「Jealousy(前)」 


新白連合の会長をなっつんは地球外生物と呼ぶ。
確かにちょっと変ってるけど、なっつんの友達の一人だ。
その人から声を掛けられて何かと思ったら写真をくれた。

「オマエにこれをくれてやる、貴重品だから感謝しろよ!」
「何コレ?学園祭とかの写真?!あっなっつんだ!」
「まぁ遠慮せず受け取れ。じゃあ谷本に宜しくな!」

いつもみたく”ケケケ”と笑ってすぐどっか行っちゃった。
数枚の写真に写っていたなっつんはお芝居をしてるみたい。
本人に違いないんだけど全然違う人みたいに見えた。
そしてすぐ傍にとても綺麗なよく知った人も一緒に映っていた。

「・・・これって・・・」


何故だか急に身体がズンと重たくなったような気がした。
なっつんの家に着いたけど、いつもの元気が出ない。
風邪でも引いちゃったのかなと、額に手を当ててみた。


「なっつん、これってさぁ『ロミオとジュリエット』かな?」
「・・写真?どうしたんだ、コレ。」
「しんぱくの会長さんにもらったの。」
「何っ!?あいつとは関わるなって言ってるだろ!?」
「別に写真くれただけだよ。貴重品だって言ってた。」
「んなわけあるか。捨てろ、そんなもん!」
「えー?もったいないじゃん。こんななっつん初めて見たよ。」
「じゃあなんでそんなむっつりした顔してんだよ?」
「え、そおかな?・・・このジュリエット綺麗だねぇ・・」
「風林寺だ。オマエ知ってるだろ、そいつのことなら。」
「知ってるよ。・・・もしかしてラブシーンとかあったの?」
「・・・それがどうした?」
「そっか・・ふううううん・・・」
「・・・芝居だぞ?なんだよ、その不満そうな顔は。」
「別に。ねぇ、どんなの?びたっとひっついたり?」
「そんなこと聞いてどうすんだよ。」
「・・・お芝居だもんね。なんかコレ見てたら・・」
「?・・なんだってんだ。」
「ホントにジュリエットのこと好きみたい・・・」
「それって褒めてんのか?」
「・・うん・・」
「んな顔で褒められてもなぁ・・」


「・・あのさぁ・・なっつんほのかとキスしたくない?」

「・・オレに傍へ寄るなとか言ってるヤツの台詞かよ?」
「・・・・」
「オマエ今何言ったのかわかってるか?」
「・・え?・・・!?」

私は自分の言ったことにそのときやっと気付いて顔から火が出た。
ちょびっと想像しかかって、あまりの恥ずかしさに叫んでしまった。

「ちがっ!いやっ・そのっ!今のマチガイ!ナシだよっ!?」
「落ち着け、わあったよ・・」

”穴があったら入りたい”って気持ちを実感してしまった。
しばらくぎゃーぎゃー言ってなっつんが呆れてた・・・かっこ悪い;
なっつんが淹れに行ってくれたお茶を飲んでようやく落ち着いた。

「はーっ・・・おいしい・・・」
「やれやれ・・なんか疲れたぜ・・」
「ごっごめんよ!ほのかとしたことが。」
「・・もうあんなバカなこと言うなよ?」
「う・・そ、そーだね・・・へへへ・・」

どうにも最近自分がよくわかんなくて困ることが多い。
結局その日はその話のことはそれ以上しなかった。
なんとなくもやもやしてオセロでなっつんをボロ負けにして帰った。
家へ帰ってベッドの上で思い返すとまた顔が熱くなった。
”わーーーーっ!なんてこと言ったんだ、ほのかってば!”
思わず抱きしめたぬいぐるみに気付いてはっとなる。
”わっこれ『なっつん2号』だった!?”
それは以前ゲーセンでなっつんが取ってくれたもので
ツンツンした髪の具合とかがなっつんに似てたからそう名づけた。
”おわっ!なっつん2号とキスしてしまったよっ!”
またカッと身体が熱くなって思わずぬいぐるみを投げ出した。
枕に顔を押し付けて、鎮めようと努力したけどちっとも治まらない。
しばらくして顔を上げると放り投げたぬいぐるみを探してしまった。
そおっとベッドからそれを取りに行ってベッドに戻った。
”ごめんね、なっつん2号。つい投げちゃってさ?おやすみ”
いつものように枕元に置いて、もう寝ようと目を閉じた。


「やだっ!なっつん!!」

飛び起きたら真夜中だった。夢を見た。なんかものすごくどきどきしてる。
夢の中でなっつんがジュリエットと一緒に居た。
ものすごく仲良さそうで声も掛けられないくらいで。
見詰め合って、お互いしか見てなくて・・私は呆然とそれを見てた。
”違うもん。あれはお芝居だってば。なっつんがホントに好きなんじゃない”
それから寝ようと思っても寝られなくなった。悲しくて涙まで出てきた。
今は誰も好きじゃないかもしれないけど、いつかなっつんが誰かを好きになったら?
もうほのかのお守りはお終いだと言われたらどうしよう?
そうでなくてもいつもわがままばっかり言って怒られてる。
綺麗でなんでもかんでも持ってるジュリエット役の似合うあんなひととか
ほのかの全然知らないひとを「好きなひと」だと知らされてしまったら?とか
そんなことばかり思い浮かんで眠れなくなってしまったのだ。
今までそんなこと思ったことなくて、気持ち悪いくらい悲しかった。
毎日顔を見たくて逢いに行って、オセロしたりおやつ食べてただけで幸せだった。
なんだか今の自分がツマラナイ子に思えてそれが余計に不安を煽る。
こんなほのかは・・・なっつん好きじゃないよ、きっと・・どうしよう・・
傍のぬいぐるみを抱きしめてもやっぱり悲しくて涙が止まらなかった。


翌日の朝は食欲がなくてお父さんとお母さんが心配したけど学校へ行った。
いつもなら”早くなっつんちへ行きたいな”と思うのに、その日は違った。
「・・今日は・・やめとこうかなぁ・・」

放課後、なんとなく重い足取りでたどり着いたのはお兄ちゃんの修行先。
ここにはあのジュリエット役の綺麗なひとが住んでいる。
逢いたくないなぁと思っていたらその人の声がしてぽんと肩を叩かれた。

「こんにちは!ほのかちゃん、いらっしゃい!」
「どしたんだ?ほのか。今日は谷本くんちじゃないのか?」
「あ・・お兄ちゃん・・と・・・」
「あら?なんだか顔色がよくないですわね・・どこか具合が悪いのでは?」

綺麗で優しいひとは心配そうな表情で私の顔を覗きこんだ。
お兄ちゃんもこのひとのことが好きなんだなぁと思い出した。
どこにも悪いとこなんて見つからないし好きになって当然かもしれない。

「んーん、大丈夫。ごめんね、やっぱり用事思い出したから、ばいばい!」
「おいっ・・ほのか?!」

私は猛ダッシュで走って逃げた。格好悪いったらないけど、逃げたんだ。
もやもやする自分を振り切りたかった。走ってどうなるわけでもないのに。
気が付いたらなっつんの家の前まで来ていた。足が無意識に向かったらしい。
見慣れた門の前で立ち止まる。くぐる勇気がないなんて初めてのことだった。

”やっぱり帰ろうかな・・・”
「・・今日は早いな。」
「わっなっつん!おかえり。」

そういえばお兄ちゃんたちもさっき帰って来たんだと思い出した。
今日は逢わずに帰るという思いつきは不発に終わってしまった。
逢いたくないなと思っていたのに、顔を見たらやっぱり嬉しかった。
昔みたいに「帰れ」なんて言わず、なっつんは無造作に門を開けた。
そしてそれを見ていた私に「今日は負けないからな。」と言った。
昨日のオセロ勝負のことらしい。負けず嫌いだからリベンジしたいんだ。
帰ろうかと思ったけど、勝負なら何も考えなくて済むと思い直した。
「なんの、今日もほのかが勝つよ!」少し元気が出たような気がした。


「少し顔色よくないな?昨日も少し元気なかったろ。」
「・・んと・・ちょびっと寝不足なだけだよ。平気。」
「夜更かしすんじゃねーよ。ゲームでもしてたのか?」
「お母さんみたいなこと言うなー!違うもん!!」
「じゃあ遠慮しなくていいな。勝負は手加減なしだ。」
「ふーん・・?自信満々だねぇ・・」
「今日こそは負けねぇ!」

なっつんは負けず嫌いで、こういうとこは子供っぽいと思う。
そんななっつんを見るとほっとする。なんだか近くに感じるから。
昨夜の夢の中のなっつんは本物じゃない、と思えて嬉しかった。
だけど・・もしかしたら私に合わせてくれてるんだろうか?
私が子供だから・・・そう思ったらまた気持ちが沈むようだった。
だからといっていきなり大人っぽくなんてなれない。
お芝居なんてできないし、背伸びしたってどうせばれちゃう。
なっつんはどうしていつだって優しいんだろう?こんな私を相手に。
ふいに抱き寄せられたときのことを思い出してしまってどきっとした。
”なっつんはがっかりしたんだろうか?おろおろするばかりの私に”
どうしてこう嫌なことばかり考えるようになってしまったんだろ。
自分が見えない何かに囚われてるみたいで重苦しい。
優しいなっつんにまたわがまま言って甘えてしまいそうで・・怖かった。







途中みたいなとこで終わってますが、続きます!(長くなるので)
次回は夏くんサイドの「Jealousy(後)」になります。でもって、
その次は「Touch me tenderly.」の予定です。(続きます)