた。

 「うわあああん!キライ!ほのかのことほっとくなっちなんかキライだあ!」
 「待てといって待てない子供はキライだぞ。」
 「ぅ・・あああああん!!ほのかのことキライななっちキライ!いやだああ」
 「うるせえ!デカイ声で泣かんでも聞こえる!」

 小さな子供のようにほのかは泣くのをこらえてひくひくと喉を鳴らした。
がぶりと夏の肩に噛み付いた。泣き声を堪えるためである。これに関しては
教えたのが夏自身であるので眉を顰めたものの、ほのかを咎めることはしない。
代わりに頭をよしよしと撫でてやると、あま噛みするほのかは鼻をすすった。

 「イイ子だ。聞き分けの良いのはキライじゃない。」
 「あむ・・うむ・・」
 「口離せよ、ほのか」

 素直にぱかっと口を開いて肩からあげた顔に夏はコツンと額を合わせる。
怒った顔でそのまま覗き込むと、潤んだ瞳がくるくると万華鏡のようだった。
開いていた口がへの字を描いて、瞳が一層涙の追加により洪水を起こしかけた。
その瞳から大粒の涙がぼろっと零れ落ちた。蓋がパタンと下りたせいである。

 甘ったるい吐息と共に目蓋がゆるゆると開く。音立てた唇をほのかが舐めた。
目尻に水滴を残したまま、ほのかが笑う。すると夏も苦笑気味に応じた。

 「声を堪えるときに噛むのがクセになっちまったな。」
 「うん?だってなっちがそうしろって言ったんだよ。」
 「泣き声は俺も聞きたくないが・・あんときは別に堪えなくていいんだ。」
 「・・・ヤダ。そっちのが聞かれるの恥ずかしいの。」
 「俺は聞いてたいんだ。」
 「ダメえ!なっちのえっち!」
 「・・・構ってほしいんじゃなかったのか?」
 「え!まさか・・お出かけするんでしょ!?」
 「困らせたお仕置きを一回済ませてもらおうか。」
 「うええ・・今日帰ってからにしようよ!くたびれちゃうもん・・」
 「一回くらいどうってことねえ。」
 「ちみじゃないよ、ほのかがくたびれ・・ひゃうっ!!?」


 さっきほのかがぐしゃぐしゃにしたシーツを夏が片手で器用に剥がす。
暴れる子猫、もといほのかは夏の大柄な体に覆い潰されて悲鳴をあげた。
抵抗を封じるのも慣れたもので、夏はどことなく楽しそうになっているが、
対するほのかは必死の形相でお仕置きから逃がれようとシーツを手繰り寄せる。

 猫の交尾行動では、雄が雌が痛みから逃れようとする意思を殺ぐ目的で
覆いかぶさると喉元を噛んで抑える。ヒト噛みで雌は観念して大人しくなる。
それに倣ったわけでは決してないのだが、夏に同じく首筋を甘噛みされると
ほのかはキュウっと喉を鳴らして抵抗を止めた。猫と違うのはこの先もそうだ。
彼らの行動はわりとあっさりと終わるのだが・・人間はそうもいかないのである。
勿論時間を掛けないで終わらせることも可能だが、これは人間の性格に拠る。
夏はほのかよりしつこ・・丁寧なのが好みで一回でもそれなりに時間を費やす。

 借りてきた猫状態になったほのかは夏に甘えるように嘆願した。

 「お仕置きは優しいのがいいからね?」
 「それじゃお仕置きにならねえだろ?」
 「お願い〜!なっちぃ〜〜!!」
 「しょうがねえな・・ま、努力する。」
 「うんv」
 

 発情期の雌猫よりは幾分ソフトなほのかの喘ぎがやがて聞こえてくる。
お仕置きをしたいがために態とほのかを怒らせるように仕向けていることを
知らずほのかは十分に夏の望みを適え、結果的にはどちらもが満足するのだ。

 季節は春。猫も鳥も相手を探して飛び回る時期である。
とはいえ人間は季節に左右されない。夏とほのかも然り、なのである。








いちゃいちゃしたの書いてやったぜ!(後悔はして・・ないよ!?あわわ・;;)