「悪戯したい?」 


新島の集まりにその年は参加しなかった。
隣ではそのことを未だにぶーぶー言ってるヤツがいる。
オレは仮装もお祭り騒ぎも去年で懲りた。
しかし文句を言ってる隣のヤツは諦めていなかった。

「ほのかはハロウィンするからねっ!」
「・・・有無を言わせない気だな・・」

キリスト教に縁などないくせして、何がハロウィンだ。
何を言っても無駄だろうなとオレは覚悟して付き合った。
あちこちで集めた菓子の包みなんぞを用意してやったり、
(その際、去年一口で酔っ払った洋酒入りのチョコは除外した)
家中にあれやこれやと飾り付けするのも黙認してやらせた。
当日も後が怖いと必死に予定を調整して空けてやったりもして、
なんだかんだ言ってオレって付き合いがいいよな。
そうこうしているとあっという間にハロウィンの日になった。


「ハーイ!なっちーVvお待たせーっ!!」
「別に待ってねぇ。」
「またそんなこと言って!それよりねぇねぇ見て?!」
「去年と一緒のマントだな。」
「マントはね。ふっふっふっ・・じゃじゃああん!!」

ほのかが去年着ていたこうもり風のコスチュームを思い出し、
今年もそれと同じ服を思い浮かべていたが、そうではなかった。
マントを両腕を広げて捲り上げると、ほのかは包帯でぐるぐる巻かれていた。
ゾンビかなんかか?と思っただけで、オレはそのときは何も気付かなかった。

「あっあれ!?まさかのノーリアクション!」
「寒くないか?それ。マント羽織っておけ。風邪流行ってっから。」
「ちょ・・それはないよ!なっちー!?よく見てよう!!」
「そんなに包帯使って母親に内緒じゃねぇだろうな?怒られるぞ。」
「・・もう怒られ済みだけどさ。そういうことじゃなくってぇ・・」

ほのかはがっかりして、眉をあからさまに下げ、広げていた腕も下ろした。

「ねぇ・・ちゃんと見たあ?!」
「見たぞ。」
「ちょっと引っ張ってみたくなんなかった?」
「引っ張る?なんでそんなことすんだよ。」
「やだねぇ・・ちみ。男でしょうが。」
「引っ張るようなとこあったか?包帯の端っこか?」
「ここんとこ引っ張るとほのかちゃん”あーれー”ってなことになるんだよ?」
「せっかく巻いたのに解いていいのか?」
「ええ〜・・・・!?」
「ホレ、菓子だ。これでも食っておけ。」
「違うよう!ほのか”イタズラして”って言ってんでしょ!?」
「”菓子をくれないと悪戯するぞ”だろ?!」
「それじゃあツマンナイじゃないか。」
「だから?」
「おにいさんのイタズラ心を刺激しつつだね・・あわよくば・・」
「あわよくば?」
「えーっと・・もういいよ・・はぁ・・」
「?・・・菓子はいらんのか?今食わないなら持って帰れよ。」
「ちみって・・サービス精神があるのかないのかわからない。」
「サービスって・・ハロウィンってそんなんだったか?」
「もうちょっとさ、二人きりってことを意識してくれてもいいんじゃないかい?」
「いつもここへはオマエ一人で来るだろ?たまに余分も来るが・・」
「せっかく気合入れておへそも出してみたのに。」
「あれわざとだったのか。しまっとけ、腹壊す。」
「・・・お菓子いらないから、イタズラしない?」

ほのかはちらとオレを上目遣いでうかがいながらそう呟いた。
その顔に少し可哀想な気はしたが、ほのかのしてほしいことがわからない。
イタズラして欲しいって・・・何をどうしてくれって?
オレが悩んでいると、ほのかはまた盛大な溜息を吐いて肩を落とした。

「もういいよ。ほのかお茶淹れてくる。」
「そんならもうほとんど用意してあるから・・」
「ありがと。じゃあ一緒にお菓子食べようよ。」
「あ、ああ・・」

ほのかは気持ちを切り替えたらしく、すっくと立ち上がると台所へ消えた。
オレはというと、何故だか取り残された気分で呆然とその様子を見送った。
すぐに戻ってきたほのかは特にいつもと変わりなく、無邪気に菓子を眺めて

「うわーいVvいっぱいだ!これおいしそう〜Vv」
「・・・オレはいいから好きなの食え。」
「ウンっ!あ、これは例のお酒入りの・・じゃないんだ?」
「あれは去年ヒドイ目にあったろ。それと違うのにした。」
「・・ふーん・・酔っ払うこともできないねぇ・・それじゃ。」
「オレにまたおぶって帰らせる気かよ。怒られただろ?」
「・・まぁね。あ、これ食べようっと!」

ほのかはいつになく何かを隠しているような素振りに見えた。
それがさっきのことと重なってどうにも気になってしまう。

「イタズラって・・何して欲しかったんだ?」

ほのかはオレが探るようにした問いかけに気付いたようだった。
一瞬動きを止めた。しかしすぐにまたもぐもぐと菓子を味わっていた。

「・・特に何も。何でもいいっていうか?」
「ウソ吐くなよ、さっきは何か期待してたんだろ?」
「まぁ・・いいじゃん。おー!これ美味しい〜!?」
「・・・・・」

なんかむかついてきた。なんだか気になるじゃないか!?
さっきのほのかを思い出そうとしてみた。何に気付かなかったんだろう?
包帯しか巻かれてなかった。黒い短パン?みたいなのはいてたっけな。


「・・・オマエもしかして今の格好でウチに来たのか?」
「え?ウウン。さすがにそれは解けたときヤバイから着替えたんだよ。」
「着替えた?ウチに着いてから?!」
「そりゃそうだよ。外で裸になってどうすんの?!」
「はっ・・おいっ!?さっきの・・オマエ・・マジで包帯の下・・」
「えへへv それよか巻くのが結構タイヘンでさあ!」
「な・・ん・・・つう・・・」
「やっぱりちゃんと見てなかったんでしょ!?もう・・」
「待てよ、オマエ引っ張れって・・さっき言って?」
「ウン。引っ張りやすいようにこうしてあったんだよ、ホラ。ね?」

「・・・なっち・・?」


ほのかは何の気なしにマントをちらと持ち上げた。
するとさっきと同じ包帯を巻いたままの身体が見えた。
そしてその隙間から素肌が覗いているのがはっきり見えた。

「・・・・・・・・この・・・・・・」
「えっ?」

「・・アホーーーーーっ!!!何考えてんだ!?」

オレの剣幕でほのかは椅子の背とクッションにぽすんと身を投げ出した。
驚いて表情は鳩が豆鉄砲食らった、というかたちで固まっている。

「あっあれ?!でも・・見てなかったんでしょ?」
「みっ見え・・」
「ノーブラは結構ドキドキしたんだ。」
「のっ何!?そっそれ・・!?」
「えへへ・・怒るかなとも思ったんだけどさ?!」
「当たり前だ!」
「でもひょっとしたらこう・・ヤラシイ気持ちになってくれるかなー?とか・・」
「なるかよっ!今知った事実で心臓止まるかと思ったぜ!」
「ぇえ〜?!なんだぁ・・ツマンナイ・・」

「・・・つまりこのお嬢さんは僕に襲いかかって欲しかったと?」
「うわ!まさかの王子様。気持ち悪いってば、それ〜!!うええ・・」
「きっと嫌がるだとうと思ってやってるんだけど?」
「それって感じ悪いよ?!ちみ。」
「人を試すようなことしやがるお嬢ちゃんよりマシだよ。」
「ちょびっとイタズラして欲しかったんだってば。」
「はいはいイタズラね・・どんな!?」
「・・その・・ちゅーくらいならしてくれるかなー!?って。」
「まだ早い!」
「ええっ!?じゃあいつ頃ならいいのさぁっ!?」
「そんなこといつとかって決められるかよっ!!」


そういうことだったのか・・・疲れた。なんてことすんだ。脱がしてたら・・
気付かなくて良かった。気付かないまま解いたりしてたら・・ぞっとする!!
怖ろしい想像をして背筋を寒くしているオレの横で、ほのかは呑気にも
「ようし、来年こそは二人っきりで夜を過ごすのだ!」などとほざいている。

「夜って何だよ!?そんなこと言うなら来年は来させねーぞ!?」
「なんだい、ケチ!可愛いほのかちゃんが誘惑してんのにヤな感じっ!」
「いい加減にしろ!オレだからよかったものの・・もうするなよ!?」
「なっちだからやってんじゃないか!?わかんない子だね!?」
「いいわけないだろ!?」
「なんで!?ちょっとくらい狼になってよう!!」
「ちょっととかそんな器用なことできるか!」
「ん?器用?!」
「いやその・・とにかくまだダメだ。」
「うわーん!イヤイヤ!!ちゅーくらいしろーっ!」

泣き喚く子供みたいなほのかに・・・キスしたさ!頬だけどな。
子供のくせして近頃妙にオレに襲われたがる。どうにかならんのか・・
まさかと思うが、毎年ひょっとして・・・?嫌な予感を覚えていると
泣きべそ顔から立ち直ったほのかが決意の眼差しでオレにこう宣言した。

「来年も再来年もこれからもずっと”イタズラして!”って迫るんだからね!?」

予感は的中。”そんなこと言っていつか逆襲されて泣くなよ!?”と・・・
情けないがそれを口にはできず、オレは心の中だけでリベンジを誓ったのだった。








ハロウィン用にどわっと突発で書いてみました☆