Kiss × Kiss


「ねぇなっちー、ちゅーして?」

少々ふざけた感じで言った。何度目か忘れた。
してくれたとしてもほっぺとかおでこと決まってる。
だから気軽にいつもの調子でねだったんだよ。

ほんとに何気なく、あれ?って感じ。
離れた後少々固まっていたらしくて声を掛けられた。

「ほ・・ほえ?」

はっと気付くと眉間にたっぷり皺の寄った顔があった。

「おっと〜・・ほのかトリップしてた!」
「んな大げさなことしてない。・・しろというから・・」
「大げさ!?口は初めてじゃないか!」
「違う、初めてじゃねぇ。前にカミングアウトしただろ。」
「あ・でもそれはほのか・・覚えてないから除外なのだよ」
「あ、そ」
「ねぇ、きいていいかい。なんでそんながっかりしてんの?」
「がっかりなんかしてねぇ。おまえこそあっさりしてるな。」
「いやいやいやいや、おかしい。甘い初キッスのはずが!?」
「んだよ、不合格だと言いたいのか?!」
「怒るのもどうなんだい!?ほのか真っ当なこと言ってると思うじょ!」

なんだか妙な雲行きに内心焦り始めると、なっちは横を向いてしまい
どっかと座りなおして読書の続きに戻ってしまった。なんたることか。
構って欲しくてした行動が思わぬ結果と変な成り行きに。どうしてだ!

「ちょ・・もしもし?なっち。ほのかのこと放置なの!?」
「何がしたいんだよ。約束より早く押しかけてきたかと思えば。」
「早く会いたかったんだよ、決まってるじゃないか!」
「・・・そりゃどーも。」
「なっちはちゅーなんてたいしたことない・・ってゆうのっ?!」
「たいしたことないとは思ってない。ごちそうさん。」
「チガウでしょ!?それも違う、間違ってるよ、お兄さん!」
「あーもー・・ごちゃごちゃうるせぇな。ならどうすりゃいいんだよ!」
「ぐぬぬぬ・・・・」

うまく言えなくて、むかむかしたりして、ほのかは考えず行動に出た。
なっちにずかずかっと近付いて顔を鷲掴み、ぶちゅーっと一発してやったの。
フフン、どんなもんだい!と顔を離すと、びっくり顔のなっちに胸がすく。
かなりのドヤ顔になっていたらしい。なっちはぷすっと間抜けな音と共に

「笑うかい!?そこで。ちみってほのかのことバカにしてる?」
「・・・っ・・・ちょっと待て。・・・ぷぷっ・・・・!!!」

そんなに面白いことをしたつもりもないし、なんだろうこの仕打ち。
せっかくちょっとすっとしていた気持ちがしんなりと項垂れるのを感じる。
このヒトはわりと変なんだ。スイッチを入れたはいいけどズレたらしいし。

「乙女心が深く傷ついたけど、どうしてくれんのさ?!」
「ふ・・・くくく・・・・すい・・ませ・・」
「怒るのを通り越して呆れたじょ。ほのかなっちにちゅーしてと言ったのに」
「・・・・あーもー・・・出かけるんだろ!?なのにそんな要求通せるか!」
「はあ!?」

かなりの早業だった。問い質す間もなかった。唇を覆われて。
それも今度は・・・ナニコレ!?状態だ。抱き締められて更に苦しい。
抵抗は試みたけど無駄と知って力を抜くと、なっちに調子付かれて・・

「・・っ!もおダメ!止めて止めてっ!」
「・・もうアウトかよ?だらしねぇな。」
「なんですと!?ちみね・・ほのかのこと」
「なんだと思ってるってか?俺んだと思ってる。」
「んなっ・・むちゃくちゃ上からじゃないか!?」
「そうじゃねぇ。わかってるだろうが、おまえは」
「そりゃあまぁ・・なっちのことなんかお見通しだけどもね」
「フン・・じゃあいい。」
「えらそうに・・ほのかのこと好き過ぎてヤバイよ、ちみ。」
「いいんだ。まだまだこれからだぜ、覚悟しとけよ。」
「ばかにするでないよ。覚悟ならちゃあんとあるさ!」
「・・・・なぁ、出かけるのか?」
「じゃないとほのか危ないもん!」
「ちっ・・よーくわかってくれたようでほっとしたぜ。」
「ほんとにちみって素直じゃないなぁ!たまにはほのかに素直にオネダリは?」
「・・・・出かけるよりいちゃいちゃしたい・・・」
「よく出来ました!けどなぁ・・ちゅーだけでも結構ほのか厳しいとわかった」
「厳しい?」
「実はさっきから脚フラフラでさ・・出かけるどころじゃない状態ってこと。」
「なる・・この手があったのか。盲点っつうか、使えるな。」
「うあっ・・なんて悪魔のような悪い顔!ブラックなっち!」
「もっとフラフラにして欲しくない?ほのかさん」
「却下。ちみね、調子に乗るのも大概にしときなさいよ!乙女心のわからんヤツめ」
「そんなもん知るかよ。」
「ちゅーだってもっとこう・・思い出に残したい気持ちがわかんないかなぁ!?」
「・・・別にふざけてもないし、真面目にやったぞ」
「『やる』ってのがそもそもチガウんだよ〜〜〜っ!」
「はぁ・・そうですか」
「仕方無い。ここは一つずつ教えてあげるよ。いいかい、まずはちゅーだけどね」
「・・・・面倒くさ・・・」
「聞えたよっ!イエローカードだじょ!増えたらちゅー禁止だからねっ!?」
「わかったよ・・おまえのがよっぽど上からじゃねぇか・・?」
「ったく・・困ったヒトだよ。えっと・・そうそうちゅーというものはだねぇ・・」

予定とは違ったけれど、ほのかはなっちを叱ってやったりして結構楽しかった。
一応しおらしく聴いてたし、ちゃんとちゅーもやり直ししてもらったんだ。
いきなり舌入れたりするのもNGだぞって怒っておいた。やれやれ手間のかかる。
膝の上に抱っこしてもらってお説教も飽きたからお利口ななっちを撫で撫でした。

「なぁ、ご褒美これだけか?」
「え、何が欲しいの?言ってごらん」
「触るのはどこまでいいんだ?」
「さっ・・ちなみにドコが希望なのだね・・?」
「こことか、ここ・・」
「!!!!????っ・・いいなんて言ってないでしょおおおっ!?」
「・・・嬉しそうな顔してるけどな・・・てっ!」

いきなりなんてことするんだろうね!男の子ってどうしようもないねっ!?
ぐーで叩いちゃった。けど痛いなんて声だけだよ。平気そうだったもん。
ほのかは顔どころか体中赤いと思う。やらしいなぁもう・・・!!

「そんなとこいきなり触っちゃダメ。わかった!?」
「ふ〜ん・・わかった。」
「だっ誰かと触り比べたりしたらもっとダメだからね!?」
「ぷっ・・そんなこと心配する必要ないから安心しろ。」
「ほんとに!?ほのかものすごくヤキモチやきだからね!」
「たまに可愛いこと言うなぁ、おまえ・・」
「たまにってどういうことさっ!?」

口惜しくって腕を振り回したけど今度は一つもヒットしなかった。
寧ろ楽しそうにひょいひょい除けられて口惜しさ倍増。なんなのさ〜!?

「・・はぁふぅ・・・なっちぃ、ちゅーして。」
「どんぐらいの?」
「怒ったり叫んだりで疲れたから慰めるのだ。」
「慰める・・ってどのくらいかわからん。」
「ほのかがにっこりするくらいだよ」
「難しいな・・」

なっちにしてはとっても優しいキスだったので思わず微笑んだ。
つまり合格だ。嬉しいからほっぺにお返しした。ほのかってさぁ・・・

「ほのかもなっちが好き過ぎて困るよ」
「ならずっと困ってろ」
「困ったさんだねぇ!」
「ま、そうだなぁ・・」

ぼやくような呟きだったわりになっちも嬉しそうだった。可愛いヤツめ。
ほのかとなっちってもしかすると端から見るとヤバイカップルかもしれない。
好きで好きで馬鹿みたいなんだもんね、お互いに。幸せで申し訳ないくらいさ。

「ちゅーって思ってたより簡単なんだね?!」
「難しいとか簡単とか問題じゃなくないか?」
「それもそうか。なっちってたまに賢いね。」
「ハイハイ、たまにね」
「いでででででっ・・大人気ないぞっ!ちみっ」

なっちに摘み上げられたほっぺを摩る。本気で痛かったんだ。

「で、甘い思い出とやらになったのか?」
「ん?・・・そうだね、まぁまぁかな?」
「まぁまぁなのかよ」
「なっちとほのかだからしょうがないさ。」
「・・・」

なっちは何か言いかけていたみたいだったけど黙ってしまった。
不思議だったけど放っておいた。なっちは飲み込んだ言葉の代わりに
ほっぺを摩ってくれた。さっきぎゅーっと引っ張ったところだ。

「優しいじゃん」
「おまえにだけはな」
「優しくしてあげようか?」
「俺だけにならな」

「”キス始めました”って感じの日だね。今日は」
「・・・中華みてぇだけど・・・どこが甘いんだ」

実ははまってしまって何度目だかわからないちゅーをまたした。
お返しもくすぐったいけど気持ちイイ。構ってもらえて結果オーライだ。

「ほのかちゅーするのスキ!」
「俺はその続きを希望する。」
「ハイっ、イエローカード!」
「禁止なんて絶対無理だからな」
「む・・それはそうかも・・」

慌ててなっちに縋ると目を閉じろと言われてそうした。
わかった、こうすると優しいキスをくれるんだね。
ゆっくりとノックされたから続きも許してあげた。
熱い交差。蕩けそうになる。キスだけで世界は薔薇色になるらしい。







いつまでやってんだ、コラ!って思う。書いておいて。
キスだけで一日終わりそうですね。ほのかに「飽きた」とか言われて
焦るなっちとか想像すると笑えます。「冗談だよ」って宥められたりv
メロメロな相手に翻弄される男が大好物であります。夏ほのはいい!