「Jealousy(後)」 


またあの地球外野郎が余計なことをしやがった。
ほのかはバカがつくほど人を疑わないヤツだから
ちょっとしたホラ話でも真に受けてしまう。
まったく何考えて生きていやがるんだか・・
今はなるだけちょっかいかけないで欲しい。
あからさまに萎れている様子が心配でしょうがない。
何か余分なことまで吹き込んだのではと疑念も起こる。

あの写真はもう大分前の学校での芝居のものだった。
なんでまたあんなものを持ち出してきたのかは謎だが
そんなことより、アレを見てどうしてほのかが元気をなくすのか。
言動からすると風林寺に対して何かあるのだろうかと推察する。
アイツのバカ兄キの想い人であることにも思い当たる。
極度のブラコンのアイツは昔っから風林寺を敵対視していた。
しかしそれは最近かなり軟化しているし、今回兄キは関係ないらしい。
オレとのことだとするなら、”嫉妬”という単語も思い浮かぶが・・
アレは芝居で、オレは個人的な感情を持ってるわけじゃない。
本人もそのことは分かっている風なのでその辺がよくわからない。
ともかく今までの軽いヤキモチとは少々異なるらしいとだけ理解できた。


ほのかが幼い外見に劣等感を抱いていることも関係してるのだろうか。
オレも最初は小学生くらいかと思ったくらいアイツは歳下に見えた。
生意気で怖いもの知らずで無邪気な点では見た目を裏切らない。
しかし意外なところも接しているうちにたくさん見つけた。
歳相応な姿をしていたら、おそらく今みたいに傍に居なかった。
出逢った時どうしてあのまま立ち去らずに連れ帰ったかと問われれば
幼い子供だったからだ。ちょうど亡くした妹くらいに思えた。
当然その場限りで二度と逢うこともないと思っていた。
行きずりにしては随分深い印象をオレに刻みつけはした。
その後はもう勢いに負けたというしかなかったかもしれない。

そんなことを思い出すと不思議な縁のようなものを感じる。
いつの間にか傍に居るのが当たり前になって世話を焼いたり焼かれたり。
今のような感情をいつ抱いたのかというとオレも曖昧だったりする。
バカ兄キが世界で一番だと言っていた笑顔が憎らしいと思ったことはあった。
柔らかい身体を預けてくるときに”兄キ”とカン違いすんなと腹が立ったりしたな。
・・・もしかするとオレが思ってるより以前からなのか・・?・・

闘いに出かけるオレを「待ってる」と言われたときは
もう”妹”とはかけ離れた存在だったかもしれない。
アイツは何も言わなかったが”信じてる”と瞳は語ってた。
裏切りばかりの人生で、もう手に入らなくていいと思っていた信頼。
バカ兄キとよく似たアイツもそれをオレに全力で示してくれた。
”失いたくない”とはっきり感じた。この想いだけは裏切りたくないと。
初めてその身体を抱きしめた。小さかったがとても大きく感じた。


もしかしたらアイツは何か自信を失ってるのかと思った。
あんなに唯我独尊の突っ走るタイプかと思っていたのに。
おそらく初めてのことで自分を見失っているのかもしれない。
それならばオレにもわかってやれるような気がする。
どうしていいかわからない、そんな想いなら今も感じてる。
そうなんだろうか? オレの勝手な思い込みなのか・・?
お互いに慣れない感情で、確かめる術を知らない、そんな感じだ。


オレとほのかはもしかしたらよく似た者同士なのかもしれないな。
全く違う処も多々あるんだが・・面白いな、オマエはまるでびっくり箱だ。
次々とオレを驚かせたり、感心させたり、和ませてくれたり。
毎日逢うのに昨日と違う顔がどんどん出てきて少しも飽きない。
今オマエが持て余してる嫉妬に良く似た感情をどうするのかも予想がつかない。
オレは何をしてやれるだろうか? オマエの幸せそうな笑顔を見るためなら
どんなことでもしてやるよなんて・・・思ってはいるけど。



学校から帰宅すると門の前でアイツが立っていた。
遠慮するわけもないから、来るのを躊躇してたんだろう。
それでも来てしまった、そんな感じでオレの声に驚きを見せた。
門をくぐり、鍵を開けるまでアイツは迷ってるみたいだった。
昨日のリベンジをすると告げるとほっとした顔をしたから当りだな。
最近負け方も板についてしまってどうにも腹立たしいが仕方ない。
この日も容赦ない闘いでオレは大敗に甘んずる結果となった。


「むふう・・まだまだだねぇ、おぬし。腕は上げたけども。」
「オマエどんだけ腕を隠してたんだよ!・・っとむかつくぜ。」
「えへへ・・ほのかってこんなんばっか得意なんだよねー!」
「人間誰にも取り得ってのがあるもんだな。」
「ふふんだ、器用でなんでも得意ななっつんにはわかんないんじゃない?」
「なにがだよ?」
「思ったんだけど、むちぷりとなっつんは似てるのだよ。」
「・・は?・・誰だって?」
「ジュリエットだよ。美人だし、お料理も得意だし、強いし、とにかく無敵じゃん?」
「はぁ・・それが?オレとどういう・・」
「とにかく恵まれてるのだよ、色々と。もちろん努力もしてるんだろうけどね・・」
「やっかみか?オマエつまんないこと言うなよ。そんなことくらい・・」
「”そんなこと”で悪かったじょ・・だって羨ましいって思うんだもん!悪い?!」
「・・・オマエにはオマエにしか無いもんがあるだろ?それに良い悪いもねぇよ。」
「・・・ウン・・ごめん。愚痴言った。ちょびっとほのか落ち込んでるんだ・・・」
「やっと本音を暴露したな。何自信なくしてんだ、オセロなら無敗だろ?」
「ウン・・そだよね?・・・張り合ったって仕方ないこともあるしね。」
「なんでまた風林寺なんだ?オマエの兄キがバカなことでも言ったのか?」
「え?お兄ちゃんは別に。・・・ジュリエットに限らないよ、確かに。」
「・・・?」
「んとね笑わないでね・・?なっつんにね・・他の女の子好きになって欲しくないんだ・・」
「!?・・・へー・・」
「でもさそんなの究極のわがままだよね!?だからほのかってば嫌な子だなって思って。」
「そんで落ち込んだってのか?」
「・・そうみたい。ごめんよ、心の狭い奴だよね、ほのかって・・」
「・・・しょうがねぇな、じゃあ特別に約束してやるから元気出せ。」
「?!・・なに、特別な約束って・・?」
「オレは忙しいんでオマエの相手で手一杯だから、他の女なんか好きにならない。」
「ええっ!?そんな・・だってそんなことできるの?好きになったらどうすんの!?」
「約束してやるよ、オマエ以外に好きにならねぇって。」
「・・・なんかそれってすごくない?なっつんはほのかの彼でもないのに?!」
「別に構わないぜ?オマエに余計なヤキモチ焼かれる方が厄介だからな。」
「ヤキ・・やっぱりそうかな?・・ホントにいいの?そんな約束して。」
「ああ」
「なっつんて・・ほのかの思ってることなんでそんなにわかっちゃうの!?スゴイよ!」
「こんだけ一緒に居たら大概のことはお見通しだ。」
「へー・・なっつんて・・もしかしてものすごい人なんじゃ・・?」
「ちっとは尊敬しろ。オレは天才で努力家なんだぞ?」
「ウン、尊敬する。ほのか大大ダイスキ!」
「よし。じゃあそういうことで、もう一勝負だ。」
「げっまだやるの!?なっつんて負けず嫌いも天才的だよ・・」
「勝つまではあきらめねぇ。」
「ふふーvそゆとこも好きだよ、なっつん。」
「・・・うるせぇよ、さっきから・・」
「何が?」
「・・いや別に・・・」
「じゃあ次もほのかが勝つけどごめんねーっ!」
「ほざいてろ。」


無自覚なヤツだぜ、全く・・・しかしやっと元気が出たらしい。
いつもの笑顔が戻ってほっとした。こういう素直なとこには感謝する。
嫉妬なんて、まだまだ・・そういうのはもっと後のお楽しみだ。
今はツマラナイことで悩まないで傍で笑ってりゃいい。
急いだって仕方ないだろ、出来る限り傍に居て欲しいから。
オレはオマエよかずっと計算高くて腹黒い嫌な男なんだよ。
ばれてもオマエが笑って許してくれる日がいつか来るといい。
オセロの駒みたいにオマエの手に遊ばれてるようでもいつかは・・
”勝ち”も”オマエ”もこの手にするからな。









ちょっと予定変更が相次いでなかなか書けなかった続きです。
はー・・・やっと書けました。次行きます。(ぜーはー)
少しずつほのかに自覚がやってまいりますvではまた次回で!