「かわいくないっ!!」 


オレの前でほのかは飴を舐めながら歩いていた。

”・・ったく行儀の悪い奴だな!”

好きな味だとか言っていつまでもしゃぶっている。
音を立てるのはルール違反じゃないのか、と思う。
苛々として腹が立ってきた。言うまいと思ったが・・

「いつまで舐めてんだ!さっさと噛んで飲み込め!」
「えー、やだよもったいない。」
「だったら音を立てるなよ、みっともねぇな!」
「そんなに立ててないよ、気にしすぎさ。」
「気になるんだよっ!!」
「気にしないでよ。人がせっかく楽しんでるってのにさあ。」
「オレの気分はどうしてくれる!?オマエと反比例してるぞ。」
「変な子だねぇ・・なっつんも舐めたら?もう一つ持ってるよ。」
「まだ持ってんのか!?虫歯になるぞ!オレはいらん。」
「んもー、いいじゃんか!なに怒ってんの!?」
「オレがっ!?」
「怒りっぽいのはカルシウムが足りないんだよ、飴食べなさい。」
「アホかっ!それは『糖分』だっ!カルシウムなんぞ入ってないっ!!」
「困ったさんだねぇ・・」

ほのかは眉を八の字にして、悲しげな表情をした。
だが口元にはさっきから苛々の原因になってる飴がある。
舌で舐めたり、咥えて遊びながら・・それも音立てて・・

”あー・・・いらつくっ!”

ようやくその苛々から解放された頃、ほのかが台所から戻って近寄ってきた。
手にはウチで作ったアイスティーを持っていた。笑顔で「はい」と手渡される。

「・・なんだよ、これは。」
「なっつんの好きな飲み物でしょ!?元気だしなよ。ねっ!」

ほのかはオレのゴキゲンを取ってるつもりらしい。
まぁそういうとこは・・多少可愛いと思わなくも無い。
しかし後がいけなかった。

「あのさ、取っておいたちゅっぱちゃぷス、なっつん好きだと思うよ?」
「・・・さっきの飴の話か?」
「ウン。ホントは一緒に食べようと思って買っておいたんだ。」
「オレはいらねーよ。」
「美味しいよ?一緒に食べない?!・・ダメ?」

ほのかはちょっと悲しそうな顔をして、上目遣いでオレを見た。
・・・いやそんな顔してお願いとか・・されても無理なもんは無理だ。

「オレの分ならやるからオマエが食っとけ。」
「なんだ・・食べてくれないのかぁ・・」
「・・・なんでそんなに薦めるんだよ?」
「・・好きだから。」
「へ?」
「好きなんだもん、コレ。」
「あ・あぁその・・そうかよ!」
「?なっつんが嫌いなら仕方ないね。」
「・・・」

しゅんとなったほのかを見ているとなんとなく罪悪感のようなものが。
そんなこと感じる必要は全く無い、と思うんだが、しかし・・・
ちょっと大人げなかったかな、という気持ちも込み上げてきた。
オレのそんな反省など知らずに、ほのかはポケットから飴を取り出した。
そして包みを剥がして紅茶色をした丸い棒付きの飴を口に咥えた。
途端ににこりと顔が綻び、なんて単純なヤツなんだろうなと思う。
オレを振り返って、「おいひいv」と口に入れたままそう言って笑った。
幸せそうな笑顔が憎らしい。オレは複雑な心境でやれやれと肩を落とした。

「・・音を立てるなよ、行儀悪いぞ。」
「・・ふぁい、どりょくします。」
「それと咥えたまましゃべるな。」
「ふひっ・・ら、らじゃっ!!」
「ったく・・・」

一応本人なりに努力をしているようだった。
オレも”平常心”と唱えながら、ほのかから視線を外す。
一度まともに見たのがいけなかったんだ、そう見なけりゃいい。
あの赤い舌を思い浮かべただけでも、・・後ろめたい。
飴の色に染まったところなんてもっと・・やばいしな。

「瞑想してるの?」
「もう食ったのか?」
「ウウン、なっつんが眼つむっちゃったから・・」
「気にするな。早く食ってしまえ。」
「あ、そうだ!いいこと思いついたじょ!?」
「何をだよ・・?」

”どうせロクでもないことだろ・・聞くのが怖いぜ・・”

「ほのかが食べた後チュウしたらなっつん味わかるんじゃない?!」
「・・・・・・あ!?」
「この新作の美味しさをなんとかして伝えたいんだよ、ほのかは。」
「新作って・・飴を味わって欲しいからキスしろって!?」
「あっありっ?怒った!?あれれ〜??どうしてさぁ〜!?」
「そんなことするかっ!?黙って食っとけ!!」
「ふ、ふぁい・・!」

ほのかは首をすくめると、前を向いて黙々と食べ始めた。
オレの剣幕に大人しくなりはしたが、不可思議な顔をしている。
つい怒鳴ってしまった。誤魔化した、というのが本音かもしれない。
 飴>オレ のような図式を思い浮かべたら面白くないのが当然だろう。
或いは・・見透かされたと思って慌てた、とも言い換えられる。
物欲しそうな顔をしていたのだろうか、このオレがバカ正直に。
そうだとしたら大失態だ。悔しさと恥ずかしさで居た堪れない。
しかしオレの動揺やら反省やら後悔やらのごちゃごちゃした想いを他所に
ほのかはとっくに機嫌を取り戻し、鼻歌交じりで好物を味わっていた。
呑気そうに、平和そうに、オレの横に座って脚をぶらぶらさせたりしながら。
いつもそうだ。オレばっかりが焦って・・慌てふためいて・・

「・・そんなにうまいのか?ソレ。」
「ウンっ!すごーくおいしいよう〜!?」
「食ってるときは幸せそうだな、オマエ。」
「はーいvだから分けてあげようと思ったのですー!」

あっけらかんとしたほのかを見ていると、アホらしくなって救われた。
オレばかりがやきもきしたり、心配したり、悩んではその度にそうなのだ。
ほのかが笑えばそれでオレのもやもやはリセットされる仕組みになってる。
もしかして・・・もしかしなくても・・・単純なのはオレなのか?

「あー美味しかった!ごちそうさま。」
「はいはい・・」
「ねぇねぇ・・チュウは?」
「・・・イヤだ。」
「えー・・・!?」
「飴の味なんか知りたくない。」
「ほのかの味はぁ・・?」
「・・・今は飴の味がすんだろ?」
「それがイヤ?ほのかとするのがイヤなんじゃない?」
「あー・・・それはその・・」
「じゃあ後でね、なっつんv」
「・・やっぱちょっとくらい・・いいか・・な。」
「けどダメー!この美味しさをしばらく覚えていたいし!」
「なんだとコラ!?やっぱオレより飴の方がいいってのかよ!?」
「えー、だってなっつんとはいつでもできるしィ・・」
「オマエなんてとっとと虫歯になれ。そしたら二度としてやらねぇからな!」
「えっウソ!?やだなっつんてば、落ち着きなよ!」
「オマエなんかあっち行け!しっしっ・・」
「うえーん!ごめんよ、なっつん!ゆるしてぇ!?」
「フンっ!!」

慌ててオレに身を摺り寄せてごめんと髪を撫で付けたって、
今更甘えた声で「・・してよう」なんてねだってきたって、
してやらねぇからな。コイツホントに性質わりィ!

「なっつんほのかのこと嫌いになっちゃったの!?」
「そうとも。オマエなんかもう知らん。」
「うわ・・ヒドイ!なっつんと紅茶味のチュウしたかっただけなのにー!」
「ウソ吐け!」
「食べるのはイヤっていうから〜!」
「うるせぇっ!」
「・・・ホントにもうしないの・・?」

決心が・・早くも崩れそうなのはオレが単純だからとかじゃない、はずだ。
けど耐えろ。このかわいくないヤツをどうしたら懲らしめてやれるかが問題だ。
オレばっかりが降参してたんじゃ不公平じゃねーかよ、理不尽だ。
しかし元々オレがしたかったことを・・まさかコイツわかってたんじゃ・・?

”あー・・結局今日もオレの負けかよ!?”

虚しいオレの叫びがどれだけ胸に響いても、それが声になる日は遠・・そうだ。







濃厚なのをお見舞いして満足しちゃえばいいと思います。(^^)
わーい!裏にはならなかったー!と個人的に喜んでおりますが・・
なってませんよね・・?(ちょっと自信なくなってきました)ちなみにですね、
付き合いだして、キスはしたけどそこから先はちっとも進まない、といった頃です。