「Don't touch me!」 


困る、とっても困るのだよ、切実に。
いつからだか定かでないんだけれど。
なんなんだろう?これって・・・
今まで散々一緒に居て気安いはずなのに
心臓の病気だったりしたらどうしよ!?
おっかしいよね、どうにかして直したい。
じゃないとなっつんの傍に居られなくなる。
それだけはゼッタイいやなんだ。


ふいに身体のどこかがぶつかったとき、
とても綺麗な笑顔を見られたとき、
優しい態度にじーんときたときなんかもそう。
どういうわけだか心臓が音立てて響き出す。
後ろから手元を覗かれたときもびっくりした。
振り向いたらすぐ近くに顔があったことも。
もしかしてなっつんはわざとやってるんじゃ・・?
なんて思うこともある。・・多分違うと思うけど。


”さわらないで”なんていうと変だし・・
”近くに寄らないで”なんてもっとダメでしょ?
”そんなに優しい顔しちゃだめ”なんて思ってないし、
”一緒に居たい”のにどうしてこうなったのさ!?
ああ、ホントーに困ったよ!溜息出そうだ・・


「オマエ最近どうしたんだ?」
「へ?・・何がだい?!」
「何って・・溜息吐いたり、ぼーっとしたり・・」
「そ、そお?悩めるお年頃なもんだからさー!へへ・・」
「悩みだ・・?何悩んでんだよ、言えないことか?」
「う、ウン・・その女の子のモンダイなのだよ。」
「ふぅん・・たいしたことねぇんならさっさと解決しろ。」
「そんなに変?もしかしてうっとうしい・・?!」
「・・調子狂うっつうか・・らしくねぇから。」
「そうなんだよねぇ・・実はほのかもそう思うんだよ。」
「なんだそりゃ?」
「なんなんだろうねぇ、まったく・・そだ、オヤツにしようよ!」
「もうそんな時間か?まだ冷えてねぇかもしんないぞ?」
「ちょっと様子見てくる!待っててよ、なっつん。」
「あぁ・・いいけど・・」


あー、ヤバイヤバイ。またどきどきしちゃったよ。
落ち着いて深呼吸して・・っと。やんなっちゃうなぁ、もう。
冷蔵庫の中では作って固めたプリンが入っている。
様子を見るともういけそうだったので二つ並べて居間に運んだ。
私にしては会心の出来のそれらを二人で楽しむ、いい感じの午後。
美味しかったからすっかり元気になった私になっつんが微笑んだ。

「ま、食ってその顔してるんなら大丈夫みたいだな・・」
「え!?そ、そうだよ!心配性だねぇ、なっつんてば。」

笑って誤魔化している私の頬に唐突になっつんの指が触れた。
そういう不意打ちはカンベンして欲しいよ、小さく悲鳴が出てしまう。

「・・んだよ、そんな驚くか?!」
「ごご、ゴメン!ちょっと最近おっかしいんだよね、ははは・・!」

なっつんの表情が曇る。わざとらしかったかな・・?
申し訳ないような情けない感情でせっかくの笑顔が私からも途絶えた。

「もしかして今オレが触ったからか?」
「え?ち、違うよ!なんでそんな・・」
「オマエ慣れない嘘とか吐くなよ、バレバレだ・・」
「ホントだってば!ほっぺにカラメルでも付いてたんでしょ?ありがと!」

一生懸命に言ったのがまずかったのかもしれない。なっつんは憮然としたまま。
こうなったら最終手段だと覚悟を決めて、いつもみたいになっつんの腕にしがみつく。

「やだなぁ、なっつんてば気のせいだってー!」
「・・・へぇ・・そうか?」
「え・・あ!」

やんわりとではあったけど、なっつんの腕が私を取り囲む。
途端に胸の奥で心臓が大きな音を立てて弾けるみたいに鳴った。
なっつんの顔が近い、どうしよう!?ヤバイってばなっつん!!

「わーっ!!なっつんすとっぷ!助けてっ!」
「・・なんだよ、まだなんもしてねぇぞ?」
「なな何する気さ!?ちょっと待ってよ、驚いたし!」
「驚き過ぎだ。」
「そ・そうだけど、ダメなんだよ、ほのか最近おかしいんだよっ!」
「おかしい?」
「ウン・・なんかものすごく・・そのどきどきしたり・・して・・」
「ふーん・・・」
「あのね、なんか暢気そうだけどこっちは切実に困ってるんだよっ!?」
「どう困ってんだ?」
「どうって・・落ち着かないっていうか?なっつんが近付いたくらいで変だけどさぁ?」
「悪かったな、オレごときで。」
「何拗ねたみたいに・・そういうことでなくってぇ・・」
「いつだってオレにしがみついたりしてるくせに。」
「そ、そうなんだよ!おっかしいよね!?もうなんだろね、これ。」
「噛み付かれたことだってあるぞ、オマエに。」
「あー・・そういえば・・」
「さっぱりわからないのか?」
「んと・・・なっつんなんでだかわかる?」
「まぁな。」
「えっそうなのっ!?・・教えてよ。」
「自分で気づけ。」
「む・なんだい、ケチンボだなぁ!」
「やれやれ、まだまだ・・だな。」
「何が!?」
「教えてやるかよ、ばーか!」
「なんだとー!?なんて感じ悪いんだ!」

私がちょっと腹を立てると緊張が解れたような気がした。
もしかしてなっつんがそうしてくれたのかな?とちらっと思った。
でもそれを確かめる術もないまま、今度は少し強く抱き寄せられた。
あっという間に逆戻り、というよりさっきよりどきどきしてきたかも・・
必死で胸に手を押し当てて突っ張るようにしたけど動かない。
それよりも抱きしめられて、どんどん力が抜き取られていく。

「・・なっつん・・!ちょっ・・お願い!離して?!」

どきどきが最高潮になったと思ったとき、頬に何かが触れた。
何だかよくわからなかったけど、もしかして・・・今のは・・・
顔から、というより全身が一気に熱くなった。火が点いたみたいに。
どうしよう!?・・なっつんの顔が見れないよ。
どきどきも辛いけど、熱くてなんだかくらくらするみたいな・・
途惑っていたらふっと身体が解放されて、軽くなった。

「何・・?・・なんで?」

私は動揺したまま訊いてみた。怖いくらい胸が騒いだ。
頬に無意識に自分の手を当てていた、痛いわけでもないのに。

「ちょっと・・その・・悪い。」

言いよどむなっつんが少し寂しげに見えて悲しい。

「いきなり悪かった。もうしねぇから安心しろ。」

謝って欲しかったんじゃない。どうしてだか理由が知りたかった。
でもそのことを私が訊いてはいけないように思えて黙っていた。
ぼうっとしたまま私はなっつんを見つめていた。どきどきが少し治まってきた。
するとなっつんがよくするように大きな手を私の頭にのせた。
いつもより幾分優しく私の頭をなでる手に段々と安心感が戻ってくる。
嬉しくなって思わず微笑んでいた。そしたらなっつんも笑った。

「なるだけ気を付ける。けど、無意識に触れたときはカンベンな?」
「・・・ウン・・ごめんね?ほのかね、嫌なんじゃないんだ・・・」
「わぁったよ。」

なっつんは私の変な態度に怒らなかったし、許してくれてる?
どきどきはとくんとくんくらいに小さくなったけどやっぱり鳴り響いている。

「あのさ・・なっつんて・・なんか、”お兄ちゃん”みたい。」
「・・・あんまうれしくねーなぁ・・・」
「ちょっと違うかな?・・あれ?でもどきどきは・・止まらないなぁ?」
「あんま考えるな。オマエが困ることならしねぇよ。」
「・・・ありがとう、なっつん。・・なんかすごく・・優しいねぇ。」
「何言ってんだ。」

少し照れたように顔を背ける顔はいつもの”可愛い”なっつんだった。
さっきは随分大人なような・・そういう意味で”お兄ちゃん”みたいと思ったけど。
なっつんがくれたのはたくさんのどきどきと、包み込まれるような安心感。
私はちょっと考えた、ほのかはとても幸せなんじゃないかって。
今はまだちょっと緊張が勝っているけど、もしかしたら変るかもしれない。
”がんばろう”と思った。なっつんが傍で待っててくれる、きっと。
こっそりと心の中で決意して、”ダイスキだよ”と囁いた。







背景にしようとして描いた絵はなんか邪魔な気がして下げました。
ごめんなさいです。これは夏くんサイドのお話と対になります。
「Please help me!」でアップ済みですのでこちらもよろしくお願いします。