「ゴチソウ作ろう!」 


「なんでもかんでもとりあえず入れるな!」

耳にタコができそうなくらい聞いてる、と思う。
でもさ、なにがいけないのか?そして何故怒る!?
ほのかちゃんの頭にはいつだって疑問符が浮かぶの。
だってね、失敗ばかりとは限らないんだから。そう、
予想外にいい感じに仕上がることもあるんだからね。

ほのかはよくなっちとオヤツをこしらえたりする。
初めはほのかがなっちにつくってあげようとしたのだ。
ところが少々散らかしたり失敗したりしたもんだから
監視されるようになって、そのうちなっちがやたらと
上達して、オヤツを作る職人さんのようになってしまった。
いやあ、これもほのかちゃんの指導のたまものだと思う。

ま、それはともかくこの頃は一緒に作ったりするわけ。
お揃いのエプロンはもらいものだけど、わりかし可愛い。
なっちは女の子柄が気に入らないらしいけど似合ってる。
「保父さんみたい」と言うとむっかりしていた。
「ああ、そうだろうよ。オマエ相手だと尚更な。」
なんて憎まれ口をたたいてた。可愛くないことを偶に言う。

そんな日々の途中で嬉しいことがあった。それはね?
なっちが師匠のごとく、誉めてくれるようになったの!
これもほのかの目覚ましい上達ぶりのおかげに違いない。
スゴク優しい目でほのかのこと見るからむずむずってする。
胸の辺りが。なんとなく頬が熱くなる。なんでかは不明。

「そうそう、うん。うまく出来たじゃねぇか。」
「えへへ・・そうかな!?ウレシイじょ〜!!」

ほらまた。そうか!?照れてしまうのかな、ほのかってば。
お母さんみたいな、お父さんみたいな、(料理の)先生とか?
そんな感じだけど違う。なっちに誉められるときゅ〜っ!って
むずむずした後の胸がそんな風にもなるの。痛いんじゃなくて
嬉しいんだ。うまく言えないけど・・きっとものすごく嬉しい。

それにご褒美みたいに頭を撫でてくれるとなんかほっこりする。
ほっぺが熱くなって次に体全部がそうなる。ほかほかしちゃう。
なっちって基本優しいんだろう。無意識らしい極上の笑顔は
初めてみたときは目を丸くしてしまったし、飛び上がったかも。
そんなにしょっちゅう見れないけど、見られると超ラッキーで。
嬉しいからほのかもご機嫌になる。にやけて止まらないんだ。

「機嫌がいいな、このところ。上達してきたからか。」
「ウン、それも嬉しい。」
「他になにかあるのか?」
「それは・・・ヒミツ。」
「なんだそれ・・キモチ悪いな。」
「乙女にはヒミツの一つや二つ当たりまえなのさ。」
「ハイハイ・・そうですか。」
「この頃否定しないんだね?」
「無駄なことは諦めた。」
「失礼さはわかっておらんようだね!」

ほのかが眉間に皺寄せて抗議をしてみると、なっちはフフンと鼻を鳴らした。
あっこれは機嫌がいい顔だ。実はなっちだってヒミツの匂いがするんだよね。
ちょっと疑っているのだ。ほのかちゃんのカンは馬鹿にはできないんだから。
やっぱりいいことでもあったのかな。まさかとは思うけど・・・

「ねぇ、なっち。最近お兄ちゃん美羽とうまくいってるみたいなんだ。」
「・・・なんか機嫌が良いと思ったぜ。そりゃめでてぇな。」
「めでたくなんかないよ。とにかく男はそういうとき機嫌がいいってほんと?」
「また新島か!?それに関しては間違ってはいないだろうが・・」
「ううん、剣星のおいちゃん。そうか・・・やはりそうなのか。」
「なにを突然青ざめてんだ。まさか何かされたのか!?あのスケベ親父に!」
「い、いや。スカートめくりは最近はだいじょぶ。何もされてないよ、多分。」
「こんなガキにまで節操なさすぎだろう・・・兄とはエライ違いだぜ。」
「それよりさ、なっち・・・」
「・・なんだよ?深刻な顔して。」
「誰か好きな人ができた?はっ・もしや既に付き合い始めてるとか!?」
「なんでだよ。んなことねぇよ。」
「機嫌がいいんだもん、最近のなっち。全く自覚ないのかい?」
「それを言うならオマエだろ?・・オレはなんも変わりねぇ。」
「ほのかも!?う〜むむむ・・・」
「オマエの理屈で言うと誰か気になる男ができたってのか?!」
「ほのかは別に・・・心当たりないよ、なっち以外は。」
「オレ?!」
「友達だって好きになることがあるかもしれないじゃないか。」
「バカ言ってんじゃねぇ。おら、できたみたいだぞ。オーブン!」
「あっホントだ!」
「慌てるな、やけどする!いや待て、やっぱオレが見てくる。」

なっちの家のはちゃんと温度が下がってからお知らせしてくれるタイプだ。
だからめったに火傷はしないだろうし、しぼんでしまうこともないはず。
綺麗な最新式オーブンはなっちが買ったんだ、ほのかに安全のためにね。
だと思ってる。だってそんなもの興味ないって言ってたんだよ、以前なら。
でも一度ほのかが火傷しそうになったことがあって、その後すぐ買ったの。
その後も結局はさっきみたいに先回りするからほのか火傷どころじゃない。
心配症なんだよね・・・”過保護”だって周りの人がこっそり言ってるよ。
でもね、過保護でも甘やかしでもなんでも、それはやっぱりなっちだから。
元々が優しいんだよ。ほのかだけじゃないんだと思う・・・多分。
いまはほのかが独り占めしてるけど、いつか誰かを好きになったら・・・
そう思うとなんだかやりきれない。力が抜けてやる気がどっかいっちゃう。

「熱はねぇけど・・具合悪いならもう居間に戻って休んでろ。」
「わっ!何時の間に・・ど、どうだった!?綺麗に焼けてた?」
「ああ。いいから戻れ。ちゃんと手を洗えよ、それから・・」
「なっち、保父さんになってるよ。」
「うぐ・・お茶淹れてオレもいくから待ってろ。」

無理矢理押し戻されちゃった。ほのかどこもなんともないのにねぇ?
なっちはさ、もし好きな人がいまはいなくてもできてしまったら、
もうこんな風にほのかを構ってくれないかな、っていうか無理か・・
直ぐに戻ってきたなっちにそのことを聞いてみるかどうか迷った。

「言いたいことはとっとと言え。らしくない遠慮すんな。」
「おわ!?先制パンチきた。・・・どうしてわかったの?」
「長い付き合いだからな。」
「なっちってさすがにほのかのことわかってくれてるね!」
「まぁ一緒にいる時間が他の奴より圧倒的に多いからな。」
「あのさ、それなの。もしなっちに彼女できたらほのか寂しいなって。」
「はぁ!?そんなことか。」
「そんなって言うけど、なっちといるとすごく楽しいんだもん。だから」
「だからオマエの好きにしてる。なんか文句あるのか。」
「・・なっちは好きな人ができてもほのかを構ってくれそうだね。」
「さっきから拘ってんのはそこか。兄キのことは心配じゃないのかよ。」
「それが思ったより寂しくないんだ、お兄ちゃんのことは。それよりなっちなの。」
「オレが気になる・・ってのか。」
「ウン。なんでだかすごく。もやもやするんだよう・・・」

なっちを困った顔で見上げたら、なっちも困った顔でほのかを見ていた。
目が合うと大げさな溜息を付きながら視線を伏せた。どういうこと?

「そんなこと気にするな。オレは誰のことも好きにはならねぇ。」
「なんで断言できるの?誰にだってわかんないことじゃないか。」
「オマエに誰か男ができたら言え。そんときは・・・」
「イヤっ!!」
「まだ何も言って・・」
「絶対なっちから離れない!お願いだよう・・一緒にいたいんだ・・!」
「泣くな。アホ!人の話は最後まで聞け。オマエ忘れてるだろう、約束を。」
「約束?」
「前にな。オマエが誰のことも好きにならないならオレが・・って話だ。」
「そういえばなっち・・誰のことも好きにならないって・・・言ってたっけ?」
「オレは簡単に誰かを好きになれない。そういう性分だ。だから待ってるっつった。」
「そうか、思い出した!ほのかがこのままもてなかったら彼になってくれるんだ。」
「ったく・・これだからお子様はなぁ・・ま、いい。今度は覚えとけよ。」
「よかったぁ・・ほのかなっちがいい。他の人はもういいよ。だから待たないで。」
「へ?・・・待つな?!」
「気付いてなかったけどなっちのこと好きみたい。だから彼女になる!してね!」
「・・・・イヤ待て。今からかよ!?それはないだろ、まだ早いって。うん・・」

なっちの方が青ざめたかもしれない。慌ててるなっちは貴重でおかしくなる。
ふははと笑うと怒られた。だけどまだ慌てているらしい。なんか顔赤い・・?

「早くないよ。付き合って。」
「だっダメ。まだ・・その・・・ごほっ!」
「そんで毎日美味しいゴチソウ作ろうよ。ほのかと一緒に。」
「食い気か!?そっちかよ・・はぁ・・;」
「なっちもほのかのこと好きにならないとダメかな・・・?」

なっちは今度は困った顔でも赤い顔でもない、見たことのない顔になった。
なんていうか・・とても真面目で・・真直ぐな視線。射抜かれそうなほど。

「・・・ダメじゃねぇ。から、もうそんな顔やめてくれ。笑え。」
「ウン、いいんなら笑う。嬉しいから。ほのかなっちが大好き!」
「わ・・かったから黙れ。ったくバカじゃねぇのか、オマエ・・」
「え!?いきなりバカはないよ。どうしてなの!?」
「あとどんくらいだかしらねぇが、待つ。待ってやるからそんとき説明してやる。」
「ええっ!?おあずけ!?なにがなんだかわからないし。忘れちゃうかもだよ!?」
「オレが覚えてるから心配はいらん。それより、ケーキ、食うぞ。」
「あ、ウン。美味しそうだね!ほのか天才じゃない?!」
「そうかもな。オレが見込んだんだから。」
「おおっ!なっちも認めたのだ。ほのかスゴーイ!やったぁ!!」

ほのかは誉められてまた有頂天になった。だけどそんなほのかのことをね、
なっちはあの極上スマイルで見てくれた。胸がどきゅんっ!って撃たれたみたい。
あんまり感激したからなっちに久しぶりに飛びついてみた。怒るから控えてたの。
このときは機嫌が良かったからか、怒らないでぎゅってしてくれた。嬉しい!

「ほのかも好きな人とうまくいくとご機嫌みたい。当たってるね!」
「そんなの誰だってそうだ。はぁ・・」
「なっちはそうじゃないんでしょ?ほのかがご機嫌だとご機嫌なんだ!?ねっ!」
「・・・・当たりだ。」

なっちはフフンと、これもご機嫌なときの笑い方でほのかのおでこをピンとした。
ちょっと痛かったけど、痛いとこにちゅー・・してくれたので・・まぁいいか!







ぐわっ甘ーっ!!天然なほのかに呆れる夏さんであります。
この何年か後に(書くかどうかわかりませんが)自覚すると
ほのかは夏さんにニブイことをからかわれるのであります。