Hold me ? 


鼻歌が聞こえていた。少し調子ハズレの明るいメロディで。
オレは寝ぼけてたんだろう、疲れてソファに寝そべってた。
そんなオレの上にいきなり全身で覆いかぶさっておいて、

「なにすんの!?」はないだろ?!
「それはこっちの台詞だろ?!」と返したが聞いてねぇ。

猫みたいに暴れて、闇雲に引っかくような真似をして逃げた。
・・オレが悪いのか?・・・なんだこの・・状況?
覚醒した頭はズキズキと痛んで、現実を更に凍りつかせた。
追いかけて・・どうする、謝るってのか?
もう来ない・・かもしれない。そう、それが当然だ。

一睡も出来ずに朝が来た。これでもかってくらいの快晴。
学校になんぞ行く気になれず、頭痛を理由に欠席にした。
アイツはいつだってオレに抱きついて、擦り寄ってた。
なのにオレがするとダメだなんて・・おかしくないか?

カーテンを引いてベッドにもぐりこんだ。もう知らん。
太陽なんざ滅び去れ、あの世の蓋とやらをこじ開けりゃいいんだ。
この世が真っ暗になってしまったら・・・アイツ泣くかな?
怖がるようなヤツじゃない。だけど終わりにしてしまえない。
オレは顔が見たくなって、たまらなくなって飛び起きた。
頭痛のせいでかなりキツイ眩暈を感じたが、急いで服を着て。

しかしうまく事が運ばない。靴下が片方見つからない。
顔洗ったっけな?・・昨夜シャワー浴びたのは・・多分事実だ。
あんまりな姿を鏡が映していたんで、仕方なく歯を磨いて身づくろいした。
洗面台にアイツの置きっぱなしになってるアヒルがいたので睨み付けた。
平和で間抜けな面しやがって。オレは頭が痛いんだ!どうしてくれんだと。
こんな気分で表へなんか出たら、太陽の呪いで酷い目に合いそうだった。


「・・・オマエ・・なんでいるんだ・・?」
「・・・今日お休みだもん。言ったじゃんか、代休だって。」
「そうじゃなくて・・」
「約束したじゃないか!?・・仕度してたんでしょ?」
「・・行くのか?」
「でもなんだか顔色良くないね?」

いつもと少しも変わらない態度でほのかがオレの額に手を伸ばす。
自分と比べて首を振って、「無い・・みたいだけど・・」と呟く。
なんだよ、怒って帰ったんじゃなかったのかよ、と尋ねたかった。
けど声が出ない。オレは目の前にいるのが本物がどうかなんて悩んでいた。
確かめるにはどうすればいい?触って・・また逃げたら困る。

「もしかして頭痛い?」
「なんで・・?」
「なっちが痛いときの顔してるから。」
「めちゃめちゃ・・痛てぇんだ・・・」
「いつから?今朝起きたらそうだったの?」
「昨日オマエが帰った後。」
「風邪かなぁ・・今日はお出かけ止めよう。」
「平日だからきっと空いてるって喜んでただろ?」
「なっちがしんどいのに行っても気になるよ。」
「・・・なぁ・・」
「なぁに?」
「昨日からずっと腹を立ててたんだ。」
「ほのかが引っかいたから?」
「オマエが・・あんなに怒ったのは・・」
「だっていきなりだもん。驚いたんだよ。」
「オマエいつだっていきなりオレに飛び掛るじゃねぇかよ!」
「昨日だってオマエからオレの上に乗っかってきたんだぞ!?」

「・・・ウン・・」

「なんでオレはダメなんだよ・・」

なんか・・ものすごく・・みっともないこと言ってないか?オレ・・
ものすごく恥ずかしい気がしてきた。バカじゃねぇの?なんだこれ。

「イヤだってんならもう・・抱いてやらねえぞ!」

三歳児が母親に駄々捏ねてるんじゃねーんだ!オレは何言ってんだよ?!
ほのかもぽかんとしてる。当たり前だ、呆れるだろ、こんなアホな・・

「ソレは困るよ!抱いてよ!」
「!?」
「今まで抱いてくれたことないじゃないか!だからびっくりしたんだよ!?」
「なのにもう抱かないとは何事さ。それならほのかが飛びついた分返してよね!?」

「・・・それっておかしくねえ?昨日怒ったくせして・・」
「だからいきなりだったし!き、キスだって!びっくりするよ!」
「・・・オマエだってするじゃねぇか。いつだって。」
「なっちがしたみたいに・・ぎゅっとしてないし!キスも・・違ったよ!」

ほのかの顔がどんどん赤く染まって、終いに膨れたのでまるでトマトだ。

「ほのか昨夜眠れなかったんだから!実はちょびっとほのかも頭痛いのだよ。」
「そりゃ寝不足だろ。」
「・・なっち、人のこと言えるの?」
「オレは一晩寝ないくらいどってこと・・」
「もしかしてほのかに嫌われたと思ってたの?」
「そっそんなこと・・」

無いと言う前ににやりと笑いやがった。なんて憎らしい顔すんだ、テメー!

「じゃあおんなじだ。よかったあっ!」

卑怯だろ、そんな顔して笑うとか。ぐっと詰まったのは言葉だけじゃない。
どんだけ・・単純なんだとオレはこのとき感じていた。なんでって・・

「ほのかね、なっちが怒ってないってわかったら治ったよ。」
「フ、フン・・そりゃ良かったな!」
「やっぱほのかって単純かな?」
「どうでもいい。」
「ねぇ?なっち・・」
「なんだよ・・?!」
「抱いて?」

ほのかが両手を広げたかと思うと、オレ目掛けて飛び込んでくる。
受け止めて、抱き寄せる。昨夜はもう二度とできないかと思っていた。
現実だということも合わせて確かめた。痛んだ頭をほのかに預けるようにして。
くすぐったがってほのかが身をよじり笑い声を漏らす。そっちのがくすぐってぇ。

「なんだか甘えちゃってない?ねぇねぇ?!」
「悪いのかよ?オマエだってするだろ!」
「いいよう!ほのかも甘えてイイ?」
「ダメだ。今はオレの番なんだよ!」
「!?わかった!よっし、思う存分甘えるがいいさ!」
「黙ってろよ。うるせぇ・・」
「生意気な!なっちのくせに。」
「どういう意味だ!?」
「教えないよ〜だ。」
「むかつくヤツだぜ!オレの頭痛治るまで抱かせろ。」
「わあっ!?なっちが開き直ってるー!」
「なぁ・・もう逃げるな・・」
「どうしようかな・・?」
「む!また逃げる気か!?」
「しっかりつかまえといてね。」

抱き合うことがこんなにイイもんだとは知らなかった。クセになるぞ。
ほのかは嫌がらなかった。ひっかくどころか・・今日はどうなってんだ?!

「昨日いきなりじゃなかったら、こうしてくれたのか?」
「・・寝ぼけてなかった?ほのか身の危険感じたんだよ・・」
「・・今は?危険感じねぇのか?」
「ウン。機嫌の良い顔してるから。昨日はね、ちょっと不機嫌でさ・・」
「オレそんな顔いつしてたんだよ?」
「たまにあるよ?じーっとほのか見てるときとか・・あれはなんで?」
「そりゃあ・・・抱いたら・・逃げるかなーとか・・・考えてるときだな。」
「じゃあほのかちゃんのカンは当たってたんじゃないか!危険だなー!」
「今は感じてないっつったろ?じゃあ外れてるぜ?」
「大丈夫。超ご機嫌な今みたいなときは絶対しないの。ほのかわかるもん!」
「・・・いつの間にそんなこと学習したんだよ・・?」
「ほのかなっちのことならおまかせ!だよー!?」
「にくったらしいヤツだなー!!」
「へへへー!そんでもほのかのこと好きでしょ?」
「・・不機嫌になるぞ。」
「んー・・そうだねぇ・・ほのかも今なら・・怒らないであげようかな。」

太陽もこの世もどうってことない。怖いのはオマエだよ。
今更悪魔でもなんでもいいけどな。魂くらい何度も放り出してるし。
オレは今日、超特別に機嫌がいいから仕方ない。許されたから。
抱きしめていいんだと。今日からは・・・いいんだよな・・?
抱けって言ったよな・・・そのまんまの意味だろうけど。

「これからはなっちも抱いてくれるのだね?」

ほのかは額をオレの額にくっつけて、上目づかいでそう言った。

「・・じゃないと頭痛が治らない。」
「お互いのためだね!」
「だから・・」
「ほのかも抱いてあげる。」

もう地獄でもどこでも連れてけって・・・思ったさ!悪いか!!







お詫び:ファイル操作ミスで消えていました。申し訳ありません。
6/13に再アップしました。お知らせありがとうございました。