「楓と夏」 


「お兄ちゃん、大好き!」
その言葉はいつもオレを強くしてくれた。
世界で一番可愛い楓。今でも夢に見る。
夢の中の楓はいつも笑っているのに目覚めると涙が頬を伝う。
妹がいなければ、オレはとうの昔に死んでいただろう。
何故ならオレが生きるほとんどの意味は妹にあったのだから。
死んだ後もまた妹がオレが生きる路を支えてくれていた。
だから一人じゃないと思えたし、他には誰もいらなかった。

「お兄ちゃん、楓ね今日夢を見たの。」
「へぇ、どんな夢だったの?」
「あのねぇ、大きくなってお友達と仲良くなる夢。」
「楽しい夢なんだね?お友達って、どんな子なの?」
「私とよく似た女の子なの。とっても元気な子なんだよ。」
「楓も元気になったらきっとそんなお友達が出来るよ。」
「うん。早く元気になりたいな。元気になってたくさん遊びたい。」
「大丈夫さ。お兄ちゃんと遊園地も行くって約束だろ?!」
「そうだね!楽しみだなぁ。あ、でもね・・」
「どうしたんだい?嫌なことはお兄ちゃんにいいなよ?」
「大きくなってもお兄ちゃんのお嫁さんになれないってホントみたい・・」
「誰かに聞いたの?いいじゃないか、お兄ちゃんはずっと楓と一緒だよ。」
「ホント!?ずっとずーっと一緒に居てくれる?!」
「モチロン。だからそんな顔しないで、楓が悲しいと僕も悲しいから。」
「うん。お兄ちゃん・・大好き。楓ずーっとお兄ちゃんの傍に居る。」
「ありがと。僕も楓が居てくれたらお嫁さんなんかいらないよ。」

いつだってオレが楓の一番で、王子様だって言ってた。
そう言う楓が可愛くて、オレにとっても大事なお姫様だった。
オレの願いは唯一つ、楓の身体が丈夫になってくれること。
毎日の生活は厳しいものでも楓のためならどんなことだって耐えられた。

「ねぇ、お兄ちゃん・・・もし、もしもね?・・楓が死んだら・・」
「馬鹿なこと言わないの!楓は元気になるよ、大丈夫だから。」
病気が重くなると楓はときどき「死」を口にするようになった。
どんな言葉を掛けてやればいいのか、オレはよく悩んだものだった。
「こんなに可愛くて善い子が元気になれないわけないよ。楓、元気出して!」
「ありがとう・・お兄ちゃん。ごめんね、楓・・ガンバルね?」
「そうだよ。僕がついてるからね。楓。」

妹は健気にもいつもオレに笑ってみせてくれた。今思えば可哀想なことをした。
オレは楓の居ない生活なんて考えたくもなくて、余計な頑張りをさせていたのだ。

「お兄ちゃん。楓、夢を見たの。昔夢で出会ったお友達の夢よ。」
「あぁ、元気で楓によく似た子なんでしょ?覚えてるよ。」
「嬉しい。覚えててくれたの?・・その子ね、いつか逢える気がするの。」
「そうかもしれないね。楽しみにしてるの?」
「楓がもし逢えなくなったら、かわりにお兄ちゃんに逢ってもらえないかな?」
「またそんなこと・・何言ってるの?!ダメだよ、楓のお友達になるんだろ、その子。」
「うん・・でも夢の中でお願いしておいたの。もし・・逢えなくなったらって。」
「お願いだよ、楓。そんなこと言わないで。お兄ちゃんそんな約束しないよ?!」
「ごめんなさい・・わかった、もう言わないから・・」
「楓、そんな顔しないで・・?笑って・・?!」
「うん・・お兄ちゃん、大好きだよ・・」

苦しい病の床の妹にオレは自分のために生きて居て欲しいと強請った。
なんて酷い兄だったろう?今でもオレの胸は楓の辛そうな顔が浮かんでくる。
生きていて欲しかった。ただひたすらそればかりを願う日々だった。

時折楓の居ないことを不思議に思うことがある。もう何年も経っているのに。
夢でよく逢っているからかもしれない。妹は今もオレを支えている。
ふたりっきりの兄と妹。誰よりもお互いを想っていた。
結局楓は夢で出逢った子と友達になることは叶わなかった。
楓によく似た元気な女の子だとしか知らない。いつか逢えるだろうか?
オレには逢えてもどうすることもできないよ、楓。ただ・・
おまえの分も幸せになって欲しいと願うだろう。それだけはきっと。







「夏×楓」第二弾です。たとえ死んでしまっても楓ちゃんが夏くんにとって
大切な妹であることに変わりないと思うのです。そして彼の支えであることも。
そんなことを思いながら書いてみました。うまく書けた気はしませんが・・。
楓ちゃんはいつも夏くんの幸せを願っているでしょうね。それは間違いないです。