「ゲームをしよう」〜Why〜 


人を信じようとしない人ほど騙されやすいものなんだよ。
自分だけは大丈夫だと信じている人が一番危ないんだって。

私が持ちかけたゲームは誰もが知ってる簡単なもので。
何もかもが信じられずに寂しい目をした人に提案してみた。
そのゲームはもっと大きなゲームのきっかけだったのだけれど。

それは人生を賭けるゲーム、なんて言うとかなり大げさになるけど
実はそれくらいの勇気と期待は持ってた。何故だかはわからない。
私は理由を求めない質だからだ。理由は後で気付くことが多い。
けれどゲームに誘ったその人は、何にでも理由を求めているようだった。

「オセロだと?そんなもの・・うちにはないぞ。」
「そうかもしれないから持ってきたよ。折りたためるヤツ。」
「・・それで?オレと遊んで欲しいってのか、おじょうちゃんは。」
「うん、そう。ほのか絶対勝つよ。」

私が当然のようにそう宣言すると、誰もがそうなのだが信じてくれない。
ゲームを持ち掛けた人、谷本夏君もそうだった。その頃”なっつん”と呼んでた。
少し馬鹿にしたような目を向けて、少し思案した後フンと顎を突き出して言った。

「オマエ自信あるんだな。じゃあもしオレがそのオマエに勝ったら言うこときくか?」
「モチロン!じゃあほのかが勝ったらお願い叶えてくれる!?」
「ああ、いいだろう。」
「フフッ・・じゃあ早速やろうぜー!」

あのときなっちがゲームをすることを承知しなかったらどうなってただろう。
ううん、きっと引き受けるまで誘ったし、私なら強引にでも勝負に持ち込んだ。
我ながらすごい行動力だ。あの頃は今よりもっと怖いもの知らずだったんだ。
寂しそうに空を仰いだ横顔、信じることを諦めた瞳、どうしても気付いて欲しかった。

誰よりも強くなってどうするの?総てを見下した世界に立っても孤独なままだよ?
一人になりたがってるように思えるけれど、一人じゃ・・なんにもできないよ?

過去は変えられない。だから目を背けたんだね。一人が辛くて怖かったんだ。
私はそんなにも辛いことは経験したことない。恵まれて幸せだよ。だから、
幸せを感じて欲しかったんだ。どうしてって?そうしたいように見えたから。
素直じゃないけど、そうなりたいって思ってるのだと感じた。私にはそう思えたの。

こんな小さな腕だけど、抱きしめてあげられるよ。
頭は良くないけど、あなたが優しいことはすぐわかったよ。
だからね、ゲームをしよう。賭けてみよう、勝つか、負けるか。単純な勝負だよ。
私が勝つよ。信じてもらうために。この世を哀れまなくても幸せだよと。
何度でも勝負しよう。私とあなたに違うことなんかない。強さは力じゃない。
おんなじだよ。どんなに二人がかけ離れた存在に思えてもそれは関係ないってこと。
裏返してあげるよ。心の向きを幸せを感じる方へ。私そっちなら知ってるからね。

私ね、きっと好きになったんだ。あなたのことをとても。深く。
ゲームはね、単なるきっかけ。気付いてもらうための大きくて簡単な賭け。
ゲームを楽しもう。そしたら人生も・・そんなに違いないとわかる。
気持ち一つで裏返ったり戻ったり。笑っていた方が素敵だよ、笑った顔を見たいんだ。
一緒にしよう。何度も何度も繰り返し遊ぼう。いつまでたっても終わらない勝負しようよ。


「はい、ほのかの勝ち。」
「・・ぅ・そ・・だろ!?」
「現実だよ。んじゃ、お願い叶えてね!?」
「・・・わかった。けど・・もう一勝負だ!」
「えぇ〜!?お願いは次勝ったら追加だよ?」
「あぁ、それでいい。」

あの瞬間を忘れない。素顔が飛び込んできた。あなたのありのままの顔が。
ゲームのコマだけじゃない。鮮やかに変わったんだよ、あのとき、あの場面でね。
二人のゲームが始まったよ。あれから何度勝負しただろうね。数え切れない。
負けて悔しいのにちゃんと願いはなんだと尋ねてくれた。私の願いは・・・

「これからも一緒にゲームしてくれる?」
「・・・そんなんでいいのかよ・・?」
「お、叶えてくれる気満々じゃん!やったね!?」
「約束だからな。・・・・ゲームってこれのことか?」
「オセロ限定じゃなくて。」
「・・わかった。」
「へへ・・ありがと、なっつん!」
「その呼び方・・」
「いやなら勝てばきいてあげないこともないよ。」
「ヤな奴だな、オマエって。」
「ウン、そうなの。なっつんは優しいね?!」
「そのへらず口・・今にみてろよ!」

ほぉらね、素直な君は普通の男の子で、とってもいい感じじゃないか!?
やっと会えた。そんな気さえした。ありのままでいて欲しいの。・・私の前では。

負けず嫌いのあなたはあのときすっかり私に勝つことにとらわれてしまって、
これからもずっとゲームをしようね、と言った私の言葉を簡単に飲み込んでしまった。
ずっとだよ、ずっと。出て行けとはもう言えないのに。これからも一緒にいていいんだよ?
嬉しくって万歳したいくらいだった。そんな私を苦い顔つきで睨んではいたけど、
少し私のことを見直してもいるようだった。やっと向き合ってくれたんだと思う。
いつか信じてくれるといい。私のことも。この世のなにもかもだって、大差ないんだと。
優しいから傷つくことはたくさんあるかもしれないけど、一人じゃないんだから。
一緒に泣いたり、悲しんだり、楽しもうよ。ずっと傍にいていいんなら、いるよ。

「なっつん、これどうしたの!?豪華なゲーム盤!」
「買ったんだよ。オマエのっておもちゃみたいだろ。」
「確かにこのオセロ盤に比べればね。でもおもちゃだよ、これも。」
「オレんちのなんだからそれなりじゃないと似合わないだろ。」
「嬉しいね、ほのかとなっつんのオセロ盤だ!?」
「オレのだ、オレの。オマエのは余計だ。」
「必要ないとか言ってたくせに・・」
「約束だから仕方ないだろ!?これからもするんなら・・」
「そうだね。ウン。じゃあ早速勝負してみる!?」
「フン、昨日までのオレと思うなよ。」
「さっき攻略本見つけたよ。お兄ちゃんと気が合うんじゃないかな、やっぱし。」
「アイツは関係ない。そら、勝負すんだろ!?」
「ぷぷ・・おっけー!やろうやろう!?」

すっかりやる気になってるあなたは怖い顔のときとはまるで別人みたい。
寂しそうな顔も暗い瞳で見上げる横顔もきっとそのうち見れなくなる。
そうなるといい。私は信じてるよ。私の一生を賭けても勝つから、絶対に。
何故って理由なんか探さないで。出会えたことを喜んで?二人だけのゲームだよ。



「なっちも最近腕を上げたよね!」
「・・・オマエもな。」
「なんだい、その不貞腐れた顔。」
「昨日勝てたと思ったらこれだ・・」
「そりゃあリベンジしないと女が廃るよ。」
「女とか関係ねぇだろ。もう一回勝負だ、もう一回!」
「いいよう、じゃあ今日はもう一回ね。」
「おう、手抜くなよ!?」
「わかってるさ、なっち。」


もう今じゃあ考えられないほど、別れの不安はないの。
信じて賭けてみてよかった。間違ってなかったんだよ。
ほのかね、なっちのこと前よりずっとずっと好きさ。
それに知ってる。貴方の瞳の奥は今輝いているから。
貴方のほんとうの姿は思った以上に素敵だったしね。

初めての約束はこのまま破られることはないね。
嬉しいね、楽しいよ。二人一緒ならどんなことでも。

「なっち、これからもずっとゲームしようね!?」
「は?・・あたりまえだろ。勝ち逃げだけはさせねぇからな!」
「ほのかだってそうそう負けないけどね。」
「絶対参ったと言わせてやる。」
「一生かかったりしてね?」
「逃がすか。一生かかってもな。」


きっと私の瞳も輝いてる。幸せな二人の未来が見えたから。







リクエストの「Why」を元に書いてみました。
甘いので何度か改稿を試みたのですが、どうしても甘くなるので・・
これは私なりの「Why」ということで御容赦くださいませ☆