「誰よりも」 


ほのかはお兄ちゃんが大好きだから何でも言うことを聞くよ。
いつだってお兄ちゃんが一番だよ・・だけど、だけどね、
なっつんの一番はほのかじゃいけない?ねぇ・・お願いだよ・・


「ねぇねぇ、ほのかも連れてって!」
「遊びに行くんじゃねぇんだ、連れてけるか!」
「ツマンナイ、ツマンナイ!お兄ちゃんばっかり。」
「兼一とは別行動だって言ってるだろ!?」
「行くのは同じ場所なんでしょ!?悔しい〜!」
「しょうがねぇだろ、クラスが同じなんだし・・」
「お兄ちゃんたら好きな人いるくせになっつんまでズルイ!」
「オレがなんでアイツの好きな女と同列なんだよ!?」
「お兄ちゃんがなっつんと仲良くなるのはいいことだけど・・」
「・・・いつオレがアイツと”仲良く”したんだ?・・気持ち悪りぃな;」
「だって親友だってお兄ちゃん・・すごくなっつんのこと好きみたいなんだもの。」
「アイツが何て言ったかしらんが、誤解かなんかだ、オマエは・・」
「違うもん!お兄ちゃんはなっつんが好きなんだよ!なっつんは・・・なっつんも好き・・?」
「・・・好きだと言ったらどうなんだ?」
「・・・どうしてこんなにイヤなんだろう・・・お兄ちゃんが・・嫌いになっちゃいそう・・」
「・・・」
「除け者にしないで・・ほのかなっつんの・・一番になりたい。」

ほのかがしがみつくとなっつんはものすごく困った顔をした。
悲しい・・ほのかはいじけて駄々をこねてるちいちゃな子供みたいだ。
お兄ちゃんとなっつんは男同士で、色んなこと分かり合えるのかもしれない。
だけどほのかだってなっつんのことすごく、すごく・・・好きなの。
大好きなお兄ちゃんに負けたくないなんて変だよね、でも・・苦しいの・・
困らせてるのはわかっても止められなくて力一杯なっつんを抱きしめた。
ほのかより随分大きな身体はとても全部を包み込めないけど、それでも、
大好きな気持ちは誰にも負けない、そう思いながら力を込めた。

「アニキのこと嫌いだなんて言うな。違うだろ?」
「・・・・ウン。」
「きっとアイツオマエがオレに懐いてるから悔しかったんだよ。」
「・・・お兄ちゃんヤキモチ妬いたの?」
「妹を泣かせんなっつってぶっ飛ばしてやるか?」
「かわいそうだよ、それはダメ。」
「オマエくらいアニキ大好きな妹が・・オレだってきっと妬く。」
「なっつんが?」
「もし楓が生きてて、たとえばアイツのことちょっとでも誉めただけでも・・」
「悔しい?」
「まぁな。」
「だからなっつん離れしろなんて言ったのかな・・」
「アイツ妹をオレに取られそうだと思ってんだ。」
「・・・嬉しそうだね、なっつん。」
「・・・とにかくオマエはしょうもないことで悩むなってことだ。」
「お兄ちゃんでなくてもイヤなの・・なっつんのこと一番に好きなのはほのかだもの。」
「っ!?」
「ヤキモチ妬いたのはほのかだ・・お兄ちゃんは悪くないよ。」
「おいおい・・落ち着け・・」
「落ち着いてるよ。ホントに誰にも負けたくないの。」
「・・・・」

ほのかはなっつんの目を見ながら、ゆっくりはっきりそう言った。
少し驚いたように瞳が広がった。けれどすぐにいつもの深い色に戻る。
この目を覗き込んでいいのはほのかだけと思いたい、許されたいんだとわかった。
見つめている瞳の中の自分はもう悩んでなくて、ヤキモチも忘れて無表情だった。

「・・”妹離れ”しろって・・」
「・・え?」
「妹離れしろって言っておく、兼一に。」
「なっつん?」
「好きなだけ妬いとけってこともな。」
「ほのか・・いいの?なっつんの一番にしてくれるの?」
「するもなにも・・・オマエ以外に誰がいんだよ・・?」
「・・・?」
「とにかくオマエは何にも心配するなってことだ!わかったか!?」
「・・・ウン・・・」

なっつんが嬉しいことを言ってくれたと思ったのに、ピンとこなかった。
ぼうっとしていたら、突然なっつんからぎゅっと抱きしめられて驚いた。
圧迫されてきゅうっと変な音が喉からした。苦しいけど何故だか嬉しい。
ほのかも一生懸命手を伸ばして、さっきみたいに力を込めてみた。
なんだか急に胸がどきどきして顔が熱くなってきたけど、負けナイ。
しばらくして腕が弛むと、思わず出た溜息になっつんが苦笑いした。

「スマン・・そんな苦しかったのか?」
「ウン・・あ、ウウン!平気!苦しくないよっ!」
「無理すんな。悪かった・・」
「悪くないってば。だいじょぶ!もっとギュってしても平気だよ!?」
「・・また、今度な。」
「今度っていつ?今はダメ?」
「え・・今!?」
「すごく嬉しかったから!ね、もう一回して!?」

なっつんはほのかの頭を撫でて、もう一度してくれたけどさっきと違って優しかった。
不満顔を浮かべたほのかにやっぱり困ったみたい顔をしたけれどなっつんは笑った。

「嬉しい。なんだかすごく・・」
「やれやれ・・やっと笑ったか。」
「あのさ、お兄ちゃん怒るかな?」
「何をだ?」
「お兄ちゃんがどんなに好きでも譲らないよって言ったら。」
「オマエあくまでアニキがオレのこと好きだと思ってるのな・・」
「やっぱり可哀想かなぁ・・どうしよう・・」
「オマエホントにアニキ好きだな・・少し兄離れしろよ。」
「・・・悔しい?」
「フン。」
「へへ・・そうかぁ!」
「悔しいなんて言ってねぇぞ。」
「そうだねぇ。」
「・・オレが一番じゃないのかよ・・」
「ふふ・・・そうだよ?」
「ならアニキの心配ばっかすんな。」
「困ったねぇ!?」
「なんで困るんだよ。」
「好き過ぎて困っちゃう、どっちも。」
「・・なんだと、コラ!?」

なっつんがほのかの頭を掴んで髪をぐしゃぐしゃにしていじめた。
苦しくて胸の奥に痞えてた何かが揺らされて零れ落ちたみたいな気がした。
簡単なことだったんだ。もっと早くなっつんに抱きしめてもらえればよかった。
瞳を覗いてみればよかったんだ。ちゃんと答えが見つかったのに。
ヤキモチのせいで見えなくなってたのかな、そう思った。
お兄ちゃんにごめんねって言うの。お兄ちゃんは今でも大好きだけど
ほのかを世界で一番幸せにしてくれるのはお兄ちゃんじゃないの、今はもう・・
ごめんね、寂しいね。ほのかも寂しいよ、でもわかってくれるでしょう?
誰よりも好きなひと・・・お兄ちゃんも見つけてるんでしょう?知ってるよ。
それを知ったときの寂しさをほのかも知ってる。だからもう悔しがったりしない。
よかったね、嬉しいね。幸せだね、そんなひとに出会えて。
お兄ちゃんなら、誰よりも喜んでくれるでしょう?きっときっと・・