「気の病」 


なっちは修行中、集中すると顔が変わる。
ほのかの前ではあんな顔したことないもの。
そのことに気付いてないんだろうな、きっと。
距離は見ているとき変わることはないのに
心だけ遠くへ行っちゃったみたいだな、と感じる。

闘ってるときの怖い顔とも違うんだよね。
無心?っていうのかな、そんなんだと思う。
修行が好きってくらいたくさんしてるけど
あんな風になれるのが、いいのかもしれない。
でもね、見てるとちょびっと寂しいんだ。


なっちに護身術を教わるようになってもっとわかった。
「気」のこともね。これってすごく重要なんだって。
たまに体から立ち上るのが見えるような気がする。
なっちのは金色で綺麗なの。光ってるみたいなんだ。
ちなみにほのかのは見える?ってきいてみたら・・・

「オマエのは・・ちょっと喩えが見つからんな・・」

一応ほのかにもあるらしい。達人でなくてもあるのかと問えば、
誰にでもあるんだって。それが弱ると体の調子も良くないらしい。

「あ、病は気から!ってヤツ思い出すね!?」
「そうだな。そっからきたのかもな。」

修行が終わるとほのかはほっとする。おかえりって言いたくなる。
そういえばよく熱くって途中で脱いじゃったりする。初めから脱いでるときも。
不思議だなと思う。当たり前だけどなっちはほのかと全然違うんだ。
多分ほのかが死ぬほど修行してもあんな風にはならないんだと思う。

「・・じろじろ見てんなよ。」
「・・恥ずかしい?」
「別に。」
「ふーん・・ほのかが脱いだら恥ずかしい?」
「あ?!オマエが脱いでどうすんだ!?」
「ほのかもなんだかなっちの前なら恥ずかしくない気がしてさ。」
「・・・どういう意味だそれ・・」
「わかんないから験しに脱いでみようか?」
「やめろ。」

服をまくりあげようとして止められた。

「もしかして見たくない、とか?」
「見せたいのか!?」
「ウウン。もっとむちっとしてればねぇ・・」
「そういう問題か?!」
「うーむ・・違うかぁ。」
「オマエって何考えてんだかさっぱりだ。」
「まぁまぁ・・落ち着いて。顔赤いよ?」

じろっと睨まれてぺしんと頭をはたかれた。痛くはないけど・・
なっちはむすっとしたまま「シャワー浴びてくる」って行っちゃった。
なんでかなぁ、どうして”違う”のが寂しいのかなぁ?
ほのかにもわからないんだ。なっち。どうしてなんだろうね。
一つわかるのはきっと今ほのかの”気”はおかしなことになってる。
病気かもしれない。いつくらいからかわかんないんだけど。
どうしたら治るかわからない。だけどきっとなっちが必要なの。
それは間違いない。握り締めた自分の小さな拳を見つめてそう思った。



ほのかに自分にも”気”はあるかと尋ねられたことがある。
それはいつも感じてるんだが、説明に困った。頭で理解していなかったのだ。
ほのかのそれは他とは違うな、とそんな認識はぼんやりとしていたのだが。
少し羨ましいと思える。ほのかのは穏やかでときに助かることもある。
逸る気を鎮めてもらうことも、ささくれそうな心を包んでもらったことも。
なんだろうな、まるで透明な結界に護られているようだと思うときもある。
本人はそんなことこれっぽっちもわかってないんだ。だけどオレにはわかる。

言葉では説明できない。説明できたからってどうもなりはしない。
けど以前とは確かに変わったと思えるあることはほのかのおかげだ、と思う。
拭い去ることが難しかった飢餓に似た物足りなさ。それが今はない。なくなった。
ほのかの”気”が消し去った。まるで初めからなかったように。或いはそうと気付けた。
枷を外れ、どこまでも強くなれる気がする。何かから身を護る強さではなく、
おそらくずっと求めていた強さだ。なんのためにかわからずにいながらずっと心の奥で。
兼一のように簡単に口には出さない。出したくない。できれば秘めたままでいたい。
守りたいだなんて、どうしたって陳腐な台詞に聞こえる。オレには似合わない、とも。

気付かないでいてほしい。ほのかにはこのまま。
まだまだだから。オレの強さなんてオマエに到底届かない。
オレが求めていたのはオマエの持ってるような強さなんだ。
どこまでも強くなれる、そんな風に思わせてくれる。
いやになる。だから振り払うように無心になりたくなる。
想いの強さに負けないように。ずっと傍で感じていられるように。
きっと少しくらいは漏れてんだろうな、それがたまらない。
そっちも気付かないでいてくれないだろうか、なんてな。
あれこれと理由を付けてはオマエを手にしようとする浅ましさだけは。
冷たい水で洗い流して拳を握り締める。力は欲して得られるものじゃない。
ありがとな、柄にもないがオマエにこっそりと感謝し続ける。
オマエがいてくれるから、オレは・・限界なんて無いと思えるんだよ。


「長い!!溺れてるのかいっ!?」
「うわっ!?あ、あああほっ!開けるなよ、まだ・・」
「待ちくたびれたんだもん。早くぅ!!」
「わかったから出てけ!見たいのか!?」
「ウウン・・」

大急ぎで掛けてあったタオルをぶんどって扉を閉めた。ギリギリ・・セーフ、か?
くそう、聞こえたぞ!?「ウウン・・」の後!・・腹立つヤツだな〜!?

「のぞきとか!いい度胸じゃねーか・・」
「なっちが遅いから悪いんだもん。」
「オレがしたらオマエだって怒るだろ!?」
「なっちが見たいのならいいよ、別に。こんなんでよけりゃ、だけど。」
「信じらんねぇ・・普通いかんだろ!?」
「なっちだからいいんだよ。お嫁になるし。」
「そっそういう・・問題・・・か?!」
「ほのか別に見たくないけどね。」
「聞こえてた!失礼なヤツめ。」
「だって・・なっちってむちむちしててちょっとヤダ。」
「人を贅肉付けてるみたく言うな。」
「そうじゃないけど細くはないよね。太い。」
「太い言うな!なんか・・バカにされてるみたいだっての。」
「なっちだってほのかのことちっさいとか言うじゃん。あいこだよ。」
「ぐ・・」
「なっちだからゆるしてあげるけどさ。」
「む・・太くてもゆるしてくれてありがとうね!ほのかちゃん。」
「べーだ。太くてもむちむちでもいいよーだ。どんなんでもいいもん。」
「どんなって・・」
「どんななっちだって好きだもん。平気。」
「・・・・・・・・アホだろ、オマエ・・」


あ!これ・・おお、きたよ。なっちといるとおかしくなるんだよく。
可愛い顔してさぁ・・なんだろうね、この子は。大きいなりしてるのに。
ほのかよりずっと強くて大きくてがんばりやさんのお兄ちゃんぽいなっちなのに。
ときどきすごく可愛くて、胸がきゅんきゅんってなる。じたばたしたくなっちゃう。

「ねぇ、ほのかなっちのこと守りたいな。」
「え!?な・なにっ!?」
「そう思うとね、多分ほのかの”気”が元気になるんだよ。」
「・・・充実するとか?そういう意味か?」
「近い。ってかそうかも。とにかく元気になるってそういうことでしょ?!」
「・・そう・・だな。」
「病気かなとも思ったけど違うね。だって元気になるんだから反対だもん。」
「病気?どっか具合悪いのか?」
「ほのかさぁ・・なっち見てるとよく胸がぎゅーってなったり変になるんだ・・」
「・・・・・そ、そう・・か・」
「なんだろうね!きっとなっちが可愛いからだよ!それも原因に違いない。」
「アホかっ!かわいいって・・かわいいのは・・」
「可愛いもん。なんかもうね・・どうしよっ!?って困る。」
「・・・気の病だ。」
「えっやっぱり病気!?」
「のようなもんだ。けどオレもその病気だから・・気にするな。」
「なっちもなの?ええっいつから?!って待って待って、それって。」
「心配しなくても相手はオマエだ、オマエがいれば問題ないから。」
「そっか・・よかった。でもやっぱりそうか。」
「やっぱり?」
「なっちがいれば何とかなるような気がしてたの。ほのかってスゴイ?!」
「ああ、ホントすげーよ、オマエって。」
「へへ・・あれ?そうするとなっちも同じような症状に悩まされてるの?」
「そっそこは・・気付かなくていいっつうか・・深く考えるな!」
「ん?なっちはあんまり困ってないの?」
「いやたまに・・ものすごく・・困って・・る。」
「なんだぁ、じゃあ言ってくれればいいのに。」
「言ったって・・どうすんだよ、オマエが困るだろ!?」
「ほのかが足りないならがんばって送るよ。気ってどうやったらあげられるの?」
「・・それならいつももらってるから。いい。」
「そういうものなの?じゃあほのかももらってるんだね。」
「だろうな。」
「ウレシイね!?一緒なんだ。」

ほのかが笑うとなっちも笑ってくれた。そうか”気持ち”だって”気”と同じなんだ。
お互いに伝わってあったかくなるんだ。素敵だな、幸せだな。
もしかしたらどっちからも”好き”って生まれて行き交ったのだろうか。だったらいいな。

「かなわねぇなぁ・・」

呟いたなっちはまたどこかしら照れくさそうで可愛かった。
なっちも可愛いと思ってくれるといいな、なんて。そう思った。







ほのかより思ってる率高いんじゃないかな〜!?と思います。(^^)