「ドラマティック」 


それは少し遠い街のテーマパークへ遊びに行った帰り道。
初めての街は賑やかで釣られて浮かれてしまっていたかもしれない。
連れて来てくれた人の傍に居たつもりだったのに見失ってしまった。


「・・アレ!?なっつん、なっつ〜ん!」
「見えないなぁ・・どこ行っちゃったんだろ!?」
「えっと・・路分かれてるし。・・どっちだろ!?」
綺麗なディスプレイに見惚れたせいかもしれないし、捕まってた腕を離したせい。
遠くによく似た人を見かけて追いかけて路地に入ったら余計ややこしいことに。
ウロウロしてたら、なんだか変なとこ来ちゃったよ・・
「どうしよ・・携帯も圏外になってるよぅ〜!」
これしきのことでめげるほのかちゃんじゃないんだけど、日が暮れてきたなぁ。
「と、とにかくアンテナ立つとこまで行こう。うん、そうしよう!」


ほのかを見失った人はその頃元来た道を辿ったりしていたみたいで。
「あの馬鹿は〜!・・・もしかしたら路地に迷い込んだか・・?」
冬の日暮れは早く、辺りは薄暗かった。日没まであっという間だ。
オレもうっかりしたものだ。アイツを見失った自分を恥じた。
焦りで気が急く、落ち着けと自分に言い聞かせてみたとき携帯が鳴った。
「今どこだっ?!」
「ふぇぇ・・なっつ〜ん!!通じて良かったよぅ〜!ここ何処〜?」
情けない声が耳に届くと少し安堵した。”・・泣いてんじゃねぇよ・・・”
「とにかく今居る場所を知らせろ。行ってやるから。」
「わかんない。ここ暗くてコワイよぅー!」
「ったく・・落ち着け。見えるものとか言ってみろ。」
「・・・何にもないよぅ・・?うぇ・・」
「泣くな。何もないわけないだろ!?」
「えっと、えっと・・だってビルばっかりだし。」
「やっぱ路地裏に迷い込んだんだな・・そこに月は見えてるか?」
「え、お月さん?・・うん・・前の方に見えるよ。」
「・・なら、そのまま月を見ながら右手の方へ歩け。」
「う、うん。わかった!」


なっつんの言う通りに5分ほど歩いたら、小さな公園があった。
報告すると、そこで待つように言われたのでそうすることにした。
そこはほんとに公園!?ってくらい小さくて、草ぼうぼうで使ってないみたい。
石のベンチは冷たそうで座る気になれず、ぼんやりと立ったままで待ってた。
仕方なく月でも眺めていようと見上げたけれど建物に隠れて見えなくなってた。
寒いし、暗いし、お腹が空いた”・・・なっつんまだかなぁ・・”
心細くてまた涙が出そうになったとき、小走りにこちらへやってくる足音がした。

「・・居た!」
「なっつん!」

もう嬉しくって怒られるのはわかっていたけど飛びついた。
「うぇ〜ん・・なっつ〜ん!」
「こんの馬鹿。何やってんだよ、手間掛けさせやがって・・」
なっつんはぽかりとほのかをぐーで叩いたけどちっとも痛くなかった。
言葉では怒っているけれど、なっつんは心配してたって顔をしていて声も優しい。
泣き付いたほのかを剥がさないでいてくれて、こそっと頭を撫でたりもしてくれた。

「いつまでぴーぴー泣いてんだよ、コラ。」
「ウン・・・・うへへ・・あー見つけてもらえてヨカッたぁ。」
「良かったじゃねぇよ。オマエは〜!」
「だって・・つい何かに気を取られて手を離しちゃって・・」
「人ごみではいつもみたくオレに引っ付いとけ!わかったか!?」
「ウン・・そーする。引っ付いても怒らないんだね?」

なっつんのお赦しを得たので腕に捕まるようにして歩き出した。
いつもなら嫌がるなっつんだけど、迷子になってちょびっとヨカッタかも。
でもそれを言うと怒りそうだから心の中で思うだけにしておいた。

「それにしてもさ、なっつんてどうしてほのかの居る場所がわかるの?」
「方向がわかりゃ見当くらいはつくだろうが。」
「スゴイねぇ!?なっつんて・・」
「頭の悪いこと言ってんじゃねぇよ。」
「でもほのか方角とか言われてもすぐにわかんないよ?」
「・・・とにかく逸れないようにしろ。オマエは。」
「らじゃっ!・・あのさぁ、なっつん・・」
「・・んだよ?」
「怒らないでね?あのね、ほのかなっつんが見つけてくれるのスゴク嬉しいんだ!迷子になる度に。」
「・・・だからって・・」
「わざと迷子になんてならないよ。けどいつだってなっつんがすぐに見つけてくれるじゃない?」
「オマエが動くよりオレが探した方が早いからだ。」
「とにかくさ、なっつんの顔見たらぱあって不安が消し飛んじゃうんだよ。」
「大げさな・・」
「ホントだよ。スゴクすごく嬉しいの!」
「・・オマエの親も小さいときとか苦労したんだろうな。」
「なっつんが今苦労してるみたいにね?あいたっ!」
また頭を叩かれちゃった。今度はちょびっと痛かった。
「でへへ・・でもありがとう、なっつん。」
「いつまで経っても子供みたいだな、オマエって。」
「面目ない〜!」
「ちっとも反省してねぇし・・」
「きっとさ、どんなに離れ離れになってもなっつんなら見つけてくれそう!」
「どういう状況だよ、それ。オレにどこまで探させるつもりなんだ?」
「例えば地球の裏側とかからでも見つけてくれそうな気がするもんね。」
「・・・なんだそりゃ・・」
「ほのかと初めて逢ったときもなっつんが見つけてくれたんだよ。」
「探してたわけじゃねぇだろうが、あれは。」
「でもほのかあのときピンチだったからなっつんにぴぴっと電波が届いたんだきっと。」
「電波って・・まさか。」
「なんていうか・・あれってドラマチックだよね!?」
「はぁ?何がドラマチックなんだよ・・」
「あのときほのかってお兄ちゃんとはぐれて迷子だったんだもん。それをなっつんが見つけたの。」
「・・へぇ・・?」
「ねっ、初めっからなっつんはほのかを見つける運命の人って感じでしょ!?」
「オレを勝手にオマエ専門の救助人にすんなよ。」
「そういうんじゃなくってさぁ・・わっかんないかな〜?」
「ほざいてろ、馬鹿らしい。」
「ドラマチックじゃ・・ない?」
「ない。」

なっつんはちっとも二人の出逢いにドラマを感じてはくれなかった。
でもほのかが逸れないように時々掴んでる腕をちらっと確かめて歩いてくれていた。
そのことに気付いたら、また嬉しくなってしまって掴んだ手に力がこもった。
なんだか暗い夜もなっつんとこうしていたら明るく感じてしまうのはなんでかなぁ・・
なっつんならほのかが困ったらすぐに来てくれると思うのはほのかの勘違いなんだろうか?
少なくとも出逢ったときも、迷子になったときもなっつんはたすけに来てくれた。
”・・・やっぱりそれってスゴク・・ドラマチックだと思うんだけどな・・・”

「腹減ったな・・」
「ウン、なっつんの作ったご飯が食べたい。」
「なんでオレが・・ってまぁオマエが作るよりマシか・・」
「ほのか今日はもうお腹ぺこぺこで動けないもん。だからなっつんお願い。」
「しゃあねぇな・・外で食うより帰ってなんか作るか・・」
「ウンっ!やったぁっ!!嬉しーい!!」
「食ったらすぐに帰るんだぞ?家には遅くなるってちゃんと連絡しろよ。」
「合点だ!」

なっつんは呆れたような顔をしたけどその後少しだけ笑ってたのをちゃんと見た。
優しい笑顔だったからほのかの心の中まであったかい気持ちでいっぱいになる。
お月様もなっつんみたいににっこり笑ってるみたいで優しい光りが照らしてくれていた。
なっつんがほのかを嬉しくしてくれるみたいにほのかもなっつんを嬉しくできるといいな・・
見上げたお月様にこっそりと”いつかなっつんを嬉しくさせてあげられますように”ってお願いした。
そしたらなんだかお月様が笑ったみたいだったんだよ?願いごと叶うかな?!







迷い子救済月間なんです・・・っていうのもこのテキストのファイルも迷子でした。++
それを完成させたものですので、季節外れの絵になってます。ご勘弁ください。
当時ブログに貼ったこの話の再会場面を落書きした絵がありますので宜しければv→ コチラ