「キスなんてカンタン!」 


お付き合いなんてもの、一体全体どうしたものかと思う。
ただ相手が面倒なお人だから、ほのかがしっかりしなくちゃ。
むずかしいことはわからないけど、大事なことはおっけーだ。
それにねぇ、オクテだからリードも必要だと考えるわけ。

「なっち〜v」
「・・なんだその企んだ顔は?」
「たくらむ?ちがうよ、ね、ちゅーしたげる!」
「いらん。」
「またまた・・したいくせに〜!」
「だったらどうなんだよ。」
「ほれほれ、善は急げだよ。屈んで屈んで!?」

素直じゃないお人なんでちゅうだけでも一苦労だよ、やれやれ。
待ってたらいつするかわからない。先手ひっしょう!ってヤツさ。

うんざり顔は素直じゃないからだと決め付けてうんと背伸びする。
背が高い男がいいなんて皆変わってるよ、ほのかは高くなくていい。
一所懸命背伸びしていたら抱き上げてくれた。おお、こりゃ楽チンだ。

「ん〜vv」
「・・犬飼ってる気分だ。」
「なんで!?」
「別に・・そのまんまだ。」

どうやらほっぺでは不満だったらしい。仕方ない、サービスしちゃお。
なっちのイマイチ嬉しそうじゃない顔をがっしり両手でホールドだ。
よいしょと自分に向けると、目を閉じて顔を近づけた。あと3cm位?
口を狙ったはずだったのに、感触が違う気がして目を開けた。すると
やっぱり外れたらしい。なっちはブスな顔になってほのかを見ていた。

「避けてない?」
「いいや」
「そお?じゃあやり直し。」
「もういいからおろすぞ?」
「ダメダメ!ちゅーする!」
「教えてくれなくて結構。」
「なっちがあんまり経験無いだろうと気遣ってるのに。」
「余計なお世話だ。お前には有るみたいじゃねぇかよ。」
「あるよ、マウストウマウスはなっちが初めてだけど。」

じとりとイヤな目線をもらった。ほのかのちゅうが気に入らないとでも?
なのでむっとしてなっちにかじりついてやった。肩を思いっきり、だ。
なのにちっとも痛がらない。なんだいなんだい、悔しいぞ!

「躾のなってない犬だな。」
「わんこじゃないよ、ほのかでしょ!」
「そうだな、俺もそっちに期待してるんだが。」

時々なっちはよくわかんないこと言う。首を傾げていると動き出す。
抱き上げられたまま移動した先はいつものソファだ。何するのかな、
と思っていたらぽすりと落とされた。なっちは座らずに覆いかぶさる。
影になって顔が見えない、と思ったら口を塞がれていた。

「・・ん・・・む・・・んん〜〜〜〜っ!!?!」

苦しくなってもがいたら突然離れた。必死で空気を求めて息をする。
見下ろすなっちは平然。ちょっとその差にむかっとする。なんでなのだ!

「お前が教えてくれるんだろ?俺が何も知らないから。」
「そ、そうさ。やっぱりなってないよ!苦しいじゃないか。」
「息の仕方くらい知ってるだろ?師匠。」
「む・・そうだね!(おや?どうすればいいの?!)」
「続き、お願いしますよ。」
「え、そ・・どんとこい!」

一瞬なっちがイヤ〜な笑顔を浮かべた気がした。けど目を閉じちゃった。
なんとか息を(意外に焦ると鼻呼吸ってむつかしいとわかった)してみる。
やっとなんとかなったと内心ほっとしていたら・・・大慌てでなっちを押す。

「ヤダ!ダメ!ベロは嫌いなのおっ!!」
「教えてくれないとうまくなれないぜ?」
「・・だって・・お腹がむずうってなるし・・」
「泣くしなぁ?」
「ぐ・・この弟子は憎たらしい子だよ!」

初めてそういうちゅーをしたのはついこの間なんだけど、ほのかは確かに
泣いて嫌がってなっちをぽこぽこ殴ったのだ。いきなり何するかと怒ったし。
怖かったんだ。それは言わずに耐えたけどちょっと震えたからばれたかな。

「だからほのかが教えてあげないとダメなんだから!」
「お前の教えてくれるのはぶつけてくるばっかだが?」
「いいの!カンタンなのから教えないと。そうでしょ!?」
「難しいのは何時頃教えてくれんだよ。」
「それはカンタンなのをマスターしてからに決まってるさ。」
「じゃ俺はまだまだなんですね、師匠・・」
「う〜む・・・」

どっちがわんこなんだ!なっちは寂しそうな顔してほのかを見詰めるんだ。
そんなおねだりされたらさ、可哀想になっちゃうよ。飼い主じゃないけど。
ほのかが葛藤しているとおでこにふわりとちゅーされた。はっとする。

「今の。上手だったよ、なっちぃ・・」
「合格か?」
「ウン、花丸をあげる!」
「そいつは・・出世した気分だな。」

嬉しくって笑う。なっちも釣られたように笑う。ああ幸せだなって感じる。
お付き合いなんてよくわからないけど、多分、きっとそう。こんなのがいい。
二人共が幸せになる。そうじゃないのかな?正解がある訳じゃないだろうけど。
込み上げる幸せにほっこりと包まれているとなっちが素適な提案をした。

「師匠にお礼したいんだが、いいですか?」
「お礼!?どんなの?」

なっちはほのかの横に座ると、両手を広げた。おお!?これはっ・・
実はほのかは抱っこしてもらうのがダイスキ。してくれるんだとわかった。
思い切り飛び込んで落ち着く場所を探す。それまでなっちは何もしない。
具合のいい位置に収まるとなっちがふわんと抱き締めてくれるのだ。至福!

「憎たらしい弟子はやめてとってもいい弟子にしたげる!」
「光栄です師匠。俺もたまにはご褒美がもらえたら更に嬉しいんですけどね」
「・・・そんなにほのかを泣かせたいのかね?」
「ものすごく気持ち良さそうな顔してたぜ、お前。」
「ウソ!?しないよ、お腹はむずむずするし力抜けるし・・声は上ずるしぃ」
「俺に縋ってくるからもっとかと思うぞ、普通・・」
「そうじゃなくて・・なんていうのかな・・そのぅ」
「怖いんなら遠慮するしかねぇけど。」
「・・(ばれてたのかやっぱし)・・じゃぁ・・ちょっとだけなら、いいよ」

ほのかは寛大な心でもって弟子のワガママを受け入れてあげることにした。
現金なものだよ、なっちは嬉しそうに微笑んだ。どきっとするくらいイイ顔で。
後ろから抱きかかえてるのにどうするのかと思ったら顎を持ち上げられて
あれ!?さかさま!!って思ったけど突っ込みを入れるヒマがなかった。
あっというまに繋がった口と口。ぐっと身構えてしまうのは慣れないからだよね。
始めのうちは力を入れてガマンしていたけど、ふっと離れたとき角度が変わって

「怖くなったら止めろ。」

と小さく囁かれた。頷くといつの間にか向き合ってた。重なるのは吐息もだった。
熱いなぁ・・とぼんやり思う。息が熱かった。もうわからない、まぜこぜになる。
色んなものが混ざって何をしているのかも忘れてしまう。ここがどこだかも・・
気がつくとぼんやりしたほのかを見ているなっちと目が合った。久しぶりな感じ。

「今日は泣かなかったな。止めないからそれはそれで困ったぞ。」
「なんか・・気持ちよくなっちゃって・・怖くなかった。」
「さすがは師匠だな。」

お世辞じゃなく本当に参った顔をしたなっちがこつりとおでこをほのかにくっつける。
だからその頭ごと抱えてよしよしと撫でた。大きなわんこを抱えてるみたいだ。
可愛いなっち。ダイスキななっち。わんこじゃないよ、ごめんね。なっちが好きだ。
だから小さい声で「すきだよ」とさっきのなっちみたいに囁いてみた。
幸せそうに笑ったくせに、伸ばされた優しい手が頬を抓んだからびっくりした。

「痛いっ!なんでよ!?」
「悔しいんだよ」
「悔しいの?」
「俺だってなぁ・・すきだぞ?」
「なんて素直なんだ!?花丸をもう一つ追加してあげるね!」

抱き合って笑った。ちゅーだけでもこんなに舞い上がれるって単純なのかな?
でも悪いことじゃないよね。抱き締めあってほのか好みのちゅーもした。

「うん、上手になった。なっちエライ!」
「誉めすぎたら調子に乗るかもしれないぞ?」

ご機嫌ななっちはほんの少し痛いキスをほのかの鎖骨にしたので怒っておいた。
だって痕が付いたんだもん、「めっ!」って。叱るときはきちんとそうしないと。
ここでしゅんとなったらわんこみたいで可愛いのに、なっちはフフンと鼻を鳴らす。
”ちょっと憎たらしい弟子”というのが正しいかも、と新たに思い直したりした。







いっちゃいちゃさせてみました〜vvv(げふっ)