「言えないコト」 


「なぁ、谷本。可愛いよなぁ!白浜の妹って。なんて言ったっけ?」
「・・ぱっと見に騙されるな。可愛くなんか無いぞ。」
「まぁまぁ・・一般的に見て可愛いってことじゃな〜い!?」
「普通に可愛いだろ?谷本だって・・その・・」
「フン。知らん。」
「ごほっ・・宇喜田クン・・その話はやめとこうじゃな〜い?!」

どいつもこいつも騙されやがって。どうしてわかんねぇんだろう。
むかつく。ちっさいイコール可愛いと勘違いしてんじゃねーのか。
あの態度のでかさ、生意気さ。結構アイツの行動を見てるだろうが。
口だって悪いし。えらそうだし。図々しさは半端じゃねぇんだからな。
アイツのことをちょっと見たことあるだけの奴はもっと悪い。

「可愛いー!?その子誰なんですか!?谷本さま!」
「可愛い子だな。えっ白浜の妹!?そういや似てるな!」
「可愛い子にいつも引っ付かれて、いいのう!谷本。」
「可愛いねぇ、おじょうちゃん。デートかい!?」

なんで皆して判を押したみたいに”可愛い”って言うんだろうな!?
オレは一度大声で叫びたいくらいだ。”可愛くなんかないぞ!”って。
・・・バカみたいだがら言わないけどな。ったく・・なんなんだ。
でもってアイツの兄がまた大馬鹿だ。オレのこと言えない程のシスコンだし。

「いつもごめんね。ほのかって世話の焼ける奴だろー?!」
「でもさ、可愛い妹だからよろしく頼むよ。君なら安心だしね!」

何が”オレなら”なんだかわからねぇ。そりゃ面倒くらい・・みてやるけど・・
どいつもこいつもアイツのこと甘やかし過ぎなんじゃないのか?!
だからアイツも調子に乗るんだ。”ほのかのこと可愛い!?”とか言ってるし。
絶対にオレだけは言わん。ああ、言わないとも。言ったことないしな。
どうしてそんなぱっと見ただけでそんなこと言うんだろうな、わからねぇ。


「なっちー!ほのか来たよっお待たせーっ!!」
「・・・待ってねぇ。飛びつくな、犬かオマエは。」
「ワンワン!遊ぼうぜー!?」
「・・アホか・・」

”まったく無駄にでかい目してやがるな”

「ん?ほのかの顔になんか付いてる?」
「目を丸くするな、飛び出て落ちる。」
「気持ちわるっ!ヤな言い方するんじゃないよ・・」
「フン・・でかすぎなんだよ、大体。」
「いたいた!痛いよ、鼻つままないで!」
「あってもなくても困らないんじゃないのかこんな鼻。」
「あのね・・ヒトの顔に難くせ付けてどういうつもりなのさ!」
「この伸びすぎる頬とか有り得ないだろ!?」
「ひっぱるなっ!横暴だよ、っていうかセクハラじゃないかい!?」
「へっセクハラだと!?乳くせーガキが。」
「ご機嫌斜めだねぇ・・!なんかあったの?」
「オマエのこと知った奴が皆誤解してやがる。」
「誤解?なんて?!」
「見たまんまに騙されてやがるんだよ!バカどもが。」
「だから、なんて言ってるのさ!?」
「・・・フン・・」
「教えてよ、何しらばっくれてんのー!?」
「言うか、そんなこと。」
「そんなに腹の立つことなのお・・?」
「ああ、納得いかないな。」
「よしよし、大人になんなさいよ、夏。」
「撫でるなっ!なんだそれは!?あと呼び捨て!!」
「しょうがないねぇ・・拗ねちゃって。機嫌直して遊ぼうよ!」
「拗ねてなんかいねえっ!」

「はい、ちゅーっv」

「・・・ヤメロと言っただろう、ソレ・・」

「あれ!?前はご機嫌直ったのに!さては物足りなくなったのだな!?」
「誰がっ!?」
「うひゃあああっ!!いたいいたい!!」

抓ったくらいじゃこのむかつきを抑えられないぜ。
泣かせてやりてぇ!・・いや実際にはしないが。

「・・もう・・困ったなっちだね!大人気ないよ!?」
「ああ、どうせオレは大人気ねえーよっ!」
「ぷりぷりしちゃって・・冷静になりたまえよ。」
「オマエが悪いんだ。」
「あっそ。勝負はどうすんの!?今日は手加減してあげないからねっ!」
「するな、そんなもん。なめやがって・・イイ性格してるぜ。」
「ウン、ほのかイイ子だもん。」
「嫌味もわかんねぇのか・・」
「でもってなっちもイイ子。だから機嫌直して?」
「その上から目線なんとかしろ!」
「・・・今日はまた・・どうしちゃったんだか??」

そうだな、いい加減にしないとオレがホントにバカみてぇだ。
コイツの顔見てたり、話してたりするとむかついてしょうがない時がある。
それは、何故か。思うようにならないからか、何かが伝わらないからなのか?

「用意出来たよー!しろうよ、オセロ!」
「手加減するなよ!わかったな!?」
「よっし!了解なのだ。」




・・・ここまで手加減されていたとは・・・落ち込むなってのが無理じゃねぇ?

「まだまだじゃのう、ちみも。」

このえらそうに腕組んで首を左右に振ってるとこなんか・・見せたいぜ、皆に!
どこまで強いんだよ、コイツは。オレだって日々努力してるってのに・・・
悔しくて今日も研究に時間を費やさなきゃならなくなった。修行時間は減らせない。
ってことはつまりどこか別の時間にしわ寄せがくるってことだ。コイツのために。
どんだけオレの時間を食いに来るんだ、コイツは。腹が立ってもしょうがないだろ!
オレを完璧に負かしてけろっとした顔しやがって。その涼しい顔が憎いぜ〜!

「なぁに?不満ならもう一回するかい?!」
「今日はもういい。明日こそは勝つ!」
「わかったよ。がんばってね?」
「そんな余裕のある態度も今日限りだ。」
「・・・その台詞前も聞いたじょ?」
「うるせぇっ!」
「ぷぷ・・なっちがこの頃・・」
「なんだよ!?」
「可愛いv」
「・・・んだと・・う!?」
「可愛いよ、なっちーv」
「は・・はは・・面白いこと言うね?ほのかちゃん・・」
「まぁまぁ照れなくてもいいじゃないか。」
「何が悲しくてオマエに可愛いなんて!」
「ホントだもの。ほのかなっちが可愛くってだいすきさ。」
「ほー・・どのへんが・・?」
「んー・・もうなんか・・ゼンブが!」
「へぇ・・そうなの?それはそれは・・」
「その気持ち悪い笑顔も見慣れたらどうってことないね。」
「誰が気持ち悪いって!?」
「つくり笑い。でもやっぱ・・・・」
「・・・・?」
「しゃげーっ!!」
「ぶっ!」

やべっ・・久しぶりだったから・・やられた。くそっ油断したぜ。
慣れたつもりだったのにオレも不甲斐ない。なんてことだ・・・

「わははー!なっちのその顔、やっぱいいじょ!」
「・・・っ・・おのれ〜!」
「そんな顔がすき。なっち可愛い!たまんないじょ!」
「あのなぁ・・・オマエ・・・」

ほのかはオレの笑い顔一つで転げるほどに喜びやがる。
顔はこれでもかってほど笑顔だ。頬を染めて、腹を抱えるほど。

オレの顔見て褒めるやつはいるけど、けなすのはコイツだけ。
オレのことを素のままがいいと言うのもほのかだけだ。
そんなほのかの作戦にまんまとオレははめられてしまってる。
ほかの誰が可愛いなんて言ってもそれとこれとは断じて違う。
だから言わないんだ。言ってはならない。オレが思うのとは別なんだから。

”かわいい”なんてバカにしてる。コイツはそんな珠じゃないんだ。
オレだけが知ってる忌々しいほどの事実なんだ。ほのかはなぁ・・

かわいくなんかない。オレが一番なんだ。だからそういうことを
オレに聞かせる奴はゼンブ蹴散らしてやる。黙ってろってんだよ。

「なっち、やっぱりもう一回する?」
「・・・卑怯な手を使うな。明日だと言ったろ?」
「卑怯って・・ほのかそんなこといつしたっていうのさ!?」
「・・・オマエはもう・・そこで笑ってるだけでも世界一の卑怯者だ。」
「なっなんて言いがかりだい!?ヒドイじょ、どういう了見なのさー!」

怒れ怒れ。いい気味だ。ほのかの怒った顔も泣いた顔も誰にも見せたくない。
笑った顔もそうだ。普通に見ても”可愛い”なんて言う奴らなんだからな。
冗談じゃない。見せてたまるか。一番近くで見てるオレだからよくわかるんだ。
オレは心を静めるために、いつもの言葉を目を閉じて思い浮かべた。

”ほのかのホントの可愛さを知らないだろ、バカどもめ!”








なっちのわかりにくい惚気。でもわかるヒトにはウケてると思います。