「けしからん!」


「うー・・女は筋肉量が少ないから冷えるじょ〜!」
「寒いんならそんなミニを穿くのやめたらどうなんだ?」
「ええっ!?信じられない発言きたよ。」
「どこがだ!」
「だってちみ・・女の子の生脚とか太腿が好きじゃないのかね!?」
「嫌ってはいないが・・寒いんだろ?風邪引いたらどうするんだ。」
「若いからこれくらい平気さ。」
「冷やすのは良くないぞ、女は。」
「よく知っておるのう?!」
「良くは知らんが・・作りの違いは知ってる。」
「ふむ・・確かにお母さんが冷やすのが一番ダメって言う。」
「個人差はあるだろうがな。」
「あのさ、風邪の心配をのけたらほのかの脚ってどう?!」
「・・・どうとは・・何を評価しろってんだ!?健康的だと思うが。」
「そうじゃなくて好き?嫌い?なっちの好みかどうかってことさ。」
「好みだぁ!?・・・知るか、そんなこと考えたことねぇ。」
「ふぅ〜ん・・ねね、ちょっとさわってみたくない?」
「ばっバカなことっ・・怒るぞ!」
「ダメかぁ・・」
「何を考えてるんだ!?まさか・・他の誰かに触らせたりとか・・」
「ははっまっさかあ!さすがに他の人に触られるのはヤダよ!」
「(ほっ・・)そうか。しかしなんで触れだなんて・・・」
「なっちは女の子にあんまり興味ないのかなと思って・・」
「・・・ごく一般的男子高校生の中でいうなら・・ないほうだ。」
「それって男の子が好きってことじゃなくて?」
「・・・よく誤解されるが、断じてない。」
「誤解されるのっ!?男に告白とかされたことある?!」
「うるせぇな・・思い出したくもない。」
「ほおおおおっ・・・」
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ・・?」

ほのかは可愛い作りの顔に似合わない悪い笑顔を浮かべ夏に突っ込んだ。

「なっちは男にももてもてなのだね!?ふふ・・そんでなんかされたことは!?」
「・・なんかって・・オマエ何を期待してんだ?キラキラした目をしやがって;」
「女のこはわりとそういうイケナイことを想像するのがとっても好きなのさ。」
「はぁ・・期待に応えられなくて悪いが、何もない。」
「なんだそうかぁ・・!」
「女になら色んなセクハラされてるけどな。日常的に。」
「えっ・・!?」

さっきまでの悪い表情が一瞬で消え、ほのかは真顔で思い切り不安な顔になる。
その様子を見た夏はこっそりと安堵感を得、確かめたかった結果に満足した。
ほのかはさっきの好奇心とは間逆の真剣な心配で眉を顰め、口をへの字にした。
尋ねることを躊躇しているようだ。心の中では悦んでおきながら夏は無表情だ。
特に話を詳しく説明するでもなく澄ました顔の夏をほのかはじっと見つめている。
近寄って夏の顔を覗くように背のびした。夏はされるがままに少し屈んでやる。
ほのかは夏に掴みかかった。そして耐え切れなくなって口を開いた。

「誰にどんなこと・・されてるの?」
「・・知りたいか?」
「それって・・やらしいこと・・?」
「そうだなぁ・・かなりけしからんな。」
「ちゃんとダメって言ってる?させないようにすればいいじゃん!」
「言ってるし。させないように気を配ってるが、女ってのはな・・」
「そうだよ!女の子をなめちゃいけないんだから!なっちってば優しいからなぁ・・」
「しかしな、不意を突いてくるんだよ。いきなりキスしようとしたり・・」
「されたの!?どこにっ!?なっちなら避けれるでしょっ!?」
「まぁ大体は避けるんだが。たまにヒットすることもある。」
「なっなんと!侮れないヤツがいるものだね。みっ美羽とかキサラちゃんじゃ・・?」
「アイツらは違う。そういうセクハラしてくるのは普通の女だ。」
「学校とか!?実にけしからんね!?他には何も・・?」
「しがみつかれたりなんかしょっちゅうだし『好き』だの『抱いてくれ』だの・・」
「むむむ・・・どうしてそんなこと毎日されてるのさ!」
「どうしてだろうなぁ?」
「なっちもなっちだよ!キツク言わないから皆調子に乗って・・っていうか喜んでない?」
「オレも男なんで・・」
「ヤラシイっ!バカっ!なっちのえっち!ヤダ、キライ!」

ほのかがとうとう堪えていた涙ごと爆発した。夏に殴りかかってくる。
こりゃ本当のことを言ったらヤバイかなと夏は思った。しかし仕掛けたのは夏だ。
そしてほのかとは正反対に内心ほくほくとしていた。実にけしからん行動である。

「じゃあ言うぞ?もうそういうことするなよ、ほのか。」
「ほっほへ?・・・ほのかに・・言ってるの?」
「オマエしかいないし。日常的にオレを困らせてくるのは。」
「なっなん・・むっかりきた!ほのかちゃんを・・だましたなあっ!?」
「騙してねぇよ。オマエが勝手に勘違いしたんじゃねぇか。」
「ちみは性格が捻じ曲がっておる!ほのかのことよくもいじめたなっ!」
「オマエがいかにけしからんことをしてるかってことだよ。」
「そんなことないもん!けしからんのはちみの方だっ!」
「・・まぁ・・それも間違ってないな。」

ほのかを怒らせてしまったが、これは確信犯だ。夏は素直に謝った。
心の中でもスマンと詫びた。なんせ怒った顔が見たかったのもあるが・・
ほのかが嫉妬してくれるかどうかということも確認したかったのだ。
そしてその結果に非常に満足した。しかしそれでほのかの機嫌を損ね、
泣かせてしまったのだからどうしようもない。罪の深い犯行と言える。
なので夏はせめてもの罪滅ぼしにとほのかに提案してみた。

「なぁ・・確かにオレが悪かったから・・今からオレが嫌がることしていいぞ?」
「・・・・どんな?どんなんでもいいの?!」
「あぁ、覚悟するから。」
「けしからんことでも?」
「・・・それだと罰にならないんじゃないか・?」
「ほのかがすっとすることならいいんでしょ?!」
「はぁ・・わかった。好きにしていい。」
「よ〜っし・・何からしようかな。」
「一つじゃないのかよ!?・・しょうがねぇな。」
「まずはちみ、ここへおいでなのだ。」
「来たぞ。」
「抱っこする!」
「え!?ここでか!?・・家に帰ってから・・わかったよ、睨むな。」

仕方なく抱えあげたが、ミニスカートだということを夏は失念していた。
しかもほのかはレギンスも何も穿いていない。つまり素足に・・下着のみ。
うっかり腕と手が・・・触れてしまった。これじゃあ痴漢行為ではないか!
大慌てでほのかを離したのだが「下ろしちゃダメ!」と叱られてしまった。
迷った末、両脇に手を入れて持ち上げると肩に乗せ、両足の膝裏を支える。
眉を吊り上げご機嫌斜めなままで「まぁこれでもいいことにするじょ。」
お許しを得てほっとしたのも束の間、次はほのかの両手で顔をがっしりと
ホールドされた上に頬にキスだ。夏はほのかの攻勢によろけそうになった。
フフンと少し機嫌を良くしたほのかはそのまま歩いて帰れと命令を下す。

「恥ずかしくないか?誰かに見られるかも・・」
「お、いいこと思いついた。このままあそこの公園に行くの。」
「公園?・・いいけど何すんだよ。」
「ベンチでいちゃいちゃするのだ!」
「い!?具体的に・・何しろって?」
「それが嫌なら今から新白の誰かを掴まえてだね・・」
「は!?」
「デート中だって教えてあげるの。」
「カンベン・・してください。ほのかさん!」
「罰なんだから嫌なことでもしなきゃだよ。」
「家帰ったら何でもするから・・外でそういうのは許してくれよ!?」
「・・・・わかった。」
「そっそうか!?よっしじゃあ帰ろう。オヤツ好きなの作ってやるぞ。」
「それだけじゃダメだよ。大人のちゅーしてもらうからね。」
「え・・・・・!?」
「まだそれはしたことないからしてみたかったの。」
「ほのか。」
「なぁに?」
「本当にオレが悪かった。二度としないから・・なぁ!?」
「ふーんだ。じゃあ言った中からどれか選んでもいいよ。」
「・・・べ、ベンチ・・だとどんな風に・・?」
「そうだなぁ・・膝枕とか・・」
「反省した!もう十二分に反省したからっ!そんなこと・・させるなよ!?」
「してくれないと許さないもん。」
「おい〜っ!?」

夏の未熟さが露呈し、ほのかに軍配が上がったようだった。勝敗は明らかだ。
結局家まで抱えて帰り、どうしたかというと・・・谷本夏生まれて初めての
土下座である。屈辱だった。しかし反省したからこそだった。そうでなければ
人目のない自宅において、本人のお許しもいただいているのだから好きにできた。
しかしそんな罰ゲームではほのかにとっても自分にとっても良しとはいえない。
極めつけにけしからんことだ。そういうわけで夏は泣く泣く額を床に着けたのだった。
彼はまだ気付いていないが、まだ本格的に付き合う前の段階であるにも関わらず
完全に尻に敷かれているといった図であった。気付いてなくて良かったかもしれない。

その後ケーキを拵えてもらったり肩を揉んでもらったりまでしたほのかは
すっかりご機嫌になって夏に甘えた声で言った。

「なっちダイスキv浮気しちゃやだからね!」
「・・・・いい加減に・・しないか・・・?」
「ん?何を?!」
「いつまでこうして抱いてればいいんだよ。」
「お昼寝するから目がさめるまで。」
「鬼か、オマエ。」
「だって・・なっちが優しいから・・ダメ?」
「オレはその間じっとしてろってのかよ!?」
「そうだなぁ・・じゃあお礼に何すればいい?」
「・・・・・何でも良いのか?」
「ウンvやらしくてもいいよ。」
「考えとくからとっとと寝ろ。」
「はぁ〜い、おやすみぃ・・v」

ほのかは夏の胸にもたれて目を閉じた。ソファに座った夏に抱っこされたまま。
甘えさせてくれたら今日のことは忘れるという約束だから夏はじっと耐えた。
好きな様に翻弄されていると・・静かになったときにそう自覚がやってきた。
それもこれも惚れた弱味というものだろうか・・夏は深くて長い溜息を吐く。
クセの在る髪を指に絡ませながら、夏は寝顔を見つめた。穏やかで安らかな。

「・・・・ったくなんて・・けしからんヤツ・・・」

呟く夏の頬が赤い。寝顔があまりに可愛いいので零さずにいられなかった。
どうしてこんなに憎らしい生き物が可愛くて仕方ないのだろうと夏は思う。
そしてもう少し未来の二人を想像してみた。だが何故だかうまくいかない。
ほのかがあと2年もしたら、大人のキスくらいは叶えていたいと思うのに
想像しようとしても今より大人のほのかが想像できずにいつも失敗してしまう。
実はもっと大人になった頃の妄想を繰り広げることも可能なのだが・・・

「コイツはいつも予想の斜め上をいくからなぁ・・」

今の段階ですっかり参っている夏には未来は刺激的過ぎた。
だが、だからこそ叶えてみたい。そこに二人が変わらずにいることを。
多少の想像もすることはあるが、現実がいつも大切だと確かめながら。
ほのかが笑っていてくれれば、きっと実現は容易いと確信していた。








頭はずっと上がらないままv^^