「楓の夏」 


オレはその頃滑稽なほど楓を愛していた
妹と二人だけで世界は完結してしまうほど


赤ん坊の妹とその施設に預けられたのはオレが3つ位のときだ。
オレが引き離されるのを強固に拒んだため共に入所となったのだ。
妹の楓は病弱でオレは幼いなりにも一通りの世話を覚えていた。
谷本グループの総帥に引き取られる前年の夏をオレは忘れない。
珍しく楓の身体の調子が良く、夏休みに二人で小さな旅に出た。
子供には少し離れた公園へだったが、妹にとっては旅と言えた。
万全の準備をして、晴れた空に喜ぶ妹を見るだけで心が弾んだ。

妹を大きな樹の下に落ち着けると周囲に生えた草で輪を編んでやった。
「わぁ、お兄ちゃん上手ね!すごいすごい!!」
「ハイ、楓にあげる。」
「ありがとう、お兄ちゃん。頭に載せても良い?冠みたいだもの。」
「いいよ、じゃあ今度は指輪作ってやろうか?」
「うわぁ、素適。それじゃ結婚式しようよ、お兄ちゃん。」
「あはは、いいよ。ホントには兄妹だから無理だけど。」
「え、そうなの?!・・楓、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいのに。」
「う〜ん、でもさ、今はいいんじゃない?二人だけだし。ほら、出来たよ。」
「うん、楓、夏お兄ちゃんが大好き。ずっと傍に居てね?」
「僕も楓が世界で一番好きだよ。ずっと一緒に居ようね。」
妹は夏の日差しを遮る樹の陰でとても幸せそうだった。
オレも元気に笑う妹がとても嬉しくて幸せだった。
「楓、こんな素適な夏休み初めて。きっと一生忘れないよ。」
「何言ってんの。もっと元気になってもっともっと素適な夏休みするんだよ。」
「うん・・そうだね。でもやっぱり今すごく幸せだから覚えてたいんだ。」
「そうか・・うん、僕も忘れないよ、楓。」


二人だけの夏はそれきりだった。
オレと妹の楓との、二人だけの結婚式を忘れない。
オレは馬鹿みたいに妹が可愛くて、大切で、護りたかった。
ずっと二人で生きて行く、それが望みの全てだったかもしれない。
そのささやかな望みを必ず叶えるのだと信じていた。
幼くて、愚かで、しかし真直ぐに妹を愛していた。

そのすぐ後にオレは妹の病気を治してくれるという条件で養子となった。
膨大な力と財産を持った谷本家の跡取りとしてあらゆる努力を強いられた。
それでも妹の病気が治るものならばと、優秀な子供であろうとした。
結局運命というものなのかどうかわかりたくもないがオレは妹を亡くした。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは負けないでね・・」
そんな言葉だけオレに残して妹は逝ってしまったのだ。
オレも死ねればよかったと思った。
実際死ぬ目にも合ったが、オレは死ななかった。
妹の願いであったから、オレは負けられなかったのだ。
その願いを叶える他にはもう何もしてやれることがなかったから。
妹の傍の方がどれほど幸せかと思う日は幾度もあった。
だけどやはり死ねなかった。約束を果たしてやりたかった。


オレの名をした季節が廻ってくるとあの夏を思い出す。
オレとずっと一緒に居たいと言った楓。
世界の全てはおまえのために在ると信じていたオレ。
そんな幼い兄と妹の二人で誓った永遠の約束を。

「お兄ちゃん、楓は一生お兄ちゃんが世界で一番好きです。誓います。」
「僕も楓が世界中全部よりずっと大事です、一番好きな楓に誓います。」

オレは滑稽なほど妹を 楓を愛していた
今でも約束は大切にしまってある
オレはひとりじゃない 楓がいるから
また夏がやって来る








夏×楓です。需要ないですよね。でも書きたかったんです。
なのでアップしておこうと思います。夏ほのを否定してませんよ、念のため。
妹の楓ちゃんを深く愛していた夏くんが愛しいと思うのです。