Kiss me darling?  


顔を覗き込んだりするから、そうなのかなって思って。
聞かない方が親切だったのかもしれないとすぐ後に気付いた。
だけどワタシってついつい言いたいこと言ってしまうから。
それはそれで仕方ないよね?と自分を慰めたりなんかした。
近くで見るなっつんは不思議だ。違うひとのようにも見える。
普段あまり大きいと思わないけど、自分が陰になってしまうほどだったり、
意識すればとても差を感じてしまう。ワタシは小柄なので余計にだ。
睫毛が揺れると瞳も揺れて、なんだか眩暈を起こしそうになる。
目を閉じたいような気もするけど、いつもどうしてだかできない。
そのときは口にしたことも気付かないほどぼうっとしてたみたいだった。

「・・・キスするの?」

言葉に驚いたのは二人同時で、近づいた顔はぱっと遠ざかった。
残念なような、ほっとしたような、変な気持ちで胸がどきどきする。

「・・勘違いすんじゃねえ。」

なっつんが答えた。目を反らしたりしたから信用できないんだけど。
横顔が拗ねているようにも見える。ちょっと可愛いな、なんて。

「遠慮しなくていいよ?」
「違うって言ってんだろ!?」

頬を染めて声を荒げた。どうしてかな、それって当りなんじゃないの?
ワタシの顔にそんなことが描いてあったのか、なっつんは舌打ちした。

「ったく・・色気付いてんじゃねぇってんだ。」
「ほのかが?!失礼だねぇ、お年頃なのだよ?」
「そんなことしたこともねぇくせして。」
「なっつんもないでしょうが。」
「なんでそんなことがわかるんだよ?!」
「う〜ん・・慣れてはいないよね、違う?」
「生意気な・・どうしてだか説明してみろ。」
「いつも忙しいんでしょ、修行でさ。」
「・・ま、まぁな・・」
「女の子にあまり興味なさげだし。」
「・・そう・・か?」
「ウン、街でも誰も気に留めないし、女の子の載ってる雑誌だって見たことない。」
「そ、それは・・・」
「それにキスとかしたいんだったらいつでもできるのに。」
「いつでもってなんだよ!?」
「学校でモテモテなんでしょ?お兄ちゃんも新白の人も言ってた。」
「いつそんな話してんだ?余計なこと勘繰るなよ。」
「それとこれが一番の理由だけどさ・・」
「・・なんだよ?」
「ほのかといてくれるじゃない、いつも。」
「!?」
「だからだよ。色気のないガキだって言うならなおさらじゃないか。」

なっつんは言葉に詰まったのか、黙り込んでしまった。言い過ぎた?
でもほのかは正直だから、言ってしまう。良いか悪いかは考えてない。
意地悪するつもりでもなんでもなかった。それはわかってくれると思う。
困ったようになっつんの視線が泳いだ。答えを探してるみたいだった。

「・・意外に考えてんだな。」
「ん?そうかい?!見直した?」
「興味・・ねぇもんな、実際。」
「ふぅん・・それはちょっと問題なのかな?」
「そうかもな。けど別に不自由でもなんでもないし。」
「そうか。ならいいじゃない。」
「・・・オマエが・・いいんなら・・」

なんとなくそう言って、なっつんは突然言葉を止めた。
言うつもりじゃなかった、というか思いがけずに口に出たってことかな。

「ほのかなら、どっちでもいいよ。」

そう言ってみた。するとなっつんは少し驚いたように目を見張った。
なっつんが言いたかったのは、そういうことじゃないんだろうか?
ワタシもよくわからないまま、確かめるように付け加えてみた。

「・・・なっつんとなら、キスしてみたいよ?」

ぽかんとしたまま、何も答えてくれないから、ちょっと恥ずかしくなった。
だから、声がしぼんでしまったけれど、「なっつんがしたくないなら、いいけど。」
とだけ、言い訳みたいな言葉を零した。なんだか格好悪いかも!?
急に顔や体全体が熱くなっちゃって、ごまかそうとして俯いた。

「じゃあ・・なんでいっつも嫌そうにすんだよ?」
「へっ!?」

なっつんが呟いたことが意外だったのでつい変な声を出して顔を上げた。
二人して顔を見合わせると、難しい顔のなっつんと間抜けなほのかの図。

「・・嫌そうに・・してたって、いつ?」
「気付いたのってさっきが初めてだったのか?」

ワタシもなっつんの困惑顔が映ったみたいに眉間に皺が寄ったかもしれない。
つまりどういうことかと考えてみる。するとさっきの場面が思い浮かんだ。

「あれって、やっぱりキスしたかったの?」

尋ねるなり、なっつんは顔をさあっと赤らめた。すごくわかりやすく。
そしてかなり苦しい言い訳めいたことを言い出したので呆れた。

「ちっ違う!そうじゃなくて・・その・・いやさっきは・・顔になんか付いてて!」
「ならそう言えばいいじゃん。顔を近づける必要ないでしょ!?」
「う・うっせぇ!ついでに鼻にでも噛み付いてやろうかと・・!」
「・・意味わかんないよ。」
「そのちゃんと機能してんのだかどうだかわかんないような鼻が忌々しいっていうか・・」
「文句なの?それとも悪口?なっつんてば感じ悪いっ!」
「と、とにかくオマエの何もかもが気にいらねーから、つい・・」
「気になるから、じゃないの?!」
「一々わかった風に言うなよ!オレがいつオマエを気にしたって!?」
「んもう・・なんだい、結局どっちなのさ!?どっちでもいいって言ったけどねぇ・・」

「ちゃんと聞いてよ!?なっつんがほのかのこと好きじゃないならやっぱり嫌だから!」

ワタシは大声で、やけになって叫んだ。告白・・したことになるのかな、これって。
なっつんはまた固まったみたいで、さすがのワタシもちょっとイライラしちゃった。

「ただキスがしたいだけなら・・ほかを当たってよね。」

言いたいことはやっぱり言っておくべきだ。なんだかすっとして胸の痞えが取れたみたい。

「・・好き放題言いやがって・・」

確かに告白というより、なんだか挑戦みたいな感じだった。ワタシは仁王立ちだったし。
ちょびっと偉そうだったかもしれない。両手を脇に置いて、ふんぞり返って言ったから。

「オマエもよく聞いとけよ?・・ほかには興味ないとさっき言っただろ。」

ワタシに対抗するみたいになっつんも胸を張った。なんだか二人して喧嘩するみたい。

「オマエじゃなきゃ・・そんなこと、思いもしなかったって・・んだよ。」

かなり怖い顔になってたなっつんの眉がそのとき元に戻って優しい眼になっていった。
力が抜けたみたいだった。それでワタシも思わず肩に入っていたらしい力を抜いてみた。

「ウン・・だったら、いいよ。」
「えらそうに言いやがって・・」
「そんなこと言うけど、ほのかだって勇気要るんだからね!」
「・・そりゃ・・そうか。オマエって無敵な感じあるけどな?」
「あのねぇ、女の子なんだよほのかは。わかってる!?」
「・・わあってるよ。だから・・困るんじゃねーか!!」

とりあえずお互いに思うところはある、という意見は一致したみたいだった。
喧嘩したわけじゃないけど、なんだか疲れたから仲直りみたいに手を伸ばした。

「なんだよ、この手。」
「仲直りの握手。喧嘩じゃないけど。えへへ・・」

なっつんは「ふーん」と言いながら手を握った。大きな手はあったかかった。
びっくりしたのはそのまんま引っ張られて、頬にキスされたこと。あれれ・・?

「そういうのって、だまし討ちみたいじゃない?」
「こんくらいで文句言うな。」
「文句じゃなくて・・まぁいいか。」

「それとももっと違うのを期待したとか?」

なっつんがにやっと笑った。その顔があんまりしてやった顔なのでむかっとした。
だから言ってやったの、なんだか悔しいじゃんか。言いたいことは言わないとね!?

「べーっだ!できるんならとっととすればいいのに。なっつんのオクテ!!」

もちろん怒ったみたい。だけど仕方ないよねそんなの。乙女をからかうなんて許せない。
その後、本気でキスされそうになったけどね、イヤだって暴れてやったのさ、エヘン!
思うようにならないのなんて、当たり前だよ。だから一緒が楽しいの。だから・・・

「『させろ』じゃダメ!『させてください』って言え〜!!」
「・・んだとぅ・・いいって言ったじゃねーかよ!?」
「何その態度!ほのか怒っちゃったよ、もうさせてあげないっ!」
「くっそー!だったら誘ったりすんな、このバカ!阿呆!」
「うっく・・ほのかのこと大好きなくせにィ〜・・!!」
「だったら悪いかよ!?」
「う!?う・ウウン・・いい・・けど・・」

どうしよう、乙女のピンチ!素直になったらなったで、困っちゃうのだね!?
真っ赤な顔して二人して黙り込んでしまって、えっとその・・どうしよ・・

『キスして』って言えるかな、言っていいのかな、ねぇ、教えてよ!?










・・好きにすればいいんだけどね(笑)