いもうと 



似ているようで似ていない
やかましくていまいましい
だが放っておけない
その瞳だけは忘れられない

「それに触るな!」
派手な音を立てて棚から置物がころげ落ちた。
「あ〜、ごめん!またやっちゃったー。」
まったく反省の色のない少女を睨みつける。
「いいかげんにしろ。」
知り合ってから何度追い払おうとしたことか。
「ちみがお掃除をきちんとしないのがいかんのだよ!」
「おまえにしてもらう義理もない。」
「もう、素直じゃないよね〜!」
力が抜ける。妹はこんな口はきかなかった。
生きていてもこんな口はきいていないはずだ。
妹といっても色々だ。少々こいつの兄を気の毒に思う。
「あっ!洗濯はやめろと言ってるだろう!!」
「へへへ、考え事してるからだじょ。ほのかの勝ちだね!」
慌てて抱えている籠をひっつかんで取り上げる。
「ああっだめだよ、ずるいじょ!」
「何がずるいだ、うわ!こら、やめろ!!」
籠を持ち上げた隙にわき腹をくすぐられみっともない声をあげてしまう。
「いかんね〜、そんな隙だらけでは。修行が足らんよ、ちみ。」
腹立ちまぎれに脇を抱えて肩に担ぎ上げた。
「あっ何するんだ!離せー!帰らないじょー!!」
「黙れ、邪魔ばかりしやがって。」
「きゃあ〜、やめろー!いやー、はなしてえ〜!!」
「変な声を出すな。」
じたばたと脚をばたつかせる少女の軽い身体を抱えたまま玄関へ向かう。
抱えられたまま顔を上げて抗議も忘れない。「なっつん!横暴だじょ!」
「言うことをきかないからだ。その呼び方もやめろ。」
「お互いさまじゃないか。やだやだ、下ろせー。」
無視したまま階段を下りて行くと急に静かになって怪訝に思う。
「・・・どうした?」応えはない。
「・・・・」少女はぐったりと力を抜いて背中にもたれかったまま動かない。
「おい!」
少女を肩から下ろし、顔を覗くと目を閉じて人形のようだ。
「ふざけてるのか、おい、目を開けろ!」
悪ふざけだろうと思いつつも不安になる自分がいるのがわかる。
ゆすっても反応のない様子に苛々として妙に胸が詰まる。
「ほのか!」
思わず名を呼んだとたん目の前に少女の大きな瞳が飛び込んだ。
がばと首根っこにしがみ付かれ、不覚にも階段にしりもちをついた。
「初めて名前呼んでくれた!」
きゅうと細い腕が自分の首を抱きしめ、頬に柔らかいものを感じて途惑う。
「なっつん、ちゃんと名前で呼べるじゃないか!いつもそうしてよ。」
「な・・・?」
「でも嬉しいからさっきまでの横暴は許してあげるね。」
「・・・あ?」
展開についていけず、間の抜けた声を出してしまい、おまけに顔が熱い。
「あれ?どうしたの、顔が赤いじょ。」
「おまえ、どさくさにまぎれてさっき・・・」
「ばれたか!お礼にほっぺにちゅうしたのだよ。」
少女は階段途中に座りこんだ俺の腹の上でご機嫌だ。
脱力して頭を抱える。”何をやってるんだ、俺は・・・”
「死んだふりして困らせようと思ったら名前呼んでくれたから嬉しくて生き返ったの。」
何も言わない俺を不思議そうに覗き込む顔は無邪気そのものだ。
妹はこんな悪戯をしたくてもできなかっただろう。
本当に死と隣り合わせだった妹にできるはずもない。
「なっつん・・・怒ったの?」
顔を伏せていると心配そうに段々と声の調子が落ちてきた。
ふっきるように顔を上げると「ああ。」と睨みつける。
「ごめんなさい!ほんとに心配した?!」
「悪いか。」
「ううん、すっごく嬉しいじょ。」
少し照れたように頬を染め、少女はにっこりと微笑んだ。
「ま、おまえは簡単に死にそうにないな。」
「うん、安心していいじょ。」とけろりと言ってのける。
ふっと顔が緩んでしまうのは何故だろう。
俺の顔を見てまた嬉しそうに微笑みを返してくる。
妹とは似ていない。妹はもっと儚げだった。
似ているのはその瞳だ。俺を心の底から信じて疑わない。
今度は護ってやれる。護ってみせる。
そんなことを思ったことは絶対に口に出さない。
「喉が乾いたな。」
「なら、このほのかちゃんが美味しいお茶を淹れてあげるじょ。」
「・・飲んだら、帰れよ。」
「やれやれ、ちょびっと素直になったと思ったらこれだよ・・・」
「・・黙れ。」
生意気でまだまだ妹の域を脱しない小さな少女の身体を下ろし
階段をゆっくり上がり始めるととたとたと足音がついてくる。
その弾むような足音を聞きながら、またほんの少し笑った。







夏ほの第1弾〜!!甘いですね、はい、私の小説は甘いんです。
こんなんでよろしかったらどこどこ書きますよ。需要があればですが。
とにかく私自身が夏ほのに飢えておりますので、また書きます。
夏ほのファンの方が増えることを祈りつつ、脱稿します。