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夏からの突然のキスにいつもほのかは途惑う。
鈍いと言われるが本当に唐突に思う時もあるのだ。
そしてそんな時は決まって、苦しいほど深く長い。

「・・・っふ・っぅ・・」

嫌がっているようで心苦しいのだが、それどころではなく
涙が滲むほど困ってしまって身を捩ったりしてしまう。
離されると息はとても荒くなっていてそれも恥ずかしい。
真っ赤に染まっているであろう自分と引き換え、夏は平然。
それが悔しいような気がしてつい睨んでしまうのだった。

「・・なんでなっちは平気そうなの!?」
「・・え?」
「ほのかはこんなになってるのに・・ズルイ。」
「・・オレは顔に出ないだけっつうか・・」
「そんなのおかしい!ほのかばっかり・・」
「いやオレも・・だ!・・から泣くな!?」
「悔しいよう〜!」
「オレはオレで傷ついたぞ・・」

夏は困った顔を浮かべた。それを見て少し気は治まるが
ドキドキと胸は騒ぐしどうしても当たらずにいられず、
そんな自分が子供っぽく感じられて余計に悔しかった。
よしよしと慰められると更にむっとなるのに夏は気付かず
「怒るなって・・」とやたら年上ぶった(ような)対応をする。

「・・なっちぃ・・」
「なんだ・・?」
「ほのかとキスするの好き?」
「嫌でするわけないだろ!?」
「だよね・・はぁ・・」
「嫌なのか?オマエは。」
「嫌なら嫌って言う。嫌じゃない。」
「3回も言ったぞ・・」
「否定したんだよ!」
「じゃあ怒るなよ・・へこむ。」
「なんでよ!?」
「好きな子にキスして怒られたら普通へこむっての。」
「む・・そうか。ちょっとすっとした。」
「オマエなぁ・・」
「抱っこして。ぎゅうって。」
「ハイハイ・・」
「返事は一回!」
「ハイ。」
「よし。」

夏に抱きしめられるのは好きだ。ほのかも思い切り抱き返す。
小さめの胸が潰れるのもお構いなしにだ。気持ちがいいから。
それなのにどうしてキスは苦手なんだろうとほのかは思った。
もしかすると無意識に嫌というサインを出しているのだろうか。
だからそんな自分の反応に、夏は毎回傷付いて・・?
そう思うと申し訳ない。だけど嫌ではないのだ、本当に。
どうすればこの苦手意識の原因と解決法が見つかるかと悩む。
抱擁の後、夏は軽いキスをほのかの頬や目蓋にしたりする。
それも慰めのようでほんの少し悲しい。そう伝えるべきなのか?
大好きで今もこんなに苦しい。ただどうすればいいのかがわからない。

「そんな顔されるとお兄さん、困るんですけど。」
「お兄さんじゃないでしょ!?・・どんな顔さ?」
「不満そうな顔。物足りない・・てことはないよな?」
「よっし、ならぶっちゃけるよ。」
「う・お手柔らかに頼む・・」
「いっつも突然でしょ!?わかんないのが悔しい。それと・・」
「お、おお?」
「どうしてかほのかちっともうまくできない!ヘタかも!?」
「そんなことは・・別にいいんじゃねぇ?」
「苦しくってやめてってなるでしょお!?嫌なわけじゃないんだよ!?」
「そ、そう・・ですか。」
「もうMAXで無理ってなるの、たまに。今日みたいなのは・・」
「す・すまん;」
「なっちよそで練習とかしてないよね!?」
「するかよ!アホか。」
「よし。じゃあやっぱりほのかがヘタなんだ・・」
「いいって、それは。」
「ほのかが嫌なの!悔しい!」
「ハイ・・」
「はぁ・・言ったらすっとした。」
「悔しいのってそんだけか?オレに不満ってわけじゃないんだな。」
「ないよ?」
「オレもない。だから問題ないだろ?」
「え〜!?ないの?!」
「不満に思えってのかよ!」
「そうじゃないけど・・苦しくなるとね・・物足りないのかなって・・」
「!?すまん。悪い。」
「?」
「オマエに不満があるみたいに思わせてたってことだろ?悪かった。」
「えーと・・違う?」
「全く!」
「あれ?カン違い?」
「不満じゃないが一つだけ言うなら・・」
「あ、あるんじゃないか!」
「今みたいにもっとぶっちゃけてくれよ。」
「・・・ウン。そんだけ?」
「いくらでも。」
「へー・・じゃあ突然なのは?」
「う・あ・そっそれは・・」
「質問はダメなのっ!?」
「いや!ちょっと・・待て。その・・だな・・」
「はっきりいいなよ。怒らないから。」
「や、その・・理由ってのは特に・・」
「もおっ怒るよっ!?」
「あんまりしたがるのもどうかと思ってガマンするから、だな・・」
「はい?」
「たっ足りなくなるんだよっ!たまに・・ぶちっと酸欠みたいに;」
「・・・ほのかが足りなくなって補給しようとして?」
「そう・・スマン・・だからこう・・性急だったりしつこかったり・・」
「なっち、顔が面白いことになってる。」
「うっせぇな!こんなこと説明するのはキツイんだよっ!」
「そんなに恥ずかしい?面白いなぁ・・」
「面白いだとぉ〜!?」
「お芝居とかする方がほのかには恥ずかしいよ。正直に言うのは平気。」
「オレと真逆だな。」
「面白いね?!」
「オマエにうけてるんなら・・良しとしとく。」

夏の態度は年上ぶって見えるけど、そうでもないのかとほのかは感じた。
もしかすると態度だけで内側は反対なことだってあるのかもしれない。
そう思うとイライラも不安もどこかへ吹き飛ぶようで嬉しかった。

「なっち、大好きだ!」
「っ!お・おう・・!」
「ほのかは正直に言う方が向いてる。なっちは言えない方なんだね。」
「・・・ウン。」
「たまに素直だけどなぁ?・・・可愛い。」
「いつも思うんだが、オマエって上から目線だよなぁ・・」
「えっそうかい!?」
「オレの方が年上だったよな!?って思ったりするぞ。」
「あれぇ〜!?」
「気付いてなかったか、やっぱ。」
「なっちが年上ぶるのが嫌だな〜って思ってたんだけど。」
「ぶってんじゃねぇよ、年上だぞ!?」
「・・忘れてた。」
「・・・だろ!?」

ほのかは夏の胸に頬をすり寄せた。悩みが一つ片付いた満足感、
夏との距離も縮まったような気がして、嬉しくてほっとしたのだ。

「・・なっち、ほのかもう一回キスしたい。」
「ウン?しつこくて長くてもいいのか?」
「ぷぷ・・今まで遠慮してたんだね、ごめんね。」
「遠慮なくってのも困るんだが・・」
「なんでよ?」
「・・色々と。」
「はっきりシンプルに言いなさいってば。」
「止まらなくなったらオマエが困るだろ?」
「困らせてみれば?」
「オマエって・・オレのことなめてるだろ!」
「ないよー!もっとほのかのことが好きって示してもらいたいだけだもん。」
「年上の威厳を保ってたいんだよ!オレは!」
「そんなことほのかわかんない。年下だも〜ん。」
「このっ・・」
「悔しい?悔しかったらかかってこいなのだ!」

ほのかは結構勇気を振り絞って言った。覚悟の上というやつだ。
しかし意外にも夏はふうと長い溜息を吐いた後、ぽつりと言った。

「・・ほのかの勝ち。降参だ。」
「・・負けちゃっていいの?!」
「指が震えてるけど?いいのか?」
「あれ?!気がつかなかった。」
「オレのこと喜ばそうとしてくれてありがとな。」
「ちがうもん。ほのかが喜びたいんだよ。」
「今めいっぱい幸せを感じてるんだが、わからないか?」

震えていた指先は夏の大きな手でそっと包み込まれた。
満足そうな夏の顔にほのかの胸がぎゅっと締まって痛んだ。

「ちぇ・・誘惑失敗しちゃった。」
「失敗なんかしてないさ。いつだって。」
「しょうがないな、今日はなっちの勝ちだよ。」
「ほんとに・・勝てないなぁ・・」
「ちょびっとは悔しい?ねぇ!?」
「悔しくて死にそうなくらいだ。」
「ん〜・・じゃあ嬉しがっておこうっと。」
「わがまま娘。」
「好きでしょ?」
「大好きだ。」
「ふへへっ・・幸せ!」

手を握りあい、二人笑った。そしてもたれあい目を閉じる。
キスでなくても言葉だけでもなく、通電するような感覚。
一緒にいるだけで満たされることも、二人で学んだ。







ただいちゃいちゃしてるだけ!ですね;