それダレの?


 王子様って言われてる彼は意外に真面目さん。
ちょっとはだらしないとこもあるにはあったけど
ほのかのおかげできちんとするようになったし、
どりょく家で毎日修行もたっぷりしているのだ。
でも修行の間はちとヒマになってしまうので・・
ほのかは彼の監督になっていつも見守っている。

 「あっ終わったの?タオルはここだじょ!」  
 「・・ああ、すまん・・」
 「そこはありがとうじゃよ、なっちー!」
 「そうかよ、どうも。」
 「略さないでちゃんと言いなさいだじょ。」
 「あ・り・が・と・よっ!」
 「どなんなきゃ100点なんだけどねえ・・」
 「一々うるせえ。」
 「あっ!?なっちー!それダメ、ちがうっ!」

 大慌てでなっちに飛びついたけど間に合わなかった。
用意しておいたドリンクではない、ほのかの飲みかけ!
あっという間に飲み干してからもう一方に気付いた。
そう、そっちがなっちのだよと批難するのに

 「ならこっちをおまえが飲めばいいだろ?」
 「だって飲みかけだったのだよ、それ・・」
 「そうかよ。すまん。」
 「反省の色ナシじゃないか。」
 「・・ごちそうさん。」 

 空になったドリンクボトルはなっちの手の中でつぶれた。
なんでだかほのかのどこかがぺしゃんこになった気がする。
お兄ちゃんがほのかのと間違えて飲んだって怒らないのに
どうしてなっちだといやなんだろう。友達だって平気だ。
なんだかむずむずしてヘンな気分だった。

 「飲まないのか?それ。」
 「ほのかはいいや。これ冷蔵庫に戻すね。」
 「シャワー浴びてくる。その後でもらう。」
 「らじゃっ!」


 シャワーを浴びに行ってる間に言われた通り冷蔵庫を開ける。
するとほのかが”飲んじゃダメ!ほのかの!”と書いたメモ付きの
小さなボトルが目に映る。これはこの前一緒に出掛けた先でもらった
イベント用の限定だとかで市販品とは異なるのだ。綺麗なピンク色で
ボトルもカワイイからほのかのものということになった。家にしないで
なっちの家にしたのは冷蔵庫が断然うちより大きくていい感じだから。

それを眺めていつ飲むかと思案してたら手のボトルはすっかり温い。
しょうがないのでグラスに氷を入れて冷やそうと思ってそうした。
こぼしたりグラスを割ったりしないで上手にできて満足していると
なっちが戻ってきた。その姿にほのかはまた声を上げてしまった。

 「なっちっ!!その格好、だらしないって言ってるのに。」
 「俺んちなんだし、いいじゃねえかよ。」
 「・・オヤジくさい。いい若いもんなのに〜!」
 「今さらだろうが。おまえしかいないんだし。」
 「・・レデイーの前でそんな態度とるかい?!」
 「ぷっ・・シツレイしたなあ、それは。」
 
怖い顔をしてにらんでもなっちはバカにしたように流してしまう。
またぺしゃんこにされた気分。これはどうもなっちのせいなのだ。
親しき仲にも礼儀ありっていうものね。修行中の格好と変わってないって
それはそうなんだけど・・でも・・やっぱり気を遣うべきでしょお?

 「なっちはほのかに対してはいつもシツレイなのだ。」
 「ずうずうしいおまえに合わせてるんだ。」
 「ほのか遠慮くらいするじょ!ほのかが脱いだら怒るくせに。」
 「それは当然だろ。」
 「さべつなのだじょ・・ほのかだけダメなんて。」
 「だったら俺だって。」
 「なっちはあ・・見せたいわけなの?ほのかにだけ。」
 「そっちこそ、俺にだけ見せたいから言ってんのか。」

仁王立ちで腕を組み、二人してにらめっこ。どうもいけない。
時々ほのかとなっちはかみ合わなくってこういう状態になるのだ。
けんかしたいわけじゃないし、おんなじこと言ってるみたいなのに
やっぱり心はざわざわってなって、炭酸のようにはすっきりしない。
にらみ合ってから少し経つとなっちは思い出したように冷蔵庫へ向かい
扉を開けるとあのボトルをつかんで蓋を開け、一気に飲み干した。

 「あっあっダメえっ!!それ、それほのかのだじょっ!!」

またかと眉間に皺を寄せてボトルを確かめたなっちがやっと気付いた。
メモ付きのピンクのドリンク・・いつ飲もうかって思ってたやつだと。

 「う・う・・うぅええええええええ・・!」

さすがに悪いと思ったのか、なっちはおろおろとほのかに近付く。
ほのかだって泣きたいわけじゃない。だけど涙が抑えられなくて
ついつい声を上げてしまったのだ。ほとんど一気に飲んだせいで
ボトルにはもう一滴くらいしか残ってはいない。がっかりしても
しょうがないと思う。ふえふえとみっともなく泣いているほのかに
なっちは叱られた子供みたいな頼りない声で「悪い」とつぶやいた。

 「う・ひっく・・う・・のんじゃったものは・・しかたないのだ。」
 「そうだな、これ売ってねえんだったな・・」
 「・・おいしかった?」
 「悪くはなかった。香りだけでも味わっとくか?」
 「香り・・うん、いい香りだった?」

思わず目をボトルに向けようとしたのだけど、見えなかった。
なっちの顔がアップになって、おやっと思ったら・・


 「ふにょ?」

なんだろう?知らない感触がした。冷たくてやわらかな。
 
 「わかったか?」
 「えっ・・う・・ん?そういえばふわっと・・」
 
二度目はちゅって音が立ったので体がびくっと震えた。だって
香りもしたようだったけど、よくわからない。触れた場所から
顔全部、それから全身に熱が広がっていったのが気になって。
心配そうに覗き込むなっちの顔をぼけっと数秒見てしまった。

 「なっち・・」
 「怒るなよ。せっかく泣き止んだと思ったのに。」
 「怒ったっていいとおもう・・だってさ、これ。」
 「味は覚えたから今度作ってやる。それで許してくれ。」
 「いやそっちじゃないよ!わかってる?ほのかのおくちの方!」

熱い顔が怒ったように見えるのだろうか、怒ってるのとちがうのに
なっちはあろうことかもう一回した!これってちゅーでしょ!?

 「だからっなんでっ・・味とか香りとかじゃなくって!」
 「くやしかったんだろ?だから・・ちょっとでもと・・」
 「乙女の唇をなんと心得るかねーーーっ!!!」

ようやくほのかの言いたいことを察したらしいなっちは慌てた。
腹立たしいのはなっちにはたいしたことないっていうその態度だ。
男の子ってそうなの?それともいっぱいしたことあって慣れてる?
とにかく色んなことで頭がぐるぐるして・・結局ほのかは怒った。

怒られてしゅんとなったなっちが「どうしたら許してくれんだ?」
なんて情けない顔できくから、ほのかもやむなく提案してみた。

 「なっちはもうほかのひととちゅー禁止!」
 「!?そんなんでいいのか。」
 「なんでほっとしてるんだい!?まだあるじょっ!」

正座させていたのに脚を崩そうとするのを「めっ!」と制して
ほのかは言い放った。いいんだ、これくらい言ってやるのだ。

 「ほのかをこれからさびしがらせないって約束するの!」
 「わかった。約束する。」
 「そんなあっさり・・わかっておるのかね、ほんとに。」
 
なぜだか怒っているほのかに微笑まれた。なんでそんなご機嫌に?
なっちってやっぱり時々わかんない。どこか食い違ってる気がする。

 「それからね、なっちはほのかを一番好きになるの、いい?」
 「それから?」

言いたい放題言ってやったのだけど・・なっちは嬉しそうで
怒っているのがばかみたいだからあきらめた。喉が渇いたじょと
なっちに用意したはずの飲み物を飲もうとした。氷は解けていた。

 「あ、これ俺にいれてくれたやつか?」
 「あ、うん。代わりにこれちょうだ・」

今度はちゃんと味も香りもした。なっちの香りもオマケだった。
・・・ちゃんとしたちゅーはいつになるのかなあ・・?・・









甘〜いのをがんばってみた!