「初夢」 


 
年明けから初詣に付き合わされた。
例によってオセロに負けたからだ。 
それなりに晴れ着のほのかは可愛かった。
腕を組むのも仕方なく許した。
約束は約束だから。ただそれだけだ。
近所の小さな神社の境内を降りながら
ほのかが思い出したように話し始めた。
「ねぇ、なっつん初夢見た?」
「見てねぇ」
「ほのかね、なっつんの夢見たんだよ!」
「あっそ」 
「どんなのか知りたい?」
「いらん」
「あのね〜・・」
「いらんと言ってるだろ!」 
相変わらず人を無視してしゃべるやつだ。
だが今回はとんでもないことを言い出した。
「?!は?!」 
「それでほのかが目を閉じてたら・・」 
思わず手で口をふさいで辺りを見回した。
「お・おまえ人聞きの悪いことを!」 
「ぷはっ!」「誰も居ないじゃないか!」
「とにかく恥ずかしいこと言ってんじゃねぇ。」
「でもね、結局そのまま目が覚めちゃったんだよ。」
「人の話を聞けよ!」
「だからなっつん、続きしてv」 
「できるかっ!」
いつもいつも俺をイラつかせるやつだ。
「ね、なっつん。お願い。」
「お!?」 
「ねぇ、ダメ?」 
「な、お・・」
ほのかは甘ったるい声で俺を見上げて訊いた。
言葉が詰まって出てこない。 
「それともまさか、経験無いとか・・・」 
「ばっ、そっ・・」 
「さっきから言葉になってないよ?なっつん。」 
俺が夢でほのかに何をしようとしてたかなんて知ったことか。 
きっといつものように頬を抓ったり伸ばしたりってオチだ。 
こいつは何して欲しいって言ってるのかわかってるのか? 
「もう悪い冗談は止めろ、ガキのくせに。」 
「む、ほのかは経験あるんだぞ!」
「・・どうせ犬とか猫とだろうが。」 
「違うよ、ちゃんと男の子とだもん。」 
意外な答えに一瞬固まった。 
なんだと・・?! 
「なっつん、どうしたの?」 
「おまえがどうしようと俺の知ったことか。」 
酷く苛々した感情が起こってほのかの手を振り外した。 
「え?なっつん、待って!」
着物のせいで歩き辛いほのかを置いて脚早にその場を逃れた。 
「なっつん!」 
声は聞こえていたが、脚は止まらず気分が悪い。 
ほのかの気配が遠ざかると何故だかとたんに寒気を感じた。 
先ほどまで腕にあいつの体温があったせいかもしれない。 
知らず立ち止まっていたらしく、足音が近づくのに気付く。 
息を切らしているらしく俺の後ろで呼吸を整えているようだった。 
「なっつん、ごめんなさい。ほのか半分嘘ついた・・」 
「半分?」 
つい振り向いてみるとほのかは目を赤くしていた。 
「うん・・なっつんにね、キスしたことあるから。」 
「・・俺と?」 
「おでこと、ほっぺだけど・・」
「いつの話だ?」 
「いつか死んだ振りしたときと、一緒にお昼寝したとき。」 
「二回目はなっつん寝てたから知らないと思う。」 
「ああ・・」 
「で、半分てのは?」 
「どっちもほのかから、だから。」 
俺が黙っていると俯きながらほのかにしては頼りなげに話出した。 
「夢ではなっつんとほのかは想いが通じてて、すごく幸せで・・」 
「なっつんからもして欲しいって思ったからあんな夢見たのかな?」             
さっきまでの苛々は何処かへ行ってしまったらしい。 
気付くと俺は寂しそうなほのかの俯く顔を持ち上げていた。 
「なっつ・・」
そうっと唇で額に触れると同時に少し滲んだ涙も拭った。
「これでいいんだろ、続き。」 
「・・・おでこ・・・」 
「なんか、文句あるのか?」 
「夢ではちゃんと・」 
「そういうのは恋人になってからだろ。」 
「・・うん!」 
「よし、笑ったな。」
そうだ、こいつの顔が曇るのはどうにも我慢ならない。
浮かんだいつもの晴れやかな笑顔に気持ちが解れるのがわかる。
「ありがと、なっつん。」 
「それでいつ恋人になる?」 
「っ・さ、さあな。」
「待ってるのって辛いんだよ?!」 
「ぶっ!!」 
「汚いなぁ、なっつん!」 
「馬鹿なこと言ってないで帰るぞ。」 
「うん、夢は正夢になったし。」 
ほのかは嬉しそうにまた腕に寄りかかった来た。
「なっつんがさっき笑ってくれたの、夢とおんなじだった。」
「ふん」
そんな可愛い顔して何を言うやらだ。
ほんとうはさっき唇に触れかけた。
こんなどうしようもないやつ、そんなもんじゃすまない。
いつか覚えてろよと誓ったことは悟られないようにする。
「いい夢だったな〜!でもね、なっつん。」
「なんだよ。」 
「現実はもっとどきどきして幸せだったよ。」 
思わず頭を掴んで乱暴に揺らした。
「あわわ・・何すんの〜!?やだ、もう!」 
「煩い!もう黙っとけ!」 
「なんでさ〜?」 
今年も振り回されそうな予感がする。
それを喜んでる自分に気付いたらお終いだ。
だが俺の願いはこいつの笑顔だ。
まったく気づくんじゃなかった。
どうかしてるぜ、まったく。
雲の晴れ間に目を細めるとほのかもそうしていた。
「真似すんな。」
「なっつんこそ。」
二人は顔を見合わせてくすりと笑うとまた歩き始めた。
「帰ったらお茶淹れるね。」
「ああ。」
「あと、苦しいから着物脱ごうかな?」
「あ?着替えなんてあるのか?」
「うん。でも脱げるかな?なっつん手伝ってくれる?」
「!?ばっ・・!!」


「ねぇなっつん、今年もよろしくね!」
ほのかが俺を見て笑っている。
そして俺もいつの間にか微笑んでいた。






新年早々、何このいちゃいちゃしたカップル!!
相も変わらずあまーい二人でした。(^^;
いつものことですが書いてても色々と恥ずかしかったです。
そんな二人ですが、今年もよろしくな気持ちで書きました。
ところで本編に夏くん&ほのかの出番っていつ?!