イケナイことしよう 


確かに不埒で背徳感を刺激するかもしれない。
子供は皆、こっそり大人の真似事がしたいのだ。
つまり不似合いであればあるほどいいのだろう。
邪気の無い笑顔から掛け離れた吐息が漏れる。

「は・・ぁ・」
「うまいか?」
「おいしい。」
「甘過ぎる。」
「だったら舐めなきゃいいのに。」

俺が何かしていると腕の隙間から潜り込んでくる。
飼い犬ではない、ほのかだ。犬のようなものだが。
退屈で構って欲しいのだ。無視を繰り返すが諦めない。
自分の用や作業を黙々と進めていると策を講じてくる。
今日のは新しく無い使い古された手だったのだけれど。

「ハイ、飴あげる。」

要らんと拒否してもほのかはそれを無視して包みを解き、
俺の口元へ押し付ける。鼻を突く甘ったるい匂いと期待の目。
仕方なく口に含むと予想通りの味で自然と顔が歪んでしまう。
その様子をけらけらと笑う。人が悪いのはどっちなんだか・・
そして不味いなら自分にくれと強請る。一からそのつもりで。
最初に引っ掛かった俺の負け。ほのかは両腕の間から顔を出して
あーんと口を開け待機している。本当に犬ならば可愛いだろう。
うんざりするも俺は顔を近づけ、ほのかの元へと飴を口移す。
そして先の台詞となる。”舐めなきゃいいのに”とは恐れ入る。

「満足したらそこを退け。邪魔だ。」
「やだ。ここにいる。いいじゃん、ちゃんと作業出来てるんだし。」

ほのかは悔し紛れなのか大きな音を立てて飴を噛み砕いた。

「もう一個。」
「要らんと言ってる。あっちで食ってろ。」
「いーや!もいっかいちゅーして。ね?!」
「・・そんなことはしていない。」
「おんなじだよ。してよ、飴なしでもいいよ。」
「飴は要らんが・・はぁ・・こっち向け。」
「わーい!」

まだこんなことする歳ではないだろう、とわかっている。
悪戯を仕掛けて成功したような嬉しい顔は子供のものだ。
罪の意識はある。しかし感じているのはどうも俺だけらしい。
最初の口移しは出来心だったが、何度もしてしまって麻痺した。
そのうち幼いなりに色めいた吐息を聞かせるほのかに欲が出た。
これは罰だ。教えるには早い口付けを覚えさせてしまったことへの。
顎を上向かせ、唇を当てるだけで満足していればまだよかったのか。
何度目か忘れた頃、俺の舌は抑えきれず乱暴に咥内へ押し入った。
夢中で舐めて吸って味わう。ほのかの顔に赤味が差し体が震える。
これはヤバイと引き離した時にはもう遅い。後戻りの道は消えた。

「・・ねぇなっちぃ、ほのかって悪い子?」
「嬉しそうだもんな。嫌じゃないんだろ?」
「うん、それもやっぱりイケナイこと!?」
「ああ、そうだ。誰にも言うな。」
「ナイショなんだよね、らじゃっ!」
「お前が他の男とこんなことしてもわかるから絶対するな。」
「なんでそんなことわかるの?」
「わかるさ。お前の反応で全部。俺が初めてでよかったな。」
「自慢?うん、まぁ、いいけど」
「これからずっと俺だけにしろ。」
「ほのかに好きな人ができたら?」
「・・・どうしてやるかなぁ・・」
「コワーイ!今ほのか殺されちゃいそうな予感したよ!?」
「好きになるなら俺にしろ。そしたら怖い思いをしなくて済む。」
「え〜・・できるかなぁ・・?」
「もっと気持ちイイこと教えてやるから。」
「わーなんかヤラシイ。でももう遅いよ。」
「遅い?!」
「もうとっくの昔から好きだもん。」
「言うぜ、子供のくせして。」
「その子供にイケナイことしたくせに。」
「お前も嫌がらなかった時点で同罪だ。」
「ふ〜ん・・そうか、そうかもね。」
「わかったらもうちょっと待ってろ。」
「・・イケナイことの続きは?いつ教えてくれるの?」
「さぁな」
「お預けなの?ほっとくと浮気するかもだよ?!」
「させねぇよ。したいのか?」
「むむ・・ばれてるなぁ・・」
「お前はどんなに嘘吐いたってバレバレなんだよ。」
「ほのか下手?」
「嘘もキスもな」

口を尖らせてほのかはむくれた。クッションを抱えて脇のソファに座る。
犬ならば後で散歩にでも連れ出せば足りたのだろうに。旨くはいかない。
女だって知ってた。だから手を出した。やっぱりどう考えても俺の負け。

「・・なっちぃ、なっちは練習したから上手なのかい?」
「・・さぁな。」
「したんだ!ズルイ。浮気じゃないかもだけどイヤだ!」
「もうお前以外しない。それでいいだろ。」
「ほんとにぃ〜!?嘘吐いたら針千本じゃ済まさないんだじょ!?」
「命でもくれてやる。嘘じゃねぇ。」
「命はいらない。それは大事にしといてよ。」
「ふ・・なら預けとく。」
「ほのか子供なのに信用し過ぎじゃないの?」
「端から大人だったら信用なんざしてない。」
「・・?・・・」

首を傾げる様は幼く、意味は半分もわかっちゃいないだろう。
それでいい。悪い男に捕まったな。だが逃がすつもりもない。
大人の真似事から入ったが、何れ誰でも知ることなんだから。
俺はお前に決めた。だからこのままずっと絡め盗ってやるのだ。

俺以外誰も知らない舌も唇も、その体全部俺のもの。

「さ、終わったぞ。イケナイことしようか?」
「うーん、それよりお腹空いた。オヤツ食べたい。」
「・・だろうと思った。今日は何食いたいんだよ。」
「ワッフル!かぁ・・えーとスムージーもいいな。」
「太るぞ、どっちかにしろ。」
「太ってむちむちになったら嫌いになる!?」
「食うならもうちょい太らせないとなぁ・・」
「えっちだね。やっぱしむちむちが好きなんだ!」
「それなりに。ガリガリよりはいいに決まってる。」
「・・ほのかおっぱいだけむちむちにならないかなぁ・・」
「腹ばっかりだもんな。」
「むきーっはっきり言うな!傷付いたじょっ!?」
「触らなくてもわかるってのがまた・・」
「意地悪!まだ子供だからいいんだい!」
「そうだな。のんびりでいいぞ。俺は気の長い方だ。」
「えへへ・・でもちょびっとは・・イケナイこともしよ?!」
「・・・ハイハイ・・」

片目を瞑って見せるほのかは充分に男をイケナイ気分にする。
これは俺は教えていないはず。まったくしょうのないガキだ。
子供の頃からこれでは先が思いやられる。実にイイことだが。
お仕置きはどんな意地悪をしてやろうかと俺は不埒に笑った。










いやらしかったですかね・・・?
ほのか版のもありますv