Keep Mind 


怖ろしいことになった・・・オレは今断崖絶壁にいるかのようだ。
家族があるんだから、こんなことをオレが果たす義理などないのに。
どうしてこう、乗せられてしまうんだ。勝負事だと受けてたってしまう・・
いや、そもそも何の勝負だ。そりゃあオセロには・・負けたんだが。

「ねぇ、ねぇ、こんなのどうかな?」
「へっ?・・・!!!」
「カレは清純路線じゃないかって店員さんが言ってたけど・・あれ?」
「なっつん!持ったまま固まらないでよ、だいじょぶ?!」
「・・・か、返す!お、オレのじゃないんだ!!自分で決めろ!」
「すきか嫌いかって聞いたんだよ。」
「そっそんなことなんでオレが!?」
「可愛いのがいいかな?やっぱし・・こっちか!?」

・・・耐えた。もう今すぐにでもここを離れたい。妙な汗出てきたぜ・・
なんだってこんな・・・ほのかの下着なんか・・・はぁあ〜〜〜!

事の発端はいつものようにほのかがオレにもたれかかったことから始まった。
今まであまり感じていなかった。初めは違和感だった、なんか違う・・みたいな。
段々と確信に至った。ほのかの胸が確実に・・弾力を増してきていることに。
中学生っつっても、色々だ。まぁ、ぱっと見た目は相変わらずちみっこいのだが。
なんにせよ、困る。オレもそうだが、そのままで他の男に見られでもしたら・・
勇気を出してほのかに話を切り出したのは実はオレの方からで、止むを得なかった。

「ブラのこと?だって・・窮屈だし。体育のときはするよ。」
「・・・下どうしてんだよ?・・映ったり・・しねぇのか?」
「どうだろう?あ、ほんとだ!ちょっと押えると見えるかも!?」
「!!??やめっはっ離せっ!手を!!・・・しろよ、ちゃんと!その・・ブラを!」
「そうだねぇ・・?可愛いのを友達がしてるから羨ましい気はしてたんだ。」
「だったら、その友達とでも買いに行けよ、ていうか、母親はどうした!」
「お母さん巨乳だから”まだいらないかしら?”ってあんまり・・・」
「・・・・ならその・・友達と・・」
「じゃあなっつん一緒に行こう。お店どこだったかなぁ・・?」
「なんでオレが!?冗談じゃねーぞ!」
「だって・・・その友達も部活とかバイトで最近忙しいし・・」
「〜〜〜だからって・・じゃあ、店の前までなら・・待っててやるから・・」
「えー・・一人だと迷っちゃうから、一緒にきてよ〜!」
「そ、そそ・・そんなとこ男が行けるかよっ!!」
「なんで?カレと一緒に行くこともあるって聞いてるよ。」
「オレはそうゆーんじゃねーだろ!?」
「・・それなら保護者?ってことでいいんじゃない?」
「・・どうしてもオレを連れてくつもりか・・?」
「ウン。あ、そうだ、オセロ勝ったから今日のお願いはそれにする。」


・・・・ってな訳だ。ああもう・・・涙出そうだぜ。なんでこんな思いを・・!?

「なっつん、この際これもこれも買うよ。で、あと一つがこれなんだけど・・・」
「だーーーっ!!だから、見せなくていい!どれでも好きなの買え!早く!!」
「あのさ、何焦ってるの?中味入ってないよ、コレ。ただの布じゃないか。」
「な、中味って・・・;オマエ・・!」
「それよかこれ可愛い?ちゃんと見てよう!」
「可愛い、可愛い!それにしろ。じゃっオレは外で待ってるから。」
「ちっとも見てないじゃん!どっち向いて言ってんの!?」

魔の手から逃れた・・・というか帰って来ただけだが、こんなに疲れたのは久々だ。
ほのかは買ってきたものをウキウキと出して見ている・・まだ受難は続くのか・・?

「おい、もうしまえよ。家帰ってから見ればいいだろ?!」
「着けてみる!なっつん、ちょっと待っててね?」
「着けてみんでいい!人の話を・・あああ・・!」

「じゃーん!ほのかスポーツブラ以外は初めて。大人のブラデビューしちゃったv」
「・・・あ、そう・・・よかったな。じゃあ・・明日からちゃんとしろよ。」
「ウン。ね、ちょっと触ってみて?わかる?!」
「触らせてどうする!?アホかっ!ってオマエ・・それ・・映って・・?!」
「だから最後の一つ迷ってたでしょ?あれだよ。色が濃いからどうしようかなって・・」
「なんでそんな色にすんだよ!?」
「可愛かったんだもん。だからどうかなって聞いたんだよ!?」
「オレのせいかよ!?それは・・制服とか白いのはダメだろ?」
「そうかぁ、やっぱしね。でもいいよね、今日はこれで。」
「帰りどうすんだよ・・?」
「暗くなったらわかんないよ、きっと。」
「・・・オレは?オレが気になる・・・」
「なんで?気にしないでいいよ、なっつん。」
「・・・そこはオマエが気にすることじゃないのかよ!!」
「???そ、そお?可愛いからむしろ見て欲しいけど、ダメ?」
「見せ・・・るもんじゃないだろ、・・・はぁ・・・頭いて・・」
「だってぇ・・ねぇちょびっと見ない?ホラ!」
「めくるなっ!!(怒)」

「なっつんの怒りんぼっ!」

ほのかはオレに拳骨を食らって泣きべそでそう言い捨てた。
オレはもう怒る気も失せて、肩を落とした。漏れるのは溜息ばかりだ。

「わかった。脱ぐよ・・」そう言って部屋から出て行ったが、またすぐ戻ってきた。

「なっつん・・たすけて?なんでだか・・外れないの〜!」
「・・・・・なに〜〜〜〜〜!?」

ほのかは眉をへの字にして、いかにも申し訳ないと顔に書いてある。つまり嘘じゃない。
けど、オレがそんなこと・・っていうかマジでしたことないから・・外すってどうすんだ?

困っているとほのかは目の前で制服の前をはだけた。びびった!!マジで。

「お店ではすぐ外れたんだけど・・ここ、ここだよ、なっつん。」
「・・前?後ろじゃねぇのか、こういうの。」
「ほかのは普通に後ろだけど、これだけ前なの。フロントホック。」
「・・・・そういうのも・・あるのか;」
「あ、そうか。なっつん知らないのか、外し方わかる?」
「もうその・・上からなんか着ろよ。そうすりゃ見えないから。」
「脱がなくていい?」
「だってオマエ・・これ外れたら外れたで、まじぃだろ、前だし・・」
「大丈夫だよ、それは。」
「ナニが大丈夫なんだ?」
「押えてれば見えないよ。別にちょっとくらいいいし。」
「頼むから・・ちょっとくらい、とかはやめろ。見せるな、親以外。」
「?・・・え、女の子でも?!」
「お・・」
「だって学校で着替える以外に見る人ないし・・」
「・・そう・・か。」
「もしかしてなっつんに見せちゃダメってこと?!」
「・・・・・・・正解・・・」
「なんで?」
「なんでも。」
「教えてよ。」
「イヤだ。」
「むー・・」
「なんで不満そうなんだよ?」
「なっつんなのに。」
「どういう意味だそれ・・」
「いいよ、わかったよ。」
「なら、いい。早くしまえって、風邪引くぞ。」
「ウン。」

何故こうもほのかはオレに対して警戒心がないんだろう?
気を許してもらっているのはわかるんだが、どうも最近・・気に掛かる。
あんまり警戒されても・・なんだかそれはそれで傷つきそうな気もするが。

「ねぇ、なっつん。」
「なんだ?」
「あのさ、見せたいわけじゃないんだけどね?なんかなっつんは違うんだよ。」
「違うって、何が?」
「女の子同士とも違うし、お母さんやお父さんやお兄ちゃんとも違うんだけどね?」
「・・?・・だから何だよ?」
「うーん・・なんかねぇ・・知ってて欲しい気がするの、ほのかのこと、色々。」
「・・・よくわからん。」
「まぁいいか。ほのかもよくわかんないや。はは」

「オマエのことなら・・まぁ・・見てるけどな、色々。」
「ウンっ!嬉しい。なっつんがほのかのこといっぱい心配してくれるのも。」
「・・そ・それは・・」
「ほのかはなっつんの”特別”になりたいんだ、きっと。」
「・・・もう・・結構・・そうだろ?他にいねぇよ、オマエみたいなの・・」

ほのかはそう言うと満足そうに笑って、「よかった!」とほっとしたような台詞を吐いた。
その安心した理由はなんだろうと考えようとすると胸の辺りがむずむずとした。
さっきほのかのような存在は他にいないと言ったときに感じた痛みにも似ている。
包まれて育っていく何か、温かいもの。込み上げそうになった、あの瞬間・・・
もうすっかりいつもの様子で寛ぐほのかはそれででもどこかが成長したようでもあり、
ずっと見ていられたら、そんな想いも確かにした。できることなら。

「なっつん、もう一勝負しない?」
「あぁ、いいぜ。今度は勝つ。」

今はまだ、色んなことがわからなくてもいい・・・傍にいよう。








・・ほのかの成長はまだゆっくりだけど・・そのうち慌てるといい。(笑)