Effect  


何事も結果は体験してみるまではわからない。
しかしわかるのは全てではない。概要だけだ。
それでも知れば物事は少しずつ世界を拓いてゆく。
ずっとわからないままのものも存在するのだが
それはそれでいいのだということも理解した。

俺の相棒は出逢ったときは子供らしい子供だった。
付き合いが続くと思ってもみなかった。振り返れば
それを望んだのは己だ。俺も子供だったということ。
しかしいくら望んでも叶わないことはままある。
ほのかは女で俺は男だった。知る前から決まっていた。
どう足掻いても転んでも選択肢は僅かしかなく、
俺はといえば、抗う術もなくほのかを選んでいた。

年頃になってくると当然ながら変化はやってきた。
日毎女らしくなる相棒はしかし、意外なことに
俺の前では子供でいたがった。大人にはなりたいように
見受けられたいたので途惑う。直ぐに予想は付いた。
いつの間にか俺がほのかを特別視していたことは
無意識であれ影響していると思う。悲しいくらい俺は
男で。抑えつけても欲望が芽吹く。手に入れたくなる。
しかし相手は当然だが世界中でたった一人の存在だ。
一番危険な存在である己からも護ってやらねばならない。
幸福と幸運に眩暈してうっかりや間違いは許されない。

幸い他の女のように意識的に俺に迫るようなことはない。
無意識なのは間違えなければ嬉しい意味で受け入れられる。
ほのかが最初に俺に危険を感じ取ったのはいつだったか・・
うっかり触れたあのときかもしれないし違うかもしれない。
いずれにしても本能的に察したのだ。警戒色は予防線となった。

無邪気なのは素でもあったが、大げさと感じることもある。
子供っぽさに隠しても、隠し切れないほどほのかは女だったが
本人はそれが受け入れ難いようだ。無理矢理にさえ思える。
なるべく距離を測った。近付きすぎないよう触れないように。
けれど特別扱いにはひどく歓ぶ。半信半疑、のようなものか。
独占欲をチラつかせられたりすると付け上がりそうで参った。

周囲からアレコレ邪推されることも増えてきて厄介になった。
疚しさはあるが、疚しいことはしていない。手出しできない。
ほのかが望むなら友情に似たごっこ遊びでも付き合ってやれる。
あまりに無防備なときは梃子摺るが、それも飽きなくされる。
惚れてしまえばの格言通りに俺は翻弄されるばかりなのだ。

俺が女だと思ってない、そう思い込もうとしているのか?

ほのかの態度からそう感じた。それは男でもわかる気がする。
危険だとわかっていての好奇心とは別物だ。ほのかは俺を
信頼している。だから信用したいのだろう。厚意とも言える。
応えてやりたい。日々綺麗になっていくのを眺めているのは
辛さよりも歓びが勝る。笑いかけられる度に幸せになれる。
願わくばこのまま誰にも心と体を奪われずに傍にいてほしい。
祈るように想う。尊い心根そのままに優しい眼差しでいつまでも。
誰がなんと言おうと譲れない。誓いに似た決意だった。

『夏くんはほのかをどうしたいの?』

ほのかの兄はさすがに問わずにはいられなかったんだろう。
俺も立場が同じなら気にもする。誰より大切な妹なのだから。

『妹さんの代わりなのかい?今も?』
『違うのかい。・・そうか、それなら・・』

最初から妹とは思っていない。ほのかはほのかだった。
確かに男女は関係なかった。どちらも望んではいなかったのだ。
一緒に過ごしてもそういう柵のない二人は心地良く傍にいられた。
ただ時が経てば、いつまでも忘れたままではいられないと知って
いや、知っていたというより気付かない振りで過ごしてきた。
そこが二人の似通ったところだ。ほとんど共通項のない二人の
想いだけがとても近かった。互いがそれぞれ磁石の正負のように
自然と引き合う。それ以外の何が隔てていても関係なかった。

にしても・・この頃のほのかは揺れている。どっちつかずに。
好いてはくれているんだと思う。だがそれは自惚れかもしれない。
子供のままでいたいと願うのは男と女になりたくないと思えるから。

「・・今回は考えてなかったのか?」
「え?・・あーそうだった。何にしようかな。」
「そういえばさ、なっちが勝ったときっていっつも・・」
「ああ?」
「何々するな!とか禁止事項ばっかりだね、最近。」
「無自覚なヤツに苦労してんだよ。」
「過保護じゃのう。ほのかは変わらないというに。」
「だから尚更危険だろうが。そのうち胃に穴が開きそうだぜ。」
「・・・苦労性だねぇ・・ほのかだって気を付けてるんだよ。」
「俺の前では気を抜いてるだろう?・・・・俺も男なんだぞ。」
「なっちまでそんなこと言う・・」
「そんなに大人になりたくないのか?」
「!?・・・・・ばれたか。」
「どうしたってなるもんなら先延ばししたいってとこだろう。」
「なんで・・なっちもそうだったりするの?」
「いいや。俺は別に・・もう子供じゃないと知ってるだけだ。」
「子供でいたいって思うのは・・ダメなの?」
「しょうがねぇな・・まぁ俺の前だけなら・・勘弁してやる。」
「・・・さんきゅっ」
「そんなに怖がられるとなぁ・・俺だって結構傷つくんだぞ。」
「なっちは怖くないよ!そんなこと思ってない。」
「じゃあ・・思え。そうした方が楽になる。」
「・・・・ヤダ。やだやだやだっ!!」
「ほのか!」

大きく首を振ってほのかは大粒の涙を零した。慌てて手を伸ばす。
泣かせるつもりはなかったが結果的に俺が泣かせてしまったのだ。

「なっちは違うもん!男じゃない。ほのかだって・・女じゃないよう!」

わかった。わかったから泣き止めと願いを込めながら抱き締めた。
抵抗は覚悟していたが少しもなく、ほのかからも手を伸ばしてくれた。
今は男ではなく、ほのかの望む兄のような友人のようなもので構わない。
だからそんなに切ない顔をするなと覆い隠す。そんな顔も可愛いとか
想ってしまう自分が情けない。どこをどう叩かれても俺は危険な野郎だ。
つい溜息が出る。ほのかを撫でながらそんな俺でも受け入れて欲しいなどと
この期に及んでも願おうとする己に頭を下げることしか思いつかない。

「はぁ・・泣かせたか・・こうなったら好きなだけ泣いとけ。」
「・・・なっちのあんぽんたん・・・」
「へぇへぇ・・そうかよ。」
「なっちなんて・・女なしでずっとほのかだけで満足してればいいんだよ。」
「そりゃお前がいいんなら、そうするが・・?」
「う・・ずっと甘えてたい。子供のままでいい。それじゃダメなんでしょ?」
「そうだなぁ・・辛いんだが・・まだ待てるから心配すんな。それになぁ?」
「・・?」
「今みたいに甘えてくれんなら・・わりと大丈夫かもしれねぇ。うん・・!」
「なにそれ・・危ない人みたいだよ、なっちぃ・・」
「だな・・お前に逃げられないならなんでもいい。」
「そんなに・・ほのかのこと・すき?」
「多分お前が想ってるよりずっとな。」
「・・・・・どうしよう、結構嬉しい。」
「けどやっぱもうちょい・・成長してくれ、精神的に。」
「いいって言ったじゃん!!」
「いいとは言ったが辛いんだよ!」
「そんなの知らない。」
「くっそ!手強いな。」

駄々を捏ねても甘えても何してもほのかは可愛い。愛しい。息が詰る。
もうどんな理由だっていい。こうして腕の中に抱えていられるのなら。
言葉ではとても伝えきれない。かといってこれ以上触れるのもダメとなると
俺はどうすればいいんだ。今だって必死に闘っているのに。泣き顔ヤメロ。
すまん、ほのか。俺はやっぱりお前のことが・・・







「Cause」と対になっておりますv