「ご褒美をあげる」 


「・・くすぐってぇ。」
「文句言うんじゃありません。」
「まだなのかよ。」
「イヤなの!?」
「くすぐったいんだよ。」
「それくらいガマンするの!」
「してるからとっとと済ませろってんだ。」
「可愛い彼女がチューしてあげてるのに・・失礼の極みだ!」
「イヤだとは言ってないだろ!?」
「怒ったじょ!離してあげない。」
「こらっ!くっつくな。」
「ヒドイ!ほのか愛されてない!」
「はーなーせ!オヤツやらねぇぞ。」
「いらない。なっちのおバカ!」
「襲うぞ?コラ。」
「襲えば!?」
「本気だと思ってねぇのか!?」
「ぜ〜んぜん!思ってませんよーだ!」

生憎人間ができてないので、いつものように憎らしい頬を抓って腹いせした。
本気を出すのは躊躇われる。そこんところをあっさり読まれているのが悔しい。
いっそ意表を突いて押し倒してやろうかと・・幾度と無く思い描いているのだが、
結局理性が克つのは、谷本に引き取られてから優等生を演じてきたツケかもしれない。

しかしそんなオレでも、毎日のような責め苦に築き上げた城を崩されつつある。

言ってしまえば、誘惑に敗北を喫した自分があちこちで顔を覗かせるようになったのだ。
例えばひっつかれたときにうっかり唇が柔らかな場所に引き寄せられたときなんかだ。
はっと気付いて踏み止まるが、ドサクサに紛れるように額に触れてみたりした前科ありだ。
ほのかが気付かなければスルーできるが、調子に乗って首筋にしたときはさすがにばれた。

「コラぁっ!なにすんの!?」

そのときほのかは顔を赤くしてオレを怒鳴りつけると同時に睨みつけた。
あんまりその反応と様子が可愛いかったので・・・オレは増長し、止められなくなった。
そもそもほのかの方がくっついてくるのだ。オレから触りにいくわけじゃない!・・・
というのは言い訳で、自分が正しいと開き直るつもりもない。そんなわけで心の中では、

”太ももを膝の上に無遠慮に乗せるんじゃねぇよ!”(それも生足だ。気持ち良過ぎる!)
”胸が当たってるっての!わざとか!?そうなのか?”(確実に育ってきてるじゃねぇか)

”んなデカイ目で人のことを覗き込んだりするな!”(かなりグっとくるんだよマジで!)
”耳元に好きだなんて囁いてくるって反則だろう!”(それってどうして欲しいんだ!?)

・・・・などと、口には出せずにアレコレと毒づいたりしてしまう。


「ひゃあっ!ヤダ、なっち!どこ触ってるのっ!」
「あ・スマン!今のは無意識だ!腰も弱いな、オマエって。」
「”今の”ってどういうこと?ぼんやりしてると思ったら・・びっくりするでしょ!」
「あぁ・・ちょっと考え事してたんだ。今のってのは・・気にするな。」
「ほのかのチューに文句つける気なの!?」
「滅相も無い。それよりほのかさん、そろそろ離してくれませんか?」
「べーっだ!離さないもんね。」
「そうですか・・はぁ・・・」
「どうして!?元気ないから励ましてあげようとしてたのに・・」
「元気なかったか?」
「ウン・・なっちは絶対グチとか言わないしねぇ・・エライけどさぁ。」

イカン・・全力で触りたくなってきた。怒るかな、怒ってるとこも好物なんだよなぁ・・
誘惑にどんどん負けていく。勝つのが信条のこのオレが・・妹に心で詫びてしまう。

”ごめん、楓。ほのかだけは特別にしてくれないか。・・勝てないんだよ、許してくれ・・”

開き直って正面から隠さずにほのかを抱きしめた。怖がらせないようになるだけ優しく。
するとぎょっとした顔をして慌てる顔がまたツボを突いてくる・・・可愛いなぁマッタク・・
頬くらいならいいかと唇で軽く触れたら、ほのかは慌ててオレの顔を押し退けた。

「ちょ・・ダメ!ヤラシイチューをするんじゃありません!」
「え?オマエがさっきしたのと同じじゃねぇかよ?!」
「えっ・・そう・・かもだけど、なんかなっちの場合はヤラシイ・・気がする。」
「そうか・・オマエはオレを元気付けようとしてたんだったな。確かにオレのとは違うな。」
「違うの?えっと・・したかったの?」
「そうだ。悪い・・」
「・・悪くはないよ。ウン。それならおんなじだもん。」
「オレはオマエが可愛くて抑えが効かなかったんだぞ?」
「っ!?そっそれなら・・全然悪くないじゃん。ほのかだって・・」
「オマエは違うだろ?」
「ウウン。いっしょだよ。ほのかもなっちが好きだから・・チューしたんだもん。」
「めちゃめちゃ嬉しいな。ならオレもオマエにキスしていいか?」
「いっいいよ。どうぞご遠慮なく!」

ほのかの唇が申し分なく柔らかくて美味いのはもちろん、恥ずかしそうな顔もオレを酔わせる。
ゆっくりと下ろす目蓋と睫も震えてる。まだ数度しかしていないが、少しも慣れる気配すらない。
触れるだけだというのに。舌を入れたくてもこの体の緊張具合からして当分無理そうに思える。
ほんの少し角度を変えて何度か触れる程度で満足した。それでも充分オレは舞い上がれるんだ。


「・・ニヤニヤしすぎだよ、メッ!」
「にやけてたか?へぇ、そうか・・」
「何を感心してるのさ。」
「オマエ相手だと調子が狂う。」
「・・なんで?」
「理性の働きがどうもおかしくなる。」
「・・・・それってほのかだけ?」
「あぁ。」
「じゃあもっと・・してもいいよ。」
「なに!?もっとってどこまで!?」
「どこって・・何がしたいのさ?!」
「あー・・その〜・・ええと・・;」
「顔赤い・・どんなことなのだね;」
「もうちょい・・大人向けのキス、とか・・?」
「なぁに?どんなの・・?」
「う〜・・いや、やっぱいい。今のは忘れてくれ。」
「・・・いいよ、しなよ。怒らないから。」
「えっ!?オマエよくわからんのに勇気あるな!?」
「そういうこと言ったり遠慮したりする方が怖くなるんだけど。」
「・・・なるほど。」
「ほのかはどうすればいいの?やり方わからないよ。」
「とりあえず・・なんもしなくていい。」
「ウン・・」


そうか、オレがおっかながるからイカンのか。勉強した。しかし調子に乗るわけにもいかんしな。
加減が難しいぜ。けどほのかの言葉に甘えてみることにした。肩に手を置いて顔を近づけた。
慌ててぎゅっと目を瞑るほのか。口元もそれに応じてキツク結ばれるのが道理で・・困ったな;
唇に触れたら益々固く閉ざしてしまった。やっぱまだ無理だったかと思いつつ、諦め悪く言ってみた。

「そのまま力込めて3つ数えたら、息を吐いてみてくれ。」
「えっ・・う、ウン・・」

ダメ元で緊張を解させてみた。唇の上で囁いたから震動でほのかは驚いて目を見開いた。
無理ならそれで仕方ないなと思っていたが、素直なほのかは再び目を閉じると力を入れて数を数え始めた。
口に出して言わなくてもいいんだが、声に出して数えるところがバカ正直というか・・可愛い。

「いっち・にい・さんっ!はぁ〜〜〜・・・」
「ぷっ・・上手い上手い。」
「笑うことないでしょ!?なっちがそうしろって言ったんじゃないか!」
「だから誉めてる。力抜けたか?」
「ウ・・!!!」

元気な返事が返る前に掴まえた。でっかい目が開きっぱなしだったがそれは構わずに。
あっさりと進入に成功した。ほのかの小さな舌はびびってたが意外にも逃げずにオレに任せた。
怯えるかと思いきや体は固まってはいるが、そういう怖れとは違って単に驚いているだけのようだ。
コレ幸いと、初めてにしては濃厚に味わわせてもらった。離すのがもったいないほど美味かった。
いつの間にか目も閉じていたほのかの口元から甘ったるい吐息が小さく漏れたことも嬉しかった。
しかしほのかは呆然としたまま動かない。一人だけ満足に浸っていたかとオレは大いに焦った。

「だっ大丈夫か・・?」
「・・・・・・・?・・あ・・」
「あ?」
「声・・出た・・」
「は?声?声が出なかったのか?」
「出るね・・不思議・・」
「どうしちまったんだ!しっかりしろ!ほのかっ!?」
「え、大丈夫だよ。すごく変な感じだけど。」
「変って・・おい・・へこませるなよ、なんだその感想。」
「自分の口じゃなくなったみたいだったんだもん。なっちのになっちゃった?みたいな。」
「え?!・・う・まぁ・・間違ってはない、な。それは。」
「でしょお!?まだ変な感じ。」
「嫌だったんじゃあ・・ないんだよな?」
「嫌じゃあない。けど・・」
「けど、なんなんだ!?」
「力抜けたまま入らないの・・どうしよう?」
「へ・・?どう・・どうすればいいんだ!?」
「えっと・・わかんない。」
「やっぱまだ早かったか!?スマン!」
「ウウン、そうだ!なっちお膝乗せて。」
「はあ!?」
「力入らないから足が・・抱っこしてよ。」

オレがポカンとしている間にほのかはさっさと行動した。力が入って無い状態に見えない。
そこにあったソファにオレをぽんと押して座らせると、よくほのかがするように膝に乗ってきた。
猫のようにオレの脚上で丸まる。そして上目遣いで命令するのだ、”撫でろ!”と。

「はぁっ・・・落ち着く・・」
「あのな・・オマエそのリアクションおかしいんじゃ・・?」
「うるさい。撫でて!ほのかドキドキして疲れちゃったの。」
「・・・・・はい・・・」

ほのかはもう一度オレを上目で睨んだが、その顔は真っ赤と言っていいほど茹で上がっていた。
なんつう・・可愛い顔してんだ!?・・・オレもまたドキドキしてきたじゃねぇかよ・・!?
顔を伏せてしまったほのかにそれ以上何と言えばいいかわからず、請われるままに髪を撫でた。
そっか、なんか・・現実を把握しきれてなかった・・のだろうか。今頃照れているようだ。
髪を撫でてやりながら、しつこく「大丈夫か?」と尋ねると首を左右に振っていた。

「スマン・・けど・・嬉しかったんだぞ?・・オマエが嫌がらなかったこと。」

オレも照れくさかったが、顔が見えないのをいいことに、正直な気持ちを伝えてみた。

「・・なっち・・」
「ん?なんだ・・?」
「また・・してね?」
「!?・・ああ!」
「//////ウン・・」

ものすごく恥ずかしそうな小声で頷くほのか。イカン・・新技じゃねぇか・・まいったな;
じっとしているのが辛かった。眼の前のほのかをさっきみたいに抱きしめてキスしたい。
けどそれは今度こそ嫌がられそうで・・オレは結局動けないままほのかの髪を撫で続けた。

しばらくそうしていると重みが変わった。あ、コイツ寝ちまいやがった。(またか・・)
オレの膝上でうずくまると、よくほのかは眠ってしまうのだ。猫みたいだと思わずにいられない。
恥ずかしさで顔を見せられなくなったからって・・こんな風に逃げるとは予想外だったな。
驚かせてオレをまた惚れ直させる。つくづくほのかは侮れない。幸せな気分に襲われた。

「オマエも結構・・気持ち良かったんだろ・・?」

ほのかにしてやられて悔しいような気分もあったので、そっと耳元でそう囁いてみた。
狸ではないらしく、返事はない。すやすやと規則正しい呼吸しか伝わってこなかった。
初めてにしては、オレたちは互いに上出来だったんじゃないだろうか。そんな気もする。
目が覚めたら、軽いキスをする。そうでないキスは・・・どうやって強請ろうか?
ほのかから強請ってくれる気もしないではない。オレは随分図に乗ってそんなことも考えた。

よくオマエがくれる”ご褒美”な。頬にくれるやつ。(今日は”元気付け”らしいが)
アレを強請ってみようか。ただし頬じゃなく・・だが。怒るかな?(多分怒るだろう)
しかしご褒美だと、オレは何か良い行いをせねばならないわけで・・何かないかな。
膝上の昼寝は・・ご褒美には至らないな。う〜ん・・困った。
オレがそんな悪巧みをしているのも知らずにほのかは眠っていた。片手でオレの服を掴んでる。
起こすかもしれなかったが、赤ん坊を抱くように抱えなおしてみた。すると眼の前にほのかの寝顔。

ご褒美は無理そうだとオレは思った。何せもう、既にもらった感でいっぱいなので。
だからそれは辞退して、お小言をもらおうかなどと更に悪い考えが頭に沸き起こった。
こんなに無防備にオレに抱かれて、そんな食ってくださいって顔して寝てる方が良くないんだ。

・・・なんてな・・・


「・・・・んん?」
「目ぇ覚めたか?」
「はあっ・・なに!?なんで?ほのか・・どうなってんの?!」
「覚えてないのか?ヒドイなオマエ。オマエから誘ったんだぞ?」
「えっ!?ウソ・・ほのか・・夢見てたのかな?あれ・・?どっちが本当?!」
「ぷぷ・・スマン。オレがウソ吐いた。オマエが起きないから勝手に続きさせてもらった。」
「続き・・って、やっぱりさっきのチューは現実!?あああっはなせっ!やだーっ!!」
「なっ嫌だったのかよ?またしろって言ったじゃねぇか!」
「だって!だってだって・・寝てるときなんてダメ!ちゃんと。起きてるときにして!」
「え?オレ今起こすときは舌とか入れてないぞ・・?」
「えっじゃあ・・ほのか・・夢っ!いやあああああっもうっなっちのばかあっ!!」
「夢見てたのかよ!?ヤラシイな、ほのか。」
「うわあああん!ばかばかばかばか!キライっ!」
「オレは好きだから夢じゃなくてホントにさせてくれよ。」
「ふぇ・や・ぅ・・ん・・」

その後は二人して夢中になった。途中ではほのかからオレに強請ったりもしたのだが、

「そっそんなことしてないもん!なっちが何度もしたがったんだよ!」と怒った。
「へぇ〜・・・?聞こえたぞ、きっちり『もっと』って。ウソ吐きですね、ほのかさん。」
「ぅう・・言った・・かも・・しんない・・けども・・・」

その困った様子があんまり可愛いので、からかって悪いと思いながらも止められなかった。
特別に”ご褒美”をもらった日だ。なんだろな、この幸せ。誰にも言えない。







甘いというより・・・アホらしい・・そんな気がいたします。