「片恋」 


じ〜っとその人のことを見つめていたらにらまれた。
別にケンカ売ってるつもりもないし文句もないのに
怒ることないじゃんね。見られるくらいよくありそう。
モテるって話だし、そもそも演劇なんかしてるんだから。
それなのにほのかが見て何がいけないというんだい?
ツマンナイなぁと横を向き、少し不貞腐れてしまった。

はぁ〜と溜息を吐くと不景気面すんなとか鬱陶しいとか
誰のせいだと思ってんの!?むかっときちゃったよ。
ちょっとばかしにらみ返して訊いてみた。

「ねぇなっち。なっちは片思いってしたことある?」
「・・・ねぇよ。」
「今誰を思い出してたのか言ってみ!」
「言いがかり付けんな。」
「じゃあさ、仮にそんな人がいたらどうする?告白しちゃう?」
「さぁな。どうでもいいだろ。」
「ふ〜む・・取り付くシマもないという感じだね。」
「相談にでも乗れとか言うつもりならお断りだぜ。」
「ウウン、結構。ほのか相談したいわけじゃない。」
「なんかあるんだろ?!じろじろと人を見やがって。」
「ただ見てただけ。理由なんかないよ。」
「理由も無しに見るヤツがいるかよ。」
「見ちゃ悪いってのかい!?それくらいいいじゃないか。」
「それくらいってオマエ自分だったらどうだ!気持ち悪いだろ!?」
「なっちがほのかをじっと見たら?・・おおっそれはそうかも!?」
「おいっ!(怒)」

やれやれ、気が短いというか怒りっぽい人だよ。
なっちは困ったとこがたくさんある。わがままだしねぇ・・!
結構ヤキモチ妬きだとも思うんだけど・・あれ?おっかしいな?
ということは・・なっちもほのかを?!いやいや、違うよねぇ。

ほのかは現在『片恋』の真っ最中なのだ。実にタイヘンだ。
先ず相手のなっちは完璧にほのかを子供扱いなので対象外ってこと。
それから学校でめちゃめちゃモテているらしいこと。(兄及び会長情報)
時々ふらっといなくなったりで、会いたいとき会えないことがあること。
浮気かな!?って疑ったことあるんだけど、どうもそんな感じじゃない。
いなくなって帰ってくると、怪我してたりでどうやら闘ってるみたいだ。
ほのかに心配させないように言わないというのが正解に近いと思ってる。

そう、なっちは優しい。これが最大の問題かもしれない。
別段今のままでも構わないのだ。なんでもほのかのためにしてくれるし。
だけど・・・さすがに好きだと自覚してしまうと欲求不満も出てくるの。
元からこんなに欲張りじゃないのに、なっちのせいだよ、マッタク。

「なっちぃ・・あと2年くらいしたら彼女にしてくれる?」
「なんで2年なんだよ?具体的だな。」
「それって今からでもOKってこと!?」
「そんなことは言っとらん!」
「なぁんだ・・2年っていうのは義務教育でなくなるからです。」
「ほー・・一応理由があったのか。」
「さりげなく失礼だよ。おっぱいそんなに大きくなくてもゆるしてね?」
「・・別にそんなことはどうでもいいだろ!?」
「よかったぁ!そこんとこ寛大な人で助かったよ。」
「おい、誰も彼女にするなんて言ってないぞ!」
「してよ。なっちって理想とかあるの?もしかして。」
「そんなもの無い。それに誰かと付き合うつもりもないからな。」
「えっ!?ずっと独身のつもり!?なんでなんで!?」
「飛躍するなよ、結婚しないとまでは言ってないだろうが。」
「彼女はいらないのにお嫁さんはもらうって決まってるのかい?」
「まぁオレは養子なわけだから実子でなくともいいと思うが・・」
「あっそうか。なっちは跡取りなのだね。すっかり忘れてたよ。」
「・・・そんなことはオマエには関係ないがな。」
「関係なくないよ。ほのかお嫁さんにもなりたいもん。」
「だから・・好きな男ができてから悩め、そういうのは。」
「なっちは好きな人いないんでしょ?!予約くらいしてもいいと思うんだけど。」
「オマエなぁ・・予約したって本命ってヤツが現われたら意味ないだろ?!」
「うわ・・なっちってホント感じ悪いよ。いやんなっちゃうな。」
「なんでだよ!?」

やだよ、この人ったらほのかが誰か他の人を好きになるって思うわけ!?
意外に自信ないんだねぇ・・?いい男だと思うけどね、わりと。
全然タイプじゃなかったのにこのほのかちゃんを好きにさせたんだし
実績はありだよ。うむ、モテるのもうなずけるというものだよね。
けどちっともわかってないもんね。ニブイお人だよ。年上のくせして。

だけどそんな女心なんかちっともわかんないとこも好きなんだよね。
普通の男子ほど女の子に興味がないとこも、とってもありがたいな。
雑誌すらないもの、このお家には。女っ気がないのは匂いでわかる。
だからモテモテだと耳にしてもそんなには焦らないでいられるのさ。
かといってイマドキの女子の熱心さや行動力を見くびったらダメだ。
無茶苦茶な手段でもって迫ってくる女子がいないとは限らないもん。

「ほのかちゃんは丈夫で長持ちだよー!おまけに可愛いよ〜!?」
「売り込みのつもりか?オマエには早過ぎる。」
「早くなんかないよ。お年頃だもんv」
「お年頃って・・ちっとも見えない。」
「むかっ!16になったら結婚もできるんだよ!?わかってる?」
「16なんて子供じゃねぇか。」
「法律では許されてるんだから間違ってないでしょ。」
「予約してそんでどうする気だ。オマエも谷本の財産狙ってんのか?」
「そんなの要らない。欲しい人にでもあげればいいよ。」
「じゃあどうして嫁になりたいなんて・・」
「何を疑ってるんだか・・なんでわかんないのか不思議だよ。」
「・・わからなくて悪かったな。」
「いじけなくてもいいけどさ。・・ぷぷっ!」

なっちは可愛いところもたくさんある。頭いいクセにわかんないトコ。
負けずキライの意地っ張り。素直じゃなくて小さな子供みたいなトコ。
どれも護ってあげたくなっちゃう。大きな体してそのギャップはかなりイイv
ほのかってばこう見えてお姉さんタイプだからね。まいっちゃうなぁ!
あ、意外に真面目で一生懸命なところも好きだな。ものすごい努力家だし。

「ああ早くなっちがほのかの良さに気付いてくれますように!」
「何言ってんだ。・・ったく。」
「将来すごい美人になるかもだよ〜?お兄さん、見たくない!?」
「ならなくていい、そんなの。」
「えっ・・?!」
「オマエなんてそんなに変わらねぇよ、きっと。」
「いいの!?わかんないでしょ?モテモテになるかもだよ!?」
「想像できねぇ。だからなんかそんな気がするだけだ。」
「つまりモテモテはイヤだと?困ったねぇ・・今のままがいいの?」
「・・・特に悩むことないだろ?何が不満なんだよ。」
「はぁ・・なら今のままでいようかな・・?」
「オマエこのまま付きまとって相手ができなくてもオレのせいにするなよ?」
「付きまとうってストーカーみたいに!しないよ。なっちがもらってくれ!」
「冗談じゃねぇ。一生オマエの見張りとか・・」
「素直じゃないのう。まーいいけど。」

なっちがたまにする不思議そうな目をほのかに向けた。素の地が出てる。
わかんないのかな、そうなんだろうね。ほのかのことヘンだと思ってる。
いいよ、わかんなくてもヘンでも。なっちが嫌ってないのはわかるから。
ほのかの女のカンというのかな、それが教えるのさ、大丈夫だって。
傍にいていい、安心していいよ、大事にしてくれる人だからってさ。
そんな風に感じるとまた新たに好きになる。雪だるま式ってやつだね。
片方からだけの恋だけど、そんな喜びがあるから諦められないのかな。
それにもしかしたらなっちからだって好きになってもらえるかもでしょ?
もちろんそうならないかもだけど・・それでも信じていたいんだ。
なっちがほのかといて笑ってくれるならお嫁とかは付録みたいなもんだ。

「あ、そうだ。お嫁になったらなっちそっくりの息子を産むから。」
「むっむすこっ!?あ・アホっ!なんつう想像してやがるんだ!?」
「女の子も一人欲しいな。最低2人ってことでヨロシク!」
「バカなことばっか言いやがって・・何考えてんだかさっぱりだ。」
「ふへへ・・顔赤いよ?なっちぃ!?」
「うるせぇ!いい加減にしないと怒るぞ。」
「怒ることないのにテレやさんだねぇ!?」
「誰がっ・・・口の減らないヤツだな〜!?」

なっちがほのかの頭を掴んで揺さぶったりするからあかんべした。
むきになるなんて可愛いんだから。可愛いからちゅーしちゃおうかな?
って・・・っ!!??んなっ・・!!

「男に無闇に引っ付くな!そういうお返しがきたりするんだからな!」
「う・ウン・・お返しか・・驚いちゃった・・・」
「これに懲りたらもう引っ付いてくるな。」
「お返ししてほしいからやめない。」
「なにっ!?そんな真っ赤になってるようじゃ彼女とかは無理だぞ!」
「そうなの!?困ったなぁ・・顔、そんなに赤い?」
「フンっ!ガキめ。わかってないんだからな、オマエは・・・」

なんでだか偉そうになってるなっちの顔だって結構赤いまんまだよ?
そう突っ込んでいいのかな?キスされた頬が熱くて困っちゃうなぁ。
わかってないってほのかが何をわかってないんだろう?うむむ・・
悔しいけどわかんない。だけどなんだかすごく幸せだからいいや!
ほのかがなっちの腕にしがみついて「好き」と言ったらなっちはどうする?
また怒る?それとも困る?ねぇいいかな?そうしてみても。
掴まえた腕や告白にお返しがあってもそれは大歓迎だからね!?







なにやってんでしょうね?!アホらしい・・(^^;