EMPTY 


カラカラに渇く。あっという間にだ。
理由はおそらく・・単純なこと。
息をするようにオレは求めてるのだ。

堪えきれずに手を伸ばす。華奢な体を拘束する。
苦しげに喘ぐ声が漏れてもすぐには離してやらない。
泣いてもがくとようやく解放する。途端に睨まれる。
当然だろう。殴られても仕方のないことをしている。
荒い息も涙の滲む紅潮した顔も、いつも存分に堪能する。

何故そんなに平然としているのかと断罪される。
そう見えるだけだと説明するが理解に苦しむのか
悔しがって地団太を踏む。可愛い理由に呆れる。
ただ・・「ズルイ」はないだろうと少々へこむ。
オレだってかなり必死なのだ。切実な事情がある。

「そんなのおかしい!ほのかばっかり・・」
「いやオレも・・だ!・・から泣くな!?」
「悔しいよう〜!」
「オレはオレで傷ついたぞ・・」

空っぽになると感じる、この感覚をどう伝えればいい?
もどかしくて喉から手が出るとはこういうことかと実感する。
粉々にして全て飲み干して欲しいと願う、そんな愚かな感情。
この情けないオレを曝け出したいとか、普通じゃない。そう、
「怒るなって・・」と慰めるオレは救いを求めているのだ。

「・・なっちぃ・・」
「なんだ・・?」
「ほのかとキスするの好き?」
「嫌でするわけないだろ!?」
「だよね・・はぁ・・」
「嫌なのか?オマエは。」
「嫌なら嫌って言う。嫌じゃない。」
「3回も言ったぞ・・」
「否定したんだよ!」
「じゃあ怒るなよ・・へこむ。」
「なんでよ!?」
「好きな子にキスして怒られたら普通へこむっての。」
「む・・そうか。ちょっとすっとした。」
「オマエなぁ・・」
「抱っこして。ぎゅうって。」
「ハイハイ・・」
「返事は一回!」
「ハイ。」
「よし。」

抱きしめる。もちろん加減している。潰れてしまうから。
ほのかが嬉しそうに身を摺り寄せ、弾力を更に押し付ける。
苦しくて腕が痺れる。力いっぱいに抱きしめたくなって。
オレは強くしてもらってるのかそれとも弱くされてるのか。
護りたいのに、壊したい。矛盾だらけで笑いすら誘う。
宝物のような体をそうっと離すと、目や耳や、頬に触れる。
触れてもいいのだと赦されることはなんという断罪だろう。
命はあまりに重い。知らないときあれほど軽かったものが

愛しさをそこに見出しただけで命は数百倍も質量を増すのだ。

「そんな顔されるとお兄さん、困るんですけど。」
「お兄さんじゃないでしょ!?・・どんな顔さ?」
「不満そうな顔。物足りない・・てことはないよな?」
「よっし、ならぶっちゃけるよ。」
「う・お手柔らかに頼む・・」
「いっつも突然でしょ!?わかんないのが悔しい。それと・・」
「お、おお?」
「どうしてかほのかちっともうまくできない!ヘタかも!?」
「そんなことは・・別にいいんじゃねぇ?」
「苦しくってやめてってなるでしょお!?嫌なわけじゃないんだよ!?」
「そ、そう・・ですか。」
「もうMAXで無理ってなるの、たまに。今日みたいなのは・・」
「す・すまん;」
「なっちよそで練習とかしてないよね!?」
「するかよ!アホか。」
「よし。じゃあやっぱりほのかがヘタなんだ・・」
「いいって、それは。」
「ほのかが嫌なの!悔しい!」
「ハイ・・」
「はぁ・・言ったらすっとした。」
「悔しいのってそんだけか?オレに不満ってわけじゃないんだな。」
「ないよ?」
「オレもない。だから問題ないだろ?」
「え〜!?ないの?!」
「不満に思えってのかよ!」
「そうじゃないけど・・苦しくなるとね・・物足りないのかなって・・」
「!?すまん。悪い。」
「?」
「オマエに不満があるみたいに思わせてたってことだろ?悪かった。」
「えーと・・違う?」
「全く!」
「あれ?カン違い?」
「不満じゃないが一つだけ言うなら・・」
「あ、あるんじゃないか!」
「今みたいにもっとぶっちゃけてくれよ。」
「・・・ウン。そんだけ?」
「いくらでも。」
「へー・・じゃあ突然なのは?」
「う・あ・そっそれは・・」
「質問はダメなのっ!?」
「いや!ちょっと・・待て。その・・だな・・」
「はっきりいいなよ。怒らないから。」
「や、その・・理由ってのは特に・・」
「もおっ怒るよっ!?」
「あんまりしたがるのもどうかと思ってガマンするから、だな・・」
「はい?」
「たっ足りなくなるんだよっ!たまに・・ぶちっと酸欠みたいに;」
「・・・ほのかが足りなくなって補給しようとして?」
「そう・・スマン・・だからこう・・性急だったりしつこかったり・・」
「なっち、顔が面白いことになってる。」
「うっせぇな!こんなこと説明するのはキツイんだよっ!」
「そんなに恥ずかしい?面白いなぁ・・」
「面白いだとぉ〜!?」
「お芝居とかする方がほのかには恥ずかしいよ。正直に言うのは平気。」
「オレと真逆だな。」
「面白いね?!」
「オマエにうけてるんなら・・良しとしとく。」

かっこ悪い。ほのかにだけどんどんと晒されていく数々痴態。
ただ好きになるだけならこうはならないだろう?オマエは何者か!?
生きていくのにこれほど必要とするなんて、誰よりもオレには奇跡だ。

「なっち、大好きだ!」
「っ!お・おう・・!」
「ほのかは正直に言う方が向いてる。なっちは言えない方なんだね。」
「・・・ウン。」
「たまに素直だけどなぁ?・・・可愛い。」
「いつも思うんだが、オマエって上から目線だよなぁ・・」
「えっそうかい!?」
「オレの方が年上だったよな!?って思ったりするぞ。」
「あれぇ〜!?」
「気付いてなかったか、やっぱ。」
「なっちが年上ぶるのが嫌だな〜って思ってたんだけど。」
「ぶってんじゃねぇよ、年上だぞ!?」
「・・忘れてた。」
「・・・だろ!?」

ほのかがオレを今日も温かく湿らせる。死ななくて済んだのだ。
砂漠のような世界から差し伸べられた、生きる意味と価値。

「・・なっち、ほのかもう一回キスしたい。」
「ウン?しつこくて長くてもいいのか?」
「ぷぷ・・今まで遠慮してたんだね、ごめんね。」
「遠慮なくってのも困るんだが・・」
「なんでよ?」
「・・色々と。」
「はっきりシンプルに言いなさいってば。」
「止まらなくなったらオマエが困るだろ?」
「困らせてみれば?」
「オマエって・・オレのことなめてるだろ!」
「ないよー!もっとほのかのことが好きって示してもらいたいだけだもん。」
「年上の威厳を保ってたいんだよ!オレは!」
「そんなことほのかわかんない。年下だも〜ん。」
「このっ・・」
「悔しい?悔しかったらかかってこいなのだ!」

オレにもっと触れていいと誘う指先は小刻みに揺れている。
強い。眩しいほど。どうすればそんな風に強くいられる?

「・・ほのかの勝ち。降参だ。」
「・・負けちゃっていいの?!」
「指が震えてるけど?いいのか?」
「あれ?!気がつかなかった。」
「オレのこと喜ばそうとしてくれてありがとな。」
「ちがうもん。ほのかが喜びたいんだよ。」
「今めいっぱい幸せを感じてるんだが、わからないか?」

慎重に指先ごと包み込む。甘い痛みが胸を深く刺す。
一滴の血も他には換え難い。力が湧いてくる。無限にだ。

「ちぇ・・誘惑失敗しちゃった。」
「失敗なんかしてないさ。いつだって。」
「しょうがないな、今日はなっちの勝ちだよ。」
「ほんとに・・勝てないなぁ・・」
「ちょびっとは悔しい?ねぇ!?」
「悔しくて死にそうなくらいだ。」
「ん〜・・じゃあ嬉しがっておこうっと。」
「わがまま娘。」
「好きでしょ?」
「大好きだ。」
「ふへへっ・・幸せ!」

そうだな、こんな幸せを感じることができるなんて
なんてことだろう。何もかもを切り開く魔法のような
オマエだけで生きていける。護らせ給えと祈り捧ぐ。







「FULL」の夏サイドでした。
彼は信じる心を与えられたのだと思う。