「生命の水」 


人の身体はほぼ水(分)で出来てる。
血液などの体液が大部分なんだろう。
けどアイツもそうかどうかは疑わしい。
何か違うモノで出来てるような気がする。
オレとは何もかもが違い過ぎているから。

オレの身体は乾いていたのかもしれない。
欲していたのは水ではないけれど。
アイツと出逢って感じなくなった渇き。
呼吸をすることを忘れた海の底にいた。
欲していたモノは細胞に行き渡り、気付いた。
オレにない全てをオマエが持っていることを。

だから求めるのは生きていくため。
オマエは生きるために必要不可欠なんだ。


「なっつん・・ほのか喉渇いた・・」
「・・・冷蔵庫になんかあるだろ。」
「んー・・なんでもいいから飲みたい。」
「なんか取ってくるから待ってろ。」
「・・お願いです〜・・!」


ベッドの上でぐったりしてるから何か着ておけと言って部屋を出る。
オレもシャツだけ引っ掛けて台所へ向かい、冷蔵庫を覘いた。
戻って来るとオレのシャツを着たほのかがベッドの上に座り込んでいた。

「・・大丈夫か?」
「ん・・・でも身体が重たい・・」
「ホラ、飲め。」
「あれ、なっつんのは?」
「オレはいい。」
「じゃあ、コレはんぶんこしよ?」
「足りるのか?・・じゃあ少しもらうから先に飲め。」
「ありがと。」

ほのかはまだ上気した頬のまま、ごくごくと喉を鳴らした。
オレもまだ暑くて服を着る気になれないのだからコイツはもっとだろう。
どんなに気遣っても足りない気がする、身体の根本から「違う」と感じる。
『大丈夫だよ』と微笑むその顔にオレの胸は突かれたように深い処が痛む。

「ハイ、なっつんもどうぞ?」
「別に全部飲んでいいぞ。」
「ウウン、ちょっと多かったから飲んで?」

ほのかの飲み残しを呷るとそれを見て「あ」と小さな声が聞こえた。

「なんだよ?飲んじまったぞ。」
「え?あぁ、そじゃなくて、間接ちう、だなぁって思ってさ〜;」
「・・何を今更・・」
「そ、そーいうことゆわないのっ!」
「ばぁか・・紅くなるほどのことかよ。」
「むー・・・知んないよっ」

むくれてぷいと横向く顔はいつもと変り無い無邪気な顔だ。
オレだけが知ってる顔とは180度違う、その差にいつも驚かされる。
隠されてる色んな表情はオレだけのものであって、それは譲れない。

「もう少し休んでろ。」
「え、ヤダ!なっつんどこか行くの?」
「・・腹減ったから何か作るかと。」
「ほのかも作る!もう起きるよ。・・・服何処・・?」
「さぁ?」
「無責任な。」
「その辺だろ、どうせ。」
「あ、あった。・・けど足りない・・」
「・・ほのか」
「ん?そっちにあった?!」

オレのシャツからちらちらと覗く肌がどうにもさっきから気になってた。
背を向けていたほのかの脚の片方を掴んで引き寄せると驚きの悲鳴が上がる。

「何!?びっくりした・・・あ・・」

軽く文句が出る前に口を塞ぐとさっき飲んだ味よりずっと瑞々しい。
つい調子に乗って味わっているとまた身体が熱くなってきた。
強く胸を押し返してほのかは抵抗するが効果の程は望めない。

「なっつん!もぉダメ!ストップストップ!!」
「・・・ちっ・・やっぱダメか。」
「んもぉっ・・怒るよっ!」
「怒るなよ。」

宥めるように軽く唇をなぞってみたが、どうやら怒りは治まらないようだ。
怒った顔も好物だから別段オレにとっては困った状況でもない。
それ以上本気でする気じゃなかったが、本気になるのに時間は要らない。
我ながら底なしだなと思うと後ろめたさも感じないわけではない。
抑えてた期間が長かったから、反動もあるんじゃないかと思う。

「何食べたい?」
「んっと・・何があるんだっけ。」
「食いたいもんがあるなら言えよ。」
「なっつんって魔法使いみたい。えっとね・・何がイイかなぁ?」
「・・・ビーフサンドできるぞ。」
「あっアレ!?わーいvソレソレ、それに決定!」
「パスタは?ってそう言うかと思った。」
「思ったけどそんなにお腹空いてないよ、今日は。」
「オレはそれも食う。オマエも少し要るか?」
「じゃあもらう。カルボナーラ?ほのかアラビアータがいい。」
「ペンネだな。・・ハイハイ。オマエはお湯でも沸かせ。」
「らじゃあっ!うー・・なんかお腹空いてきたかも。」


料理なんて覚えてしまった自分が笑える。けどキライじゃない。
コイツがやるのを横で見てるのも心臓に良くないからな・・・
必要って訳でもなかった、でも今は覚えて良かったと思う。
単純なコイツの『おいしい』の顔もまた、オレの好物だから。
どんだけオレは飢えてたんだろうなと自嘲したくなる。
何もかも面倒だった頃は遠い昔になって、したいことが目白押しだ。
細胞も脳もオレは半分以上を眠らせていたのかもしれない。
転がるように目覚めていく、生きる活力が湧いてくる。
ほのかの着替えを待って二人で部屋を後にする。

いつもの元気な様子になって、ほのかはご機嫌だ。
オレの腕に寄りかかるようにして台所へ向かう。

「なっつん、ほのかってね、最近なっつんでできてるの。」
「は?・・何だソレ?」
「なっつんが居ないと生きていけなくなっちゃったんだ。」
「よく言うぜ。」
「ホントだってば。どうしよう!?」
「じゃあずっと居ればいいだろ?」
「いいの?!・・ずっとだよ?」
「オレも居てくれないと困るからな。」
「えっ!?なっつんてばなんて素直な!!」
「うるせぇ!しょうがねぇんだよ。」
「ハイハイ、しょうがないよねぇ!?」

ウレシそうに擦り寄るほのかを少々邪険に扱いながら
熱くなった頬を誤魔化すためにそっぽ向く。

”オマエがいないと生きてイケナイから”とだけは・・言わない。
”どうせバレてるんだろ”とオレは溜息を吐いてほのかの頬を突付いた。






裏かどうかで悩んだけど、とにかく書けた!書いたよ〜!!
夏くんとほのかの「ポカリ(もどき)」は回し飲みするのか!?という
質問から、妄想炸裂して出来たのがこれです。いやぁ・・萌えましたv