抱き締めたい 


「なにさー!なっつんのケチぃ!」
「なんだとぉ!?このガキ!!」

どこかで聞いたようなやりとり
いつもと変らない光景とも言う
オレは多少大人気ないとも思うが
ほのかの口からは次から次へと暴言が飛び出す
ついつい本気になって対抗してしまうのだ
全くああ言えばこう言う口の減らないヤツだ

「なっつんのおばか!べーっだ!」
「誰がバカだとぉ・・?!」

小さな舌を突き出してあかんべなんてするから
その柔らかい頬を抓って引っ張ってやった
そんなことをされても少しも怯まないほのかは
反対にオレの頬にも仕返ししようと手を伸ばす
コイツの幼稚な攻撃などこのオレに通用する訳がない
いつだって手を抜いてやってるのがわかんねぇのかな

口をへの字にしたままオレを恨みがましく見上げて
大きな瞳にはまだ不満が溢れていて真直ぐに突き刺さる
むかついていたのに一瞬その瞳に気を取られ口元が弛んだ

「何笑ってんの?感じ悪いじょ!」
「わ、笑ったんじゃねぇ。オマエの顔が・・」
「変だって言うの?!失礼にも程があるじょー!」
「んなこと言ってねぇだろ?!」
「許せなーい!なっつんなんて〜・・」
「どうするってんだよ。オレにかなうとでも?」
「手、離して!何いつまでも触ってるんだよぅ!」
「へ・・?」

言われてみればオレはほのかの細い手首を片手に持ったままで
もう片方に至っては頬を抓ったあともそのまま添えていたらしい
無意識にしていたのかと内心かなり慌てつつ手を離した

「なっつんてばすぐそんな風にするんだから・・」
「い・今のは別に・・離すのを忘れてたんだよ。」
「よく頭だってがしがしするしさ、ほのかを犬か猫だと思ってない?」
「はっ・犬猫ならもっと可愛がりようがあるぜ。」
「むーっ・・ほんっとになっつんて・・・」
「なんだよ?」
「ふんだ。教えないよーだ!」
「何ぃ?生意気な・・何だよ、言えよ。」
「つーんだ、言わないよぉーっだ!」
「もっかい抓られたいのか?」
「そんなのちっとも痛くないもんね。」
「加減してやってるからだろ。もっと痛くしてやろうか?!」
「やだよっ!なんだい、ほのかよりなっつんの方が我侭なんじゃない!?」
「オマエがいちいちつっかかるからだろ!?」
「なっつんが悪いんだもん!」
「まだ言うか、オマエはー!」

ほのかの顎を持ち上げて顔をぐっと寄せると目を丸くしやがった
小さな顎はオレの指1本でも砕けそうだなどと物騒なことを思う
至近距離で見つめるほのかは固まってはいるがそれほど驚いてない
ツマラナイなと思っていると間近でまた舌を出したりしやがった
”オマエのその舌なんて、いつだって絡めとってやれるんだぞ?!”
・・なんて思っても当然そんなことはしない・・したらヤバイって
ただこの憎たらしいガキがあまりに無防備だからそんなことも考える
こんな華奢な身体、いつだってへし折るほど抱き締められるんだとか
離すのを忘れるほど柔らかな頬をこの胸に押し付けることだって・・

「なっつん!」
「!?・・な、何だ?」

ほのかの声で少々危険な思考から抜け出すことが出来た
オレの思考が読めた訳でもないだろうがほのかが睨んでいた

「何だじゃないよ、さっきから何?こんな近くでじっと見たりして・・!」
「へ・・あぁ・・オマエまったく何にも感じないみたいだな?」
「何をだよ!?もう〜!変ななっつん!何がしたいのっ?」
「ガキにはわかんないことだよ。」
「またバカにしてっ!どうしてそう素直じゃないかなっ。」
「オマエこそ・・・って・・オマエ・・・顔真っ赤・・・」
「う、ウルサイっ!なんでもないの!!」

もしかしてオレの思考までは読めなくても、コイツなりに察したとか・・?
ほのかが身を捩ってオレの手を振り解こうとしていたが、緩めなかった
寧ろ腰に手を回して引き寄せてみると、小さな悲鳴を上げて飛び込んだ

「なっなにっ!?なんなの!?離して、なっつん!」
「・・・なぁ、何焦ってんだ?教えろよ。」
「!?・・イヤ、離して。」
「オレも嫌だね。も一回顔見せてみろ。」
「ぃやぁ・・見ないで・・ばかぁっ!」

オレの胸に顔を埋めるほのかがさっきより紅い顔をしているのは間違いない
上からのぞく項までもが紅く染まってオレの目に眩しいほどだから
いつもと違う反応を見せるほのかにオレは気分が良くなった
緊張の伝わる身体も熱く火照っていて、力を入れ過ぎないよう気を遣う
そこでようやくオレは自分がどうしたかったのかに気付いた

”なんだ、そうか・・・オレは・・・”

ほのかの緊張は解けず、泣き出しそうにも思えたのでそっと手を緩めた
ゆっくりと顔を上げるのを見つめていると、まだ顔は紅かった
オレの顔をおずおずと見上げる瞳は涙こそないが潤んだように揺れている
どうしようかとオレの心が迷いに迷い始めた その目は・・ヤバイだろ
このまま思うままにして泣かせるのはあまりにも可哀想な気がしたし、
かと言ってこんな顔で見られたら、どうにも離せなくなってしまう

「・・・何笑ってるんだよぅ・・・もぉ〜・・」

二度目のほのかの台詞がついさっきとは随分違っていて笑えるほど・・可愛い
素直な言葉を口にしそうになるのを必死で耐えて押さえつける

「さっきも言おうとしたらオマエ邪魔しただろ?」
「・・そ・・ぉだっけ?」
「オマエ見てたら・・つい気が弛んだんだよ」
「どういう意味・・?」
「教えない。」
「なっ!?」
「オマエがさっきそう言ったからオレも言わない。」
「それは・・ぅう〜・・なっつんが素直じゃないってことだってば。」
「ホントかぁ?」
「う・ウソじゃないもん。」
「へぇ〜・・じゃあオレも言おうか?オマエが・・見てて面白いから。」
「ウソだもん!!何ソレー!?」
「嘘なんか言ってねぇ。」
「なっつんやっぱり素直じゃないよ!なっつんなんかもう知らないっ!」

オレは心の中でほのかに謝った、からかったり怒らせて悪いと
けど仕方ないんだ こんな風に怒ったり拗ねたりするところも・・見たいから
困った顔も恥ずかしそうな様も 笑った顔だけじゃ物足りなくなってるんだ
正直に言ったらきっともっと怒るだろうから言えないだろうな
一つ気付いたら、アレコレ在った疑問の全てに答えが見えてくる
それと、思っていたよりオマエは子供じゃなくなってるんだな
嬉しい反面、怖さも増える 貪欲なオレを嫌わないでくれるかどうか
心配事がまた出来た どれもこれもオマエに関することだらけだ
こんなにオレはヤバイことなっていたのかとちょっと愕然とする

「・・・なっつん・・」
「ん?・・どうした?」
「あの・・いつまでこうしてるの?」
「そうだな・・どうするかな・・・」

決してきつくではないが、オレはまだほのかを抱き寄せたままで
その身体は少し緊張は解れたものの、まだ落ち着かない様子だった

「・・・オマエ、嫌か?こうされるのは。」
「えっ・・・ぅ・ウウン?でもね、その・・なんだか・・」
「力抜けないか?まだ」
「ウン・・どきどきして・・なんだか変・・なの」
「そうか、そうだな。オレもそうだし」
「なっつんも?!」
「そんでも・・たまにはこうさせてくれるか?」
「・・・したかったのってこのことだったの?」
「まぁな」
「・・いい・よ?でもその・・顔近づけるのは」
「アレはダメなのか?」
「だって・・近すぎて目を開けていられなくなるの。」
「閉じればいいんだよ。」
「なっつんも閉じる?」
「オマエがそうしろってんなら。」
「わかった・・今度からそうするね?」
「じゃ、いいんだな。」
「えっ?!」

顔を近づけるとほのかは素直に目をぎゅっと閉じた
こういうところは感心するほど実に単純なヤツだ
迷ったが結局頬に唇を乗せた 抓って悪かったの意味も含めて
眉間に皺が寄るほど思い切り閉じていた目がゆっくり開いた
また顔中が薔薇色に染まるのをオレは自分の目に焼き付ける

「・・・これもしたかったの?」
「・・・悪いか?」
「偉そう・・だけど、悪くないよ・・」
「そりゃよかった。」

ほのかはむっとしてまた唇を突き出した オレがまた笑ったからだ
子供扱いなんてもうできないってのに 気付くのが遅ぇよオマエは
そういうオレも大概鈍いんだな 今頃気付くなんて
己の不甲斐なさに苦笑するくらい許して欲しい
オレはどうしようもないほどいつでもオマエを・・・抱き締めたいんだ









えっと、夏くんがほのか可愛くって仕方ないって感じのを
書きたかったんです!が、伝わってますかしら・・?!
スランプっていうか、夏ほの難しいよ・・誰か書いて!
好き度が高まるばかりで上手く捌けないのです〜!><