「どうすんだ!?」 


ちょっと目を離すとこれだ・・ほのかは外人に捕まっていた。
道を聞かれてる風だが、わかったもんじゃない。・・やれやれ・・
本人曰く親切そうに見えるからだそうだが、ぼやっと歩いてるからだ。
大体子供に尋ねるか!?場所や言葉に不案内な奴だとするならば。
オレの視線と近付く気配に、ソイツはいきなりほのかの手を取った。

「Thank you,cute girl! Good bye〜!」

早口でほのかが理解できずにぽかんとしている隙に
ソイツは派手な音を立てて頬にキスをして行きやがった。
逃げるように去って行くのを思わず引きとめようしたとき、
驚いて目を丸くしたままのほのかがオレに駆け寄ってきた。

「なっつん!びっくりしたぁ!ほのかチューされちゃったよ!?」
「・・なに喜んでんだよ。」
「いやびっくりしたんだってば。」
「ぼけっとしてるからだろ!」
「なんだい、何怒ってんのさぁ!?」

オレは大股で歩き出した。何故だか無性に腹立たしい。
後ろからほのかが待てと言いながら小走りについて来る。
それを感じていながら、歩く速度を弛めてはやらなかった。
家に着くとほのかは少し息を切らしていて、オレに文句を唱えた。

「なんなの!?用事でも思い出したのかい!?」
「別に。オマエが遅いんだろ、オレはいつも通りに歩いたぞ。」
「じゃあいつもはほのかのためにゆっくり歩いてくれてたんだね?」

言葉に詰まった。悔しかったがその言葉通りだったのだ。
ほのかはふうーと息を長く吐くと、満足したように笑った。

「ねぇねぇ、なっつん!」
「何だよ?」
「なっつんの方がよかった。」
「・・?」
「あんな知らない人よりなっつんにチューして欲しい。だからして?」
「アホか!?なんでオレがオマエにそんなことしなきゃなんねーんだよ!」
「ダメぇ・・?」
「あんな礼儀知らずな外人と同じ真似ができるか!」
「お礼のつもりだったんじゃない?まねしてって言ってるわけじゃ・・」
「オレはオマエにそんなことする理由なんかねぇ!馬鹿言ってると追い出すぞ。」
「ちぇ・・なっつんのケチ!」
「誰がケチだと?!」
「わかったよもう・・怒りんぼ!」

ほのかはころりと機嫌を直すと、オレにオセロ勝負をねだった。
イヤな予感がしたので一応断っておいた、「・・キスしろとか言うなよ?」
「それは勝負に勝ってから考えるよv」
「・・絶対負けねぇ・・!」

断じて負けんと気合を入れた。なのに・・目の前の盤面は後半鮮やかに反転した。
信じられない。敗因となった一手はあそこか!?悔しさで歯噛みした。

「へへ・・勝っちゃった!」
「どこへ遊びに連れてけって?」
「違うよ、キスだよ!」
「ダメだと言っただろ!?」
「なんでダメなのさぁ!?ほっぺにするくらいいいじゃんか!」
「オレはイヤだからな。他のにしろ、他に。」
「イヤー!ほのかチューするーっ!なっつんさせてよう!」
「・・・オレに?オマエが?」
「なっつんがイヤならほのかがする。あ、そんならいいの?」
「なんでそんなことしたいんだよ、オマエは・・」
「なんでそんなにイヤがるんだい、なっつんは。」
「う・・」

なんでって・・なんでこんなに・・嫌がってんだろうな・・?
とにかくあの外人野郎があんなことしやがってあれからずっと気分が悪い。
やっぱり捕まえて一発殴っときゃよかった。むしゃくしゃして仕方ない。
ぽかんとしたほのかの顔は無防備で、頭を殴られたみたいな衝撃を感じた。
”なにしてんだ!?”と今思い出しても腹が立つ。オレの目の前で・・・



「・・スキありっ!!」

ぼんやりしていたオレにほのかが飛びつき、頬に衝撃を食らった。
柔ら・・なんだこれ・・・!?

「やった!チューしてやったのだ!!」
「!?」

オレの頬に押し付けられたのはやはり、その・・

ほのかの頬は薔薇色に染まっていた。珍しいことに照れているらしい。
オレは慌てて片手で顔を覆い隠した。何故だか顔が弛んでしまう。

「なっつんもしかして照れてる!?」
「なっ・オマエだろ、それは!」
「え〜、そんなことないもん。なっつんは顔紅いよ?」
「紅いのはオマエだ!」
「違うー!ほのか紅くなってなんかないよ!」
「このっ・・」
「はうあ!?」
「オマエむかつく!ちょっと・・・・」
「ちょっと、なに?お仕置き〜?」
「・・・どうすりゃ・・いーんだ・・?」
「ぷふふ、お仕置きに困ったのかい?お兄さんv」
「こんなときだけ妹ぶるな!」
「抱っこ嬉しいよ!もっとぎゅうってしてして!?」
「ちっとも・・困らないよな・・はぁ・・・」

オレは盛大な溜息と一緒に抱き寄せたほのかを解放した。
そもそもどうしてこんなことしたのか、かなり・・間違った。
むかついて、それでほのかをどうしたいんだ?と自問する。
困らせたいのか、へこませたいのか、それとも・・・

「ねぇねぇ、そういや外人さんになんで怒ったのー?」
「・・あれはなんだ、オマエがぽけっとした顔見せたりしたから・・」
「でもほのかよりあの人のこと睨んでたよ?」
「そ、そりゃあんな胡散臭い奴!馴れ馴れしい・・って・・」
「ふぅん?外人さんだからあんなもんじゃないの?」
「オマエまさかしょっちゅうあんなことされてんのか?」
「よくされるのはねぇ〜、ナデナデとか。ハグは友達とはいつもだし・・」
「男だ、女はカウントしなくていい。」
「え?そうすると、お兄ちゃん、お父さん、それから・・」
「身内以外でだ。イライラするなぁ、オマエってマジで。」
「なっつんのイライラのツボがわからないよ。あとはなっつんでしょ?」
「あの外人だけか?キスされたのって。」
「うーんと・・ない・・かな?忘れた。だからびっくりしたんだよね、きっと。」
「そうか・・・とにかくオマエはもうちょっと警戒心を持て!」
「悪い人っぽくなかったし・・」
「見た目関係ない。男は全部!当たり前だろ、そんなの。」
「・・・なっつんも入ってるの?それ。」
「え、オレ?ォ・・オレは・・・う・・・」
「?なっつんはいいことにしてよ、じゃないと困るよ!」
「え、えー・・・まー・・・その・・」
「なっつんだけは特別ってことでハイ、決まり!」
「ちょっちょっと待て。なんかその・・納得していいのかどうだか?」
「もういいよ、面倒!夏さんはキスでもなんでもありということでいいです。」
「勝手に決めるな!オレがそうしたいみたいじゃねーかよ!?」
「違うの?なにを悩んでたのさ?」
「そっ・・そうだな。悩む必要ない、オレのことも警戒しろ。・・少しくらい・・」
「うーん・・・少し?」
「・・・・そう。」
「今すごーく困ってるね、ちみ。・・わかんないなぁ。」
「わからんでいい。・・オレもなんか・・よくわからん!」
「ま、いっか。そうするー!」

うやむやな結果になったが、ほのかは別段気にしてはいない。
ほっとしたような、もやもやするような・・なんなんだ、これ!?
”オレだけはほのかになにしてもいい”とか言われたときの動揺は半端なかった。
深く考えるのはやめよう・・・ものすごくコワイ結論が出そうな気がする・・・
オレがようやく落ち着きを取り戻しかけたとき、ほのかがオレに思い出したように言った。

「あ、そうだ。でもチューするときは予告してね?びっくりするからさ。」
「・・・・オレが・・?オマエに!?」
「ウン?そうだよ、ヨロシクー!さてさて、なにして遊ぼうかな〜♪」
「いや・・それ・・おかしいだろ?オマエもちょっとは疑問を持たないか?」
「んーん?なっつんがほのかにしてくれたら嬉しいし。」
「あ、そう・・・結局オマエオレは身内扱いな訳だな・・?」
「あぁ!?それがイヤだったの!?わかったよ!だいじょぶ、ちゃんとどきどきするもん。」
「・・・・」
「ゆったでしょ?特別だって。やだねぇ照れるよ、今度こそ。」

ほのかは頬を染めて笑った。・・問題は今確実にオレはほっとしたってことだ。
そうか、そうなんだな。困ったな、オレは自分の立ち位置ががらりと変った気がした。
もしかしてそう望んでたのはオレ?オレだったのか!?・・・
これから先、もっと困るんじゃないのか!そうなると。おいおい冗談じゃねぇぜ!

「なぁ、どうすんだ・・?」
「どうって、何を?」
「どうって・・・」
「?・・キスしたくなったの?」
「や、そうなったらどうすんだよ!?ってことだよ。」

ほのかがオレのすぐ傍までととっと駆け寄ってぴたっと張り付いた。
何やってんだ?これまさか、どうぞ!ってな意味か?
ほのかがオレを見上げてにこりと微笑んだ。やっぱかわいいな・・・って、オイッ!!

「なっつん、ダイスキだよ?」

トドメを食らった。もうどうにでもなれって、・・・こういうときにも使うんだな。








ほのがが言ってるのは頬なのに、夏くん違うとこにしそうだよね!?(笑)
甘い方の「しまった!」と似てますが、夏君の成長度が違うんです。(^^;