「ふいうち」 


寂しいの。こんなに近くに居るのに。
二人きりなのに。逢いたかったのに。
アナタは寛いでずっと本を読んでいる。
そんなに夢中になるほど面白いの?
昔から読書家だよね、お兄ちゃんと一緒。
でもそんなこと少しも気にならなかったのに、
今はこんなことにまで・・・寂しいと感じるなんて。
贅沢・・?我侭・・?自分でも・・情けない。

ちっともワタシの方を見てはくれない。
一緒に居すぎたせいで空気みたいだと思ってる?
昔ならあの本を取り上げて、「構って!」と言ってた。
なのにどうしちゃったんだろうね、ワタシ。
煩いなんて言われ慣れてるはずなのに・・
言われることが嫌なんじゃない、そう思われたくないの。

ねぇ、こっちを向いて。ワタシをいつもみたいに
抱き寄せて、キスして?・・・って言えない・・
もしワタシからアナタに触れたら、驚くかしら。
そっと近付いても視線は本に注がれたまま。
どうかその瞳をワタシに向けてください。

気付いているんだと思う、いくらなんでも。
だけどまだワタシのすることまでは気付いてないよね?
アナタの瞳を覗き込むように息を詰めて近付く。
やっと本から離れた瞳は澄んでいて湖みたいだと思った。
吸い込まれるようにワタシも瞳を開けたままで
アナタの唇にワタシのをゆっくりと押し付ける。
見つめていた瞳はほんの少しだけ驚きを浮かべた。
ワタシは胸がずきんと痛むのを感じながらそっと離れた。
何も言わずにじっと視線を絡ませたままの二人。
不安になって口を開いたのは・・ワタシからだった。

「・・何か言って?」
「・・珍しいな。」
「驚かないんだね。」
「オマエの眼を見たら、わかったからな。」
「・・なんだぁ・・」
「驚かせたかったのか?」
「ウウン、こっちを向いて欲しかっただけ。」
「成功したのになんでそんな浮かない顔してんだ。」
「・・嬉しくなさそうだったから。」
「そうか?結構・・喜んでるんだが。」
「ウソばっかり。ほのかのことなんて忘れてたくせに。」
「オマエからもたまには誘われたいから・・待ってたんだよ。」
「わざとだったの!?ヒドイ!!・・・寂しかったのに・・」
「・・・悪い・・」
「許さないんだから。」
「どうすればいいんだ?」
「自分で考えて。知らないっ・・」
「じゃあまた待つか。」
「どうしてっ!?・・・やだ・・なっつんのばかぁ・・」
「だから言ってるだろ?オマエから誘惑されたいって。」
「どうしたらいいのかわかんない。」
「じゃあもう一度してくれよ。」
「もぅやだ・・さっきだって勇気出したんだよ?」
「オレばっかり欲しがってるんじゃ不公平だろ。」
「・・・ほのかからされたら嬉しい?」
「ああ。」
「しょうがないなぁ・・じゃあ今度は眼を瞑ってね?」
「わかった。」


アナタの綺麗な瞳が閉じられるのは少し物足りない気もした。
それでも不意打ちでないのなら見られているのは恥ずかしい。
じっと動かないアナタの首に腕を回してみる。
胸のどきどきを押さえ込んで、さっきより強く押し付けた。
唇の弾力にくらりと眩暈を感じて離すと開かれた瞳に逢う。

「もう終わりか?足りないぞ。」
「ぅ!・・・もぉ・・」

顔が勢いよく熱くなったけど、再び閉じられた瞳が待っている。
勇気を振り絞ってアナタに教えてもらったとおりに・・できるかな?



上手くできたのかどうかわからないけど、失敗ではなかったみたい。
途中からどうでもよくなってしまったんだけれど。
アナタの腕が強くワタシの身体を抱きしめてくれるのが幸せで・・
もうどちらからかわからないけど、長く繋がっていた。
苦しくなって離れたときの息が荒くなっていて恥ずかしい。
すぐにまた引き寄せられたときは、もう身体全部が熱かった。


・・・ワタシ アナタを 誘ってた・・?
そう・・誘ってた・・こうして・・欲しくて
アナタもそうでしょ・・? だっていつも・・
ワタシを・・こんな風に・・抱きしめてくれる
・・・だから 寂しかったの・・早く 欲しくて




少し眠ってしまってたみたいで気付くと間近の瞳。
やっぱり湖みたいに深く澄んでいて・・綺麗・・


「・・寝ちゃってた・・」
「・・だな。」
「また見てたの?」
「見てないと拗ねるだろ?」
「ぅ・・寝てるときはいいよ。」
「遠慮すんなよ。」
「してない!」


窮屈なくらい囲まれたアナタの腕の中が好き。
困るくらい近くで見つめられるのも。
苦しいくらい抱きしめられるのも大好き。
不意打ちは失敗したけど、もういいの。


「なっつんて、不意打ちが得意だよね?」
「・・そうか?」
「ウン、ほのかは苦手みたい。難しい。」
「でもまた頼むぜ。」
「え〜?・・どうしようかな。」
「待ってるから。」
「・・そんなに誘惑されたい?」
「まぁな。」
「素直だね?・・うーん、じゃあまた今度ね。」
「楽しみが増えた。」
「でもあんまりほのかから眼を離しちゃダメだよ?」
「そうだな、拗ねるわ、怒るわ、終いに泣き落としだからな。」
「なによぅ!イジワルするからでしょ!?」
「結局オレの負けなんだからそんくらい勘弁しろ。」
「なっつんの負け?いつも?」
「勝てる気しねぇしな・・」
「・・・ならほのかからもたまには誘惑してあげる。」
「お手柔らかに。」
「それはウソでしょ?!」

アナタが可笑しそうに笑ったのは正解だから?
きっとそうなんだ、嬉しそうだもの。
じゃあもう遠慮しないでどんどん誘惑するよ。
・・・でもどうやったらいいのかな・・・

「でもなっつん・・誘惑ってどんなの?」
「別に・・オマエの場合・・あんまり必要ないかもな。」
「?・・それじゃどうしようもないじゃない。」
「そうだな、・・さっきみたいに見るってのも効果あるぜ?」
「・・なっつんのことを見るだけ?」
「ああ。」
「そんなの・・いつも見てるのに?」
「よく言う・・やっと最近だぞ?あんな風に見るの。」
「そんなことないよ。いつでもなっつんのこと考えてるもん。」
「へー・・?それはそれは・・」
「信じない気!?なっつんだってすぐほのかのこと忘れるし!」
「忘れたいくらいだぜ、少しくらいは。」
「ん?・・それじゃあまるでなっつんがほのかに夢中みた・・」
「ちっともわかんねぇで・・ばーか。」
「ばかだよ・・なっつんに・・夢中だもん。」


寂しさは嬉しさと幸福にすっかり換わってしまった。
アナタだけがワタシの寂しさを消し去ってくれるの。
だからまた寂しさを感じたときは・・・
アナタの唇にもう一度ふいうちしてみよう。
そして瞳の中を見せてね?きっとワタシが居る。
アナタにもいつでもふいうちして来て欲しい。
いつでも想ってるってきっとわかってくれるでしょう?







裏には・・・ならない!と開き直ってます。(苦笑)
え、だってその・・バカっぷるであることは間違いないですがね。
行間にあったことを想像するかしないかは、読む方の自由デス!
と、そういうことで。じゃっ!(逃)^^